346 / 359
悠久の章
理想の明日を求めて、私たちは歩みを止めない
しおりを挟む
――トーワ城・執務室
除幕式から一か月後。
執務室では、白の法衣に黒の外套を纏ったケントが執務机の椅子に腰を掛けて嘆いていた。
「あああああああ、もう! 王なんかになりたくないっ!」
彼の声に、フィナが呆れを交えた唾を飛ばす。
「ちょっとっ! そこ、私の椅子なんだからどきなさいよっ!」
「はぁ~、トーワの領主だった頃が懐かしい」
「懐かしいって、まだ、ひと月しか経ってないじゃん」
「そのひと月で何が起こったと思うっ?」
ケントは椅子から立ち上がり、確かな光を宿す銀眼を執務室内にいたフィコンやキサへ向けて、さらに指差す!
「フィコンはルヒネ派の影響力拡大に精を出し、キサは商売で表も裏も牛耳ろうと暗躍する! さらにアグリスの貴族が己の立場を誇示し、二十二議会は政治ではなく辺境を支える軍の方面から口を出し影響力を残そうとする! 控えめに言っても、あそこは地獄だぞ!!」
指を差されたキサとフィコンは小さくベロを出す。
「てへ、ごめんね陛下のお兄さん。これも商人の権利のためだからね~」
「うむ、てへ、だな。フィコンもルヒネ派の信徒を守らねばならぬ故な」
「何がてへっ! だ! 特にフィコン。少女とはいえ十六の娘に今のはちょっときついぞ!」
「うぐ、なんと失礼な奴だ! エムト! こやつを即刻斬れ!」
「残念ながらフィコン様。私はいま、陛下をお守りする守護騎士であります。フィコン様の命とは言えお受けできません」
「この~、フィコンに忠誠を誓ったのは偽りかっ」
「偽りではありませんが、それはそれ、これはこれでございます」
この二人の会話にフィナが疑問を纏う。
「あれ、エムトってフィコン第一じゃなかったの?」
「無論、その通りだ。だが、陛下が四方八方と責め立てられていれば、このエムト。守護騎士として、力添えをせぬわけにはいかぬ」
「ああ~、判官びいきってやつかぁ」
どうやらエムトは、王となったケントがあまりにも無体な状況にさらされたため、同情が前に出て肩を持ってしまったようだ。
フィナはケントをちらりと見る。
「王様、情けなくない?」
「うるさいっ、それに正式な即位は一か月後だ! まだ王ではないっ!」
「いや、もう逃げられないんだから、覚悟しなさいよ……」
「しかしだな、王になる前からこうだぞっ。あ~、先が思いやられる……今ならネオ陛下のお気持ちがわかる。私にあの方ほどの民や政治を治める才があれば、私も程よく力を抜いてだらだらしたいところだ。でなければ、やってられん!」
「でも、ケントにはないから、全力で頑張るしかないね」
「はぁ~、本当に嫌だ……」
ケントはため息を床にまき散らし、何度か呼吸を繰り返して、まっすぐと背筋を伸ばした。
「さて、愚痴もここまでだ。もう、みんなは揃っているのか、フィナ?」
「うん、中庭の方に。入りきれなかった兵士たちは、城壁内に詰めてる」
「よろしい。では、行こうか」
彼は愛用の宝石の冠のついた錫杖を手に取る。
腰には古代人の銃を装備。
武装した彼へフィナが声を掛ける。
「目の調子はどう?」
「ああ、何ら問題ない。世界に色がついて見える。素晴らしい色の世界が……見たくもない色も一緒になっ」
彼はちらりとキサとフィコンを睨んだ。
二人は仲よくケントへ微笑みを返す。
ケントは軽く肩を落として銀眼をフィナヘ戻す。
「君とカインのおかげだ。改めて礼を言う。ありがとう」
「どういたしましてっ。ま、今日という日に間に合ってよかった」
「そうだな。目の悪いままでは足手纏いになってしまうところだった」
そう唱え、彼は執務室から出ると、廊下を歩み、一歩一歩着実に階段を降りていく。
後ろからは、和やかな雰囲気を消し去り、戦意を纏うフィナたちが続く。
彼らは皆が待機しているという、城の中庭に向かった。
――トーワ城・中庭
