銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第八章 あの日の情景

兆候

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 マスティフに案内され、鉱山を登っていく。
 私は彼の背後から先ほどの門番の異様な警戒感について尋ねてみた。


「マスティフ殿。なにか、問題事でもありましたか?」
「ん? それはどういう意味かな?」
「門番たちの様子が少々奇妙でしたので」

「ほ~、お気づきに…………まぁ、話しておいた方がよいか。マッキンドーの森のキャビットには知らせておるが、人間族には知らせてませんからな。人間族にも近々アグリスから伝令が送られ、アルリナに伝わり、ケント殿の知ることになるだろうが」
「どうやら、かなりのことらしいですね」
「うむ……魔族が山脈を越えたという話が舞い込んできた」


「魔族!」
 この声を上げたのはフィナ。なぜか、心躍るような様子で……。

「魔族かぁ。ついに私の活躍の見せ所ね。何匹いるの? 久しぶりに暴れられるからワクワクする」
「フィナ……」
「がははは、頼もしいお嬢さんだ。しかしながら、未確認の情報だ」
「な~んだ」
「本当にこの子は。申し訳ない、マスティフ殿」
「いやいや、若いのはこれくらい元気な方がいい。それはさておき、魔族のことをお話しておこうか」


 
 魔族のことと、この半島の様子を交えて話を纏めていく。
 古代人とランゲン国の尽力により、このクライル半島から魔族は排除されて存在しない。
 だが、半島に壁を築くように横たわるファーレ山脈を越えた先にある、ビュール大陸本体には魔族が存在する。
 その魔族が山脈を越えてこの半島にやってきたと言う。
 山脈に配置された物見からの情報が正しければ、七匹の集団。
 私はそれに疑問を呈する。


「魔族がわざわざ険しい山脈を越えて半島に? そのようなことがあるのですか? 知性無き彼らがそのような面倒を行うとは思えない」
「たしかに、以前のきゃつらならば本能に従い身近で狩りやすい小さな村を襲うといった真似をしておったが、近年は様子が変わっての……どうも、活動域を広げようとしておるようだ」
「そんな……」

「さらには、ただ群れを成していた存在からある一定の集団行動をとるようになったようで、厄介な相手になりつつある」
「集団行動!? まさか、統率者がいるのですかっ?」

 魔族は群れで動くことはあるが、そこに指揮を執るものなどなく、勝手気ままに獲物である種族に襲いかかるだけ。
 それが統率意思を持った集団になりつつあるという。
 私が疑問の声を跳ね上げると、フィナが言葉を差し入れた。


「ケントって、魔族の情報には疎いみたいだね」
「ああ、議員をしている時に各地での被害報告はよく聞いていたが、私の専門ではなかったからな。私は福祉と教育と学術投資に重きを置いて、魔族については主に軍に明るい政治家の仕事だった」

「そうなんだ。これは旅の錬金術士の間でも噂になってるんだけど、最近、魔族の様子がおかしいのよね。マスティフさんも言ってたけど、意思のある集団行動をとるようになってるみたい」
「そうだというならば、かなり厄介だぞ」


 元々、どんな種族よりも強く、単一では一流と呼ばれる戦士でしか対応できない魔族。
 彼らをまとめ上げ、指揮を執れる存在が現れたとなれば、誇張抜きで種族存亡の危機となる。
 そこに、更なる恐ろし気な情報がマスティフから上がる。

「それだけではない。道具を使うという話も出ておる」
「道具まで。まさか、剣や槍を?」
「いや、木を削って作ったこん棒を振り回す程度らしいが。いまところ、それについてはそこまで脅威ではないな……きゃつらは素手の方がよほど恐ろしい」

 肉体的に我々を遥かに上回り、素手で我々を薄衣のように切り裂くことができる存在。
 素手で襲われるより棒で殴られる方が、まだ生存確率が上がるという皮肉……。
 眩暈を覚えるような情報の嵐だが、さらにフィナが絶望と思える情報を漏らした。


「これはデマレベルの話なんだけど、吸血型が増えてるって話も聞く」
「吸血型? レア種だぞ!」

 
 魔族には大きく二系統がいる。
 直接、我々の肉と血をむ者。
 もう一つは、我々の肉体に宿る魔力の根源、レスターを奪う者。
 レスターとは、誰の肉体にも宿っている創造神サノアの力と呼ばれるもの。


 彼らはサノアの力を取り入れ、生きている。
 魔族の多くは我々の肉と血を食み、そこからレスター喰らっている。
 だが、吸血型は肉と血を喰らうことなく、手や口を使い、直接レスターを吸収しているという。
 当然、直接レスターを取り込める吸血型は普通の魔族よりも強い。
 それが増えているとなると……。


「吸血型が増え、統率された集団が誕生すれば、我々は滅ぼされるな……」
「ケント、深刻すぎ。ほとんどが未確認レベルの話で、増えたと言っても総数はそれほどでもないんだから。ヴァンナス本国でも、これらの情報に懐疑的って話に聞いてるよ」
「たしかにそのような話、議会ではとんと聞かなかったが……どこまでが真実かわからないが全てとしたら、何が起こっている?」


 魔族の中で大きな変革が起ころうとしている。
 これには何か理由があるのだろうか?
 その理由をフィナが、虚ろであるが自分なりの見解を述べる。

「ん~、これは根拠が全くない憶測だけど、もしかしたら、いま魔族は進化の跳躍課程に入ったのかも?」
「進化の跳躍課程?」
「生物って、ある時突然、大きく進化することがあるのよ。私たちに置き換えるなら、ふとした瞬間、文明や技術が大幅に進むみたいな」
 

 この言葉にエクアが続く。
「言われてみれば、芸術の分野でも突然文化が華やいだりしますね」
「そうなの。どんな分野でも突然の開花ってあるのよ。まぁ、多くの場合、前提となる下地が重なって、それが一気に爆発してるんだろうけど」

「それが、いまの魔族に起こっている、というのですか?」
「あくまでも、ただの憶測。下地があるのかないのかもわからないし。でも、警戒はしておいた方がいいかも」


 マスティフは気落ちするかのように首を振り、皮下脂肪の多い頬をブルブルと震わせる。
「ふむ……できるものなら、滅ぼせるうちに滅ぼしておいた方がよさそうだ。しかし、我ら種族は一枚岩ではない。魔族に変化の兆候が見られるかもでは、軍を起こし、ましてや連携など……」
「そうですね。ともかく、いま警戒すべきは山脈を越えた可能性のある魔族について。越えたとしたら、何のために越えたのか……それは分かりきったことか」

 そう、私が呟くとマスティフは神妙な表情を見せる。
 しかし、エクアとフィナはピンと来ていないようで、二人して首を傾げていた。
 エクアは私に尋ねてくる。


「魔族の狙いは何ですか?」
「ビュール大陸本体は魔族に対する警戒が強く、私たちを狩るのは難しい。だが、クライル半島には久しく魔族がなく、警戒が緩み切っている。それを狙った可能性がある」
「そんな……魔族がそこまで考えて山脈を越えたというんですか?」
「あり得ない。だが、意味もなく山脈を越えるとも思えない。これからは魔族に対して警戒の根を張らねばな」

 平和だったクライル半島……だが、その平和が崩れ落ちようとしている。
「全てはまだ、憶測の段階……アグリスからアルリナに伝令が行くだろうが、私たちもトーワに戻り次第、いまの話をアルリナに伝えておこう」
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