時代を越えてお宝探し！？黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第24話：こっちを見なさい！

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　――このままじゃ、夏輝ナツキが危ない……！
　澪ミオの胸の奥に、恐怖と焦燥が渦巻く。

　澪はぎゅっと拳を握りしめた。

「私が……！」
　震える声を押し出しながら、澪は決意を込めて数歩、ラドンに向かって前に出た。

「えっ……澪？」
　奏多カナタは驚きに目を見開き、声を張り詰めた。
「何するつもり？危ないって！」

　焦った声を上げる奏多だったが、澪は振り返ることなくラドンを見据え続けた。

　ラドンの鋭い瞳は澪を一瞥したものの、再び夏輝の方へ動き始めた。
　その無関心な態度が、澪の胸に焦りを生じさせる。

　全身を貫くような重圧の中、震える手を伸ばして地面の石を拾い上げる。

「こっちを見なさい！」
　澪は力の限り声を張り上げた。

　澪の震える声が森の静寂を切り裂き、空気を震わせた。

　ラドンは微動だにしなかった。
　冷たい瞳は夏輝を追い続け、巨大な体が地を這いながら迫る。

「聞こえないの！？こっちを見なさいよ！」
　澪はもう一度叫び、手に握った石を全力で投げつけた。

　石はラドンの鱗に当たり、甲高い音を立てて跳ね返る。
　それでもラドンは動きを止めなかった。

　澪の心臓は鼓動を早め、全身に響き渡るようだった。

　震える手を強く握りしめ、澪は息を詰めたまま、もう一歩前に踏み出した。
「私が――私が相手よ！」

　澪の叫びが森の静寂を切り裂いた。

　掴んだ小石を次々とラドンの鱗に投げつける。
　響き渡る硬い音に、澪の必死な思いが滲んでいた。

　それでもラドンは夏輝を睨み続け、巨体をわずかに動かすだけだった。
　歯を食いしばった澪は、小石を握り直し、さらに全力で投げつけた。

　一際鋭い音がラドンの鱗に響いた瞬間、周囲の空気がぴんと張り詰めた。
　ラドンの動きが止まり、その巨大な頭がゆっくりと澪へ向き直る。

　冷たい瞳が鋭く澪を捉えた。
　その動きには明確な意思が宿り、澪の存在を無視できなくなったかのようだった。

　森全体が張り詰めたような静寂に包まれる。
　ラドンの鎌首が滑らかに澪へ向かい始め、足元に伝わる微かな振動が徐々に強さを増していく。

　澪の背筋に冷たい汗が流れる中、ラドンの瞳がはっきりと彼女を標的に定めた。
　――今度こそ、その全ての注意が澪に向けられていた。

「来る……！」
　澪は息を詰め、迫りくるラドンを睨みつけた。

　草木をなぎ倒すラドンの巨体が地を這うたび、空気が重く澪を押しつぶすようにのしかかる。
　足元から伝わる振動が逃げ場を奪い、澪の体をじわじわと硬直させていく。

　鎌首が高く持ち上がり、冷たい瞳が鋭く澪を射抜く。
　剥き出しの牙が陽光を反射して光り、迫る影が澪を包み込むようだった。

　それでも澪は足元を踏みしめ、震える体を必死に支えていた。

「澪！」
　夏輝が拳を握りしめ、澪の方へ駆け出そうとする。

　その瞬間、奏多の叫びが響いた。
「夏輝！澪のことは僕に任せて！君はリンゴを取れ！」

　夏輝は足を止め、迷うように振り返る。
「でも、澪が――！」

「僕が守る！」
　奏多の声には、揺るぎない決意が込められていた。
「君がリンゴを取らないと意味がないんだ！」

　夏輝は歯を食いしばり、険しい表情で小さく頷いた。
「……わかった！」

　そして、夏輝は振り返らずに黄金のリンゴの木へ向かって駆け出した。

　一方で、奏多は澪の方へ駆け出しながら冷静な目でラドンの動きを追う。
「待ってて！今助ける！」

　同時に、傷ついた体を引きずりながらヘラクレスが立ち上がった。
「彼女を守るのは私の役目だ！」

　ヘラクレスはラドンに向かって一歩を踏み出す。

　ラドンの牙が澪に迫り、空気が緊張で張り詰める中――。

　突如、冷たい風が吹き抜け、森の空気がざわめいた。
　鋭い気配が場を支配し、澪の目の前に黒髪の細身の男の背中が現れる。

　全身黒い服をまとい、その背中から静かでありながら圧倒的な威圧感が滲み出ている。

