1 / 10
幕引き_2
しおりを挟むーーーあの時と同じだ。
目の前に飛び込んできた光景に、記憶が曖昧になる。これは夢か?現実か?答えが出るより先に、チカチカと煩い街灯に照らされた人影へ、声をかけていた。
「おにーさん、何してるの?」
緊張で体温が上がり、吐く息が白く濁る。橋の欄干に体を預け、仄暗い川面をじっと眺めていた男に、細心の注意を払いながらできるだけゆっくりと近づいた。こちらに気付き振り向いた男の顔は、恐ろしく整っていて、もし髪が長ければ女性と見間違うほどであった。男の背は低くない方だが、全体的に骨張っていて小さく見える。隣に並び、自分も同じように欄干にもたれかかる。男の横顔をじっと見る。あなたに話しかけています、と、体全体で表現する。
「終わらせる」ことを覚悟した、焦点の合わない目を向けられ少し怯んだが、それを悟られないよういつもの笑顔を貼り付ける。
男の目に光が宿った。
「えっ……京獄や」
配信者を名乗るようになってから早4年。少しずつだが再生数も登録者数も伸びてきて「配信だけで食べていけるようになるのも遠い未来ではない」と踏んでいた京獄にとって、自分を知る者に出会うということはそれを裏付ける根拠となっていた。嬉しい。ただ、この状況でなければもっと素直に喜べていたはずだ。
「あ、俺の事知ってる?やったー!ファンに遭遇~」
ピースを作り、左右に素早く振る、というお決まりのハンドサインを反射的に行う。
「すごい、ホンマもんや」
男がペタペタと京獄の体を触る。しばらくそのままにしておくと、フーッと満足そうなため息をついた。
「ありがとう。いい思い出ができました」
五七五のリズムでそう言い残し、即座に世界をシャットアウトしてまた、川面を見る、を徹底し始めた男に、京獄は焦りを隠せない。さっき会ったばかりだが目の前の男は自分のファンだ。このまま別れて、もし、ニュースで結果を知るようなことがあったら、京獄の精神面に少なからず何かしらの影響がでるに違いない。
「ちょ、ちょ!そうだおにーさん、ちょっと撮影手伝ってくれない?忙しい?」
咄嗟に出した割には上手い、と思った。自分を褒めてやりたい、とも思った。共通の話題を持ち出して、気を引く作戦だ。
「えっと……忙しくはないけど」
チャンス、とばかりに京獄は畳みかける。リスナーが沸きそうかどうか、どの釣り針にくいついてきたか、それを見極めるのは得意な方だった。
「よし、決まりね!配信部屋近いから、このままレッツゴー」
京獄は男の肩を持ち、強引に欄干から引き剥がした。さすがに動揺してオロオロしている男を無視し、そのまま一直線に自宅へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
政略結婚したかった
わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏
有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。
二十歳までにデビューしたら婚約破棄
デビューできなかったらそのまま結婚
楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。
会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ひとりのはつじょうき
綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。
学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。
2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる