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第二十章 それぞれの道
けじめ
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机に打ちつけた拳からは血が滲む。
しかし、そのような痛みなど、胸に宿る痛みと比べれば無きに等しい!
私は親父に向かい、ありったけの激情をぶつけた。
「私を舐めるのも大概しろっ、親父!!」
「だ、だんな?」
「何が信頼だ! 血と肉を捧げるだと!? 裏切り者の血など私に必要ない!!」
「そんな……」
「貴様は何度私を愚弄した! カリスを助けると私は言った。その時貴様はこう言った。信頼すると。私が方策を見出した。信頼すると。レイに誓った。信頼すると。そして今もまた信頼すると。ならばっ、ならばっ、ならばっ!!」
机の上にあった本を床に叩きつけ、涙など一切ない血走った声を産む。
「ならば、どうして初めから話してくれなかったんだ!!」
「そ、それは……」
「信頼してくれていたのならば、エクアを傷つける必要はなかったではないか!! 仲間を裏切る必要もなかったではないか!! 貴様は何度も信頼と口にしたが、その実は全く信頼していなかった!!」
声に怒りを乗せて、瞳乾くまで見開き睨みつける。
「私は貴様が信頼と口にするたびに八つ裂きにしてやりたい想いに駆られた。だが、あの時はそれができなかった。裏切り者の貴様の力が必要だったからな! だからっ、今日まで耐えた!」
乾いた瞳に涙は浮かばない。変わりに激情の皺が顔に浮かぶ。
「私は悲しかったっ! たしかに貴様との付き合いは短い。それでも時間では計れない信頼を築いていると信じていた。だが、違った! 貴様は私を信頼などしていなかった! それがどれほど悲しかったかわかるか!」
「そ、あ、もうしわ」
「謝るな! 親父に謝られると私自身が情けなくなる!」
「え?」
「貴様に、親父さんに、最後まで信頼されなかった私自身の情けなさに、苛立ちを止められないんだ!」
親父さんが私を真に信頼し、私が親父さんを真に理解していたら、このようなすれ違いは起こらなかった。
お互い上っ面の関係を本物の関係だと勘違いしていた。
私はそれが悔しくて、情けない。
自分が信頼され、親父から友と思われていると高を括っていた自分が恥ずかしい。
「私はもっと、親父さんのことを知るべきだった。だが、大人である君に私のような若造が深く入り込む必要などないと思っていた。それは違ったんだ! 友に年齢は関係なかった。私はもっと君のそばに寄り添うべきだったんだ!」
「だ、だんな……本当に何と言ったら」
「言うな。何も言うな。たとえ、今回のことが私の過ちとすれ違いから生じた出来事であっても、領主として下さなければならない判断がある! だから、何も語るな。語れば、互いに辛くなる……」
私は最後の言葉をか細く漏らした。
それを受けて、親父はがっくりと首を落とし、非情な裁可をただ震えの内に待つ。
「親父。君はエクアを罠に嵌めて、私を騙し、トーワに危機を与えた。その罪は許しがたい。よって、ここに死――」
「待ちなさいよっ、ケント!!」
飛び込んだ声はフィナ。
彼女は親父の前に飛び出して、私に思いをぶつけようとする。
だが、私はそれを一蹴する。
「引っ込んでろ! 君に責任の何がわかる!!」
「でも、ケント!」
「引っ込んでろと言っている! それとも、君にまで非情な決断を迫れというのか!?」
私はすでに潤いを失い、乾ききった銀眼でフィナを睨みつけた。
彼女は罅の入る瞳に恐れを抱き、言葉を失った。
それでも、何かを発しようと首を小刻みに揺らし、私を見つめ続ける。
すると、エクアが一歩前に出て、フィナの袖口を掴み、引いた……。
とてもとても弱い力だった。
