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「なんか、私にはもったいないくらいのドレスだったなあ。」

「コス衣装って似たようなのなかったっけ?」

「アレは全部絹とか毛皮とかだよ。
 現代だったら最高級品のドレスだよ。
 それをコス衣装風にするんだから普段使いも手入れも大変。」

「確かに、私はこれが当たり前になってしまったけれども、手入れは現代に比べると大変だね。」

 そもそも絹や毛皮の類でコス衣装を作ってくれなんて、もはや伝統工芸品を買いに行く方が早い。
 道楽でここまでやらせてくれるのは相当な金持ちだろう。

「と言っても僕はやってたけどね。
 推しの最上位コス衣装作ってみてって注文してみたらこれでもかってくらい近未来繊維と天然繊維をふんだん使ったのが出てきたよ。
 総額は200万円くらいだったかな。」

「ちなみにどういったものを?」

「マガジンの大ヒット漫画の最強の女魔導士とだけ言っておくよ。」

 もうそれ言ってるじゃん。
 やはり鎧か?
 鎧なのか。
 鎧とインナーを付ければそのくらいはしそうだけど。

「く、それを見られないが心底残念だよ。」

「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪」

 みたいみたい
 リアルコスみたいです(アカスパ1万円)
 みたい
 みたいよー
 みたいみたい

 頭の中にチャット欄が思い浮かぶ。

「メ!だぞ。」

 ズッキューン
 ズッキューン
 ズッキューン
 ズッキューン
 ズッキューン
 畜生になる―
 ズッキューン

「もう、旦那さんでしょう。
 リスナーさんに戻らないで―。」

「禁断の恋はいけません。」

 あーもう。
 ポンコツになったと残念がる。
 叱る時はしっかり叱ってくれるのに、リスナーに戻ると生粋のオタクになる。
 僕もそれが好きで追っていたのに―。
 ツイルと動画配信のコメントでは別人の人っているよね。

 そういうタイプだから中々確信が持てなかったけど、娘に嫌われたからこそこそと見守るお父さんみたい。
 いつものモードだとパパって言ってみたい気持ちに駆られる。
 けれど、この場合は赤ん坊のように甘やかしたくなる。
 一人で二人分美味しい。
 それが、今のエレンツォさん。

「デートなんだからリスナーとかそんなこと言わないの。」

 むぎゅーと抱きしめると。
 不意に殺気?のようなモノを感じた。
 なんせ生前はさっきとは無縁な人間だ。
 解らなくて当然。
 ただ、強い感情を持った視線を感じた。

 視線の先には顔色が悪そうなお姉さんが居た。
 お客さん?なのかな。
 長らく来れていない人も中にはいると聞いていたし、恋している人なのかも。
 意外とすぐに再開できそうと思いながら、その場を後にした。
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