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第一章 勇者から父として
第2話 次代の勇者と前代の勇者
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執務室を出て、大理石の廊下を歩く。
そこで、次代の勇者であるクルス=オーウェンの姿を見かけた。
深紅の髪色のツーブロックに、深紅の瞳を持つ少年。
顔立ちも瞳も丸っこくて、背もまだまだ小さい。
彼は十四歳の少年らしい溌溂とした様子で俺に駆け寄ってきた。
あの様子だと、俺の件はまだ耳に入っていないのだろう。
「ジルドラン様!」
「様は余計だっての。呼び捨てでいいって言ってるだろ」
「そんな、ジルドラン様は勇者なんだから呼び捨てになんてできません!」
彼はググっと両拳に力を込めて、体を前のめりにしてくる。
俺はそんな彼の深紅の髪を鷲掴みにする。
「鬱陶しいなぁ、お前は」
「いたたた、やめてくださいよ! ジルドラン様!」
「しょうがねぇな、やめてやるか。そ~れ、わしゃわしゃわしゃ~っと」
彼の髪をぐちゃぐちゃにして解放してやると、クルスは唇を尖らせながら髪を整え直した。
「もう~、すぐに子ども扱いするんですから~」
「子どもだろ。とはいえ、あと五年。いや、三年もすりゃ、俺を超えるだろうけどな」
「そ、そんなことありませんよ! 僕が尊敬するジルドラン様を超えるなんて!!」
彼は深紅の瞳に、まっすぐ憧れの勇者の姿を映す。
俺の名声は地に落ちていても、まだ、勇者として戦う俺の姿に憧れる者たちが残っている。
その筆頭が、このクルス。
彼の様子を見て、俺は心の中で苦笑する。
(こりゃ、貴族連中が俺を遠ざけたがるはずだな。担ぎ上げたい神輿が、俺に傾倒してるんだから)
彼に気づかれないよう小さな笑いを漏らして、穢れを知らぬ少年を見つめる。
(クルスを利用すれば、まだ挽回の余地はあるが……はは、無垢な少年を利用してまで政治の切った張ったを行う気力なんてもうねぇわな)
俺は執務室に残るアルダダスに意識を向ける。
(守ってやってくれよ、アルダダス…………フッ、お払い箱をこれ幸いとして逃げ出す卑怯者が、何を言ってやがる)
これから、アルダダスには大きな苦難が待ち受けている。そうだというのに、俺はすべてを友に押し付けて、無垢な少年が蹂躙されようとしているのに見捨てて逃げ出そうとしている。
そんな男はもはや、勇者でも何でもないだろう。
ただのクズという呼び方がしっくりくる。
俺はクルスの頭をポンポンと二度叩いて、贖罪代わりのアドバイスを残して去ることした。
「俺は用事があるからじゃあな」
「え、待ってくださいよ~」
「待たない。お前こそ、いつまでもリリスを待たせてないで、そろそろ告白しろよ~」
「な、な、な、な、な、何を言っているんですか。僕は彼女とは――」
「はいはい、ごちそうさん――と、マジな話だが、彼女は大事にしとけ。有能だからな」
「ええ、魔法使いとして超一流ですからね」
「そっちの方じゃねえよ」
「へ?」
「政治家としてだ。じゃあな」
俺は背中を向けたまま手を振って立ち去る。
後ろではクルスがまだ何かを言っていたが、相手にしてあげない。
(あいつには俺の時とは違い、リリスたちがいる。戦場で肩を並べられ、且つ、頭の切れる仲間たちがいる。クルスはぽやっとしてるが、仲間たちとアルダダスがいるかぎり、そう簡単には取り込まれんだろ)
俺は歩みを止めて、振り返る。
そして、もう見ることのない王城を翡翠色の瞳に宿した。
「十五年か……長いようであっという間だったな。後輩たちは近々俺を超えていくだろうし、人間族は安泰だ。逆に、魔王ガルボグは苦労するだろうけどな」
俺は瞳を北方の魔族領域へ向ける。
「魔王ガルボグ。剣を交えたのは一度だけ。強かった。俺よりも……あの時、何故かお前は俺を見逃した。その理由を知りたかったが、それはもう叶いそうにないな。できることならば、もう一度会いたかった。もう一度、剣で語り合いたかった……」