されども、言葉を産み出せないフィナを退かせるには十分すぎる力であった。
フィナの壁を失った親父を睨みつけ、私は外に漏れ出ぬ小さき声で裁決を下す。
「君の罪は許しがたい。その罪は死罪に値する。だが、アルリナでムキを敵に回した際、君の助けがなければ厳しいものだった。今日まで貧しいトーワを支えてくれた事実もある。故に罪一等を減じて……トーワより追放する」
「……はい」
「君と私の間に残った信頼の欠片をもって、遺跡の秘密を胸に抱き秘めることを願っている。それでは、今すぐにでもトーワを去れ。近づくことも許さん」
「承知いたしました。最後に残された欠片を心臓に穿ち、守り続けて見せます。だん、ケント=ハドリー様。さらばです」
跪いていた親父は大きく息を吐き、すっくと自身の足で立ち上がった。
そして、足をおぼつかせることなく、しっかりとした足取りで執務室から出ていく。
彼の男としての矜持がそうさせたのだろう……。
ぱたりと閉じられる扉。
するとすぐに、エクアが前に出て、こう言葉を漏らした。
「ケント様の決断は正しいかもしれません。でも、それは領主としてです。仲間としては間違っていると思います。だから、わたしは納得できません。ですので、失礼させてもらいます!」
エクアは親父の後を追うように執務室から出ていった。
さらに、フィナが彼女の後に続く。
「私も間違ってると思う! たしかに親父は仲間を裏切った。でも、終わりよければすべて良しでしょ? 代償は何発かぶん殴って、はいおしまい、でいいじゃない? 領主であるあんたには立場があるんでしょうけど、それを差し引いても納得できないから!」
フィナが出ていく。
彼女の言葉のあとに、カイン・グーフィス・ゴリンが続く。
「罰は必要かもしれません。でも、追放はやりすぎだと思います」
「フィナさんの言った通り、ぶん殴っておしまいの方がすっきりするでしょうよ。こんな、後味の悪い」
「ケント様。結果として、誰も血を流さなかったんでやす。だから、オゼックスさんにやり直しの機会を与えるべきだと思いやすよ」
三人は私に頭を下げて、親父の後を追った。
執務室にはギウと私だけが残る……。
ギウは…………私をちらりと見て、扉へ視線を振った。
私は、その動作の意味を知り、下唇を噛む。
そして、彼にこう言葉を掛けた。
「君はこうなることを予期していたんだな。だからこそ、親父に宗教騎士団の団長を打ち破るよう花道を用意した」
「ギウ」
「いま、私の思惑を知るのは君とエクアだけだろう。エクアには大人の汚い部分を見せてばかりだ」
私は扉へ顔を向けて、扉の外側で起こったこと。そして、いま行われていることを訥々と声に出す。
――薄汚れたケントの心
私はカリスの代表が部屋を出て、すぐに大声で怒鳴りつけた。
代表は、私が親父へひたすら罵倒を浴びせる声のみを聞いた。
機密に当たる遺跡の存在のことは小さな声で話したからな。
そう、わざと代表へ罵倒だけを聞かせた。
親父はカリスの裏切り者。だが同時に、救世主でもある。
アグリスの鎖から解放するきっかけを作ってくれた男。
宗教騎士団の団長を打ち破った男。
そして、あの常勝不敗と謳われたエムト=リシタと正面から単独で会談を行い、降伏を認めさせた男。
カリスたちにとって親父は、憎むべき相手であり、恩ある相手であり、誇れる男でもある。
そんな彼を追放という形で失うことには納得できない部分があるだろう。
だが、彼らが私に物申すには少々力が足りない。
だからこそ、エクアが前に出た。
彼女に引き連れられ、フィナが、カインが、ゴリンが、グーフィスが、親父を追いかけた。
彼らは親父を捕まえ、説得し、もう一度私の元に戻ってくる。
親父に機会を与えるよう願う。
そう! これらは全て!
「友情を計算に入れた、茶番だっ」
私は決して大声を上げず、口調のみを強くする。
拳は震え、それを机に叩きつけたい!
