重なる世界の物語

えんとま

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闇に染まる森

託す勇気

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『大丈夫みたいね。今のところ魔物の影は見えていないわ』

「うむ。こないに越したことはないな」

街で防衛に当たっているドイルは、門から少し中ほどまで来た広間で待ち構えていた。ここなら街の入り口4つのうち3つが繋がっているため、侵入されてもおおよそ撃退が可能だからだ。

一方ナタリアは近接戦闘に向かない。妖精の森フェアリーフォレストから生える気の上で監視をし、ドイルに情報を伝えていた。

『こないに越したことはない…確かにね。でも逆に静かすぎやしないかしら』

「それは我輩も思っていた。到着するやいなや魔物の襲撃があったと言うのに、我輩たちが森から帰ってきてからと言うもの一度の襲撃もない」

使い魔同士の通信の向こうから、ナタリアの唸る声が聞こえてくる。

『私たち、森の中でアルフェウスの連中と遭遇したわよね。それに森の王にも接触してるわ』

ナタリアが状況を整理する。その言葉にドイルもおおよそナタリアの言いたいことが伝わったようだ。

「なるほど、我輩たちの行動は向こうに把握されていると言いたいのだな」

『あらドイル、どうしちゃったのかしら。その鎧には思考能力の上昇効果もあったかしらね』

あいも変わらず言葉の多いナタリア。ドイルはもう慣れてしまったのか、まるで気にした様子はない。

つまんないのと言わんばかりにぶーたれたあと、ナタリアは話を続ける。

『あの時、アルフェウスは私たちのことを知っていた。恐らく何度か計画を私たちが潰しているから、マークしていたんだわ』

「うむ。なのに森の王への接触に関してはなんら向こうから妨害を受けなかったな。また計画を潰されんと言うのに。加えてこの静けさ…」

と考えるのが筋だろう」

『…』

「ナタリア殿?」

『はぁ…』

返事のなかったナタリアだが、しばらくの沈黙の後、ため息だけが聞こえてきた。

「どうしたと言うのだ」

『どうもこうもないわよ。ドイルが言ったこと、恐らく的中しているわ。そしてその準備ってやつだけど』

その時、ドイルのいる広間からつながる三つの門

『その準備はどうやら終わってたみたいね』

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


ナタリアとドイルが魔物と衝突する同時期、アリスとクラインもまた魔物に行く手を阻まれていた。

大気を震わす咆哮を放つボスオーガからは深くドス黒い殺意が溢れ出ている。狂化してしまったことによる影響だろう。たとて四肢がなくなろうと眼前の敵を排除しようとする本気の殺意だ。

不思議なことに、クラインはボスオーガを前にして恐怖を感じることはなかった。それはきっとアリスも同じだっただろう。

お互いの気持ちが通じた今、2人ならきっとどんな敵も退けることができる。

「いつも通りに行くよ、アリス」

「うん」

その言葉を合図に2人はボスオーガに向かい掛け出した!

「オオオオォォォオオオ!!!」

対するボスオーガも咆哮で迎えつつ迎撃態勢をとる。

初撃に出たのはクラインだ。敵の体格から超近接は不利と判断し、槍を使って腹部に向かい突き立てる!

その真正面からの攻撃にボスオーガは当然のように手に持つ棍棒で払いのける。クラインの槍の刃先を高く打ち上げ、ガードを崩した。

まっすぐ上を向いた槍。クラインの懐はガラ空きだ。その懐へボスオーガの棍棒が振り下ろされる!!

刹那、クラインの姿は槍を残してボスオーガの目の前から消え去った。

否、槍を地面に突き立て棒高跳びの要領で空高く飛び上がったのだ。
クラインは初撃を防がれることなどもとより想定済み、この一撃の布石であった。

目の前から敵が消えたように見えたボスオーガは、再びその姿を捉えるのにコンマ数秒かかってしまう。その時にはもう眼前に刃先が振り下ろされていた!

「うおおぉおおおお!」

雄叫びとともに槍を振り下ろしたクラインだったが、その手応えは想像よりもだいぶ硬かった。

ボスオーガはとっさに手に装備している籠手でガードしていた。
そのまま腕をぶん回し槍ごとクラインを吹っ飛ばす。

防がれたか…でも構わない!

吹っ飛ばされるクラインの視線はボスオーガのまた先を捉えている。



ボスオーガは背後に気配を感じ飛びのこうとするも、一手遅かったようだ。背後に回ったアリスの双剣がボスオーガの足を捉える。

「ルォオオオオオ!!」

素早い動きで距離を取るボスオーガ。
クラインが空中から攻撃を仕掛けたのは視線を上に向けさせアリスを背後に回すためだったのだ。

クラインとアリスも一度距離を置き再び合流する。

「あのボスオーガ、すごい身体能力ね。機動力を削ぐつもりだったけど浅かったみたい」

「今の手は次は通用しないだろうね。アリス、同時に行こう。僕はサポートする!」

そう言いながらクラインはグリフォンダガーを手に取る。

クラインの言葉に頷くと、アリスは眼前の敵に向かって走り出した!

