殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~

雪野湯

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第二幕

第6話 生臭い

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 次に、この倉庫に置けるドワーフの代表がいないかを尋ねた。
 すると、キルデは一人の中年ドワーフ女性を連れてきた。
 彼女は赤毛の三つ編みで、痩せたドワーフが多い中では多少マシな体形だ。
 細身でも半そでのシャツから見える腕からは、人にはない力強さを感じる。

 中年女性ドワーフはおどおどした様子を見せて、俺に頭を下げた。
「初めまして、ラテライと言います」
「ええ、初めましてですわ。わたくしはセルガの名代、ゼルフォビラ家が次女シオンと申します」
「あの、セルガ様の名代であらせられるシオン様が私如きドワーフの端女はしために何が御用でございましょ――え?」

 ラテライはルーレンの姿を見て小さな驚きを見せた。
 彼女はじっとルーレンの耳を見ている。
 そして、驚きに声を弾けた。

「ね、猫族のドワーフ!? 噂には聞いてたけど、本当にゼルフォビラ家に仕えていたのかい!?」
 彼女の声に黙々と作業を続けていたドワーフたちが手を止めて、一斉にこちらを見て、ざわめき始める。

「ほ、本当に猫族のドワーフ? あの噂は本当だったんだ」
「伝説の一族がなんでメイド姿を……」
「戦士の中の戦士であるはずなのに人間族に仕えているなんて」
「仕方ないよ、私たちは奴隷だから……」


 あちらこちらから漏れ出てくる声を工員長キルデが大声を上げて止める。
「お前たち! 手を休めるな!」
 次にラテライを睨みつける。

「ラテライ! シオン様の御前ごぜんでなんて真似を! 挨拶をおろそかにしたどころか、騒ぎを起こすとは!!」
「い、いえ、その、申し訳ございません!! 私はそのようなつもりは決して!」

 平謝りを見せるラテライ。
 それをめさせようとしたのだが、馬鹿が邪魔をする。
「別に気にしてはいません。ですので、頭をお上げ――」
「まったくだ! この屑ドワーフめ! ねぇ、工員長!!」

 またもやシヤクが俺の声を遮った。
 俺は溜め息を漏らしてシヤクの声をやんわりと止める。

「はぁ、シヤクさん」
「本当にドワーフってのは使えない連中ですよね、工員長」
「シヤクさんっ」
「え!? あ、なんでしょうか?」
「わたくしが話している途中です。黙っていてもらいませんか?」
「あ、すいません……」


 小さく会釈をしたシヤクの頭を、隣に立つキルデが押さえて深く頭を下げさせる。
 鬱陶しい奴だが、シヤクはこのまま馬鹿をやっててもらって結構。それでこそこいつの利用価値があるというものだし。
 俺は気を取り直して、ずっと頭を下げ続けているラテライに改めて話しかける。

「ラテライさん、わたくしは気にしておりませんので頭をお上げなさい」
「で、ですが……」
「お願いですから、わたくしに頭を上げろと命令をさせないでください。どうか、頭をお上げになって」


 ラテライは怪訝そうな表情を見せながら頭をゆっくりと上げた。
 不安に怯える彼女へ俺は笑顔を見せて、先程の騒ぎについて尋ねる。
「あなたと他のドワーフ方の様子から、猫族のドワーフは珍しいようですね。わたくしはあまりドワーフに詳しくないので、よろしければお話を聞かせて頂きません?」
「はい。猫族のドワーフはドワーフの中でも戦士の中の戦士と言われるほど強く、勇猛果敢な一族なんです。先の大戦での活躍は凄まじく、多くの人間たちの命を狩りとり――っ!」

 失言に気づき、ラテライは言葉をぐっと閉じた。そして、体を小刻みに震わせる。
 これにキルデとシヤクが声を上げようとしたが、左手を派手に上げて彼らの声を止める。
 派手に上げたのはシヤクが理解できないと思ったからだ。

 俺は人差し指を鍵の字にして顎元へ置く。
「そう、ルーレンからも以前聞きましたが、猫族のドワーフというのはドワーフの中でも飛び出た存在なのですね。どうりでとてもちっちゃなルーレンが力持ちなはず」
 馬車を持ち上げたルーレンを思い出して、彼女へ視線を振る。
 彼女はそれに申し訳なさと照れ臭さが混じる複雑な表情を見せた。
 視線をラテライに戻す。彼女はずっと震えたまま。


(困ったな。キルデとシヤクを遠ざけてから、上手く口を回してドワーフの目線での待遇の問題点を聞くつもりだったが、こんなにも心が怯えている状況じゃ、いくら口を回しても本音を引き出せない)

 仕方なくこの話題を正面から尋ねるのではなく、少しずらしてから尋ねることにした。
「ラテライさん、あなたから見てこうしたらもっと作業が楽になるのに……という意見はありますか?」
「へ?」
「現場で働いている方からの意見が欲しくて尋ねています。例えば、荷物の搬入の際、ああすればこうすればや、動線の確保をこうしたら、というような意見を聞きたいんですのよ。あります?」
「それは……」

 問いにラテライの目は泳ぐが、その目がキルデに合うと首を横に振り、こう言葉を返してきた。
「私如き奴隷がシオン様に意見することなどございません」


 ま、当然の返し。
 だが、これについて、意見を聞くことが重要ではない。意見があるかどうかを調べたかった。
 そして今の反応……キルデを恐れたために何も言えなかった。つまり、恐れがなければ言いたいこと、意見があるということだ。

 俺は心の中で声を立てる。
(改善すべき点は見えた。それを行えば会社の利益を増やすと同時にドワーフの支持を得られる。ま、予想した通り楽勝な仕事だ。あとは~)