だが、そんなことをすれば、皆に気づかれてしまう。
私が演技を行ったことに!
「領主として、領地を危険に晒し、仲間を騙した親父を罰しないわけにはいかない。だからといって、彼を手放したいとも思わない。ならば、それを止めてくれる者を用意すればいい。それがエクアたちだっ」
親父は仲間を裏切った。それに対して、怒りを覚えている。だが、苛烈な罰を与えたくはない。
しかし、罰しなければならない出来事を放置して、仲間というぬるま湯に浸れば秩序が乱れる。
だから正さなければならない。
私の本意ではなくともっ!
さらに、醜くも、私の怒りの意味はこれだけにとどまらない。
新たにトーワの領民となったカリスたちへ、私が甘いだけの人間ではないという心証を与える意味もある。
自分の激情。仲間たちの思いやり。人の心に対して算盤を弾いている。
私は親父が仲間を裏切ったことに憤りながらも、その大切な仲間たちの友情を利用した。
「くそっ!」
自身の汚さと、友情を利用する罪意識に苛まれ、私は卑怯にも涙を流す。
それをギウが支えてくれる。
「ギウ……」
「す、すまない。善悪も、光も闇も全てを飲み込む覚悟は政治家になり学んだこと。そうだというのに……自分の心の弱さが、薄汚くも涙を流させる。こんな惨めな姿は……君にしか見せられない」
ギウは私を両手で包み、私はギウの銀の腹に額を当てる。
そして、外に漏れ出ぬよう嗚咽を漏らす。
嗚咽の途中、私は呼吸を深く行い、感情を鎮めるよう努力する。
ギウはそんな私の頭を数度撫でて、その手を頬に滑り落とし、頬を軽くぱちりと打った。
足音が聞こえる――皆が戻ってきたようだ。
「ああ、そうだな、我に返らなければ。ありがとう、ギウ。泣き虫の私はここまでだっ」
私は席を立ち、扉に背を向けて窓の外を見つめる。
扉をノックする音が響く。
私は、領主ケント=ハドリーとして声を出す。
「入れ!」
しかし、そのような痛みなど、胸に宿る痛みと比べれば無きに等しい!
私は親父に向かい、ありったけの激情をぶつけた。
「私を舐めるのも大概しろっ、親父!!」
「だ、だんな?」
「何が信頼だ! 血と肉を捧げるだと!? 裏切り者の血など私に必要ない!!」
「そんな……」
「貴様は何度私を愚弄した! カリスを助けると私は言った。その時貴様はこう言った。信頼すると。私が方策を見出した。信頼すると。レイに誓った。信頼すると。そして今もまた信頼すると。ならばっ、ならばっ、ならばっ!!」
机の上にあった本を床に叩きつけ、涙など一切ない血走った声を産む。
「ならば、どうして初めから話してくれなかったんだ!!」
「そ、それは……」
「信頼してくれていたのならば、エクアを傷つける必要はなかったではないか!! 仲間を裏切る必要もなかったではないか!! 貴様は何度も信頼と口にしたが、その実は全く信頼していなかった!!」
声に怒りを乗せて、瞳乾くまで見開き睨みつける。
「私は貴様が信頼と口にするたびに八つ裂きにしてやりたい想いに駆られた。だが、あの時はそれができなかった。裏切り者の貴様の力が必要だったからな! だからっ、今日まで耐えた!」
乾いた瞳に涙は浮かばない。変わりに激情の皺が顔に浮かぶ。
「私は悲しかったっ! たしかに貴様との付き合いは短い。それでも時間では計れない信頼を築いていると信じていた。だが、違った! 貴様は私を信頼などしていなかった! それがどれほど悲しかったかわかるか!」
「そ、あ、もうしわ」
「謝るな! 親父に謝られると私自身が情けなくなる!」
「え?」
「貴様に、親父さんに、最後まで信頼されなかった私自身の情けなさに、苛立ちを止められないんだ!」
親父さんが私を真に信頼し、私が親父さんを真に理解していたら、このようなすれ違いは起こらなかった。