ボスオーガは先程のような不意打ちを警戒していたようだが…

アリスは敵の真ん前を一直線に走っていく。両の手に携えた双剣を構え、ボスオーガに向かっていく。

ゴン!と鈍い音を立てて、アリスの剣はボスオーガの棍棒に止められる。しかしアリスの攻撃はこれだけでは止まらない。

双剣をうまく使い、敵に隙を与えさせない。常に剣幕を展開していく。その攻撃速度は加速していき、ついには風を切る音さえ遅れるほどだ。

これこそがアリスの真骨頂、その天性の動体視力を駆使して恐ろしいほどの手数を展開する。

クラインとの模擬戦では一刀だったが今は二刀、あの時とは比べ物にならないほどの剣撃だ。

しかし、さすがはボスオークといったところか、大振りの棍棒という武器でありながら、その大柄に似合わぬフットワークを生かし、剣撃を紙一重でかわしつつ棍棒で防いでいる。

そこへクラインが再び背後に回り込み、背へ向けて飛び込んだ!

そのとき、一瞬だがボスオーガの視線がクラインと交差した。まるで罠にかかった獲物を見るような視線。
ボスオーガはその丸太のような足を振り上げ、大地を思い切り踏み込んだ!

ドォオオオ!

大地がめくれボスオーガを中心に爆風が巻き起こる。
吹き飛ばされるアリスの体が途中でガクン!と止まった。
その腕はボスオーガの巨大な手で掴まれている。

吹き飛ぶアリスを捕まえて、逆の手はすでに棍棒を振り上げアリスに振り下ろさんとする最中だった。しかし、アリスの表情に恐怖ない。

ドッ…

鈍い音とともにボスオーガの動きが止まる。アリスをつかむその手は次第に力を失い、しまいにはそのまま地面に向かって倒れた。

背後にはグリフォンダガーを持ったクラインの姿があった。爆風の中ダガーの移動能力で瞬時に背後に降り立ち、急所を切り裂いたのだ。

ふぅ、と一息つくクライン。

「倒せましたね。なんの怪我もなくてよかった」

「ボスオーガくらいじゃいつもは手間取らないんだけど…狂化ってすごいんだね」

自身の連撃を凌がれたことが驚きだったのか、アリスは感心した様子だ。

障害もなくなり再び目的の材料を探しに向かおうとしたその時だった。

空を飛ぶなにかが2人の目につく。羽の生えた、一見鳥のようにも見えるがその姿は小さな人を模した姿だった。妖精と呼ばれるものに近いかもしれない。

その妖精は2人を見つけるとこちらにめがけて降りてくる。近づいてきたところで、聞き覚えのある声が妖精から聞こえてきた。

「やっと…見つけた!」

その声にアリスの目が大きくなる。

「その声…ドロシーさん!?」

「そう…この子は私の使い魔。それよりも聞いて…森の王が住処を移動し始めたの。多分アルフェウスが誘導して…街に向かってる!」

その言葉に2人の表情が変わる。

「まずい、アルフェウスの連中が僕らの動向に気づいているのは想定していたけど…ついになりふり構ってられなくなったんだ!」

焦るクライン。このままでは森の王が街を襲撃してしまう。だが今ここで森の王を止めに行ったら聖水を作ることができない。
聖水なしに森の王と対峙するには各々の専用武器を使う他ないが、街に被害が及ぶ危険もある上、森の王を無事に抑えることはまず不可能だろう。

思考を巡らせるクラインをまっすぐに見据え、アリスは一言放った。

「クライン、私が行くよ。

「!?」

「ドロシーさん、出来るだけ森の王を足止めしていてください。すぐに向かいます!」

「待ってくれアリス、あの森の王を一人で食い止めるのか!?」

「大丈夫、1人じゃないよ。ドロシーさんもいる。それにいざとなったら使

「アリス…だけど」

クラインの言葉をアリスは遮った。

「お願いクライン、信じて。そして私に託してくれないかな…私も信じるから。聖水を持って助けに来てくれるって」

「アリス…」

色々と言いたいことがあったが、それらをクラインは全て飲み込んだ。

アリスは僕を信じて言ってくれている。なら僕も信じなきゃ。必要なのは託す勇気だ。

「わかった…。必ず、必ず聖水を持って助けに行く。だからどうか無事でいてくれよ」

「…ありがとう!」

クラインの言葉にアリスはにっこりと微笑んだ。
そして妖精に向かって話しかける。

「ドロシーさん、森の王を食い止めながら位置情報を私に送ってください」

「わかった…私の使い魔に案内させるから、その子についてって」

「わかりました。それじゃあ、行ってくるねクライン」

「うん、また無事で会おう」


アリスは託された想いを胸に、クラインに背を向け森に向かい走り出した。
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