中庭には多くの仲間や兵士が集まり、中央には金属らしきもので造られた人工物。
それは、人が一挙に数十は通り抜けられるアーチ状の門であった。
ケントは大勢の前で、こう言葉を発する。
「これは私の我儘だ! 皆に無理を押すような話ではないっ。それでも、私の声に集まってくれたことに感謝する!」
ざっと視線を全体に振り、再び多くへ声が届くように心の底から言葉を広げる。
「私には、救いたい世界がある! 助けたい人々がいる! 彼らはいまだ絶望を前にしても諦めず、歯を食い縛り戦い続けているだろう。そのような勇気ある彼らに私は恩がある! その恩を返したい!!」
視線を緑豊かとなった北の大地へ向ける。
「我々は、巨大な敵を前にして戦い、辛くも勝利した。いや、あの時は戦いにすらならなかった! だが今はっ、我々には敵と対抗する力がある!! フィナ!」
「ええ、完璧よ。この一年、遺跡の隅々を調べ尽くし、多くの力を知った! トーワの秘密を知った!」
フィナは大きく前に出て、皆に知という名の危険な剣を御した者として言葉を発す。
「ここに、トーワ領主であり、実践派の長・フィナ=ス=テイローとして宣言する! 遺跡の力は巨大であり封印されるべきもの! だが、今日、この日だけはっ、遺跡から得た力の全てを開放する!!」
彼女の声に応え、中庭の中央に鎮座したアーチ内部に水のような幕が張られた。
その水膜の前にケントが立ち、皆に言葉を響かせる。
「さぁ、彼らに知識を伝えようっ。トーワの秘密を伝えよう! そして、希望を渡そう!! では、行こう! 絶望に立ち向かう、もう一つのトーワへ!!」
章間4・終焉のトーワへと続く――
除幕式から一か月後。
執務室では、白の法衣に黒の外套を纏ったケントが執務机の椅子に腰を掛けて嘆いていた。
「あああああああ、もう! 王なんかになりたくないっ!」
彼の声に、フィナが呆れを交えた唾を飛ばす。
「ちょっとっ! そこ、私の椅子なんだからどきなさいよっ!」
「はぁ~、トーワの領主だった頃が懐かしい」
「懐かしいって、まだ、ひと月しか経ってないじゃん」
「そのひと月で何が起こったと思うっ?」
ケントは椅子から立ち上がり、確かな光を宿す銀眼を執務室内にいたフィコンやキサへ向けて、さらに指差す!
「フィコンはルヒネ派の影響力拡大に精を出し、キサは商売で表も裏も牛耳ろうと暗躍する! さらにアグリスの貴族が己の立場を誇示し、二十二議会は政治ではなく辺境を支える軍の方面から口を出し影響力を残そうとする! 控えめに言っても、あそこは地獄だぞ!!」
指を差されたキサとフィコンは小さくベロを出す。
「てへ、ごめんね陛下のお兄さん。これも商人の権利のためだからね~」
「うむ、てへ、だな。フィコンもルヒネ派の信徒を守らねばならぬ故な」
「何がてへっ! だ! 特にフィコン。少女とはいえ十六の娘に今のはちょっときついぞ!」
「うぐ、なんと失礼な奴だ! エムト! こやつを即刻斬れ!」
「残念ながらフィコン様。私はいま、陛下をお守りする守護騎士であります。フィコン様の命とは言えお受けできません」
「この~、フィコンに忠誠を誓ったのは偽りかっ」
「偽りではありませんが、それはそれ、これはこれでございます」
この二人の会話にフィナが疑問を纏う。
「あれ、エムトってフィコン第一じゃなかったの?」
「無論、その通りだ。だが、陛下が四方八方と責め立てられていれば、このエムト。守護騎士として、力添えをせぬわけにはいかぬ」
「ああ~、判官びいきってやつかぁ」
どうやらエムトは、王となったケントがあまりにも無体な状況にさらされたため、同情が前に出て肩を持ってしまったようだ。
フィナはケントをちらりと見る。
「王様、情けなくない?」
「うるさいっ、それに正式な即位は一か月後だ! まだ王ではないっ!」
「いや、もう逃げられないんだから、覚悟しなさいよ……」