お互い上っ面の関係を本物の関係だと勘違いしていた。
私はそれが悔しくて、情けない。
自分が信頼され、親父から友と思われていると高を括っていた自分が恥ずかしい。
「私はもっと、親父さんのことを知るべきだった。だが、大人である君に私のような若造が深く入り込む必要などないと思っていた。それは違ったんだ! 友に年齢は関係なかった。私はもっと君のそばに寄り添うべきだったんだ!」
「だ、だんな……本当に何と言ったら」
「言うな。何も言うな。たとえ、今回のことが私の過ちとすれ違いから生じた出来事であっても、領主として下さなければならない判断がある! だから、何も語るな。語れば、互いに辛くなる……」
私は最後の言葉をか細く漏らした。
それを受けて、親父はがっくりと首を落とし、非情な裁可をただ震えの内に待つ。
「親父。君はエクアを罠に嵌めて、私を騙し、トーワに危機を与えた。その罪は許しがたい。よって、ここに死――」
「待ちなさいよっ、ケント!!」
飛び込んだ声はフィナ。
彼女は親父の前に飛び出して、私に思いをぶつけようとする。
だが、私はそれを一蹴する。
「引っ込んでろ! 君に責任の何がわかる!!」
「でも、ケント!」
「引っ込んでろと言っている! それとも、君にまで非情な決断を迫れというのか!?」
私はすでに潤いを失い、乾ききった銀眼でフィナを睨みつけた。
彼女は罅の入る瞳に恐れを抱き、言葉を失った。
それでも、何かを発しようと首を小刻みに揺らし、私を見つめ続ける。
すると、エクアが一歩前に出て、フィナの袖口を掴み、引いた……。
とてもとても弱い力だった。
されども、言葉を産み出せないフィナを退かせるには十分すぎる力であった。
フィナの壁を失った親父を睨みつけ、私は外に漏れ出ぬ小さき声で裁決を下す。
「君の罪は許しがたい。その罪は死罪に値する。だが、アルリナでムキを敵に回した際、君の助けがなければ厳しいものだった。今日まで貧しいトーワを支えてくれた事実もある。故に罪一等を減じて……トーワより追放する」
「……はい」
「君と私の間に残った信頼の欠片をもって、遺跡の秘密を胸に抱き秘めることを願っている。それでは、今すぐにでもトーワを去れ。近づくことも許さん」
「承知いたしました。最後に残された欠片を心臓に穿ち、守り続けて見せます。だん、ケント=ハドリー様。さらばです」
跪いていた親父は大きく息を吐き、すっくと自身の足で立ち上がった。
そして、足をおぼつかせることなく、しっかりとした足取りで執務室から出ていく。
彼の男としての矜持がそうさせたのだろう……。
ぱたりと閉じられる扉。
するとすぐに、エクアが前に出て、こう言葉を漏らした。
「ケント様の決断は正しいかもしれません。でも、それは領主としてです。仲間としては間違っていると思います。だから、わたしは納得できません。ですので、失礼させてもらいます!」
エクアは親父の後を追うように執務室から出ていった。
さらに、フィナが彼女の後に続く。
「私も間違ってると思う! たしかに親父は仲間を裏切った。でも、終わりよければすべて良しでしょ? 代償は何発かぶん殴って、はいおしまい、でいいじゃない? 領主であるあんたには立場があるんでしょうけど、それを差し引いても納得できないから!」
フィナが出ていく。
彼女の言葉のあとに、カイン・グーフィス・ゴリンが続く。
「罰は必要かもしれません。でも、追放はやりすぎだと思います」
「フィナさんの言った通り、ぶん殴っておしまいの方がすっきりするでしょうよ。こんな、後味の悪い」
「ケント様。結果として、誰も血を流さなかったんでやす。だから、オゼックスさんにやり直しの機会を与えるべきだと思いやすよ」
三人は私に頭を下げて、親父の後を追った。
