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第二十五章 故郷無き災いたち
イラの伝言
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――クライエン大陸西方
ビュール大陸に属するクライル半島から戻ったレイは、クライエン大陸で暴れている魔族たちを相手に戦いを繰り広げていた。
戦いが落ち着きを見せて、彼は自分専用の幕舎に戻り、簡素なベッドに腰を掛けた。
するとそこに、地面から水が湧き出て螺旋を描き人の形を模する。
レイは藍色の鎧の腰に差した大剣を手に取ろうとするが、水からは敵意を感じない。
彼は柄に手を置くだけに留め、人型の生命体に話しかけた。
「どこの誰だか知りませんが、ノックもなしとは不作法ですよ」
「ごめんなさ~い。ちょっと急ぎだったからねぇ~」
のんびりと柔らかな言葉を漏らす人の形をした水。
彼女は流動生命体。
種族名は『スース』。名はイラ。
「初めまして~、レイ様。私はイラ。クライル半島のマッキンドーの森に宿を借りている流動生命体よ~」
「クライル半島の?」
「ええ、そうよ~。そして、ケント様のお友達でもあるの~」
「兄さんの? それで、兄さんの友がどのようなご用向きで?」
「実は~、大変なことが起こりそうなのよ~。本当は関わっちゃいけないんだろうけどぉ、ケント様の友達としての私として~、伝えたいことがあるの~。ケント様の運命に……そして、あなたたち、地球の残影を宿す全ての存在に~」
「私たち、全てに?」
「ええ、そう……」
イラはとても悲しげな表情を見せた。
これから伝えようとしている、苛烈な未来を憂いて……。
「今、私はスカルペルに存在する七人の勇者。その全ての前に現れて同じ言葉を渡しているのよ~。勇者、地球の忘れ形見たち、み~んなに、伝えなければならないことがあるの~」
――飛行艇ハルステッド
アイリはハルステッドの倉庫で、突如、目の前に現れたイラから言葉を受け取っていた。
「そう……そうなんだ。私たちってそういう存在だったんだ。でも、それで世界が平和になるのね」
「それはわからない。だけど~、本来のスカルペルの姿を取り戻せるはずよ~」
「ふふ、まったく、ご先祖様のつけが回ってきたってわけか。わかった。私たちの覚悟はとうにできてる。まさか、こんな妙な形で訪れるとは思っていなかったけど……あの、お兄ちゃんは、どうなるの?」
「さぁ、わからない。私もあなたたちの力の全てを知っているわけじゃないから~」
「そっか……なんにせよ、いざというときに迷わないといいけどね」
「大丈夫よ~。ケント様はぁ、多くの困難を乗り越えてぇ、今に至ったんだから~」
「そうなの? そうなんだっ。お兄ちゃんはついに話せたのね。だったら、迷わないでくれるはず」
アイリは片手を胸元において、ゆっくりと目を閉じた。
彼女の覚悟を見たイラは寂しさの残る優し気な微笑みを残し、姿を霞に変えて霧散していった。
そこに足音が響いてくる。
「アイリ様、こちらでしたか。艦長がお呼びです」
「……わかった、すぐに行く」
――ハルステッド・艦長室
アイリはふわふわとした長めの銀髪を揺らしながら長い金属の廊下を歩き、数度金属の階段を昇った先にある、やはり金属で閉じられた扉の前に立った。
その扉の先に、ハルステッドを預かる艦長の部屋がある。
彼女は愛用の大鎌を持たずに部屋をノックする。
室内から女性の声が響き、部屋へ招かれた。
「何か用? レイア=タッツ艦長」
