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「あ、ら?
 エレンツォさん呪いにでもかかった、の?」

 次の目的地の場所はあらかじめ把握していたのでエレンツォを引っ張って連れてきていた。
 案の定、死霊の宴の顔なじみの女性が居た。

「こんにちは。
 エレンツォさん、ちょっと甘えたくなったみたいで。」

「そ、う。
 いつ、も気を、張っていたも、の、ね。」

「やっぱり無理してたんですか?」

「あま、り、警戒、だ、けは、してい、たか、ら。」

 お客さんに対しても警戒し続けるのは心を許せていない証拠。
 王族って言ってたし、家族もそこまで心休まる人たちではなかったのかも。

「あ、なた。
 あいされて、る。」

「うん。
 あ、さっき、見かけたんだけど、死霊の宴の人っぽい方が居たけど、知り合い?」

「マスター?
 あの人いつ、もは執務室に引きこもってい、るのに。」

「常連さんであってますか?」

「う、ん。
 だい、ぶ、行け、て、いな、いみた、い。」

「私の事を話すのは辞めて貰おうか。」

「おや、あなたは死霊の宴のマスターではありませんか。
 寄り合いではお見掛けしませんでしたが、やはり仕事がお忙しいので?」

 このマスターはエレンツォを前にすると極度の緊張感に襲われ、何も話せなくなる特性を持っていた。
 今日は勇気をもって話しかけようとしていたのに、もう奥さんがいるなんて聞いていない。
 それになんだよ。
 可愛い。
 私なんて目じゃないくらい可愛い。
 外用の服を着ているだけで、お似合いのカップルと思ってしまうくらい眩しい。
 それに、奥さんに甘えていたから、奥さんに夢中の間は私も話しかけられると思ったのに。
 私に気付いたらすぐに目を合わせるんだから。
 む、胸が苦しくなるくらいドキドキしちゃう。
 
「....」

 こ、言葉が上手く出ないよう。

「ギルドの内情をあまり探るモノではありませんでしたね。」

 何話せばいいかわからなくなってしまうだけなんです。
 だから、そのまま帰らないで―。

「今日は一つ依頼を出そうかと思っておりまして。」

「依頼?
 ならこの用紙に記入して。」

 ああ、もう私はなんでこんな冷淡で事務的な事しか言えないの。
 ただでさえ、大学自体の合コンで何も話せなかった陰キャなのに。
 プレゼン能力が無くて自分で商会やギルドに入ることが出来なくて作っただけなのに、レイスのギルドマスターとか言われちゃうしー。
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