銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く

私たちの意地。そして

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「陛下……あなた方がヴァンナスの繁栄のために死力を尽くし、そのためにあらゆる闇を背負う覚悟があることを私は知っています。そしてそれが、責任を担う者の務めなのでしょう。民に光を。我らに闇を。ですが……」
「なんだい?」

「そんな世界、まっぴらごめんなんですよ。一部の者たちを犠牲にして成り立つ世界なんて。たとえ、それがあなた方であったとしてもね」
「ケント……君は……」

「私はある意味、あなた方よりも残酷なのでしょう。なにせ、全ての知恵ある者たちに、この世界には闇があること光があることを知ってもらい、世界の形作りに参加してもらいたいと思っている。そう、いかなる存在にもね」

「フフ、凄まじい理想論だ。一介の民にそんな苦痛耐えられないよ」
「耐えられるようになるまで、積み上げますよ」
「死体をか?」
「心と知識をです」

「それでついてこれるとでも?」
「これなければ私は切り捨てるでしょう。ですが、エクアのように優しき人々が寄り添って歩んでくれます。この世界は、私とあなただけで創られているわけじゃないのですから」


 そうだ……支配を知る者たちは、誰もが自分たちだけで世界を形作っていると勘違いしている。
 多くがいるからこそ、様々な思いが交差し、世界を変容させる。
 それにより、嘆きが生じることもあるだろう。悲劇が襲い掛かることもあるだろう。
 だけど、私は望む――誰もが責任というチケットの代わりに世界を形作る権利を得るべきだと。


「私はあなた方のような天才ではない。誰かの肩を借りなければ歩けない、凡俗だ。凡俗は天才の下で何も考えずに生きる方が幸せなのでしょう。だけど、そいつはごめんだと考える凡俗たちがいる。そんな人たちのために、可能性を閉ざさせるわけにはいかない」

「ケント、その先にあるのは混沌だよ」
「さて、どうでしょうか? ならば、見せてあげますよ。混沌の先にある世界を!」

「悪いがね、たとえ先に、光の世界があったとしても、道半ばには混沌が約束された世界。そんな世界っ、存在すらさせる気はないんだよ! ケントおぉぉ!」


 陛下の思いに応え、炎燕エンエンが空を舞い、炎の軌跡を見せて突っ込んできた。
 エクアが魔法の絵筆を振るい、氷の燕を産み出す。

 氷の燕に、私の銀眼の力と銃の力、フィナとマフィンの魔力、カインの銃弾、親父とマスティフとギウの闘気、レイの勇者の力――私たちの全てを注ぎ込む!


 私たちと陛下の間で炎の燕と氷の燕がぶつかり合う!
 神の称号を持つ炎燕エンエンは氷の燕を一気に蒸発させて、再び空を舞い、翼を広げて、熱波を私たちに届ける――だが、私たちに傷はない!!

 絶対存在である炎燕エンエンの炎を前に皮膚皮一枚焦がすことなく立っている私たちへ、陛下は惜しみない称賛を送る。


「見事だ。人の力で炎燕エンエンと真っ向からぶつかり、無傷とは……君たちの意志の力、しかと見せてもらった」
「お褒めに預かり恐縮です。ですが、さすがは炎燕エンエン。私たちの思いを炎の一翼で押し留めた。神相手では、これ以上の意地の張り合い、人には不利。フィナ、脱出は行けるか?」

「王都内なら何とか行けるけど、あんまり距離は稼げない」
「それで上等だ! 今すぐ、転送しろ!」
「わかった!」

「悪いが、それは無理だ。ケント」


 ジクマ閣下の声――そして、伝わるは空間の力。
 地面に紫の稲妻が走り、ナルフから投射された転送の力は発動することなく固定された。
 フィナは閣下へ零れ落ちるような声を返す。

「なんで、空間の力を……?」
「切り札とは常に最後まで取っておくものだからな。貴様たちの逃走の可能性を考え、秘匿にしておいた」
「チッ、このジジイめっ」
「口の悪い小娘だ。だが、それもこれまで。陛下」
「ああ、残念だよ……君たちはよくやった。さらばだ」

 
 炎燕エンエンが炎をたけらせ、空間を焦がし始める。
 次にあれが舞えば、私たちは蒸発し消えるだろう。
 だが、それを否定する言葉がっ……薄汚いののしり声とともに私たちの間を駆け巡った!


「見届けたぜ、ヘタレ野郎! てめぇの強固な意志をな!!」


 白い光の閃光――それは炎燕エンエンの片翼を切り裂き霧散させた。
 光を目にした私たちは、存在を否定されたかのように心臓を恐怖に鷲掴みにされる。
 これは以前、味わった恐怖。
 だから、耐えられる。あの時、気を失ったカインも自分を保ち立っている。
 レイは勇者としての矜持が、彼を彼として支えた。
 
 ネオ陛下やジクマ閣下もまた、確固たる意志ある存在として、恐怖の汗に溺れながらも立っている。
 だが、幾人かのシエラたちは光の恐怖に耐えられずに、存在を否定され、この世から消え去っていた。

 
 皆は辛うじて動かせる瞳のみを光の袂へ向ける。
 そこにいたのは、ギウ。

 彼が銛を突き出し、鋭く尖った先端から全てを否定する光を産み出していた。
 私は彼の名を呼ぶ。

「ギ、ウ?」

 しかし、彼は私に言葉を返すことなく、私たちの横を通り過ぎて、前へ前へと歩いていく。
 彼が一歩、足を踏み出すたびに、身の内側から光が漏れ出す。
 そして、ギウではない女性の声が響く。

「元々はバルドゥルのジジイ相手にとっておいた力だったけどよ、まっ、こんな形で消費するのも悪かねぇ。やっぱり、未来を決めるとしたら、今を生きる連中と当事者が決めるべきだろうしな」


 銛が光に包まれ、槍の姿をかたどる。
 光に包まれた肉体は、その形を魚から人のものへと変えていく。
 光が綿帽子のようにふわりふわりと離れていき、そこに現れたのは……長く艶やかな黒髪を麦わら帽子で押さえ、真っ白なワンピースを着た女性。


 彼女は――百合――
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