レイア=タッツと呼ばれた女性は部屋の中央に立って、煌めくような蒼のショートヘアを振るい、真っ白な軍服の上に申し訳程度といった感じで黒のコートを羽織っていた。
胸元にはいくつもの徽章。頭にはハルステッドの姿が記されたキャップ。
容姿、雰囲気ともに美しさと逞しさを兼ね備え、その美貌に男も女も目を奪われる。
彼女は愉快そうに声を漏らし、桜色の瞳をアイリに向けて話しかけた。
「あはは、今しがた王都から連絡が入ったぞ。君を拘束しろと」
「あんたねぇ、それを拘束する相手に伝えてどうすんの?」
「なんだい、抵抗しちゃうのか?」
「ここでひと暴れしてもいいけど、苦楽を共にした兵士たちに怪我をさせたくないし……でも、今回ばかりは別。お兄ちゃんに危機が迫っている。だから、押し通る!」
アイリは赤黒い殺気を纏い、鋭い深紅の眼光でレイアを貫いた。
その様子とは裏腹に、レイアはパタパタと手のひらを振って何気ない日常のような言葉を返す。
「やめてくれよ。美少女から熱情籠る瞳で見つめられたら大事なところがスプラッシュを起こしちゃうよ」
「あんたねぇっ」
「まぁ、美少女と言っても、二十五歳。私と変わらぬ三十路の扉前でノッキングだが」
「誰が三十路の扉前だ! 二十八のあんたと一緒にするな」
「たかが三歳違いじゃないか」
「三歳も違うの! てゆーか、あんたは私を拘束する気あんの?」
「拘束? 何の話だ?」
「へ?」
レイアは自分の机の上に腰を置いて、ヴァンナスから届いた通信記録の用紙を掴みひらひらと振る。
その表面には意味を纏わぬ言葉が羅列している。
「ヴァンナスから通信が届いたんだが、運悪く、通信障害が起きてね。見ての通り、何が何だかわかんないんだよ。ま、そういうこと」
「いいの? そんなんで?」
「君とはそれなりの仲だからな。一つ屋根の下、ずっとそばに寄り添った仲だ」
「気持ちの悪い言い回しやめてよ。ずっとハルステッドで寝泊まりしただけでしょ。それで、ヴァンナスの命令を無視する理由は?」
「理由は二つ。一つ目は、お兄ちゃん」
「え?」
「アイリはお兄ちゃんのために押し通ると言った。つまり、トーワに向かうつもりだな」
「ええ、そうだけど」
「この虫食いの通信だが、なぜか不思議なことに、トーワを目指せという命令だけはわかったんだ」
「まったくいい加減な」
「そこでだ、ヴァンナスもトーワへ。君もトーワへ。そこで何かあると感じた」
「ふ~ん、もう一つは?」
「ヴァンナスは詳細も述べずに私の愛しい愛しいアイリを謀反人扱いにした。これは恋人として承服しかねる」
「誰が恋人だ。でも、謀反人扱いかぁ。結構尽くしてきたんだけど、酷いなぁ」
「全くその通りだ。アイリは頑張り屋さんなのに」
レイアを腰を掛けていた机からぴょんと降りて、アイリのふわふわな銀髪を撫でようとした。
その手のひらをアイリからぴしゃりと叩き落とされるが、レイアに動じる様子はない。
「もう、すぐに触ろうとしないっ」
「ふふふ、照れ屋だねぇ……それとだ、トーワもまた謀反を起こした可能性があるという。ヴァンナスに無断で遺跡を発掘し、その力を独占しようとしていると。心当たりは?」
「……ある」
「あるんだ。できれば、ないと言ってほしかったが。あるとなると……困ったな」
「拘束する?」
「いや、まずはトーワへ向かい、そこで判断しよう。だが、さすがにヴァンナスに危害が及ぶとなった場合は……アイリ、大人しく拘束されてほしい」
「お兄ちゃんに危害が及ばないと判断できた時だけ、大人しく捕まってあげる」
アイリはパチリと片目を閉じて言葉を渡す。
その愛らしい姿にレイアの肉体は熱を帯びるが、アイリの思い人が自分でないことに別の熱が沸き上がり、バサリと漆黒のコートを振るって叫んだ。
