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「お待たせ致しました。
 大人様ランチでございます。」

 大人様ランチ、店主が日替わりで作ってくれるランチで様々な品が並べられるお得なセット。
 お子様ランチと違うのは、好きなものだけでなく1つか2つ思わずフォークが止まる苦手な食べ物があること。

 でもそれが意外にも楽しみになる。
 率直に嫌いな食べ物もあるけど、未知なる食材の風味だったり、嫌いな食べ物の次に好きなモノを食べると非常に美味しく感じる不思議なランチなのだ。

 これを食べると数日、身体の調子が良くなる。
 冒険者や商人のような平民に近い此処の常連は、決まって大人様ランチとそれぞれの軽食を頼む。

「うん、美味い。」

 嫌いな食べ物を食べられるようになる工夫と喜びを楽しむ料理。
 様々な品目をちょっとずつ食すことによって生まれる贅沢。
 街の食堂でもやろうと思えばやれるが、採算が取れない。
 店主は給食と呼ばれるメニューを参考に日替わりを作ったと言っているが、採算がとれるようにする商才も素晴らしい。

「最後はやはりコレだ。」

「手巻きクレープをお持ちいたしました。」

 手巻きでクレープを作る。
 単純なデザートなのにココロオドル。
 トッピングはそれなりに厳選されていて、酸味のあるフルーツや濃厚なミルクジェラート。
 ベーコンにチーズもある。
 どれもちょっとずつ。
 クレープ生地も餃子の皮のように小さく薄い。

 好きな具材を好きなように包む。
 家でも真似してパーティを開いたりするけど、ここのは格別だ。
 家族とやるときは子どもの手前威厳を持って接するけど、ここでは一切遠慮せずに楽しめる。

「お、大商人のおっさんも来ていたのか。
 やっぱおっさんもマスターの結婚祝いにか?」

「ええ、店主のために少々お酒をお持ちしましたよ。」

「みんな店主に持ち寄ったりしてるけど。
 酒が一番多いんだよな。」

「一番無難ですからね。」

「酒ってそんなに需要あるのか?」

「少なくともお菓子作りには非常に多くのお酒をお使いしますよ。
 それに店主さんは穀物酒を好んでいるようでしたのでビールをお持ちいたしましたよ。」

「ああ、確かに穀物酒の方が好きそうだもんな。」

「王侯貴族の方でしたらワインを好まれますが、果実酒は悪酔いされる方も多いですからね。」

「あー。」

 このジェラートの香りづけに使われているのも穀物酒、トウモロコシでできたお酒なのと同じように果実酒は素晴らしい香りと芳醇さが売りだが穀物酒のように全ての料理に合う酒はあまりない。
 果実酒は使い勝手を選ぶので料理長やレストランを営む人以外はあまり使わなかった。

 商人としてこの店の工夫を理解した上で普通に飲んでもいいお酒をチョイスしたのだった。

 そして最後に。

「うん、ベーコンミルクジェラートは美味しいね。」
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