銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
294 / 359
第二十五章 故郷無き災いたち

古代人

しおりを挟む
 フィナはモニターに手を突っ込み、そこから手紙を取り出した。
 そして、ハートのシールを剥がし、封を開けた。
 すると途端に、書斎の風景が変わる。

 何もない真っ白な部屋に、以前見た三人の古代人の一人が立っていた。
 それは青のぴっちりとしたスーツに身を包み、金髪を主体に茶髪と黒髪が混ざり合う、コバルトブルーの瞳を持った男性。
 何らかの口論で感情的になり老人を殺害した男性だ。

 どうやら彼は父の映像とは違い意志のない完全な映像のようで、ただ正面を向いて語り始めた。
 翻訳システムが直ったため、言語はスカルペル語。
 彼の口調は背が高く筋肉質な男の割には軽い。


百合ゆりがスカルペルの言語情報を消して、ついでとばかりに翻訳システムを破壊してしまったようだ。まぁ、あの状況下でスカルペルの皆さんにこの施設を操らせないようにするためには、それしかなかったんだろうけど。でも、翻訳システムが直ったようだね。こうして、僕のメッセージを君? 君たち? が、目にしている……してるよね?」

 男は周囲をきょろきょろと見回して、伝言の受け取り手が存在するかどうか窺うような真似を見せた。
 この態度にカインが軽い笑いを漏らす。


「あはは、どうやらこの方もバルドゥルと同じで古代人のようですが、あの男と違って親しみ深いですね」
「ははは、たしかに。だが、私たちの知る映像で彼は老人を殺害している。油断はできないぞ」

 と、言葉に出したが、小動物のように辺りを見回してる男にそのようなことができる気配は今のところない。
 男は怪しげな動きをやめて、咳払いを行い、改めて話を始めた。

「えへん……えっと、僕はプロジェクトはじまりのメンバーで通信主任を任されている、ジュベル。この手紙には僕たちが何を為そうとして、どのような過ちを犯し、スカルペルの住民に迷惑をかけてしまったかを僕たちの日常と共に記してある」

 
 ジュベルはパンっと軽く柏手を打つ。
 その音の広がりに合わせて、真っ白な部屋の風景が変わる。
 私たちはその風景に思わず、戦いの気配を纏った。

「これはっ!?」


 風景はとても広々とした長方形の部屋。
 床は白色で光沢がある。材質は石のような金属のようなと不明。
 壁は濃い藍で金属のように見えるが、やはり素材はわからない。
 天井は霞むほど高く、私たちの背後には出入口となる両開きの自動扉があった。
 
 その部屋に、数百の古代人と思える者たちがいた。


 彼らはこちらに目をくれることもなく取り留めのない雑談を行っている。
 だが、その雑談の節々には熱が籠っているように感じた。
 私は誰ともなしに言葉を漏らし、それをマフィンが受け取る。

「どうやら、私たちを認識していないようだ」
「そのようニャね。にゃけど、以前王都の窓から見た人間と違って、生気を感じるニャ。とても映像とは思えない、本物のような幻ニャ……」
「ああ、そうだな。とりあえず、彼らが私たちをどうこうするということはないようだ」
 

 敵意がないとわかり、仲間たちは一様に武器から手を降ろす。
 フィナは状況を瞳に宿しつつも、傍にモニターを浮かべて、そちらにも瞳を動かしている。

 どんな不測の事態が起ころうと対応できるように、フィナはあちらこちらに警戒の根を張っているのだろう。
 私もまた、警戒を心に残し、瞳を古代人たちへ振った。

「ふむ、彼らは……人間族に似た者たちばかりだな」


 肌や髪や瞳の色に違いはあれど、全て人間族の姿そのもの。
 彼らの世界には人間族以外存在しないのだろうか?

 彼らのほとんどが白衣を纏い、警備と思われる者は黒の制服を着て出入り口付近に立っている。
 その中で、青色のぴっちりしたスーツを纏うジュベルと、黒髪のショートヘアで、緑のスーツに黄金の蛇をあしらった白衣をコートのように着こなしている銀眼の女性が私たちのそばで会話を行っていた。
 銀眼の女性は、以前見た古代人の一人だ。


「ついにこの日が来たね、百合ゆり
「ああ~、そうだな。ふぁ~あ」
「なんで欠伸なんだよ? 君はこのプロジェクトの核となるメンバーの一人だろ。この宇宙史上初となる技術に一番感動しなきゃいけない立場なのに」
「あんまり興味ねんだよなぁ。技術職に移って、たまたま専門だったから採用されて、ここに居るだけだしよ」


