イケメンの意味はイケてるメンディーの略

ゆり

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第一章

5話 冷たい朝

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 目を覚ました私は、目の前にある大きな手に驚いた。
「うわっ」
そして徐々に昨日のことを思い出す。
 少し緊張しながらそっと輝夜の手を退けて、暖かい布団から抜け出した。
 別の部屋でいつもの服に着替え、彼が寝ている部屋へ戻って鏡の前に座った。
 髪紐を手に取りいつものように結う。
「おはよ」
と、後ろから目を覚ましたらしい彼の声。
「おはよう」
結いながら返す。
 振り返ると、眠そうに目をこする彼が体を起こしていた。
「一緒に家出るよ」
私が言うと、彼は残念そうに肩を落とした。
「はえーな」
「朝、店で食べてく?」
私が言うと、彼はころっと表情を変えて笑顔を浮かべた。
「そうするわ」
 私は鏡に向き直り、髪紐をきゅっと結んだ。
 かんざしを手に取ろうとした時、後ろから大きな手が伸びてきて私より先にそれを取った。
「つけてやる」
「あ、ありがとう」
真っ直ぐ鏡を見ると、彼が器用にかんざしを私の髪にした。
「やっぱ凛月にあげて良かったわ。よく似合ってる」
そう言って彼は鏡越しに私を見た。
「──ありがとう」
鏡に映る私の頬は赤く染まっていた。

 支度を終え、玄関の戸を開ける。
と、冷気が家の中に流れ込んで来た。
「寒っ」
その寒さに身震いする。
外に出ると、白い息を吐いた。
「歩ける?」
振り向いて聞くと、彼は頷いた。
「ああ、大丈夫。心配してくれるとか優しいじゃねーか」
彼はにかっと笑うと、ゆっくり階段を下り始めた。

「おはよーございます」
がらっと店の扉を開けると、私たちの姿を見た千夜香さんがにやにやしながら駆け寄ってくる。
「どうだった?」
小声で尋ねてくる彼女に答えたのは隣にいる輝夜だった。
「一緒に寝た」
平然と言う彼に、千夜香さんが目を見開く。
「え?!そうなの凛月ちゃん!」
そう言って彼女は私を見る。
「ま、まあ……」
恥ずかしくなって私は目を伏せる。
「いやーこいつ積極的だから驚いたわ」
「え?!」
そんな彼の言葉に再び千夜香さんは私を見る。
「何言ってんの、アンタが勝手に入ってきたんでしょーが」
「凛月ちゃんも女になったんだねえ」
何故かしみじみと言っている千夜香さんに私はすかさず言う。
「だから違いますよ!いやまあ女だけど!」
そんな私たちを見て彼は楽しそうに笑っていた。

「結局何もしなかったのかぁ」
「ずっと言ってるじゃないですかあ」
店の準備を終えた私たちは、軽く食事を作って3人で食べていた。
「で、輝夜くんはその傷どうしたの?」
 彼女が発した言葉に、私はギクッとする。
輝夜はなんて答えるんだろうか。
そう思って彼を見ていると、彼は意外にもあっさり口を開いた。
「あー俺実はリベルタ率いてんの」
彼の警戒心のなさに少し不安になる。こんなことではすぐに王政に捕まえられるんじゃないか、と。
「──え?」
千夜香さんは私が聞いた時と同じように目をぱちくりさせていた。
「俺が、ツクヨミ」
落ち着いた口調で彼は言った。
「そうなの?!ツクヨミってあの?」
驚くのも無理はない。こんな遊び人みたいな人があのリベルタを率いてるなんて知ったら誰でもこうなる。
「そうそう」
彼は言うと、箸を進めた。
「美味いな」
「ふふ、良かった」
千夜香さんは優しく微笑んだ。

「ご馳走様」
私たちは箸を置いて、手を合わせた。
「じゃあ俺帰ろうかな」
「帰れるの?」
千夜香さんが聞くと、彼は一瞬考える素振りを見せたが、頷いた。
「ああ、大丈夫」
「気をつけなよ?最近は兵士の見張りも多いから」
千代香さんが心配そうに言う。
「おう、気をつける」
そんな彼女に輝夜は笑ってみせた。
「気をつけて」
私も言うと、彼は頷き、店を出た。
 彼が出て言った瞬間、千夜香さんからの質問攻めが始まった。
「添い寝したの?」
にやにやしながら聞いてくる彼女に、私は短く答える。
「──まあ」
「どんな体勢?向かい合って?」
「私が外向いて、アイツが私の方向いてました」
私が言うと彼女はきゃーーと声を上げた。
「何それ超良いじゃん!!羨ましい!」
「別に深い意味はないですよ」
「凛月ちゃんも成長したねぇ、ここに来た時はこーんなにちっちゃかったのに」
彼女は手でその背丈を表した。
そして私の頭を荒く撫でた。
「ちょ、千夜香さ──」
「私嬉しいよ」
その表情は今までのからかうような笑みではなく、優しい笑顔だった。
思わず私の顔もほころんだ。
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