時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第19話:なんだか先生みたいですね

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「さあ、どうぞ。」
 老婦人が扉を開けると、ミオたちは温かみのある家の中へ足を踏み入れた。
 素焼きの壺や木の椅子が並ぶ室内は、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。

 澪は室内の暖かさに包まれ、小さく息をついた。

「おお、帰ったのかい?」
 奥から落ち着いた声が聞こえ、老婦人の旦那さんがゆっくりと姿を見せた。
 日に焼けた肌に白髪が混じった髪、そして優しげな目元が彼の人柄を物語っている。

「この子たち、泊まる場所がなくて困っていたのよ。」
 老婦人が言うと、旦那さんは軽く頷き、澪たちを見回した。
「それは大変だったな。我が家でよければ、好きなだけ休んでいきなさい。」

 澪が丁寧に頭を下げながら言った。
「本当にありがとうございます。助かります。」

 夏輝ナツキは明るい声で続けた。
「こうして泊めてもらえるなんて、ありがたいです!」

 奏多カナタも静かに頭を下げ、感謝の気持ちを示した。

 旦那さんはにっこり笑い、澪たちを椅子に座らせると、ふと足元に目を留めた。
「……ほう、この猫も一緒か?」

「はい、この子も大事な仲間なんです。」
 澪が微笑みながら答えると、ユーマは自然に澪のそばに座り込み、大きな瞳でじっと旦那さんを見上げた。

 旦那さんは頷きながら、笑みを深める。
「大人しい猫だな。君たちの旅の守り神みたいなもんかもしれん。」

 ユーマは尻尾を一度ゆるりと揺らし、あくまで普通の猫らしく振る舞っていた。

 旦那さんの穏やかな視線が澪たちを見渡し、ふとヘラクレスに止まった。
 その瞬間、驚きと興味が混じったように眉がわずかに動く。
「……その体格にその雰囲気……もしかして?」

 老婦人が旦那さんに向き直り、少し得意げに微笑んだ。
「そうなの。この方はヘラクレス様なの。」

「ヘラクレス! あの英雄の!」
 旦那さんは驚きと尊敬が混じった声を上げると、深々と頭を下げた。

「いや、ただの旅人だと思ってもらえれば。」
 ヘラクレスは軽く手を挙げ、穏やかに微笑む。

 それでも旦那さんは感激した様子で首を振った。
「そんな控えめなことをおっしゃらずとも……ヘラクレス様をお迎えできるとは、我が家にとって何たる光栄でしょう。」

 夏輝は目を輝かせながら感嘆の声を上げた。
「さすがだな、ヘラクレスさん!」

 そのまま、思い出したように手に持っていた包みを差し出す。
「あ、これ、市場で買った食べ物なんですけど、良かったらどうぞ!」

 老婦人は包みを受け取りながら、にっこりと微笑んだ。
「まあ、気を遣ってもらって、本当にありがとうね。」

 旦那さんも香ばしい香りに目を細めて頷いた。
「これはありがたいな。どれもいい匂いだ。」

 夏輝は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「いやいや、お世話になるんで、そのお礼ってことで!」

「それじゃあ、中庭で食事にしましょうか。」
 老婦人が優しく微笑みながら提案した。

 旦那さんも頷き、穏やかな声で言った。
「さあ、中庭へ案内しよう。」

 旦那さんに導かれ、澪たちは家の中庭へ向かった。
 老婦人は台所に向かい、食事の準備を整え始めた。



 中庭には石畳に月明かりと篝火の明かりが柔らかく揺れていた。
 庭の隅には陶器の壺や丁寧に育てられたハーブや花が並び、落ち着いた美しさを感じさせた。

「すごく綺麗ですね!」
 澪が感嘆の声を上げた。

 旦那さんが微笑みながら答えた。
「気に入ってくれたなら何よりだ。」

 そう言いながら、旦那さんはテーブルの準備を始めた。
「さあ、座ってくれ。準備はすぐ終わる。」

 澪たちは促されて石のベンチに腰を下ろした。

 老婦人が、夏輝が市場で買った肉や蜂蜜菓子と、自家製の野菜スープやパンを運び始めると、漂う香りが中庭に満ちていく。

「わあ、豪華だな!」
 夏輝が目を輝かせながら声を上げた。

 その様子に奏多も静かに頷き、目を細めながら穏やかに言った。
「夜風と食事、この組み合わせ、なんだか落ち着きますね。」

 老婦人が澪たちを見渡しながら微笑む。
「皆で食卓を囲めるのは、本当に嬉しいわ。遠慮せずにたくさん食べてね。旅人を迎えるのは、神々の巡り合わせなのよ。」

 澪はその言葉に胸が温かくなるのを感じ、穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。
 ふと星空を見上げ、輝く星々の下でこうしてもてなされる幸運に静かに感謝した。

