銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
219 / 359
第十九章 暗闘

どこかで見たような……?

しおりを挟む
――――戦争前


 アグリス軍は街を出立。こちらへ向かっているという報告が届く。
 あと七日もすれば、常勝不敗の獅子将軍エムト=リシタ率いるアグリス軍が北の荒れ地に現れることになるだろう。

 その間に、私たちはいくさ準備の最終段階に入っていた。
 準備と言っても確認程度で、大してやることはないのだが……なにせ、こちらには戦闘の意思はない。意思はなくとも、勝つ。そういう戦だからな。

 私はキサとギウとカインと共に、第一の防壁傍でカリスたちへ戦争中に行う指示を飛ばしてた。
 その途中、フィナが城の三階バルコニー……私の執務室より少し進んだ場所にあるバルコニーに立って、城を見下ろしていた。
 隣には親父もいる。何をしているのだろうか?


 私はギウたちにこの場を任せて城へ向かうつもりであったが、ギウはこのあと何か用事があるらしく、この場はキサとカインに任せることにした。
 ギウと共に城まで行き、彼は海岸の方へ。
 何の用事かわからないが海岸には洞窟があり、そこにはギウが住んでいた場所がある。
 戦争前に整理をしておきたいのかもしれない。

 私はさほど気にすることなくフィナと親父に意識を向けた。
 地上から三階に向かって呼びかける。

「フィナ、親父、何をやっているんだっ?」
「う~ん、ちょっとねぇ。気になるものがあって」
「旦那、こっちに来てもらえますか?」


 二人は私に声を返しながらも視線は城の防壁に向いている。
 丘陵きゅうりょうの頂に立つ城からはトーワ全体が見渡せるが、二人は何を見ているのか?

 私は正面玄関から城へ入り、すっかり整備され、絨毯まで敷いてある石階段を昇り、三階へ。
 私の部屋を右において、正面奥へ向かった。

 扉を開けるとすぐにフィナから注意を促される。

「そこ、窪みがあるから、足元気をつけて」
 私は窪みをひょいと跨ぎ、二人の近くに寄った。

「それで、二人は何を見ていたのだ?」
「防壁の形をね。これって歯車みたいな形してるじゃん。だから親父に、歯車を象徴とするルヒネ派と何か関係あるのかな? って尋ねてたの。でも……」
「あくまでもみたいなであって、歯車ではありませんからね。こいつぁ、ルヒネ派とは関係ないですぜ、とフィナの嬢ちゃんに話してたんですわ」
「なるほど。防壁の形ね……」


 私は三階のバルコニーから防壁を見下ろす。
 防壁は三重にあり、どの防壁も凹凸に塗れた、一見、歯車のような形をした姿。
 しかし、親父の指摘通り、ようなであって歯車の形ではない。
 その防壁をじっと見つめていると、どこかで見覚えがあるような気がしてきた。

「ふむ、以前、どこかでみかけたような」
 この声に、フィナが飛びつく。

「ケントもっ?」
「その様子だと、フィナもか?」
「うん、どっかで見たことあんのよねぇ。でも、親父は見たことないって」
「ええ、俺はこんなガタガタした防壁は見たことないですぜ」

 私はフィナと親父をちらりちらりと見る。
「私とフィナには見覚えはあるが、親父にはない……つまり」
「錬金関係……じゃないかな?」
「そうなるか? だが、見覚えがあるだけで、記憶にかすりともしない」

「それってつまり、この歯車みたいな形が私たちの専門外の何かってことじゃない?」
「なるほど、錬金に関係する何かかもしれないが、私やフィナからは縁遠いものというわけか。この城の原型はランゲン国が築いたもの。彼らは錬金を基礎に何かの効果がある防壁を築いた……では、おかしいか」

「そう、おかしい。この防壁は、防壁の下に走る何かの力の働きを借りるために作られたもの。その何かの力は古代人のもの」
「ということは、古代人の知識に関係した錬金術、科学? そして、私たちの専門外……なんだろうな?」

