銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
188 / 359
第十七章 頂へ続く階段の一歩

画家

しおりを挟む
――長廊下


 廊下を歩いている途中、フィコンが私に話しかけてきた。
「ケントよ、議員共は何を話しておった?」
「アグリスの素晴らしさと偉大さを。おかげさまで良き観光案内となりました」
「クスッ」

 感情の希薄な少女フィコンは私の皮肉に小さく声を立てた。
 後姿からではわからないが、いま彼女は微笑みを見せているのだろうか?
 彼女は言葉を軽く漏らす。

「あやつらめ、どうせ詰問のような真似をしておったのだろうな。百万都市のかじを担う議員でありながら、矮小なことよ」
「フィコン様」

 エムトはそっと名を呼び、フィコンの声を止めた。
 今のフィコンの言葉――それはフィコンと二十二議会の間に距離があることをしめしている。それをエムトは止めたのだが、フィコンは明け透けに口にした。
 いくらルヒネ派のトップとはいえ、中身は十四歳の少女。
 言葉の取捨選択ができていないと見える。


 暗に注意を促されたフィコンは話題を変える。
「化粧品の話だが、そこは詰めたのか?」
「いえ、まったく」
「そうか、フィコンとの会合ののちに議員たちがそれについて話すだろう。詳しい話は後日になるだろうが……あの者たちは時間の有用性を理解できておらんな」
「フィコン様」

 再び、エムトが言葉を差し入れた。
 フィコンは軽く息を抜く動作を見せて、次にエクアへ話しかける。


「エクアよ、この先にまだ世に出ておらぬサレート=ケイキの新作がある。それを批評してもらいたい」
「え、ええっ! 先生の新作が! それも、私なんかが先生の新作の批評を!?」
「何を言う。何か発表すれば何者かに批評されるものだ。批評を恐れるならば、己の家の額縁に飾るだけで満足しておればいい」

「それは……ですが、批評は時に創作者に対する刃となります。もちろん、私ごときの批評に刃のような切り口はありませんが」

「批評もまた発表と同じ。創作者や横の者から、鋭き返し刃で傷つけられることもある。心を表すということは、常に賞賛と痛みが表裏として存在しておるものだ。そうであろう?」
「はい、わかります……」

 エクアは顔を僅かに伏せた。
 いま彼女は、自分の絵をムキから否定されたことを思い出しているのだろうか?
 フィコンはエクアへちらりと視線を送り、言葉を続けた。

「中には批評を口汚く罵ることと勘違いしておる者もいるが、そのような者の言葉は無価値だ。エクアはそのような勘違いをする娘ではあるまい。つまりは、遠慮なく批評するがいい。もちろん、その批評が批評されることを恐れずにな」
「……はい」
「よろしい。そろそろ見えてくるな」


 長廊下を歩いた先には殺風景な真四角の広間があった。
 その広間の壁に一枚だけ、巨大な絵画が飾られてある。
 エクアは絵画を目にして、言葉を一切発さずに、目だけに意識を始める。

「…………」

 代わりに隣に立つ私が言葉を漏らした。
「な、なんという迫力。心を鷲掴みにされるような……」

 暗雲の下で、大勢の人々が無秩序に絡み合い、空へ手を差し伸べる姿。
 人々は暗雲の下にある小さな光を追い求め、我先にと手を伸ばす。
 絶望に染まった人々は一縷の望みに縋り、たかり、他者を押しのけ、少しでも高く天にある光へ指先を引っ掛けようとしている。

 そこにあるのは傲慢・暴力・痛み・叫び・我慾がよく
 そうであるのに、絵画に描かれている人々は笑顔を浮かべている。
 彼らは自分の瞳に映る希望のみを映して、喜びに身を包む。
 その下には押しつぶされた人々が身体の原型をなくすほどに、崩れ、溶けあっているいうのに……。

 心の闇を一つに押し固めたような絵画に、私の背筋は凍りついた。
 呼吸は乱れ、恐怖に体は震えるが、瞳は絵から逃れようとしない。
 それは、絵から人間の根源を惹きつける力が溢れ出しているからだ。
 
 根源の名は――欲望。

 人にとって必要不可欠な感情であり、成長を促すもの。
 だが、過ぎれば毒にもなる。
 毒にもなるが、甘美な感情でもある。
 だから、魅了され、瞳は固定される……。


 私の隣ではエクアもまた、絵に釘付けであった……しかし。

「言い訳……」

 エクアがポツリと零した言葉に、私の瞳は絵からエクアへと動いた。
 この言葉の意味を、フィコンが問う。

「言い訳とは?」
「盲目に希望を追いかけているから、見えずに他者を踏みつぶして笑顔であるのは言い訳。本当は見えている。だけど、希望を言い訳に使って、屍の山を築いている」


「いや~、素晴らしいねぇ~」
 パチパチパチと、乾いた拍手を奏でながら広間の奥から一人の男が現れた。
 男は薄汚れた灰色の薄着の上に緑のジュストコール。先端がカールを巻いた長めの茶髪を深緑のベレー帽で押さえるといった、変わった出で立ちをした、細長の四角眼鏡をかけた優男。

 眼鏡の奥には紫の瞳。背は私よりも少し低い。
 彼は私に一瞥もくれることなく、エクアにだけ視線を注ぐ。


「会いたかったよ、エクア=ノバルティ。君こそが僕を新たな世界に導く少女だ!」
「えっと、あなたは……え? ベレー帽にジュストコールに眼鏡。そして、紫の瞳……………………まさかっ!!」
「ふふん、初めまして。僕の名はサレート=ケイキ。会えてうれしいよ、贋作の少女さん」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

処理中です...