 満天の星々が広がる中、穏やかな笑い声と共に、温かい食卓が静かに始まった。



 旦那さんが明るい声で澪たちを促した。
「さあ、遠慮せずに食べてくれ。疲れが吹き飛ぶぞ。」

 澪たちはそれぞれ皿を手に取り、口々に声を揃えた。
「いただきます!」

 夏輝はパンを一口頬張ると、目を丸くして声を上げた。
「うわ、これ、ほんとにうまい!市場で買った肉もいいけど、このパン、最高です!」

 澪もスープを口に運び、優しい味わいにほっと息をついた。
「本当に…すごく美味しいですね。」

 奏多が蜂蜜菓子を手に取り、一口食べると、微笑んだ。
「この甘さ、ちょうどいいですね。本当に美味しいです。」

 その言葉に、夏輝が得意げな笑みを浮かべた。
「それ、俺が買ったやつだよ!」

 奏多は一瞬驚いたが、すぐに苦笑いを浮かべた。
 その様子を見て、澪たちは思わず笑い出した。

 旦那さんが柔らかく笑いながら、楽しそうに言った。
「本当に美味しいな。いいものを選んでくれた。」

 その言葉に、奏多は頬を赤らめ、控えめに微笑んだ。

 周囲には食卓の温かな雰囲気が広がっていた。

 一方、ユーマは足元で静かに丸くなり、興味がないふりをしながらも、漂う香りに鼻をひくひくさせている。

 夏輝がそんな様子に気づき、くすっと笑った。
「ユーマ、お前も食べたいんだろ?ほら、特別に大きいのをやるよ!」

 そう言いながら、大きめの肉を皿に置いて差し出すと、夏輝はユーマにしか聞こえないような小さな声で続けた。
「さっきは助けに来てくれて、ありがとな。」

 ユーマは一瞬だけ夏輝をじっと見上げたが、すぐにそっぽを向き、軽く鼻を鳴らした。
 夏輝は軽く笑って、その頭を優しく撫でる。

 ユーマは撫でられる手に一瞬だけ目を細めたが、すぐに顔を背け、何事もなかったように肉にかぶりついた。
 しかし、その尻尾がわずかに揺れる様子には、どこか満足げな空気が漂っていた。

 老婦人はそんなユーマを見て、微笑みながら声を漏らした。
「本当に可愛らしい猫ね。」

 そう言いながら、そっとユーマの頭に手を伸ばした。

 しかし、ユーマは尻尾をさっと振り、老婦人の手を軽く払うような仕草を見せた。
 そのまま気にする様子もなく、満足そうに食べ続けた。

 その様子を見た澪が、軽く眉を下げながら注意するように言った。
「ユーちゃん、良くしてもらっているんだから、そんな態度しないの。」

 ユーマはちらりと澪を見てから、小さくため息をつき、再び肉に集中した。



 澪たちは時折笑い声を交えながら食事を楽しんだ。
 スープや蜂蜜菓子、焼きたてのパンなど、テーブルの上の料理は次々と空になっていく。

「本当に美味しい食事でした。ありがとうございました。」
 澪が丁寧に頭を下げた。

 夏輝は満足げに笑いながら声を上げた。
「いやあ、最高でした!お腹いっぱいで幸せです!」

 奏多も静かに頷きながら、感謝の言葉を口にした。
「とても美味しかったです。こういう料理をいただけるのは、ありがたいです。」

 ヘラクレスも軽く頷きながら、穏やかに言葉を添えた。
「心のこもった料理を、ありがとう。」

「気に入ってくれて良かったわ。」
 老婦人が微笑みながら言った。

 旦那さんもにっこりと笑い、優しく頷いた。
「疲れた時は、美味しいものを食べるのが一番だからな。」

 空を見上げれば、星々が瞬き、夜の静けさが中庭を包んでいた。
 澪たちは心地よい満腹感に包まれながら、それぞれ深く息をついた。



「そろそろ休む時間ね。」
 老婦人が立ち上がりながら優しく言った。

 旦那さんも澪たちに目を向け、続けた。
「男部屋、女部屋、それぞれ分かれて休んでくれ。さあ、案内しよう。」

 その言葉に、澪は首をかしげて疑問を口にした。
「男女で部屋を分けるのは、この地域の習慣なんですか?」

 ヘラクレスが優しく微笑みながら答えた。
「そうだ。この土地では、男女が別々の空間で過ごすのが普通なんだ。特に客人がいる時は、家の女性たちが安心して過ごせるようにするためでもある。」

 奏多は納得したように頷き、言葉を続けた。
「なるほど……だから、わざわざ部屋を分けてくれるんですね。」

 澪は説明に感心したように微笑んだ。
「ヘラクレスさん、教えてくれてありがとうございます。なんだか先生みたいですね。」

 その言葉に、ヘラクレスは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
「せ、先生だなんて……そんな立派なものじゃないよ。」

 夏輝が笑いながら冗談を添えた。
「でも、確かに先生っぽいよな!何でも知ってるし、話し方も分かりやすいしさ!」

 ヘラクレスは少し慌てた様子で手を振り、視線をそらした。
「いやいや、ただ知っていることを話しただけだ。深く考えないでくれ。」

 その様子に澪たちはくすくすと笑い、ヘラクレスの思わぬ一面に親しみを感じるのだった。

 旦那さんが穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「さあ、部屋へ案内しよう。」

 澪は老婦人とともに女性用の部屋へ向かい、夏輝と奏多は旦那さんに導かれて男性用の部屋へ向かった。
 ユーマは澪の後をついて女性用の部屋の隅に丸くなり、ヘラクレスは男性用の部屋で壁際に腰を下ろし静かに休む準備を整えていた。

 それぞれの部屋は質素ながらも清潔で、どこか落ち着く雰囲気が漂っていた。

 静かに夜の帳が下り、家の中は穏やかな静寂に包まれていった。
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