 作業中のドワーフへ視線を向ける。
 ローリエのような葉をり分けている。その中で葉がぼろぼろのものや虫食いのものを地面に置いた薄汚れた麻袋へ投げ入れていた。

「ラテライさん、あれは品質基準を満たしてないものを廃棄するためですか?」
「ええ、そうです」
「食べても問題ないものでして?」
「見た目が悪いだけで問題ありません」
 そう言って、彼女は工員長をちらりと見る。その工員長も同じ答えを返す。
「ええ、大丈夫ですが、ある程度見目が良くないと売り物になりませんので廃棄しております」
「まぁ、そうでしょうね」


 日本で言うと、曲がったキュウリや歪な形のトマトを店頭に並べることはできないと言ったものと同じ。
 日本では店頭に並ばなかった食材は加工食品などに使われるのだが、こちらではまだそういった方法が確立していないようで、そのまま廃棄されている。

(これをうまく利用すれば利益を産めるが、それだと新たに事業を起こすことになるし、めんどいな)
 俺には商売に関する多少の知識はあっても、商売人ではないため詳しくはない。
 また、このアルガルノと地球では勝手が違う部分も多々あるだろうから、それらを学ぶとなると時間もかかる。
 これについてはやれる人間を見つけた時にそいつに丸投げすればいい。
 それまでは無視だ。
 

 さて、今まで得た情報を頭の中で組み合わせて、今すぐできることだけをセルガの名代として、全権限を委託された俺はここで行使しようとした。
 しかしそこに、奇妙な匂いが漂ってきて、俺の声を止めた。

「ルーレン、メモの用意を。今から私が言葉にすることをまと――スンスン、なんですか、この匂いは? レバーのような生臭い感じで」

 匂いは倉庫の奥から漂ってくる。
 これにラテライが慌てた様子を見せて、キルデとシヤクが続く。
「申し訳ございません。奥では昼の準備を行ってまして」
「ドワーフどもは臓物を好みますので、そいつの匂いがこちらまで流れてきているようですね。申し訳ございません、シオン様。不快な思いをさせてしまい」
「あ~、くせぇな。ドワーフってのは糞の詰まってた臓物を食うんだからおぞましいぜ」


 シヤクはわざとらしく鼻を摘まんで不快な様子を表す。
 これはドワーフを見下すためにわざとやっている。
 その意図がわかっていてもラテライは愛想笑いを浮かべ、ルーレンは感情を隠すように無表情を決め込んだ。
 そのルーレンへドワーフが好むという臓物料理について尋ねてみる。

「ルーレン、ドワーフはこのような匂いに食指が動かされるのですか?」
「いえ、普通ならばしっかり下拵えをしますので、こんな匂いは……」
「そうですか。ラテライさん、下処理はなさってませんの?」

「こちらにはドワーフ族が好んで使うアレルラ草がありませんから。あればこのような匂いを生むなんて。それにたとえあったとしても、こちらで購入しようとすれば高額になり、とても私たちには……」
「でしたら、臓物にこだわる必要はないのではありませんか? それとも、これは文化として譲れないものなのでしょうか?」
「好みますが、ここまでしてこだわっているわけでは……その……」


 ラテライは言い淀み、小さく工員長のキルデを見る。
 そのキルデが答えを返してくる。
「臓物はゴミですから、ドワーフにはちょうど良いんですよ、シオン様。食費の削減になりますし」


 アレルラ草というものが無い状況では臓物特有の生臭さを抑えられずに、ドワーフ料理の精彩を欠く。
 そうであっても臓物は食材としてはゴミ同然なので、それをドワーフの賄いとして出しているというところか。

「ですが、ラテライさん。これでは生臭すぎて食べられないのでは?」
「そこはがま……いえ、奴隷である私たちには食事があるというだけでもありがたいことですから」

 一瞬、本音を垣間見せて、すぐに取り繕った。
 やはり彼女から本音を聞き出すのは難しい。
 というわけで、比較的本音を聞き出せそうなルーレンに尋ねる。
「ルーレン、この臓物料理は美味しいと思いますか?」
「いえ、とてもそうは思えません。本来なら香りに惹かれてお腹がなっちゃうくらい、美味しそうな香りするものですから」


 彼女の言葉にラテライとキルデは驚いた表情を見せて、シヤクは顔をしかめている。
 前者二人はあるじであるシオンに物を申せるドワーフの少女の姿に驚き、シヤクは臓物が旨いという発言が気持ち悪く顔をしかめた。
 
 俺は鼻をひくひくさせて、香辛料の匂いを押しのけて倉庫内に漂う臓物の匂いを嗅ぐ。
(くさっ。こんなの食わされた日には仕事のやる気もなくなるだろうに。贅沢をさせろとは言わないが、食事の味ってのはどんな仕事でも大事なもんだぞ。しゃーない、とりあえず先に改善しておくか。幸い、改善できる材料はここにある。ゴミだけどな)


「ラテライさん、料理は始めたばかりですか?」
「ええ、そうですが。匂いが気になるようでしたら今すぐやめさせてきます」
「その必要はありません。むしろ、興味があります。今すぐ、調理場まで案内してください」
「……はい?」

 この、予想だにしなかった言葉にラテライはほうける。それはキルデやシヤク、そしてルーレンもだ。
 俺はルーレンにあるものの回収を頼む。
「ルーレン、そこらにある麻袋を回収してください」
「麻袋? 廃棄予定の香辛料が入った袋のことでしょうか?」
「ええ、そうわよ。どうせ捨てるものなら持って行っても問題ないでしょう。そうですよね、工員長のキルデさん?」
「あ、はい。ですが、一体何を……?」
「説明は後です。ラテライさん、案内を」
「わ、わかりました。こちらです」
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