 百合と呼ばれた女性は欠伸を何度も繰り返し、見目の美しさと声の美しさに反してかなり下品な言葉遣いを使用している。
 私にはこの言葉遣いと声に聞き覚えがあった。


「この声と口調……まさか、麦藁帽子を被ったワンピースの女性では?」
「ケント様? それって、トーワの幽霊さんでケント様の暴走を止めてくれた女性のことですか?」

「ああ、その通りだエクア。この声の質に聞き間違いなければ、この百合という女性がトーワの幽霊の正体だろう」
「でも、こちらの方はショートヘアですね。幽霊さんは長い髪だったと聞いてますから」
「まぁ、髪形は変わるものだからな」


 このように私とエクアが会話を交わしていると、ジュベルと百合の会話に割り込む黒髪で黒い肌の女性が現れた。

 それはフィナが強さを計ったときに映像として映し出された女性。
 彼女は出入り口を守っている警備兵と同じ黒の制服を着用し、腰には桃色の毛団子のような動物らしき生命体をアクセサリーのようにぶら下げていた。
 彼女は両手を上げ肩を竦めるようにして百合に声を掛けている。
 
 
「あんたって軍の出らしく、ホント、がさつだもんね」
「あん? アコスアか。なんだ、またボコボコにされに来たのかよ」
「わ~、相変わらず嫌味な奴」
「何が嫌味だ。てめぇも特殊部隊の端くれなら俺に一発くらい入れてみろよ」
「最強の称号を持つ惑星破壊女がそれを言う?」
「わけのわからねぇ称号つけんじゃねぇよ。それによ、最強っつたって、あん? どうやら、バルドゥル所長のお出ましらしいぞ。長々と待たせやがって」


 私たちは百合が口にしたバルドゥルという言葉に強い反応を示す。
「バ、バルドゥルだと?」
「だ、旦那。天井から誰かが降りてきますぜ!」


 とても高い天井から光の円盤に乗った老人が降りてきた。
 円盤は古代人たちの背丈ほどの高さでとどまり、老人は彼らを見下ろすようにして声を生む。

「ククク、ようやくだ。ようやく、この日がやってきた。時間の無駄だと思うが、記念の日くらい一同を集め、会話を為すのも悪くはない」

 円盤の上で会話を行う老人。
 その姿は私たちの知るバルドゥルとは全くの別人だった。
 さらに、この老人には見覚えがあった。
 それは初めて遺跡に訪れ、フィナが呼びだした三人の古代人の会話――そこで高らかに何かを語り、ジュベルによって殺害された痩せ型で白髪を伴う老人。

 黄金の蛇の模様が施された白衣を纏う、あの古代人であった。


「あの老人がバルドゥルだと?」
 この疑問をマスティフが受け止め答えを返す。

「先ほども少し触れたが、あの男は身体の試運転と言っていた。もしかしたら、何らかの技術を使い若返ったのではないか?」
「そうか、あれはクローン。複製技術を使い、青年として姿を表したんだ」
「おそらくそうだろうな。さてさて、スカルペル人を滅ぼし、世界を奪おうとした男は何を語るのか?」


 老人は人差し指と中指を揃え、奥に広がる壁に振った。
 すると、壁は揺らぎ、大小様々な無数の光球が現れた。
 それらは歪な光の線で繋がっている。
 見た目は蜘蛛の巣……いや、神経細胞のモデル? それとも、星々の繋がり?
 

 私たちは奇妙な光の集団を目にして、懐かしいような恐ろしいような不可思議な感覚に包まれる。
 それは己自身を完全否定されると同時に完全肯定されているという、何とも形容しがたい感覚。

 老人のバルドゥルは静かに言葉を漏らす。

「これは数多の生命体が存在を知りながらも、その強大な力に恐れを抱き、手に触れようとしなかった力。かつての我々もそうだった。だが、知識を前にして恐れに屈服し、地にひたいこすりつけるなど知性ある生命体である以上、絶対に行ってはならぬもの……」


 彼は光の集団を撫でるような仕草を見せて、それを身の内に取り込むように胸に当てた。
「そう、我々は恐れに立ち向かい、ついに至った。全てを矛盾なく世界を『そうだ』と書き換える力を手にした。もはや、地に潜み、監視の目に怯える必要もない。裏切り者たちに無き存在のように扱われることもない」


 胸から手を放し、両手を大きく上げて、言葉の抑揚もまた高らかに上げていく。
「かつての我々は宇宙を自由に飛び回り、神と崇められた存在をも屈服させた。しかし、ソンブレロ銀河での大戦で『連邦』に敗れ、多くを失ったっ。さらには、同胞でありながら独立を謳う裏切り者が現れた! そのため、我々は宇宙の表舞台から姿を消した……しかし!」


 掲げていた両手を振り下ろし、胸の前で強く握り締める。
「我々は裏切り者の目をすり抜け、最強と呼べる力と知恵を手に入れた! もはや、強大なる『連邦』など何するものぞ! 宇宙の覇者を名乗る裏切り者の『火星』など敵ではない! そう、再び我々が宇宙を支配する! 我々、『地球人』が!」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...