「防壁の下に走る力は防壁のラインに沿って流れ、凹凸の凹みの空白部分で力が滞留して増す効果がある。ランゲンは、その力を障壁の展開に使っていたんだろうけど、古代人は別の何かに使っていた」

「そしてそれは、私たちが見たことのあるもの……喉に何かが詰まっているような感覚で気持ち悪いな」


 親父はバルコニーから首を伸ばすように防壁を眺める。
「元は何かは謎でも、ランゲンの防壁の効果を使えば障壁が展開できるのでは?」
「それは無理よ、親父。動力となる魔導石がないし。防壁の下に走る古代人の動力は謎の力だし」
「なんというか、宝の持ち腐れな感じがすんな」

「どのみち、今回は障壁なんていらないから用はないけどね。そうでしょ、ケント?」
「そうだな。こっちは攻撃も防衛もする気はないからな。これらの謎はお預けにして、フィナはカリスたちの準備を手伝ってくれ。親父は……」

「アグリス内部での仕込みですね。すでに手配済みです」
「ご苦労。私たちがこれを無理に行う必要もないのだろうが。なにせ、フィコン側が同じことを行うつもりであろうし……」
「ならばなぜ、こんな面倒なことを?」

「仁義を切るようなものだ。それで、こちら側の協力者は地元の人間か?」
「いえ、旦那は覚えてますか? ムキ=シアンの配下であった小柄な奴と無骨そうな戦士を?」
「ああ、覚えている」
「あいつらの力を借りて、元トリビューターの兵士たちの居場所を。で、そいつらに」
「トリビューター? たしか以前、小柄な戦士がその名を口にしていたな」


 ムキとの対決後、小柄な戦士と無骨そうな戦士は奴隷に落ちて、湾岸工事に精を出すことになった。
 その彼らとの最後の会話で、彼はムキに救われたと口していた。


『アグリスとトリビューターの戦いで、俺たちはトリビューターの兵士だった。だが敗れて、命からがらで逃げていたところをムキ様に拾われた。本来ならアグリスの奴隷になるところだったのに……あの方は、故郷を失った俺たちに居場所を作ってくださった! それどころか、腕を買われ、傭兵団の頭に据えてくれた。俺には、その義理がある!』
 

「そうか。彼らもまた、アグリスの脅威を知る者だったか……」
「はい、あの傭兵たちはトリビューターの元兵士。大陸側にあった勢力で、アグリスに敗れ滅ぼされた者たちです」
「恨み骨髄……とはいえ、よく協力してくれたな。彼らも、その元兵士たちも」
「小柄な奴から見れば、旦那は憎い相手と同時に仲間を救ってもらった恩がありますからね。ですが、小柄な奴を含め彼らトリビューターはアグリスに対して憎しみしかありません」

「なるほど……しかし、これはアグリスの象徴・フィコンが利することだぞ」
「彼らもアグリスの実権を握っているのは二十二議会と知っていますから。それに、エムト将軍は敵国であっても慕われております。他の将軍や兵士と違い、敵対勢力に対して苛烈に接することはなく、礼儀と誇りをもって接してくれますので」

「協力は議会への恨みとエムトの人柄のおかげか。ふふ、そういった微妙な思いを知ったうえで、元傭兵たちに協力を持ち掛けたな、親父」

 親父はニヤリと笑う。
 彼はアグリスをよく知る男。同時に、ビュール大陸における、物と心の機微を知る男。
 だからこそ、ムキ=シアンの元傭兵に協力を求めるという案を見出せたのであろう。
 だが、親父は傭兵たちとは違い、議会だけではなくアグリスの象徴・フィコンにも思うところがあるだろう。
 それはカリスたちも……。

「よくやった、親父。だが、このことは他者はもちろんのこと、特にカリスたちには絶対に悟られるなよ」
「わかってます。あいつらの心情を考えると複雑でしょうから……」


 しんみりとした雰囲気が辺りを満たす。
 その雰囲気を陽気な鼻歌が掻き乱した。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...