殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~

雪野湯

文字の大きさ
85 / 100
第二幕

第37話 き、気のせいだろう……

しおりを挟む
 俺は軽く手をぱんっと打ってから話を戻す。
「あの、先程の話ですが、どうしてサイドレッド様は学院に? わたくしが思いますに、政治的な意味合いが含まれているようですが」

「そっか、気づいていたんだ。うん、その意味合いもあるよ。ゼルフォビラ家の影響力が大きいから、常にここに皇族ありと見せる必要があるし。特に学院には、国に影響力を持った貴族や富豪が多いからね。でも、他にも理由があるの」
「他の理由?」

「表向きは学院の警備のため。裏の理由は皇族の存在感を見せつけるため。裏の裏の理由は婚約者フィアに会いに来るため。だけど真は、あなたに会いに来るため」
「わたくしにねぇ……その学院の警備ですが、保安という面では学院内であってもゼルフォビラ家の長女フィアお姉様よりも、サイドレッド様の方が強い権限をお持ちですの?」
「うん、そうなるよ」


「な・る・ほ・ど……少し見えてきた」
「何が?」
「まだまだ形が虚ろですのではっきりとは。ですが、わかりましたら真っ先にお知らせしますわ」
「え、ええ、ありがとう……」

 ブランシュは要領を得ないと言った感じで気の抜けた返事をする。
 その間に、ここまでの話を頭の中でざっくりとまとめる。

 フィアとサイドレッドは婚約関係。
 サイドレッドはシオンに惹かれている。
 シオンが邪魔となったフィアは彼女を排除しようと試みる。
 それを知ったブランシュが横槍を入れて、シオンを追い出すと提案。
 提案は受け入れられ、ブランシュは見事シオンを学院から追い出すことに成功して愛する者を守れた。


(愛する者を守る、か……フフ、変則的だが面白いやり方だな。もっとも、俺だったら素直にシオンが襲われる寸前まで泳がせて、そこで証拠を握り、フィアを追い詰めるが。ま、十代のガキに好きな人をおとりに使うなんてことは無理か。それにしても、皇族様が庶民出のシオンをねぇ)

 俺はブランシュに問い掛ける。
「ねぇ、ブランシュ。どうして、わたくしを愛してるの?」
「え、何、急に?」
「いえ、出自の差が天と地以上に離れているわたくしに恋心を抱くなんて、何か余程のことがあったのかと思いまして」
「別に余程のことなんて……ただ、その…………一目惚れだったの……」

「そうなんですの?」
「うん、そう! そうなんだよ! 初めてあなたを見たとき、こんなに可愛い人がいるなんてびっくりしたの! どこかのお姫様かと思うくらいに!」

「お姫様はあなたでしょうに……」
「そうだけど違うの! その日からずっとあなたを目で追ってた。だけど、どう話しかけていいかわからない。とても内気な人だったから。へたに声を掛けたら怯えさせちゃうかもしれない。ただでさえ、私は皇族という立場で、他の貴族ですら私に気後れすることがあったから。おまけに、ゼルフォビラ家と皇族は、この学院と都市ではライバル関係だし」
「まぁ、そうでしょうね」

「だけど、だけど、だけど、仲良くなりたかった。おしゃべりしたかった。一緒に遊びたかった。でも、でも……近づくのも、怖かった」


 先ほどまで元気よく言葉を弾けさせていたブランシュは声のトーンを急激に下げていく。
 そして、秘めたる思いを打ち明ける。
「近づき過ぎたら、私の想いに気づかれちゃうかもしれない。女の子なのに、同じ女の子を好きになるなんて……嫌だと思われるかもしれない。そんな考えが心に宿ると、目であなたの姿を追うのも怖くなってた……でも……」