「ふふ、アイリはやっぱりかわいいねぇ。でも、お兄ちゃんかぁ……私はケント=ハドリーが嫌いだ! ケント、素直に嫉妬だ!」
「うっざいなぁ、この艦長は……」
ビュール大陸に属するクライル半島から戻ったレイは、クライエン大陸で暴れている魔族たちを相手に戦いを繰り広げていた。
戦いが落ち着きを見せて、彼は自分専用の幕舎に戻り、簡素なベッドに腰を掛けた。
するとそこに、地面から水が湧き出て螺旋を描き人の形を模する。
レイは藍色の鎧の腰に差した大剣を手に取ろうとするが、水からは敵意を感じない。
彼は柄に手を置くだけに留め、人型の生命体に話しかけた。
「どこの誰だか知りませんが、ノックもなしとは不作法ですよ」
「ごめんなさ~い。ちょっと急ぎだったからねぇ~」
のんびりと柔らかな言葉を漏らす人の形をした水。
彼女は流動生命体。
種族名は『スース』。名はイラ。
「初めまして~、レイ様。私はイラ。クライル半島のマッキンドーの森に宿を借りている流動生命体よ~」
「クライル半島の?」
「ええ、そうよ~。そして、ケント様のお友達でもあるの~」
「兄さんの? それで、兄さんの友がどのようなご用向きで?」
「実は~、大変なことが起こりそうなのよ~。本当は関わっちゃいけないんだろうけどぉ、ケント様の友達としての私として~、伝えたいことがあるの~。ケント様の運命に……そして、あなたたち、地球の残影を宿す全ての存在に~」
「私たち、全てに?」
「ええ、そう……」
イラはとても悲しげな表情を見せた。
これから伝えようとしている、苛烈な未来を憂いて……。
「今、私はスカルペルに存在する七人の勇者。その全ての前に現れて同じ言葉を渡しているのよ~。勇者、地球の忘れ形見たち、み~んなに、伝えなければならないことがあるの~」
――飛行艇ハルステッド
アイリはハルステッドの倉庫で、突如、目の前に現れたイラから言葉を受け取っていた。
「そう……そうなんだ。私たちってそういう存在だったんだ。でも、それで世界が平和になるのね」
「それはわからない。だけど~、本来のスカルペルの姿を取り戻せるはずよ~」
「ふふ、まったく、ご先祖様のつけが回ってきたってわけか。わかった。私たちの覚悟はとうにできてる。まさか、こんな妙な形で訪れるとは思っていなかったけど……あの、お兄ちゃんは、どうなるの?」
「さぁ、わからない。私もあなたたちの力の全てを知っているわけじゃないから~」
「そっか……なんにせよ、いざというときに迷わないといいけどね」
「大丈夫よ~。ケント様はぁ、多くの困難を乗り越えてぇ、今に至ったんだから~」
「そうなの? そうなんだっ。お兄ちゃんはついに話せたのね。だったら、迷わないでくれるはず」
アイリは片手を胸元において、ゆっくりと目を閉じた。
彼女の覚悟を見たイラは寂しさの残る優し気な微笑みを残し、姿を霞に変えて霧散していった。
そこに足音が響いてくる。
「アイリ様、こちらでしたか。艦長がお呼びです」
「……わかった、すぐに行く」
――ハルステッド・艦長室
アイリはふわふわとした長めの銀髪を揺らしながら長い金属の廊下を歩き、数度金属の階段を昇った先にある、やはり金属で閉じられた扉の前に立った。
その扉の先に、ハルステッドを預かる艦長の部屋がある。
彼女は愛用の大鎌を持たずに部屋をノックする。
室内から女性の声が響き、部屋へ招かれた。
「何か用? レイア=タッツ艦長」
レイア=タッツと呼ばれた女性は部屋の中央に立って、煌めくような蒼のショートヘアを振るい、真っ白な軍服の上に申し訳程度といった感じで黒のコートを羽織っていた。