　黒髪の男が低く冷たい声で言い放つ。
「動くな。」

　その言葉に反応するように、ラドンの巨体がわずかに動きを止めた。
　ラドンの瞳が男を捉え、互いの間に一瞬の静かな緊張が漂う。

「誰――？」
　澪が驚きに目を見開く間もなく、黒髪の男は静かに右手を掲げた。

「下がっていろ。」
　低く冷たい声が響くやいなや、黒髪の男の手から漆黒の魔力が放たれる。

　黒い閃光がラドンの巨体を包み込み、空間を震わせるほどの衝撃波となってその動きを押し戻した。
　ラドンは低い唸り声を上げ、巨体をぐらつかせながら一歩後退する。

「こいつは俺が相手をする。」
　男は振り返ることなく澪を庇うように立ちはだかる。

「何者なんだ……？」
　ヘラクレスが眉をひそめ、その異様な存在感を放つ男を見つめた。

　黒髪の男はラドンを睨みつけたまま、薄く笑みを浮かべて呟いた。
「これが守護者？大したことないな。」

　その言葉に、澪の胸がざわついた。
　目の前の巨大なラドンに対しても一切怯むことのない男の態度に、驚きと不安が入り混じる。

　黒髪の男が指を軽く動かすと、鋭い黒い光が矢のように一直線に放たれる。
　光はラドンの硬い鱗に突き刺さり、鈍い衝撃音が響いた。

　ラドンは唸り声を上げながら巨体を揺らし、鋭い牙を剥き出しにして男へ突進する。

「遅い。」
　黒髪の男は冷たく呟き、一歩踏み出して攻撃を軽々とかわした。

「……すごい……」
　奏多は険しい表情を浮かべながら、目の前の圧倒的な光景に息を呑む。

　黒髪の男が指先を空に向けて静かに動かす。

　瞬時に複雑な光の紋様が浮かび上がり、黒い槍が無数に現れた。
　槍は鋭い音を立ててラドンの鱗を次々と突き刺し、空気が震えるような音が響く。

　ラドンは鱗を貫く衝撃に体を仰け反らせた。

　その瞳が怒りに満ち、唸り声がさらに低く深く変わる。
　巨体を大きく揺らし、体をひねるようにして黒髪の男を睨みつける。

　激しい咆哮を上げながら、ラドンは地を這う動きで前進する。

「まだ耐えるか。」
　黒髪の男はわずかに口元を緩め、冷たく呟いた。

「……何……？」
　澪の声は嵐のような光景にかき消され、信じられない光景に胸の鼓動だけが響いていた。

　ラドンの瞳が鋭い光を宿し、口を大きく開く。
　内側から放たれる不気味な輝きが周囲を照らした。

　次の瞬間、鋭い音とともに猛毒の液体が吐き出される。
　それは一直線に黒髪の男を狙い、地面を焼き焦がしながら霧状に広がっていく。

「面白い。」
　黒髪の男は微かな笑みを浮かべながら手を振り上げた。

　魔法の障壁が毒液を全て受け止め、触れた部分から激しい音とともに蒸発していく。
　その蒸気が立ち込め、辺りにじりじりとした熱と緊張感が広がった。

　黒髪の男は動じることなくラドンを睨み続けている。
　力と力がぶつかり合い、空気が押しつぶされそうな緊張感に満ちていた。

　澪たちは立ち尽くし、ただ目の前の光景を見つめるしかなかった。
　轟音と閃光が次々と響き渡り、息を呑むような激しさが周囲を包む。

「……これ、どうなってるの……？」
　澪の震えた声は、混乱と恐怖にかすかに掠れていた。

　夏輝は足を止め、拳を握りしめたまま立ち尽くしていた。
「なんだよ……あの力……。」

　その圧倒的な光景に飲み込まれ、目の前の戦いから目を離せない。

　奏多も見入ってしまったが、すぐにハッと我に返る。
「夏輝！今だ、リンゴを取るんだ！」

　その言葉に夏輝は拳を握り直し、鋭い目で前を見据える。
「……そうだよな！」

　力強く頷き、地面を蹴って駆け出す。

「絶対にやってやる……！」
　低く呟く声には、静かな覚悟と揺るぎない意志が込められていた。

　夏輝は振り返ることなく、黄金のリンゴの木へ一直線に駆け出す。
　全身の力を一歩一歩に込め、その決意を足音に響かせながら走り続ける。

　その瞬間、ラドンの瞳が鋭く光を宿した。
　黒髪の男に向けられていた重圧が解け、鋭い視線が次の標的として夏輝を捉える。

　背後から空気を裂く音が響いた。
　ラドンの巨大な尾がうねりを上げ、夏輝を狙って一直線に迫ってくる。

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