銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
104 / 359
第十章 喧騒と潮騒の中で 

せこい話

しおりを挟む
――港町アルリナ・早朝


 私たちは皆で、人のまばらな早朝のアルリナに訪れていた。
 訪れた理由は魔族に関する情報交換と、城の復興支援の礼のためだ。
 魔族の情報に関してアルリナは、アグリスからの一報を受け取ったあと、すぐにヴァンナス本国へ支援要請を行ったようだ。

 ここ数百年、半島には魔族が現われたことがない。
 そのため、この処置は妥当だと言える。
 だが、ノイファン曰く、『町の者たちはあまり大きな危機感を抱いていない』そうだ。


 魔族を知る旅の者はともかく、アルリナの住人は久しく魔族の脅威に晒されていない。だから、身近な脅威として感じていないようだ。
 この危機意識の欠如に私としても喚起したいが、こういった問題を解決するのは商人ギルドの役目。
 助けも求められていないのに外部の私たちが口を出す問題ではない。

 代わりに、その問題が少し減ったことを伝えた。
 それを口にすると、ノイファンは驚きに目を開けっぱなしだった。
 まさか、確認された七匹のうち六匹を退治したという報告を受ければ誰だってそうなるだろう。

 脅威は一匹になったことを伝えるとノイファンは嬉しくも心憂う態度を見せる。
 おそらく、ただでさえ魔族を軽んじているアルリナの民がこれを耳にして、ますます軽んじるのではないかと考えたのだろう。
 
 
 話によると、元よりギルド内でも商売を優先にすべきという声が大きかったようだ。そうであるならば、この報告がきっかけで大勢たいせいが商売優先に向かうのは必至。
 さらに、彼らは魔族よりも盗賊の出没を気にかけているそうだ。
 
 その盗賊は、アルリナとアグリスを結ぶ本街道を荒らしていると。
 アルリナとしては早急に討伐したいのだが、盗賊はアグリスの管理下である、元ランゲンの旧都『カルポンティ』周辺の森に潜んでいるらしい。

 そこはアグリスの領地に当たるため、アルリナの勝手はできない。

 アグリスはアグリスで最近災害に見舞われたカルポンティの復旧が忙しく、盗賊退治は後回しになってるという話だ。
 そうであってもアルリナが強く要請すればアグリスも動くのだろうが……ノイファンはアグリスに余計な借りを作りたくないと考え、その要請を行っていない。


 このようにアルリナには様々な問題が横たわっているが、それらはノイファンとギルドの役目。彼らに任せるとしよう。


 
 魔族の話を終えて、次にトーワに対する支援の話に移る。
 私はあまり配慮する必要はないと伝えるが、ノイファンはにこりと微笑んで遠慮なさらずにと答えた。
 これはもちろん親切心ではない。
 政治を行う者が、何の見返りもない善意など行うわけがない。

 彼は支援を通じて、アルリナの弱みを握った私に弱みを上回る恩を着せようとしている。
 これは機を見て、支援を断らなければならないようだ。
 そのためには支援の穴埋めをするものが必要。

 支援の大元であるゴリンたちの存在は実に力強い。
 なればこそ、彼らからノイファンの鎖を外し、直接雇用をする必要がある。
 問題はその資金をどうするか、だ。
 
 今のところ、その目途は立っていない。
 なにせ、古城トーワには産業らしきものは一切ない。
 何かしらの金策が考えねば……。

 思いつくまではゆっくりとアルリナから金を引っ張り、弱みよりも恩着せが上回る直前で支援を断ち切り、美味しいとこ取りを目指そうと考えている。

 せこい話だが、これもまた政治的駆け引きだ。



 昼前には魔族と支援と互いの近況報告を終えた私たちは、ノイファンの食事の誘いを断り、町へ繰り出すことにした。
 ムキ=シアンの一件以降、住人たちは私のことを良き噂で讃えていると聞くが、それがどんなものかは知らない。
 だから、直接どうであるかを確認しようと考えた。

 私たちが町を歩いていると幾人もの人が声を掛けてきて礼を述べてくる。
 遠巻きに見ていた子どもたちに手を振ると、勢い良く手を振って返してくれた。
 その様子にエクアが照れ臭そうな表情を見せる。


「なんだか、ちょっと恥ずかしいですね」
「ふふふ、たしかに。ほら、ギウも手を振ってやれ」
「ギウギウ」
 ギウが手を振る。野良猫たちが眼光鋭くにゃ~にゃ~と合唱を始める。
「ぎうっ!?」
「猫に大人気だな……」
「ぎうう~」
「ふふ、でもほら、子どもたちも手を振ってくれているぞ」


 子どもたちが家のベランダから身を乗り出してギウに声を掛けてきている。
 この様子を傍で見ていたフィナが、ちょいちょいと私の袖を引っ張ってきた。

「随分人気じゃない。何かしたの?」
「この町にムキという悪党がいて、色々あり、そいつを追い出した」
「ああ~、いたねぇ。そんなの。五年前くらいに一度、この港に滞在したことがあって、腐れ外道が町を牛耳ってるって話を聞いた覚えがある」

「アルリナに来たことがあるのか?」
「うん。じゃなきゃ、城でギウを見た時にびっくりしてたと思うし」
「言われてみれば、君はギウのことを知っていたし、他のギウについても詳しかったしな」

「五年前に防波堤近くで釣りをしているでっかい魚を見かけてさ。興味湧いちゃって、めっちゃ質問攻めしたことがあるからね。返事はギウギウギウギウでわかんなかったけど……」
「あははは、そうか」
「で、そのあと、おばあちゃんからちょっと教えてもらったってわけ」
「そうだったのか……さて、このまま当てもなく町を練り歩くわけにはいかないな」

 と、言葉を出すと、ギウは真上に差し掛かろうとしている光の太陽テラスを銛で差す。
「ギウッ」
「そうだな。ノイファン殿の誘いを断ったのは町で食事をしつつ、町の状況を見たいがため。よし、キサの両親に挨拶をしてから、どこかで食事を取ろう」


 私たちはキサの両親に挨拶を交わし、その足で港そばの食堂で食事を取ることにした。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...