胸元にはいくつもの徽章。頭にはハルステッドの姿が記されたキャップ。
容姿、雰囲気ともに美しさと逞しさを兼ね備え、その美貌に男も女も目を奪われる。
彼女は愉快そうに声を漏らし、桜色の瞳をアイリに向けて話しかけた。
「あはは、今しがた王都から連絡が入ったぞ。君を拘束しろと」
「あんたねぇ、それを拘束する相手に伝えてどうすんの?」
「なんだい、抵抗しちゃうのか?」
「ここでひと暴れしてもいいけど、苦楽を共にした兵士たちに怪我をさせたくないし……でも、今回ばかりは別。お兄ちゃんに危機が迫っている。だから、押し通る!」
アイリは赤黒い殺気を纏い、鋭い深紅の眼光でレイアを貫いた。
その様子とは裏腹に、レイアはパタパタと手のひらを振って何気ない日常のような言葉を返す。
「やめてくれよ。美少女から熱情籠る瞳で見つめられたら大事なところがスプラッシュを起こしちゃうよ」
「あんたねぇっ」
「まぁ、美少女と言っても、二十五歳。私と変わらぬ三十路の扉前でノッキングだが」
「誰が三十路の扉前だ! 二十八のあんたと一緒にするな」
「たかが三歳違いじゃないか」
「三歳も違うの! てゆーか、あんたは私を拘束する気あんの?」
「拘束? 何の話だ?」
「へ?」
レイアは自分の机の上に腰を置いて、ヴァンナスから届いた通信記録の用紙を掴みひらひらと振る。
その表面には意味を纏わぬ言葉が羅列している。
「ヴァンナスから通信が届いたんだが、運悪く、通信障害が起きてね。見ての通り、何が何だかわかんないんだよ。ま、そういうこと」
「いいの? そんなんで?」
「君とはそれなりの仲だからな。一つ屋根の下、ずっとそばに寄り添った仲だ」
「気持ちの悪い言い回しやめてよ。ずっとハルステッドで寝泊まりしただけでしょ。それで、ヴァンナスの命令を無視する理由は?」
「理由は二つ。一つ目は、お兄ちゃん」
「え?」
「アイリはお兄ちゃんのために押し通ると言った。つまり、トーワに向かうつもりだな」
「ええ、そうだけど」
「この虫食いの通信だが、なぜか不思議なことに、トーワを目指せという命令だけはわかったんだ」
「まったくいい加減な」
「そこでだ、ヴァンナスもトーワへ。君もトーワへ。そこで何かあると感じた」
「ふ~ん、もう一つは?」
「ヴァンナスは詳細も述べずに私の愛しい愛しいアイリを謀反人扱いにした。これは恋人として承服しかねる」
「誰が恋人だ。でも、謀反人扱いかぁ。結構尽くしてきたんだけど、酷いなぁ」
「全くその通りだ。アイリは頑張り屋さんなのに」
レイアを腰を掛けていた机からぴょんと降りて、アイリのふわふわな銀髪を撫でようとした。
その手のひらをアイリからぴしゃりと叩き落とされるが、レイアに動じる様子はない。
「もう、すぐに触ろうとしないっ」
「ふふふ、照れ屋だねぇ……それとだ、トーワもまた謀反を起こした可能性があるという。ヴァンナスに無断で遺跡を発掘し、その力を独占しようとしていると。心当たりは?」
「……ある」
「あるんだ。できれば、ないと言ってほしかったが。あるとなると……困ったな」
「拘束する?」
「いや、まずはトーワへ向かい、そこで判断しよう。だが、さすがにヴァンナスに危害が及ぶとなった場合は……アイリ、大人しく拘束されてほしい」
「お兄ちゃんに危害が及ばないと判断できた時だけ、大人しく捕まってあげる」
アイリはパチリと片目を閉じて言葉を渡す。
その愛らしい姿にレイアの肉体は熱を帯びるが、アイリの思い人が自分でないことに別の熱が沸き上がり、バサリと漆黒のコートを振るって叫んだ。
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