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「エロ同人見てるんだよね。」

この酔っ払いに会うまで満身創痍の状態だった彼女は極限状態の中で黒歴史を暴露されそうになり羞恥心でさらに心身的にも追い込まれようとしていた。

「な、何度も言いますが今はそんな時では。」
「スライム~なんて~ちょちょいのちょい~にゅうか~。」

固体として残っていたスライムは突如として形成を崩し込み雪崩のように液体になって行った。

「ど、どうして?」
「むふふ~お姉さん~お肌~きれいきれい~しよう~。」
「酔っぱらってないで。まだここはダンジョン内部です。ってコラぁ変なところ触らないで。」

ほっぺと二の腕と脇をぷにぷにと遠慮なくまさぐっていく。

「セクハラで訴えますよ。」
「うわーん。」
「だから泣かないで。大きな声出さないで。」

酔っ払いの介護は大変だと思うがここは戦場。
大きな声を出したものから殺されて行ってしまう。

mou

「こ、今度は迷宮主が来てしまったじゃないですか!」

酔っ払った目から見えたのは幾千もの迷宮物語の怪物の代名詞ミノタウロスだった。
彼らが一度手を振るえば人間は瞬く間に木端微塵になっていた。
巨大な角は強さの象徴として狩れば莫大な永久機関になるとすら言われているかのモンスターは誰も討伐されたことが無かった。

人間の中では討伐例が存在しない伝説上の怪物に対して迷宮に挑んだ者たちがすることはただ一つ。

「早く。逃げますよ。」

既にボロボロの身体に鞭を打って逃げることしかなかった。

「何がアドベンチャラー(冒険者)だ~俺だって冒険してるんだよう~。」

ほぼ八つ当たりで行うそれは酔いのいたりというべきかミノタウロスの足にペチペチとパンチが当たって行った。
羽虫ほどにも及ばないそのパンチに優越感を覚えたミノタウロスは顔面を下に向けて嘲笑の笑みを浮かべた。

「あなたのことは忘れません。」

酔っ払いとはいえミノタウロスを惹きつけていることには変わりない。
その場であった他人と自分の命を比べればはるかに自分の命の方が重い。
だから彼女はこの場を離れようとしていた。

そう、ありえる筈のない光景をその瞳に焼き付けるまでは。

「オラオラオラァ。」

高々なんのスキルもない一般人のパンチを受けながらデコピンを酔っ払いにすれば。

「痛ってえなクソ野郎。」

クスッ

怒り上戸になった酔っ払いに対して鼻で笑うミノタウロスはゆっくりと頭を前に出して彼を捕食使用した。
その時

「俺の石頭舐めるんじゃない。」

ミノタウロスの角を持って頭を一気にぶつけた。

本来ならば硬い要塞のような強い頭蓋骨によって守られていた頭はその見る影もなくぺしゃんこになった。

「え。」

その言葉を発したのは女冒険者だった。
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