「しかしだな、王になる前からこうだぞっ。あ~、先が思いやられる……今ならネオ陛下のお気持ちがわかる。私にあの方ほどの民や政治を治める才があれば、私も程よく力を抜いてだらだらしたいところだ。でなければ、やってられん!」
「でも、ケントにはないから、全力で頑張るしかないね」
「はぁ~、本当に嫌だ……」
ケントはため息を床にまき散らし、何度か呼吸を繰り返して、まっすぐと背筋を伸ばした。
「さて、愚痴もここまでだ。もう、みんなは揃っているのか、フィナ?」
「うん、中庭の方に。入りきれなかった兵士たちは、城壁内に詰めてる」
「よろしい。では、行こうか」
彼は愛用の宝石の冠のついた錫杖を手に取る。
腰には古代人の銃を装備。
武装した彼へフィナが声を掛ける。
「目の調子はどう?」
「ああ、何ら問題ない。世界に色がついて見える。素晴らしい色の世界が……見たくもない色も一緒になっ」
彼はちらりとキサとフィコンを睨んだ。
二人は仲よくケントへ微笑みを返す。
ケントは軽く肩を落として銀眼をフィナヘ戻す。
「君とカインのおかげだ。改めて礼を言う。ありがとう」
「どういたしましてっ。ま、今日という日に間に合ってよかった」
「そうだな。目の悪いままでは足手纏いになってしまうところだった」
そう唱え、彼は執務室から出ると、廊下を歩み、一歩一歩着実に階段を降りていく。
後ろからは、和やかな雰囲気を消し去り、戦意を纏うフィナたちが続く。
彼らは皆が待機しているという、城の中庭に向かった。
――トーワ城・中庭
中庭には多くの仲間や兵士が集まり、中央には金属らしきもので造られた人工物。
それは、人が一挙に数十は通り抜けられるアーチ状の門であった。
ケントは大勢の前で、こう言葉を発する。
「これは私の我儘だ! 皆に無理を押すような話ではないっ。それでも、私の声に集まってくれたことに感謝する!」
ざっと視線を全体に振り、再び多くへ声が届くように心の底から言葉を広げる。
「私には、救いたい世界がある! 助けたい人々がいる! 彼らはいまだ絶望を前にしても諦めず、歯を食い縛り戦い続けているだろう。そのような勇気ある彼らに私は恩がある! その恩を返したい!!」
視線を緑豊かとなった北の大地へ向ける。
「我々は、巨大な敵を前にして戦い、辛くも勝利した。いや、あの時は戦いにすらならなかった! だが今はっ、我々には敵と対抗する力がある!! フィナ!」
「ええ、完璧よ。この一年、遺跡の隅々を調べ尽くし、多くの力を知った! トーワの秘密を知った!」
フィナは大きく前に出て、皆に知という名の危険な剣を御した者として言葉を発す。
「ここに、トーワ領主であり、実践派の長・フィナ=ス=テイローとして宣言する! 遺跡の力は巨大であり封印されるべきもの! だが、今日、この日だけはっ、遺跡から得た力の全てを開放する!!」
彼女の声に応え、中庭の中央に鎮座したアーチ内部に水のような幕が張られた。
その水膜の前にケントが立ち、皆に言葉を響かせる。
「さぁ、彼らに知識を伝えようっ。トーワの秘密を伝えよう! そして、希望を渡そう!! では、行こう! 絶望に立ち向かう、もう一つのトーワへ!!」
章間4・終焉のトーワへと続く――
0
あなたにおすすめの小説
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件
fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。
チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!?
実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。
「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる