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センスねえと言いたいのか猫叉、命名オミキは爪を立てて太ももを引っ掻いてくる。

「葵さん、オミキと名付けるその心は?」
「お神酒とは神聖なモノ。
 国外でその年に生まれた子どもにワインを作るように酒蔵で成人するまで酒を寝かせる風習もある。
 そして何より神聖なものにあやかろうする豪胆さ、勝負事に強くなっていくには勝利の女神を振り向かせるくらいの豪胆さが欲しいと思って付けました。」
「理由としては妥当ですね。」
「理由だけはまともだね。」

そんなこと言わんといてくれよ。
俺なんか葵って女の子の名前だよ。
理由はまともで妥当だと思うけど結構恥ずかしいんだからね。

「ネコさんも嫌だと言っておりますよ。」

ネコよさっきから太ももに爪立ててはいるが肉球が邪魔してあまり立てられていないぞ。

「ネコ。」
「にゃにゃ!」
「爪が殆どないな。
 ダンジョンで削れたのか。」
「にゃー!」

誤魔化すなと猫パンチ1発入れた。
猫パンチが骨まで達する音が聞こえる。

「痛そう。」
「さすが猫叉の変異種でしょうか。」
「変異種なんだ。」
「その子の元の名前はタネだそうですよ。」

え、それ先に言うてよ。
悩んでた俺バカみたいじゃん。

「聞かれなかったので敢えて言いませんでしたがネコさんがあまりにもかわいそうだと思ったので教えて差し上げた限りですわ。」

俺よかネコの方が大事なんだ。

「にゃんにゃん。」

タネだけすり寄ってくるがみじめに思えてきた。

「このネコはタネって言うんだ。
 ネームド?」
「いえ、元々飼い主のようなものが居たらしくその人が付けた名前らしいですよ。」
「誰の飼い主だったとかわかるのか?」
「えっと鑑定から見るにその人は既に亡くなっていますので詳しい素性は解りません。」
「ふむ。鑑定で遡れないってことは相当前に死んでいるわね。
 それこそこのネコが子猫の時じゃないかしら。」
「20年くらい前に亡くなっているのならそれも納得ですね。」

ちらりと俺を見たことから伝えられない内容なのだろう。
スキルに関することを話すのはアドベンチャラーだと暗黙の了解として隠すべきことと言われているため鑑定スキルの根幹にかかわることなのだろう。

「とりあえずこの件はダンジョン協会に連絡してありますので申請が通るまではギルドに居てくれると助かります。
 内容としてはダンジョン見学中に偶々波長の合うモンスターが自らテイムされに来たと言うあたりが妥当でしょう。
 元は飼い猫からモンスターになった存在ですし親戚に飼い主が居たかもしれないと言えば大体通用します。」
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