 ブランシュはスッと俺のそばにより、僅かばかりの戸惑いを見せたかと思うと、次にはさっと手を伸ばして、俺の両手を握った。

「同志だったなんて、嬉しい!」
「え? あ、そうなるのか」
 
 時を巻き戻して、ブランシュが資料室に訪れた時のやり取りを思い起こす。

『わたくしはご存じですの。あなたの本当の心を。そのために、ずっと悩んでいたことを』
『ブランシュ、あなたの気持ちが理解できるからです。誰にも話せず、胸の内だけで焦がし続ける苦い思いを』
『同じ苦しみを知り、悩みを知る者同士。互いに手を取り合いません? 庶民出であるわたくしと皇族のあなたを比べるなどおこがましいでしょうが。それでも、悩みを聞くことはできます。同志として……』


 この会話、同じ同性愛者として悩みを抱える者みたいになってる……どうしよう? いや、いやいや、これはこれでかまわない。
 以前、扇子を持つことで男を寄せ付けない効果があるならいいと思ったが、これもまた同じ。
 同性愛者だと思われれば男が寄り付かな……いや、公表しているわけじゃないから寄り付くのか?

 俺は頭をくいっと傾けて、はてなマークを浮かべる。
 するとそこに、ブランシュがとても暗い声を立ててきた。


「ねぇ、同志なのは嬉しんだけど……シオンには、好きな女の子がいるの……?」

 彼女はダークブルーの瞳に輪をかけるように闇を乗せて、そっと囁く……何やら、怖い。
「好きな女の子、ですか?」
「私じゃないんだよね? ねぇ?」
「えっと、その……」
「もしかして、一緒に連れてきたメイドのドワーフの子?」
「え!? いえ、違いますわよ」
「それじゃあ、誰なのシオンの好きな子は? 私の気持ちを知ったのに、シオンの相手を教えないのはずるい」


 それはどういう理屈なんだ? しかも、好きな子がいる前提で話が進んでるし……。
 ブランシュはただ無言で光宿らぬ瞳を見せ続ける。そこに殺気はないが、返答次第では殺されそう。
 ここで下手にはぐらかそうとすれば、明日の朝刊の主役になりかねない。
 仕方ない、ここはあいつに犠牲になってもらおう。

「いま、すよ」
「誰!?」
「マギーという、わたくしの屋敷に勤めるメイドです」
「マギー……」
「元傭兵でして、わたくしの剣の稽古をしてくれていましたわ」

「剣の稽古。それじゃあ、シオンが強くなったのはそのマギーって女のおかげ。だから、愛してるの?」
「愛するとは違うような……憧れ、みたいな感じですわよ」
「憧れるほど愛してるんだ」

「え? 会話がおかしい……」
「そっか、そうなんだ。いいなぁ、そのマギーって女。シオンを独り占めにできて」
「なんだか、話がどんどんそれているような。あの、今のわたくしと以前のわたくしとではかなり違いがあると思いますが、それでもわたくしのことを?」


 この問いかけに、ブランシュは寒気が走るような柔和な笑顔を見せた。
「フフフ、記憶を失っても、性格が変わっても、シオンはシオン。何も変わらないよ」
「じ、自分で言うのもなんですが、それだとまるっきり変わっているような」
「ううん、変わってない。こうやって手から伝わる温もりは以前のシオンと同じだし」
「以前のわたくしの手を握ったことあるんですか?」
「ない。でも、私にはわかる。愛しているから」
「え、ええ、そうなの?」
「口調は違っても声の質は同じ。微笑む顔も同じ。だから、同じなの……」


 ブランシュは俺の両手を握ったまま、何かを確かめるように強弱を変えてにぎにぎと何度も両手を触るよう握る。
 だんだんこいつのことが怖いどころか、やばい奴なんじゃないかと思い始めてきた。

 俺はこいつに飲まれかけている。このままではいかん。話の向きを変えよう。
「ブランシュ。今後のことで話がありますわ」
「今後? はっ、私たちの将来!?」
「違う! いや、ある意味そうですわね。あなたはこのままいじめを続けてください」
「え、どうして……あ! そっか、そうじゃないと」
「ええ、フィアお姉様に気づかれてしまいますから。そうなれば、お姉様が何を仕掛けてくるかわかりません」


