322 / 359
第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く
私たちの意地。そして
しおりを挟む
「陛下……あなた方がヴァンナスの繁栄のために死力を尽くし、そのためにあらゆる闇を背負う覚悟があることを私は知っています。そしてそれが、責任を担う者の務めなのでしょう。民に光を。我らに闇を。ですが……」
「なんだい?」
「そんな世界、まっぴらごめんなんですよ。一部の者たちを犠牲にして成り立つ世界なんて。たとえ、それがあなた方であったとしてもね」
「ケント……君は……」
「私はある意味、あなた方よりも残酷なのでしょう。なにせ、全ての知恵ある者たちに、この世界には闇があること光があることを知ってもらい、世界の形作りに参加してもらいたいと思っている。そう、いかなる存在にもね」
「フフ、凄まじい理想論だ。一介の民にそんな苦痛耐えられないよ」
「耐えられるようになるまで、積み上げますよ」
「死体をか?」
「心と知識をです」
「それでついてこれるとでも?」
「これなければ私は切り捨てるでしょう。ですが、エクアのように優しき人々が寄り添って歩んでくれます。この世界は、私とあなただけで創られているわけじゃないのですから」
そうだ……支配を知る者たちは、誰もが自分たちだけで世界を形作っていると勘違いしている。
多くがいるからこそ、様々な思いが交差し、世界を変容させる。
それにより、嘆きが生じることもあるだろう。悲劇が襲い掛かることもあるだろう。
だけど、私は望む――誰もが責任というチケットの代わりに世界を形作る権利を得るべきだと。
「私はあなた方のような天才ではない。誰かの肩を借りなければ歩けない、凡俗だ。凡俗は天才の下で何も考えずに生きる方が幸せなのでしょう。だけど、そいつはごめんだと考える凡俗たちがいる。そんな人たちのために、可能性を閉ざさせるわけにはいかない」
「ケント、その先にあるのは混沌だよ」
「さて、どうでしょうか? ならば、見せてあげますよ。混沌の先にある世界を!」
「悪いがね、たとえ先に、光の世界があったとしても、道半ばには混沌が約束された世界。そんな世界っ、存在すらさせる気はないんだよ! ケントおぉぉ!」
陛下の思いに応え、炎燕が空を舞い、炎の軌跡を見せて突っ込んできた。
エクアが魔法の絵筆を振るい、氷の燕を産み出す。
氷の燕に、私の銀眼の力と銃の力、フィナとマフィンの魔力、カインの銃弾、親父とマスティフとギウの闘気、レイの勇者の力――私たちの全てを注ぎ込む!
私たちと陛下の間で炎の燕と氷の燕がぶつかり合う!
神の称号を持つ炎燕は氷の燕を一気に蒸発させて、再び空を舞い、翼を広げて、熱波を私たちに届ける――だが、私たちに傷はない!!
絶対存在である炎燕の炎を前に皮膚皮一枚焦がすことなく立っている私たちへ、陛下は惜しみない称賛を送る。
「見事だ。人の力で炎燕と真っ向からぶつかり、無傷とは……君たちの意志の力、しかと見せてもらった」
「お褒めに預かり恐縮です。ですが、さすがは炎燕。私たちの思いを炎の一翼で押し留めた。神相手では、これ以上の意地の張り合い、人には不利。フィナ、脱出は行けるか?」
「王都内なら何とか行けるけど、あんまり距離は稼げない」
「それで上等だ! 今すぐ、転送しろ!」
「わかった!」
「悪いが、それは無理だ。ケント」
ジクマ閣下の声――そして、伝わるは空間の力。
地面に紫の稲妻が走り、ナルフから投射された転送の力は発動することなく固定された。
フィナは閣下へ零れ落ちるような声を返す。
「なんで、空間の力を……?」
「切り札とは常に最後まで取っておくものだからな。貴様たちの逃走の可能性を考え、秘匿にしておいた」
「チッ、このジジイめっ」
「口の悪い小娘だ。だが、それもこれまで。陛下」
「ああ、残念だよ……君たちはよくやった。さらばだ」
炎燕が炎を猛らせ、空間を焦がし始める。
次にあれが舞えば、私たちは蒸発し消えるだろう。
だが、それを否定する言葉がっ……薄汚い罵り声とともに私たちの間を駆け巡った!
