イケメンの意味はイケてるメンディーの略

ゆり

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第一章

6話 幹部

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 あの戦以来、また彼は毎日店に来るようになった。
 今日も店の扉が開く。
と、なにやら賑やかで、店に来たのは輝夜一人ではないらしい。
「凛月──!」
騒がしいその声に、私は嫌な予感を覚えた。
 次の瞬間、私の予想は見事に当たり、兄の凛久都がこちらへ駆けて来た。
私は思わず身を引いたが、そんなことはお構い無しに凛久都は私に抱きついてきた。
「うわ、お前かなりシスコンじゃねーか」
輝夜が私たちを見て言う。
「ちょ、兄ちゃん離して」
「妹ちゃん嫌がってんじゃん凛久都」
と、いつもと違う声が聞こえた。声の方を見ると、見知らぬ男の人が二人いた。
「あの二人は?」
私が兄に聞くと、彼は私を離して二人の元へ行った。
「コイツは『桜夜おうや 幸村ゆきむら』。リベルタの幹部でクールキャラね」
 凛久都は、背の高く顔立ちの整った男の肩に手を乗せて言った。
「兄がいつもお世話になってます」
私は桜夜、という人に頭を下げた。
「ああ、幸村でいい、敬語も無くていい」
クールキャラ、と言われれば確かにそうだ。低めの声でそっけなく幸村は言った。
「あ、はい」
まだ初対面なので敬語が抜けない。
「んで、こっちのかわいいのが『深影みかげ 吹雪ふぶき』。コイツも幹部。吹雪は意外に強いからね、戦闘狂なんだよコイツ」
「よろしく、凛月ちゃん。吹雪でいいよ、あと敬語もナシで」
吹雪、という彼は人懐っこそうな笑みを浮かべた。他の三人が背が高いせいか、三人に比べて小柄な彼は、とても強そうには見えない。
「わかった、よろしく」
可愛げな彼に私も笑顔で返した。
「私の事は凛月でいいんで」
二人のことを呼び捨てするので、同じように私も言った。
「おう」
「わかった」
と、千夜香さんが言う。
「随分賑やかだね」
そんな彼女を、凛久都が二人に紹介した。
「この美人は千夜香さん、ここで働いてんの」
「またまたー凛久都くん」
彼女は照れたようにはにかむ。
「おおー美人。俺、吹雪っていいます」
よろしく、と吹雪は千夜香さんに手を差し出した。彼女は微笑んで彼の手を握った。
「──幸村だ」
相変わらず素っ気ない幸村は、それだけ言うと口を閉じた。
「よろしくね」
眩しいくらいに綺麗な笑顔で、千夜香さんは微笑んだ。
「よし、んじゃ座ろう」
輝夜が彼らを促し、彼らは席に座った。
「お二人も一緒にどう?」
兄が私たちに声をかける。
「まだ誰もいないし、そうしよっか」
千夜香さんが言ったので、私も付き合うことにした。
「飲むか?」
輝夜が言うと、凛久都が笑顔で答えた。
「もちろん」
「じゃ、酒頼む」
輝夜に頼まれ、私たちは酒を多く持ってきた。
「あ、吹雪は飲めねえな、ガキだから」
輝夜が言うと、吹雪は怒ったように言う。
「うるせー俺飲めるし」
「そういや凛月はいくつ?」
と、輝夜が尋ねてきた。
「私は18」
「え、俺より下じゃん」
と、吹雪が言う。
「吹雪は?」
聞くと、彼は
「俺は19」
とドヤ顔で言った。
そんな吹雪を兄がつっこむ。
「なにドヤってんだ吹雪、一つしか変わんねーじゃねえか」
その場にどっと笑いが溢れた。
「みんないくつなの?」
そんな彼らに千夜香さんが尋ねる。
「俺は21」
そう言ったのは輝夜。
「俺は24で幸村と同い歳」
凛久都が言った。
「そうなんだ」
そう言った彼女に、次は吹雪が尋ねる。
「千夜香さんは?」
そんな質問に、彼女は少し間を開けて口を開いた。
「───いくつに見える?」
彼女はつややかな笑みを浮かべた。
「22!」
「24」
「23」
彼らは口々に言う。
「どれもはずれ」
彼女は言い、一拍あけて口を開いた。
「正解は───25」
「え!見えないような見えるような」
吹雪が驚いた声で言う。
「お前失礼だな」
そんな吹雪に幸村が言った。
「いや、そういう意味じゃなくてね、大人っぽいからってことだよ」
吹雪は慌てて訂正する。
「ふふ、いいんだよ別に」
いいのいいの、と彼女は手を振る。
「恋人とかいんの?」
凛久都が聞いた。
「いないよ」
そう聞いた兄が意味深に微笑んだ。
「だってよ幸村」
突然、凛久都は幸村に話を振る。
「なんで俺だよ」
「だってお前店来た時からちらちら見てたじゃねーか」
「見てねえよ、お前の勘違いだろ」
幸村はどこか照れたように目を伏せた。
「うわー幸村顔赤い~」
吹雪がからかうように言う。
「うるせえチビ」
「チビじゃないし~」
そんな彼らのやりとりに思わず笑みがこぼれる。彼らの仲の良さが伺えた。
「凛月」
賑やかな声の中で、一つ私を呼ぶ声の主は輝夜だった。
「こないだは泊めてくれてありがとなー」
彼はわざとらしく大きな声で言った。
私は慌てて言う。
「ちょ、何言って──」
「───え?」
そのひと声で、店内に沈黙が流れた。
私は恐る恐るその声を発した凛久都を見る。
そしてちらりと輝夜を見ると、彼は余裕の笑みを浮かべていた。その笑顔に無性に腹が立つ。
「───凛月、今の本当?」
「い、いやあの」
「本当だよ。戦の傷で家に帰れなかったから泊めてもらった」
にやにやしながら彼は言う。
そんな彼に怒りがこみ上げる。
「お前───っ」
言いかけた私の言葉は兄の罵声ばせいに遮られた。
「おい輝夜ァ!このクソガキが俺のかわいいかわいい凛月ちゃんに何してくれてんだ!次凛月に触れたら殺すから!殺すから!!」
怒鳴られながら兄にしばかれている輝夜は謝っていたが、その表情はどこか楽しそうだった。
「すみませんすみません」
「分かったらいいんだよ分かったら」
そう言って凛久都が手を離すと、輝夜がぼそっと呟いた。
「───このシスコン野郎」
「あ?今なんつった?」
「なんも言ってねえよ!妹思いの良いお兄ちゃんだなって言ったんだよ」
「ははっ、そうだろ?」
兄の馬鹿さには言葉も出ない。輝夜が言っていることは誰がどう見ても嘘だと言うのに。
「お前らも凛月に手出したら殺すから♡」
「言われなくても分かってるよ」
「はいはい」
本当に呆れて言葉も出ない。恥ずかし過ぎる。
「兄ちゃん頭おかしいんじゃないの?」
私が真顔で言うと、馬鹿兄は平然とした顔で言う。
「え?全然?」
もう何も言うまいと、私は口を閉じた。

 それから彼らは夕方まで店で騒がしくしていた。彼らが帰ると店内は一気に静かになった。
「すいません本当に馬鹿兄貴が」
私は真面目に頭を下げる。
そんな私に彼女は笑って言った。
「むしろ良かったよ!楽しかったしみんな男前じゃん!また来て欲しいよ」
「多分来ますね、ていうか絶対来ますね」
私は肩を落として言う。
「おおー、楽しみだな」
そんな私とは裏腹に彼女は嬉しそうに言った。
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