 フィアは自身が皇族となり、権勢を振るおうと考えている。
 そのためには腹違いの妹の命などなんとも思っていない。
 つまり俺は、この学院で最も力を持つ相手から命を狙われているわけだ。

 そんな状況下で、何の準備もなしにフィアから命を狙われては対処が難しい。
 だから今はまだ、ブランシュがいじめを継続していると見せかけないと……。
 彼女もまた愛に酔っていたが、そのことにはすぐに気がついた。やはり、皇族とあってか頭の回転は速いようだ。


 さて、これからの問題はフィアとなるが……。
(皇族入りが関係した争い。これは相当ヤバい。少しでも気を抜けば、命を奪われかねない。なにせ、学院全体が敵となる可能性があるわけだしな)

 自分の立場の危うさに気づき、冷や汗が額に浮かぶ。
 俺はブランシュに強く釘を刺す。

「お願いですから、いじめの手を抜かないようにしてくださいませ。わたくしの方も今後は平気な様子など見せずに、辛い思いを表に出しますから」
「いいの?」
「良いも悪いもありませんわ。ともかく良案が浮かぶまでは、いじめの継続を。いえ、前以上に激しくして構いません」
「前以上に……だけど……」

 ブランシュは迷いを見せる。
 以前とは違い、自分の想いを渡して、さらには互いに通じ合うものがある仲となった。
 しかしそれにより、愛する者を守るために心を氷で覆っていた冷たさが溶け出してしまったようだ。
 このままでは非常にまずい。
 だから彼女に、再び覚悟を宿らせる芝居打った。
 俺はブランシュを強く抱きしめる。
 
「ブランシュ!」
「きゃっ!?」
「お願いですからわたくしをいじめて。たとえ、どんなに辛いいじめをされても、あなたの本当の気持ちはわかっています。だから、ブランシュのことを嫌いになるなんてありません。私のためにお願い、ブランシュ」
「シオン……わかった、私、心を鬼にしてあなたをいじめる。いじめる、いじめる……あなたを、いじめるからぁ……」


 悲痛な言葉を交え、彼女は俺の胸に顔を埋める。
 よし、これで当座はしのげそうだ。

 胸元からブランシュの籠った声が上がる。
「すーすーすー、はぁはぁ、やっぱり体臭も以前と変わらない。昔隠した時に嗅いだ体操着の香りと同じ……すーすーすー」

 何かいま、すっごく怖いことを聞いた気がするが? 気のせいだろう、うん!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ
ファンタジー
「わたしはもうまもなく死ぬ」 静まり返った老人ホームの一室で、老人は青年にそう告げた。励まそうとする青年に老人はさらに告げる。「いや正確に言い直そう。わたしは転生するのだ」 異世界に突如として転生したその男は、海洋国家ヴァレンティン共和国の超名門、シュナイダー家に生を受け、ガイウス・シュナイダーとして転生を果たす。だがそんなガイウスには前世の知識はあるものの、記憶がなかった。混乱するガイウス。だが月日が経つにつれ、次第にそんな環境にも慣れ、すくすくと成長する。そんな時、ガイウスは魔法と出会う。見よう見まねで魔法を繰り出すガイウス。すると、あろうことかとんでもない威力の魔法が―― 数えきれないほど転生をし続けた伝説の大魔導師の最後の転生物語をどうぞお楽しみください! こちらは『小説家になろう』で千五百万PⅤを獲得した作品を各所変更し、再構成して投稿しております。 また『1×∞(ワンバイエイト)経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!』という作品が、アルファポリス社より刊行されています。既刊第四巻まで発売中です。またコミカライズもされており、こちらは第二巻まで発売しています。あわせてよろしくお願いいたします!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...