史上最恐のモンスターは神でもドラゴンでもないスライムだ

スライム道

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スライムツイストドロー〜目指せ最速のその先へ〜

桜と銀木犀

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薄紅色の花弁と銀木犀がロレンの視界を覆った。

「む、なんだ!?」

この咲くはずの無い奇怪な桜はロレンを守るようにアールブの周りを舞っている。そして銀木犀はロレンに気づけと言うように漂うようにロレンとファニの周りを待っている。ロレンは思考を加速させた。

逃げるなら今!しかしレナ達は置いていけない。

ならば攻撃するしかない。この桜の花で視界が遮られているのはロレンもアールブも一緒だ。だからこそ一撃でかつ気づかれないように最小限の予備動作で20メートルという5歳児に厳し過ぎる距離を突破してアールブが放つ可能性のある攻撃に対応できて仕留めるに十分な威力を持つように考えなければならない。

ならば目指せ、限界を超えた最速の最強を。

ロレンの思考は加速し続けて時刻豹の術にかかったときと同じくらいの思考速度と化していた。

「[風の存在よ 落葉を弾け]」

アールブは風を起こして視界を遮る桜を掻っ攫った。

しかしロレンはそのタイミングを見計らってファニを撃つ。

その投げるモーションはドッチボールで最後に投げたモーションに似て非なるものであった。

投げ方こそ似ているものの打点が若干低く丁度ロレンの重心でファニを固定し更に握り拳をつくり螺旋起動を築き正拳突き気味で尚且つ力のベクトルを完璧なまでにまっすぐに放たれたファニは螺旋起動を描き重心から打ち出されたことによりロレンの運動エネルギーを効率よく吸収しているため今までとは一線を画した一撃となった。

それだけではないファニはロレンから運動エネルギー以外の2つの力を身に付けたことに気づいていた。1つはモンスターならば誰もが持っている魔力。もう1つはファニは知らないが奇しくもそれはロレンが必死に十に送ろうとしていたであった。

「ガッ.......ウガガガガガ[水よ、その身をもって我が身に清を]!」

アールブは詠唱しファニの攻撃を癒そうとする。

「まだだ!まだ俺たちはまだ強く成ってねえ!」

ファニはアールブの腹部に攻撃し螺旋の起動により皮質を抉り取り拳大の裂傷を作り出しそこから直接傷口に入り込んでいく。ファニが狙うは血管や血液への毒素散布ではない。アールブの術の原点足る魔力の吸収。否、分解である。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

ファニは細胞という細胞を変質させ魔力を分解し栄養源とすることのできる身体に作り変えるためロレンの一撃を無駄にしないようその想いを力に変え見事、ノーマルスライムとしての殻を破りノーマルスライムという枠を超えて細胞を変質させた。

「ウガガガガガガガガガガ!!!!」

ファニは変質させた身体をもってアールブの魔力という魔力そして細胞を喰らい続ける。

アールブは力の源足る魔力が急速に失われて力が弱まり更に細胞の崩壊により更なる苦しみを味わう。

「ファニィーーー!」

ロレンは叫ぶ。

ファニもラストスパートをかける。

「ぐぞおおおおおお………ゔぉ…。」

アールブは気絶した。それと同時にファニの体力も尽きてしまいアールブの傷口から剥がれ落ちた。

「やったのかな……。」

ロレンも力尽き倒れようとしたその時であった。

「ロレン!レナ!ミーナ!大丈夫か!!」

父の声である。どうやら助けに来てくれたみたいだ。ロレンが振り向こうとすると紅い影がロレンに突っ込んできた。

「ロレン大丈夫、怪我はない。アールブに変な薬とか打たれてない!?」

母アンネである。

「母さんそれよりもレナ姉さん達が。」

ロレンの言葉にレナとミーナに矢が刺さっていることに気がつくと診察を始めた。

「レナにミーナちゃん!?この傷は矢が刺さっているのね。すぐに治療するから矢は痛いかも知れないけど引き抜かないで見たところ血は出ていないから。多分アールブが生け捕りに使う麻酔針だわ。顕現しなさい王と共に生き、王の死せしとき癒しとなり恵となり王の魂の守護者となりし羊スフィンクス。お願いスフィンクス、レナとミーナの麻酔を抜いて中毒状態を緩和しながら治療して!」

光と共にスフィンクスが顕現する。

「どうやら急用のようだな心得た。今すぐ治療にかかる。」

スフィンクスは母の指示に従ってレナ達に液体をかけると矢を左手で抜きながら右手から光を出し傷を癒していく。

「麻酔はまだ中和はしていないが調べた結果この辺りの毒キノコを精製したもので中毒性は確かにあるがもう少し待ってから抜いた方がいい。故にしばらく同行しよう。」

「お姉さん。レナ姉さん達は大丈夫元通りに動けるようになる、一緒におやつ食べれるたり前みたいに僕を抱枕にして寝てくれるようになる!?」

涙目で懇願するようにスフィンクスにレナ達の状態を聞くロレン。

「ふむ、お主の姉君達は大丈夫だ一週間もすれば元通り歩いたり、両足で抱きしめられるようになるぞ。」

(謎の声S:シリアスな展開のはずなのにどうもツッコミたくなる場面だ。しかしロレンが日常とは失って初めて価値を見出すものだということを理解する場面でもある。うーんツッコミたい。)