執務室にはギウと私だけが残る……。
ギウは…………私をちらりと見て、扉へ視線を振った。
私は、その動作の意味を知り、下唇を噛む。
そして、彼にこう言葉を掛けた。
「君はこうなることを予期していたんだな。だからこそ、親父に宗教騎士団の団長を打ち破るよう花道を用意した」
「ギウ」
「いま、私の思惑を知るのは君とエクアだけだろう。エクアには大人の汚い部分を見せてばかりだ」
私は扉へ顔を向けて、扉の外側で起こったこと。そして、いま行われていることを訥々と声に出す。
――薄汚れたケントの心
私はカリスの代表が部屋を出て、すぐに大声で怒鳴りつけた。
代表は、私が親父へひたすら罵倒を浴びせる声のみを聞いた。
機密に当たる遺跡の存在のことは小さな声で話したからな。
そう、わざと代表へ罵倒だけを聞かせた。
親父はカリスの裏切り者。だが同時に、救世主でもある。
アグリスの鎖から解放するきっかけを作ってくれた男。
宗教騎士団の団長を打ち破った男。
そして、あの常勝不敗と謳われたエムト=リシタと正面から単独で会談を行い、降伏を認めさせた男。
カリスたちにとって親父は、憎むべき相手であり、恩ある相手であり、誇れる男でもある。
そんな彼を追放という形で失うことには納得できない部分があるだろう。
だが、彼らが私に物申すには少々力が足りない。
だからこそ、エクアが前に出た。
彼女に引き連れられ、フィナが、カインが、ゴリンが、グーフィスが、親父を追いかけた。
彼らは親父を捕まえ、説得し、もう一度私の元に戻ってくる。
親父に機会を与えるよう願う。
そう! これらは全て!
「友情を計算に入れた、茶番だっ」
私は決して大声を上げず、口調のみを強くする。
拳は震え、それを机に叩きつけたい!
だが、そんなことをすれば、皆に気づかれてしまう。
私が演技を行ったことに!
「領主として、領地を危険に晒し、仲間を騙した親父を罰しないわけにはいかない。だからといって、彼を手放したいとも思わない。ならば、それを止めてくれる者を用意すればいい。それがエクアたちだっ」
親父は仲間を裏切った。それに対して、怒りを覚えている。だが、苛烈な罰を与えたくはない。
しかし、罰しなければならない出来事を放置して、仲間というぬるま湯に浸れば秩序が乱れる。
だから正さなければならない。
私の本意ではなくともっ!
さらに、醜くも、私の怒りの意味はこれだけにとどまらない。
新たにトーワの領民となったカリスたちへ、私が甘いだけの人間ではないという心証を与える意味もある。
自分の激情。仲間たちの思いやり。人の心に対して算盤を弾いている。
私は親父が仲間を裏切ったことに憤りながらも、その大切な仲間たちの友情を利用した。
「くそっ!」
自身の汚さと、友情を利用する罪意識に苛まれ、私は卑怯にも涙を流す。
それをギウが支えてくれる。
「ギウ……」
「す、すまない。善悪も、光も闇も全てを飲み込む覚悟は政治家になり学んだこと。そうだというのに……自分の心の弱さが、薄汚くも涙を流させる。こんな惨めな姿は……君にしか見せられない」
ギウは私を両手で包み、私はギウの銀の腹に額を当てる。
そして、外に漏れ出ぬよう嗚咽を漏らす。
嗚咽の途中、私は呼吸を深く行い、感情を鎮めるよう努力する。
ギウはそんな私の頭を数度撫でて、その手を頬に滑り落とし、頬を軽くぱちりと打った。
足音が聞こえる――皆が戻ってきたようだ。
「ああ、そうだな、我に返らなければ。ありがとう、ギウ。泣き虫の私はここまでだっ」
私は席を立ち、扉に背を向けて窓の外を見つめる。
扉をノックする音が響く。
私は、領主ケント=ハドリーとして声を出す。
「入れ!」
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