「見届けたぜ、ヘタレ野郎! てめぇの強固な意志をな!!」
白い光の閃光――それは炎燕の片翼を切り裂き霧散させた。
光を目にした私たちは、存在を否定されたかのように心臓を恐怖に鷲掴みにされる。
これは以前、味わった恐怖。
だから、耐えられる。あの時、気を失ったカインも自分を保ち立っている。
レイは勇者としての矜持が、彼を彼として支えた。
ネオ陛下やジクマ閣下もまた、確固たる意志ある存在として、恐怖の汗に溺れながらも立っている。
だが、幾人かのシエラたちは光の恐怖に耐えられずに、存在を否定され、この世から消え去っていた。
皆は辛うじて動かせる瞳のみを光の袂へ向ける。
そこにいたのは、ギウ。
彼が銛を突き出し、鋭く尖った先端から全てを否定する光を産み出していた。
私は彼の名を呼ぶ。
「ギ、ウ?」
しかし、彼は私に言葉を返すことなく、私たちの横を通り過ぎて、前へ前へと歩いていく。
彼が一歩、足を踏み出すたびに、身の内側から光が漏れ出す。
そして、ギウではない女性の声が響く。
「元々はバルドゥルのジジイ相手にとっておいた力だったけどよ、まっ、こんな形で消費するのも悪かねぇ。やっぱり、未来を決めるとしたら、今を生きる連中と当事者が決めるべきだろうしな」
銛が光に包まれ、槍の姿を象る。
光に包まれた肉体は、その形を魚から人のものへと変えていく。
光が綿帽子のようにふわりふわりと離れていき、そこに現れたのは……長く艶やかな黒髪を麦わら帽子で押さえ、真っ白なワンピースを着た女性。
彼女は――百合――
「なんだい?」
「そんな世界、まっぴらごめんなんですよ。一部の者たちを犠牲にして成り立つ世界なんて。たとえ、それがあなた方であったとしてもね」
「ケント……君は……」
「私はある意味、あなた方よりも残酷なのでしょう。なにせ、全ての知恵ある者たちに、この世界には闇があること光があることを知ってもらい、世界の形作りに参加してもらいたいと思っている。そう、いかなる存在にもね」
「フフ、凄まじい理想論だ。一介の民にそんな苦痛耐えられないよ」
「耐えられるようになるまで、積み上げますよ」
「死体をか?」
「心と知識をです」
「それでついてこれるとでも?」
「これなければ私は切り捨てるでしょう。ですが、エクアのように優しき人々が寄り添って歩んでくれます。この世界は、私とあなただけで創られているわけじゃないのですから」
そうだ……支配を知る者たちは、誰もが自分たちだけで世界を形作っていると勘違いしている。
多くがいるからこそ、様々な思いが交差し、世界を変容させる。
それにより、嘆きが生じることもあるだろう。悲劇が襲い掛かることもあるだろう。
だけど、私は望む――誰もが責任というチケットの代わりに世界を形作る権利を得るべきだと。
「私はあなた方のような天才ではない。誰かの肩を借りなければ歩けない、凡俗だ。凡俗は天才の下で何も考えずに生きる方が幸せなのでしょう。だけど、そいつはごめんだと考える凡俗たちがいる。そんな人たちのために、可能性を閉ざさせるわけにはいかない」
「ケント、その先にあるのは混沌だよ」
「さて、どうでしょうか? ならば、見せてあげますよ。混沌の先にある世界を!」
「悪いがね、たとえ先に、光の世界があったとしても、道半ばには混沌が約束された世界。そんな世界っ、存在すらさせる気はないんだよ! ケントおぉぉ!」
陛下の思いに応え、炎燕が空を舞い、炎の軌跡を見せて突っ込んできた。
エクアが魔法の絵筆を振るい、氷の燕を産み出す。
氷の燕に、私の銀眼の力と銃の力、フィナとマフィンの魔力、カインの銃弾、親父とマスティフとギウの闘気、レイの勇者の力――私たちの全てを注ぎ込む!