スフィンクスはロレンを見て先日のことを思い出しながら優しく語りかけていた。

「そっかあ良かっ、ッ!」

ポヨヨヨ~ン

ロレンは安心して力が抜けたのか倒れた。そしてチェシルがロレンの頭を包み込んだ。

「チェシル、ありがとう。知らせてくれたんだね。」

「ロレン休んでろ。後始末は父さんがやる。」

父はそう言いロレンを母に任せ気絶したアールブのもとに行く。スフィンクスは気絶したファニを拾いロレンとともに治療している。

「精霊人か、脈、呼吸共にあり腹部損傷出血ありで出血自体は少量、コイツがロレンとファニでつけた傷だな。どうやら土壇場で氣を操ったみたいだな。氣の乱れありっと。千、魔力の方はどうだ?」

「グルルルゥ。」

「そうか魔力がかなり摩耗しているか。コイツはどうやった傷かはわからないな。多分ファニがつけたんだろうが。脳波の異常も無しっと。」

父はアールブの状態から得られる情報をまとめていく。診察をある程度終えるとガサゴソと持ち物を漁り始めた。

「暗器の類は左奥歯に毒薬、自殺用では無いな。神経毒の一種だが一時的なもの、死んだふりようだな。それに左親指に刃物、右薬指に媚薬。左肩にオリーブの民族タトゥー、この地方のもんだな。んで矢は針治療にも使えるタイプで麻痺毒付きの医療用にもなる類か、完全に生け捕り目的のみで来ているな。ビアンカの知らせを聞く限り下調べしに来たかと思ったが、本気の装備で来てやがる。」

父はアールブの武器になりそうなものを取り上げて行く。

「さーてコイツをどうするかだな。でもロレンが倒したっつうことは……ロレン、コイツを気絶させたとのはファニとロレンでいいんだよな。」

「う、ん。」

ロレンは疲労が激しいのか口が回っていない。

「じゃあコイツはもう役目を終えた。もう起きているんだろう。」

「はあ、バレましたか。」

アールブは腹部の傷を治療しながら起き上がった。

「んでお前はどうする?」

「私が負けた以上精霊の導きに従い彼の生涯へ仕えますよ。」

ロレンに仕えるととんでもないことを言ってきたアールブ。

「あなた、これはどういうことなの?」

母は状況が掴めず父に質問する。

「精霊人は魔なる術を行使するにあたって人とは違う精霊との契約を結んでいる。」

「ええ、それは知っているわ。確か精霊は信仰対象でもあり契約を結び、精霊の術を行使することの由縁でもあるけど。それがどうかしたの。」

その辺りは精霊人を見かける地域の常識であったりする。

「その契約こそがロレンを襲った原因でもありコイツがロレンに仕える要因でもある。」

「え?」

父の言うことにさらに意味がわからなくなった母。

「そこは私が説明しましょう。我々アールブは風の精霊との契約によりある制約が課せられます。その制約とは繁殖できる年齢になると男の子が欲しくて堪らなくなるという制約です。我々アールブは男は存在しません。これは水の精霊の契約により課せられた制約であります。この2つの制約が男を欲するようになる制約なのです。」

「他の精霊人、ドワーフなんかがもっとな例だがドワーフは自分の赤子と人間の赤子を取り替えてしまうっていう火の精霊の制約がある。その対処法はアンネも知ってるな。」

「ええ、確か吊るして火で炙るのよね。」

「ああそうだ。あと地の精霊の制約でビールが赤子から飲みたくなるようになるっつうのもあるが、それはいいとしてだな。そう言った人間の関わる制約には精霊の世界への契約が成される。それが制約の対象となった子供がそれを跳ね除けたとき、精霊人はその子供の生涯に仕えるっていうものだ。」

「そんなの初めて聞いたわ。」

驚愕して目を見開くアンネ。

「当然です。それを知っているのは私達精霊人き狙われた者達が己自身の持つ全ての力を持ってその困難を乗り越えたときのみに課せられるもの。故に制約を知るものは稀に見ない強運、親への強い信頼、強さを持つことが最低条件。その厳しき条件のため数千年に1人居れば良い方ですから。」

アールブはその制約が課せられたと告げる。

「じゃあこのアールブはロレンが倒したから生涯仕えるってこと?」

「ああ、それが人間に関わる制約に対する代償だ。精霊人は生まれてから精霊を生涯信仰することを決められている。故にこの契約は仕方がない。こっちは溜まったもんじゃねえけどな。俺の兄貴、ユウジがそうだった。ドワーフの場合はその取り替えられた赤子が仕えるらしくてな。兄貴はそいつと結婚している。」

「ユウジ、もう1人のお兄さんよね。ユウイチ義兄さんと違って会ったことはないけど、そうなの。」

あまり夫から発せられることのないもう1人の義兄になにやら只ならぬ予感を感じる母。

「ああユウジはドワーフの取り替えっ子を赤子のときに生還した化け物だよ。今は親父の稼業を継いでいるしな。」

ユウイチと違いユウジは父にとって恐怖の対象になり得る人物らしい。

「まあそう言うわけだロレン。コイツをどうするかはお前に任せる……ロレン、おーいロレン!」

ロレンは消耗しきっていたのか父のもう1人の兄ユウジのことを聞くと夢の中に旅立っていた。

「む、桜が咲いている?」

スフィンクスがこれから起こりうることを予感しながら。
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