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 そそるスパイスの香りは主にシナモンとオールスパイスの香り。
 肉は香ばしく水分を一切失った表面は硬さが感じられた。

「辛い!」

「そりゃあ、スパイスの塊だからね。」

「でもおいひい~。」

「表面は硬いのに中はしっとりとできていて、上手に焼けてるね。」

 しっとりと蒸すように焼き上げるのは見極めがとても難しい。
 放置し過ぎれば硬度の高い石鎚のように固くなる。
 タンパク質の塊はとても硬い。
 このタンドリーコウモリ自体もそこそこな硬さを保っているが楽しめる程度の硬さだった。

 最もその硬さが良いと言うのは顎の力、咬合力の高いスポーツ選手などが美味しい程度の硬さ。
 食生活が改善されていない異世界ではこの程度の硬さで無いと満足できない。
 ちょっと硬いかなと思いながらお世辞と勘違いするのはアンズさんだけだ。
 転生したとはいえ、咬合力はそこまで変わらない。

 お世辞で褒めてくれたと本気で思っていたのだった。
 確かに味は良いのだが、自身が食べた美味しいタンドリーチキンはもっと柔らかかったことを考えるとまだまだだと感じている。

「もうちょっと柔らかくしたいときはどうすれば良いの?」

「発酵食品に付け込んだりすると柔らかくはなるけど、その分香りが凄いことになるよ。
 コウモリ自体の獣臭さがより熟成されて、スパイスでごまかしきれていたのが無くなるから、そこは見極めが重要だね。」

 実際コウモリとしての部分が残っている以上。
 獣であることには変わりない。
 それらを見極めて初めて、調理に成功したと言えよう。
 ジビエを全くの素人が調理するのは非常に困難だ。
 血抜きなどの下処理を行わなければ臭くてとてもではないが食べられるような代物にはならない。
 燻月蝙蝠のようにある種それ自体がスパイスやハーブの香りを欲していないと食べれたものでは無かったのだ。

「それともう一つアドバイスを上げるなら、羽は取った方が美味しくなるよ。
 ほら、羽だけちょっと焦げちゃっているよね。
 羽の方が水分が多いんだけど、その分水分が無くなれば焦げやすくなる。
 つぼ焼きのように中でじっくり焼く調理法では野菜のような特徴を持つ燻月蝙蝠の羽は取った方がより美味しくなる。」

「こ、これが海場レストラン副料理長の腕。」

「いや、見て盗め主義の人が説明しないでしょ。」

 どう見てもグルメ漫画のほうだよ。
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