私たちと陛下の間で炎の燕と氷の燕がぶつかり合う!
神の称号を持つ炎燕は氷の燕を一気に蒸発させて、再び空を舞い、翼を広げて、熱波を私たちに届ける――だが、私たちに傷はない!!
絶対存在である炎燕の炎を前に皮膚皮一枚焦がすことなく立っている私たちへ、陛下は惜しみない称賛を送る。
「見事だ。人の力で炎燕と真っ向からぶつかり、無傷とは……君たちの意志の力、しかと見せてもらった」
「お褒めに預かり恐縮です。ですが、さすがは炎燕。私たちの思いを炎の一翼で押し留めた。神相手では、これ以上の意地の張り合い、人には不利。フィナ、脱出は行けるか?」
「王都内なら何とか行けるけど、あんまり距離は稼げない」
「それで上等だ! 今すぐ、転送しろ!」
「わかった!」
「悪いが、それは無理だ。ケント」
ジクマ閣下の声――そして、伝わるは空間の力。
地面に紫の稲妻が走り、ナルフから投射された転送の力は発動することなく固定された。
フィナは閣下へ零れ落ちるような声を返す。
「なんで、空間の力を……?」
「切り札とは常に最後まで取っておくものだからな。貴様たちの逃走の可能性を考え、秘匿にしておいた」
「チッ、このジジイめっ」
「口の悪い小娘だ。だが、それもこれまで。陛下」
「ああ、残念だよ……君たちはよくやった。さらばだ」
炎燕が炎を猛らせ、空間を焦がし始める。
次にあれが舞えば、私たちは蒸発し消えるだろう。
だが、それを否定する言葉がっ……薄汚い罵り声とともに私たちの間を駆け巡った!
「見届けたぜ、ヘタレ野郎! てめぇの強固な意志をな!!」
白い光の閃光――それは炎燕の片翼を切り裂き霧散させた。
光を目にした私たちは、存在を否定されたかのように心臓を恐怖に鷲掴みにされる。
これは以前、味わった恐怖。
だから、耐えられる。あの時、気を失ったカインも自分を保ち立っている。
レイは勇者としての矜持が、彼を彼として支えた。
ネオ陛下やジクマ閣下もまた、確固たる意志ある存在として、恐怖の汗に溺れながらも立っている。
だが、幾人かのシエラたちは光の恐怖に耐えられずに、存在を否定され、この世から消え去っていた。
皆は辛うじて動かせる瞳のみを光の袂へ向ける。
そこにいたのは、ギウ。
彼が銛を突き出し、鋭く尖った先端から全てを否定する光を産み出していた。
私は彼の名を呼ぶ。
「ギ、ウ?」
しかし、彼は私に言葉を返すことなく、私たちの横を通り過ぎて、前へ前へと歩いていく。
彼が一歩、足を踏み出すたびに、身の内側から光が漏れ出す。
そして、ギウではない女性の声が響く。
「元々はバルドゥルのジジイ相手にとっておいた力だったけどよ、まっ、こんな形で消費するのも悪かねぇ。やっぱり、未来を決めるとしたら、今を生きる連中と当事者が決めるべきだろうしな」
銛が光に包まれ、槍の姿を象る。
光に包まれた肉体は、その形を魚から人のものへと変えていく。
光が綿帽子のようにふわりふわりと離れていき、そこに現れたのは……長く艶やかな黒髪を麦わら帽子で押さえ、真っ白なワンピースを着た女性。
彼女は――百合――
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる