銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
28 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇

画家の癒し手

しおりを挟む
 感情が抑えられず、ひたすらに涙を落とし続けるエクア。
 キサの母が、キサを呼ぶ。
 裏口から出てきたキサは母親から話を聞き、エクアの手を引いて家の中へ導いていこうとした。


 その時、エクアは自分の手を握るキサの手に、深いひっかき傷があることに気づく。
「あの、手、ケガしてるけど?」
「ああ、これ。お野菜を洗ってた桶を洗おうとしたら、たわしで自分の手を洗っちゃったの。とっても痛いのにお母さんったら、ボーとしてるからって言うんだよ。ひどいよね~」
「ふふ、そうなんだ」

 キサは涙を流していたエクアに物怖じすることなく、いつもの調子で言葉を返した。
 だが、そのおかけでエクアに笑顔が戻る。
 彼女はキサの前にしゃがみ込み、ケガを負った両手を包む。


「この程度なら私でも治せるから、少しむずがゆいと思うけど我慢してね」
「へ?」
 淡い新緑の輝きがエクアの両手に宿る。
 すると、あっという間にキサの傷がなくなってしまった。

「すご~い、すごいよ! お姉ちゃん!」
「ふふ、そんなことないよ」

 喜びと驚きの混じる声を出すキサと、照れ笑いを見せるエクア。その二人に、私と若夫婦は大きく目を見開いた。
 私は声を震わせ、エクアに尋ねる。
「今のまさか、治癒魔法か?」
「え? はい、そうですが…………あっ」


 彼女はどうして私たちが驚いているのかに気づき、すぐさま頭を下げた。
「すみません、ヴァンナスだと治癒魔法の使用には免許が必要なんですよね。それなのに私ったら」

 彼女の言うとおり、ヴァンナス国では治癒魔法には制約がある。
 行使できるのは教会に所属している癒しの神官と、正しい医療知識を身に着けて免許を取得した者のみ。
 それ以外の者には治癒魔法の使用を禁じている。

 これらには理由がある。それは、治癒魔法には危険が伴うからだ。
 治癒魔法とは怪我の治りを促進させることのできる大変便利なものだが、その反面、知識がない者が使用すると大きな医療被害をこうむることになる。

 例えば、大きく損傷した器官を再生したものの、力の調節が甘いと別の組織との癒着が生じ、そこから壊死を起こすことがある。
 そのため、体の構造をしっかり理解し、内臓器官の役割を把握した人間のみが治療を行うことを許されている。

 だが、エクアは南方の大陸ガデリの出身。
 あちらには治癒魔法の免許制度がないのだろう。
 それで思わず、キサに使ってしまったようだ。


 私は違法行為を行ってしまい、怯えを見せるエクアに優しく声を掛けた。
「いや、今のような日常の傷程度ならば目くじらを立てる必要はない。擦り傷程度なら、免許を持たず治癒魔法を行使しても問題視されることはないからな」

「あ、そうなんですか……」
「ああ、だからそう身構える必要もない。しかし、エクアが治癒魔法を使えるのは驚いた」
「それは、父の影響です」

「父? たしか、医者だったか?」
「はい。父は医者であり、治癒魔法を得意としていました。そのため正当な医療知識と、治癒魔法による治療知識を備えてましたから」
「そうか。素晴らしい人だったのだな」

 
 双方の知識を会得している人材は貴重。このヴァンナスでも免許を取得し、十分にやって行けたであろう。むしろ、ガデリにいるよりもこちらにいた方が待遇が良かったに違いない。
 飢饉から逃れ、ヴァンナスを目指した理由も頷ける。
 
「ふふ、エクアは父と母の才を引き継いでいるのだな」
「そ、そんな、わたしなんてまだまだ」
 謙遜するエクア。そこにキサが素直な思いをぶつける。

「そんなことないよ、エクアお姉ちゃんすごいよ!」
「べ、べつにすごくなんか」
「ううん、すごいよ! そして、カッコいい!」
「ふふ、そんな、もうやめてよっ。なんか、照れちゃうから」

 二人は出会ったばかりだというのに、仲良さげに言葉を掛け合う、
 これならばエクアを預けても寂しがることはなさそうだ。

 エクアのことはキサに任せることにした。
 二人は家の奥へと消え、サレート=ケイキの模倣画はキサの母が奥へと運び込んでいった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...