時代を越えてお宝探し!?黒猫と僕らの時空大冒険

空道さくら

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第1章

第28話:……わかった。行こう。

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 ミオの足は重く地面に縫い止められたかのように動けなかった。
 ニュンペーたちが蛇へと変えられる、あの恐ろしい瞬間が脳裏に焼き付いて離れない。

「……私たちも、あんな風に……?」
 澪は目を伏せ、恐怖を押し隠すように肩を震わせて呟いた。

 ヘラは楽しむように口元を歪めた。
「さて、どうしようかしら?」

 その言葉には見えない壁のような圧力が込められ、全身が締め付けられるようだった。

 澪の喉は引きつるように震え、息が詰まる感覚に襲われた。
「私たち……どうすれば……。」

 ヘラは冷たく微笑みながら、ゆっくりと澪たちに歩み寄る。
「ふふ……あなたたちも、あの姿が似合いそうね。」

 その声は甘く響いたが、澪の耳には恐怖を煽る鈴の音のように聞こえた。

 澪は目を見開き、咄嗟に首を横に振る。
「い、嫌……そんなの……!」

 その言葉に、澪は全身が凍りついたように感じた。
 周囲には異様な緊張感が広がり、息苦しさが増していった。



 ヘラクレスが澪たちの前に一歩踏み出した。
 澪たちを守るように立ちはだかり、その姿に澪たちは少しだけ胸の重圧が軽くなるのを感じた。

「やめろ。」
 ヘラクレスの低く重い声が場に響き渡り、張り詰めた空気を切り裂くようだった。

 ヘラは楽しげに微笑み、首をかしげた。
「何?邪魔をするの?」

 ヘラクレスは眉をひそめたが、鋭い視線で彼女を見据える。
「彼らに手を出させるわけにはいかない。俺が全て引き受ける。」

 ヘラは肩をすくめ、軽く鼻で笑った。
「引き受ける?あなたに、一体何ができるのかしら。」

 ヘラクレスの拳がわずかに震えたが、その視線は揺るがない。
「守ることならできる。それが俺の役目だ。」

 ヘラは穏やかな笑みを浮かべ、手を軽く広げる仕草を見せた。
「その役目とやら、どれほどの覚悟で語っているのかしら?じゃあ、あなたから始めてみる?」

 その言葉に込められた挑発は、場の空気をさらに緊張させ、張り詰めた静寂が辺りを支配した。



 そんな中、ユーマがゆっくりと澪の足元に歩み寄った。

 澪はハッとしてユーマを見下ろす。
 ユーマは澪の足元に近づき、その金色の瞳をまっすぐに澪へ向けた。

 ユーマが澪の足元で小さく囁いた。
「……渡せ。」

 澪は驚きに目を見開いた。
「え……?」

 ユーマは視線を逸らさずに低く続けた。
「リンゴを渡せ。それしかない。」

 澪の手が懐に触れ、黄金のリンゴを掴む。
 冷たく硬い感触が指先に染み、そのひんやりとした重みが胸を締め付けた。

「渡したくない」という声が心に響く中、澪の目には蛇と化したニュンペーたちの姿がちらつく。
 その光景がさらに胸を押しつぶし、掴んだリンゴを握る手がかすかに震えた。



 澪は視線を伏せ、短く息を吸い込む。
 顔を上げる気力も奪われたまま、その果実をヘラに向けてゆっくりと差し出した。

 その様子に夏輝が目を見開く。
「澪……渡すのか?」

 奏多はリンゴに視線を固定し、歯を食いしばる。
「……そうするしかないのかな?……」

 一方、ヘラクレスは険しい表情のまま澪を見つめていた。
 口元を硬く結び、腕を組んだ姿勢のまま何かを思案している。

 ヘラは澪の差し出したリンゴを見つめ、微笑むと、ゆっくりと手を伸ばして受け取った。
 その手の中で黄金のリンゴが柔らかな光を放つ。

「賢明な選択ね。」
 ヘラは冷ややかな微笑を浮かべ、黄金のリンゴを見つめた。
「もう人間の子供になんて興味ないわ。さっさと消えなさい。」

 澪は顔を上げ、ヘラを睨みつけた。

「……っ!」
 胸の奥から湧き上がる怒りが、言葉となる前に喉で詰まった。

 澪は必死に声を絞り出そうとしたが、息が漏れるばかりだった。
 それでも、その視線は怒りを宿し、ヘラを真っ直ぐに捉えていた。

 ヘラはその視線に気づき、興味深そうに目を細めた。
「何、その目は? 私にそんな視線を向けるなんて、いい度胸ね。」

 彼女の視線は突き刺さるようで、反射的に身を引きたくなるものだった。

「やめろ!」
 ヘラクレスが一歩前に出て、鋭い声で制した。

 ヘラは澪を一瞬だけ見た後、愉快そうに笑い声を漏らした。
「まあまあ、そんなに熱くならないで。彼女たちを相手にしている暇なんてないの。」

 その笑みには余裕と嗜虐的な楽しさが滲み、澪たちを取り巻く空気を冷たく硬いものに変えた。



 ヘラはゆっくりとヘラクレスへ視線を移す。
 その瞳から放たれる威圧感が、場全体を支配していた。

「……ところで、あなた。」
 静かに響いたその声に、ヘラクレスの肩が一瞬だけこわばった。

 ヘラの鋭い視線が彼を捉え、その表情に興味を含ませながら続けた。
「随分と変わったのね。かつてのあなたなら、こんな状況でも私に逆らってみせたものだけれど。」

 その問いかけに、ヘラクレスの背中に冷たい汗が伝うのを感じた。

 ヘラは冷ややかに微笑みながら続けた。
「本物のヘラクレスなのかしら?」

 澪たちは驚きと戸惑いの表情を浮かべたが、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

 ヘラクレスは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに険しい表情で声を張り上げた。
「……ヘラ、これ以上この話を続けるつもりはない。」

 その言葉にはどこか焦りが感じられたが、彼は澪たちの方へ振り返ると、低い声で言った。
「澪、夏輝、奏多……今すぐこの門を出ろ。」

 澪が目を見開き、驚きの声を漏らす。
「でも、ヘラクレスさん……!」

 夏輝も拳を握りしめ、悔しそうに言葉を続ける。
「俺たちだけ逃げるなんてできねえよ!ヘラクレスさんを置いていけるわけ――」

 ヘラクレスはその言葉を遮るように一歩前に出て、鋭い声で告げた。
「いいから行け!」

 その声には、抗えない迫力が込められていた。

 奏多が冷静な口調で澪たちを見た。
「……ヘラクレスさんの言う通りだよ。ここにいると、僕たち足手まといになるよ。」

 澪は迷いながらも、奏多の言葉を聞いて小さく頷く。

 その時、ユーマが澪の足元に軽く頭を擦りつけ、尻尾を一振りした。
 それだけで、澪は促されるように一歩を踏み出した。

 澪は覚悟を決めるように頷き、夏輝と奏多に目を向ける。
「……わかった。行こう。」

 ヘラの視線は既に澪たちから外れ、ヘラクレスへと向けられている。
 その瞳には冷ややかな笑みが漂い、彼を見据えながらどこか楽しむような色が浮かんでいた。



 澪たちは気持ちを押し殺しながら、ゆっくりと門の方へ歩き出した。

 先頭を歩く夏輝は、唇をきつく噛みしめながら、まっすぐ前だけを見据えて進んでいた。
 その後ろを歩く奏多は、胸の前で腕を組み、小さく深呼吸を繰り返しながら心を落ち着けようとしていた。

 最後尾の澪は、手を胸元に添え、俯き加減で歩き続ける。
 「これで本当に良いのか」と、心の中で自問しながら、足を運んでいた。

 一方でユーマは軽やかな足取りで先を進む。
 その尻尾がわずかに弧を描くように揺れ、どこか気楽そうな雰囲気を漂わせている。

 門を抜けた先の風が彼らの頬を撫でる。
 だが、澪の胸には冷たく鋭い棘のような痛みだけが残り、決して癒えることはないように思えた。
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