Hello,world

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幕引き_2

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ーーーあの時と同じだ。


 目の前に飛び込んできた光景に、記憶が曖昧になる。これは夢か?現実か?答えが出るより先に、チカチカと煩い街灯に照らされた人影へ、声をかけていた。

「おにーさん、何してるの?」

 緊張で体温が上がり、吐く息が白く濁る。橋の欄干に体を預け、仄暗い川面をじっと眺めていた男に、細心の注意を払いながらできるだけゆっくりと近づいた。こちらに気付き振り向いた男の顔は、恐ろしく整っていて、もし髪が長ければ女性と見間違うほどであった。男の背は低くない方だが、全体的に骨張っていて小さく見える。隣に並び、自分も同じように欄干にもたれかかる。男の横顔をじっと見る。あなたに話しかけています、と、体全体で表現する。
「終わらせる」ことを覚悟した、焦点の合わない目を向けられ少し怯んだが、それを悟られないよういつもの笑顔を貼り付ける。
 男の目に光が宿った。

「えっ……京獄や」

 配信者を名乗るようになってから早4年。少しずつだが再生数も登録者数も伸びてきて「配信だけで食べていけるようになるのも遠い未来ではない」と踏んでいた京獄にとって、自分を知る者に出会うということはそれを裏付ける根拠となっていた。嬉しい。ただ、この状況でなければもっと素直に喜べていたはずだ。

「あ、俺の事知ってる?やったー!ファンに遭遇~」

 ピースを作り、左右に素早く振る、というお決まりのハンドサインを反射的に行う。

「すごい、ホンマもんや」

 男がペタペタと京獄の体を触る。しばらくそのままにしておくと、フーッと満足そうなため息をついた。

「ありがとう。いい思い出ができました」

 五七五のリズムでそう言い残し、即座に世界をシャットアウトしてまた、川面を見る、を徹底し始めた男に、京獄は焦りを隠せない。さっき会ったばかりだが目の前の男は自分のファンだ。このまま別れて、もし、ニュースで結果を知るようなことがあったら、京獄の精神面に少なからず何かしらの影響がでるに違いない。

「ちょ、ちょ!そうだおにーさん、ちょっと撮影手伝ってくれない?忙しい?」

 咄嗟に出した割には上手い、と思った。自分を褒めてやりたい、とも思った。共通の話題を持ち出して、気を引く作戦だ。

「えっと……忙しくはないけど」

 チャンス、とばかりに京獄は畳みかける。リスナーが沸きそうかどうか、どの釣り針にくいついてきたか、それを見極めるのは得意な方だった。

「よし、決まりね!配信部屋近いから、このままレッツゴー」

 京獄は男の肩を持ち、強引に欄干から引き剥がした。さすがに動揺してオロオロしている男を無視し、そのまま一直線に自宅へ向かった。
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