銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
99 / 359
第九章 危機と頼れる友たち

瞳に宿った光

しおりを挟む
 一匹となった桃色の魔族は、仲間を殺されたことを嘆くように雄叫び上げた。

「ウガァァァオァァァァァア!!」
 声から放たれる気配に、フィナは一滴ひとしずくの汗を流す

「あいつ、別格。ギウ、油断しないでっ!」
「ギウっ!」
 返事が響くや否や、魔族がフィナに襲いかかってきた。
 フィナは鞭を振るうが、魔族は蛇のようにするりと潜り抜け彼女へ迫る。

「このっ!」
「ギウギウ!」

 ギウが横から飛び込み、桃色の魔族の動きを止めた。
 魔族は一度後ろに飛び退き、ギウへ襲いかかる。


――地面を蹴り上げ、飛び散る小石。


 私の銀眼を以ってしても残像しか見つめることのできないはやき動き。
 
 魔族はギウの腹部を蹴りつけようとする。
 それを銛の柄で受けようとするが、魔族は途中で蹴りの軌道を変えて頭部に蹴りを放つ。
 ギウはすぐさま銛を使い、蹴りを弾こうとした。だが、蹴りの方が速く、不完全な守りであった銛は遠くへ弾き飛ばされてしまった。
 

 一連の動きが見えていた私とフィナは驚愕に言葉がおぼろとなる。

「今の、動き……」
「格闘術? どうして、魔族が……?」

 知性なき魔族。
 道具を持たず、本能の赴くままに素手で獲物を狩り、切り裂き、食す。
 そうである存在が、いま、格闘術を見せた。

「あり得ない。そんなのあり得ない……」
 否定を繰り返すフィナ。
 だが、その否定を否定する構えを桃色の魔族は取る。

 両手を前へ突き出し、武闘家のような雰囲気を醸し出す。
 対するギウも、半身を傾け、構えを取った。

 私たちは言葉を失い、無言で二人を見守る。
 一陣の風が舞う。それを合図に、二人は同時に前へ飛び出した。

「ギウギウギウギウギウ!」
「うがががががががぁぁ!」

 両者の手足が大気を切り裂き、音を爆ぜさせ、砂塵の煙幕を生み出していく。
 その動きはもはや、私の瞳では追いきれない。
 ただ、激しく揺れる空気の振動が彼らの戦いの壮絶さを物語っていた。


「ギウッ!」
「がっ!」

 ギウの一撃が魔族の腹部を捉えた。
 魔族は大きく吹き飛ぶがギウも少し体を揺らす。
 組打ちはギウがまさったが、彼も手傷を負ったようだ。
 魔族は腹部を押さえ、ギウ相手では不利と見たのか、地面を蹴り上げて私たちの方へ向かってきた。

「このやろっ」
 フィナが鞭を振るう。しかし、魔族はそれを素手でさらりと受け流し、真っ直ぐ私とエクアのもとへ向かってくる。
「エクアっ!」
「きゃっ」

 私はエクアを突き飛ばし、剣を振るおうとした。
 だが、私の銀眼はわかっている……。
 私が剣を振るうよりも早く、

「ぐはっ!」

 魔族が私を組み伏せることを……。

 抵抗する間もなく、桃色の毛を全身に纏う魔族は私の首を掴む。
 首からは、暖かくも冷たき水のような流れを感じる。

(こ、こいつ吸血タイプかっ、ぐっ!)
 魔族は手のひらから、私の命の暖かさを奪おうとしている。
 手を引きはがそうと足掻くが、まったくの無意味。
 私は銀眼を見開き、怒りを魔族へぶつける。
 私の瞳は魔族のどす黒い瞳とぶつかった。
 その途端、命を吸い取ろうとする気配が消える。


 魔族は私の銀の瞳を覗き込む。
 そして、闇のような暗き瞳に一筋の光を見せ、小さく呟いた。

「な」
「……な?」

「ケントっ!」
「ギウゥゥ!」

 フィナとギウの声が響く。
 この声に魔族は身体を跳ね上げ、私から飛び退き、西に広がるマッキンドーの森に姿を消した。

 私は喉を押さえながら半身を起こす。 
 ギウ・フィナ・エクアが私を囲むように集まった。

「ギウギウ!」
「大丈夫!?」
「ケント様!」

「ああ、大丈夫だ。三人とも、ありがとう」


 私は軽く喉を擦り、立ち上がった。
 私の無事を確認したギウは、なぜか魔族が消えた森へ寂しげな視線を送っている……。
 彼の様子に気づかないフィナは彼の持つ銛に一度視線を振ってから緊張をほどき、言葉を軽くしてギウに礼を述べる。

「はぁ、たすかったって感じ。ギウ、ありがとう。来てくれなきゃ、私たち死んでた」
「ギウギウ」
「ところで、その銛、気になるんだけど? 一瞬で魔族を塵にして、意思があるかのように動くなんて。他のギウの銛にはそんな機能付いてないと思うけど?」
「ギウ、ギウギウ」

 危険が去り、フィナは好奇心を前面に押し出す。
 ギウは銛を握り締めて体をずらし、フィナの好奇心から逃れようとしている。
 彼の銛が何なのか気になるところだが、今の私にはもっと気になることがあった。
 私は森に消えた、魔族の残影を無言のまま見つめる。
 すると、傍に立つエクアが私の様子を不思議に思ったようで問いかけてきた。


「どうしたんですか、ケント様?」
「いや、何でもない……とにかく、この事態を周辺の村や町へ知らせないと」

 私たちは逃げた馬を回収し、一度トロッカー鉱山に戻りワントワーフに事態を知らせ、警戒を巌にトーワへ戻ることにした。
 その道すがら、私は桃色の毛に覆われた雌の魔族のことを考えていた。

(あの時、魔族の目に宿ったのは、知性の光? いや、そんなわけが……だが、あの時彼女は、何かを発しようとしていた……それは一体?)
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...