銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く

世界最強の国家・ヴァンナスへ

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――王都オバディア


 ヴァンナスの中心にして世界の中心。
 スカルペルに存在するあらゆる知識はここにあり。
 その知識の番人は、ヴァンナス王家と宮廷魔術士。そして、理論派と呼ばれる錬金術士たち。

 彼らの知恵と古代人の知識によって生み出された王都。
 その技術はスカルペルの水準を遥かに上回る。
 鳥たちの目線で都市を見渡せば、彼らの目線に合わせることのできる建物が所狭しと建ち並ぶ。
 王立と名の付く組織や建物は、全て最先端の魔導と科学と錬金術の融合で造り上げられたもの。



 また、この都市に住む者たちは一欠片ひとかけらとはいえ、これら知識の恩恵を受けられる。
 昼は音楽を封じられたビー玉サイズの魔石が街に精彩を与え、夜は煌びやかなガス灯が街に色彩を与える。夏は冷風を産み出す箱があり、その箱は冬になると温かな風を届けるものへと変化する。
 魔導の医療に科学の医療を兼ね備え、それらが民の健康と命を預かり、さらに一部の区画だけだが水道や電線が人々の生活の基礎を支えている。


 この王都オバディアに住むことができれば、百年・二百年先のスカルペルの姿を見ることができるだろう。奴隷ですら、寒村から比べれば遥かに豊かな暮らしをしている。


 ただし、住むとなると難しい。
 古くからヴァンナスに所属し、オバディアに住んでいる者ならいざ知らず、新しく王都に住まおうとする者には厳格な審査基準があった。


 ・ヴァンナスに対する忠誠が絶対であること
 ・勤勉であること
 

 審査基準はこの二点だけだが、合格できる者は稀。
 しかし、王都には多くの人々が行き交う。
 そのほとんどが、外からの商人や旅人や奴隷たち。

 
 誰にとっても目がくらみ憧れる都市でありながら、明確な差別があり、また、奴隷という前時代的な慣習をやめようとしない、歪な街。
 
 アステ=ゼ=アーガメイトは亡くなる一年前に王都をこう評している。
「心の成長が知識に届かぬ街」、と……。


 だがしかし、多くの問題を孕みながらも、あらゆる点において多くの国家民族種族の頂点に立つ、世界最強の国家であることには間違いない。

 
 トーワと比べれば蟻と象よりも差があろうとする存在。
 その巨大なる心臓を突き刺しに、私たちは王都へと侵入した。



――王都オバディア・秘密の研究所・早朝


 フィナは遺跡の転送装置を使い、直接研究所内部へと転送を行った。
 光の線が瞳の内側外側に流れ、再び世界が瞳に宿ると、そこは研究所。
 私たちはすぐに各々の得物を手に取り、身構える。

 周囲に人影はなく、大小様々なボックス状の機械類がちかちかと点滅し、耳に不快な音を伝える振動を上げている。


 私はフィナに声を掛ける。

「誰もいないようだな」
「転送前に周囲の生命反応を調べたからね」
「なるほど……それで、ここがヴァンナスが勇者を量産しようとしている研究所というわけか」
「そういうこと。ここは施設の地下三階。ナノマシンの反応があった場所は、ここから少し奥に進んだ広い部屋。だけど……」
「問題が?」

「三日前はナノマシンの反応があったんだけど、それが昨日からぼやけてんのよ」
「原因は?」
「施設の稼働レベルが上がって、それに付随してセキュリティレベルが上がった。それでセンサーで見えにくくなってる。共鳴転送のおかげで転送に支障はないけどね」

「如何なる結界も飛び越えることのできる共鳴転送か。戻ることはできるんだろう?」
「もちろんっ。いつでも緊急転送ができるように設定してある。さらに、この施設のセキュリティシステムに私たちの存在が探知されないように細工もしてある」

「ふふ、さすがだな、フィナ」
「ふふ~ん、まぁね」
「では、奥へ行くとしよう」


 私たちは勇者たちが眠っているであろう奥の部屋へ足を運ぶ。
 後ろでは、カインが銃を抱えるように持ち、緊張に手を震わせていた。

「大丈夫か、カイン?」
「ふぅ~、緊張で心臓の音が耳の中で響いてますよ。ふふ、子どもの頃のかくれんぼを思い出します。鬼がそばに来ると心臓の音が相手に聞こえるんじゃないかと怯えたものです」
「あはは、そうか」


 彼に緊張はあるが、心は落ち着けているようだ…………奥へと続く扉の前までやってきた。
 戦士姿の親父とマスティフとマフィンが気配を探る。
 
「人の気配ってのはないですぜ、旦那」
「うむ、親父殿の言うとおり、奥に誰がいるもないようだ」
「そうニャね。魔力の感知もないニャ」

「わかった。それでも、ゆっくり扉を開けよう」

 私の声に応え、先行するフィナが扉のノブに手を伸ばす。すると、ノブに触れることなく扉が上にスッと開いた。
 彼女はそれに驚き身構えるが、何も起こらない。
 どうやら扉は自動扉のようで、近づくと勝手に開いたみたいだ。


「びっくりするじゃない。なんでドアノブがあるのに自動扉なの? しかも上開きだし」

 この声に私が返す。
「ドハ研究所の扉もそんな感じだったな。中には扉が壁で壁が扉という場所もあったし、一つの部屋に扉が複数枚あり日によって開く扉が違うというのもあったな」

「はぁ、さすがはアーガメイト一族デザイン。あの一族ってセンス変だからねぇ」
一時いっときとはいえ、一族の椅子の端に腰を掛けていた者として、それには同意しづらいな」


 私とフィナのやり取りにギウが笑いを差し入れる。
「ぎうう」
「君までそう思うのか。まぁ、本音を言えば、私も妙だとは思っていたが」

 気を取り直して、外へ首を伸ばす。
 扉の外には左右に伸びる廊下。
 ちらりちらりと左右を見るが、親父たちの言ったとおり、人はいない。
 どちらの廊下も突き当りでLの字を描き、同じ方向の奥へと続いているようだ

「どっちが正解の道なんだ、フィナ?」
「遺跡でこの施設の地図を見たけど、どっちの道を行っても曲がり角を曲がって奥にさえ進めば、ナノマシンの反応があった部屋に辿り着けるよ」
「それならば……右でいいか」


 と言うと、エクアが少しの間だけ物質を具現できる魔法の絵筆を取り出して、私に声を掛けてきた。
 
「念のためにこれで先を見てみます。構いませんか?」
「ああ、頼んだ」

 エクアは絵筆を振るい、小さなネズミを産み出す。
 それを廊下の右側に走らせ、突き当りの奥を目指した。
 マフィンが少しうずうずしているが……何とかこらえているようだ。
 ネズミは奥で立ち止まり、私たちから見えない廊下の先を見ている。
 
 エクアは目を閉じて、声を出す。
「いま、ネズミさんの目を借りて廊下の奥の風景を見てますが、誰もいませんね」
「そうか、ならば右を進もう」


 部屋から廊下へ出る。
 ギウが先頭を買って出て、殿しんがりはマスティフに任せた。
 道なりに進んでいき、再び曲がり角。角は左方向に曲がってる。
 
「エクア」
「はい」

 再びネズミを産み出して様子を窺う…………誰もいないようだ。マフィンは歯ぎしり。
 角を曲がり進み、その途中で左右から閉じられた大きな扉を見つけた。
 私はさらに続く廊下の奥へ視線を飛ばす。

「奥の道は左側を選んだ場合、同じく角を曲がって、ここに繋がるんだろうな。フィナ、この扉の先か?」
「うん。えっと、セキュリティは生体認証かぁ。なら、権限を強奪して無効化しちゃうおっと」


 と言って、フィナは真実の瞳ナルフを浮かべる。
 しかし、そのナルフは以前の二つのナルフとは全くの別物。
 人の頭ほどの大きさの漆黒の薔薇のような形をしたナルフに変化を遂げている。
 その薔薇の周りでは、光の塵を纏った黒の花弁が舞っていた。

「フィナ、それは?」
「古代人の施設の力と、私のナルフと六十年後のナルフを組み合わせた新しいナルフ。一部だけど、遠距離でも施設の装置が扱える。緊急転送の際、このナルフの力を使うの」
「ほぉ、それは見事だ」
「ふふ、ありがと。それじゃあ、新型ナルフの力のお披露目といきしょうかね。まずは扉の向こうの調査。生命反応なし。防衛システムをダウンさせてっと、次は扉を開けると」

 彼女は扉の右側にあった小さなパネルのそばで漆黒の薔薇のナルフを浮かべる。
「えっと、はい、終わり」

 すると扉が、『うらめし~』と泣き声を上げつつ奥へパタンと倒れて消えた。
 この扉の開き方に誰もがアーガメイト一族のセンスを疑ったが、それよりも私はフィナの仕事の早さにツッコむ――別に誤魔化したわけではないぞ!


「は、早くないかっ?」
「フッ、古代人の知識を得たフィナちゃんから見れば、ヴァンナスの技術なんていまさらよ」
「凄いが、自分をちゃん付けで呼ぶのはらしくないからやめた方がいいぞ」
「はいはい。それじゃ、行きましょ」

 フィナは私たちを置いて足早に部屋へと入っていった。
 私は軽いため息を吐いて彼女の後に続き、その後から仲間たちが続く。
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