――宰相・執務室
アルダダスは窓のそばに立ち、そこから見下ろせる王城の中庭を眺めていた。
「ジルドラン。クルスはいずれ、勇者としての君を――お前を超えるだろう。クルスには、お前にはない魅力がある。他者を惹きつける魅力が。やがては英雄として詩が残り、後世まで伝えられるだろう。だが、それは英雄としての勇者の才だ」
彼は煌びやかさに隠された窮屈な中庭から、自由な青空へと紅玉の瞳を上げた。
「だが、人間らしい勇者としての才は、不変の守護者と称されるお前の方が遥かに上。お前が真に輝くときは、いつだって小さな村や少数の人々という弱き者たちを守るときだった。国家や種族の存亡という大事になると、どういうわけかその輝きが鈍る。難儀な男だ」
瞳を下げて、遠くへ遠くへと投げる。
「もし、お前に守るべき者が生まれ、それを守るために剣を振るう時が来たとすれば……ジルドラン、お前は何者にも負けぬだろう。その相手がたとえ、クルスであろうと魔王ガルボグであろうと」
そこで、次代の勇者であるクルス=オーウェンの姿を見かけた。
深紅の髪色のツーブロックに、深紅の瞳を持つ少年。
顔立ちも瞳も丸っこくて、背もまだまだ小さい。
彼は十四歳の少年らしい溌溂とした様子で俺に駆け寄ってきた。
あの様子だと、俺の件はまだ耳に入っていないのだろう。
「ジルドラン様!」
「様は余計だっての。呼び捨てでいいって言ってるだろ」
「そんな、ジルドラン様は勇者なんだから呼び捨てになんてできません!」
彼はググっと両拳に力を込めて、体を前のめりにしてくる。
俺はそんな彼の深紅の髪を鷲掴みにする。
「鬱陶しいなぁ、お前は」
「いたたた、やめてくださいよ! ジルドラン様!」
「しょうがねぇな、やめてやるか。そ~れ、わしゃわしゃわしゃ~っと」
彼の髪をぐちゃぐちゃにして解放してやると、クルスは唇を尖らせながら髪を整え直した。
「もう~、すぐに子ども扱いするんですから~」
「子どもだろ。とはいえ、あと五年。いや、三年もすりゃ、俺を超えるだろうけどな」
「そ、そんなことありませんよ! 僕が尊敬するジルドラン様を超えるなんて!!」
彼は深紅の瞳に、まっすぐ憧れの勇者の姿を映す。
俺の名声は地に落ちていても、まだ、勇者として戦う俺の姿に憧れる者たちが残っている。
その筆頭が、このクルス。
彼の様子を見て、俺は心の中で苦笑する。
(こりゃ、貴族連中が俺を遠ざけたがるはずだな。担ぎ上げたい神輿が、俺に傾倒してるんだから)
彼に気づかれないよう小さな笑いを漏らして、穢れを知らぬ少年を見つめる。
(クルスを利用すれば、まだ挽回の余地はあるが……はは、無垢な少年を利用してまで政治の切った張ったを行う気力なんてもうねぇわな)
俺は執務室に残るアルダダスに意識を向ける。
(守ってやってくれよ、アルダダス…………フッ、お払い箱をこれ幸いとして逃げ出す卑怯者が、何を言ってやがる)
これから、アルダダスには大きな苦難が待ち受けている。そうだというのに、俺はすべてを友に押し付けて、無垢な少年が蹂躙されようとしているのに見捨てて逃げ出そうとしている。
そんな男はもはや、勇者でも何でもないだろう。
ただのクズという呼び方がしっくりくる。
俺はクルスの頭をポンポンと二度叩いて、贖罪代わりのアドバイスを残して去ることした。
「俺は用事があるからじゃあな」
「え、待ってくださいよ~」
「待たない。お前こそ、いつまでもリリスを待たせてないで、そろそろ告白しろよ~」
「な、な、な、な、な、何を言っているんですか。僕は彼女とは――」
「はいはい、ごちそうさん――と、マジな話だが、彼女は大事にしとけ。有能だからな」
「ええ、魔法使いとして超一流ですからね」
「そっちの方じゃねえよ」
「へ?」
「政治家としてだ。じゃあな」
俺は背中を向けたまま手を振って立ち去る。
後ろではクルスがまだ何かを言っていたが、相手にしてあげない。
(あいつには俺の時とは違い、リリスたちがいる。戦場で肩を並べられ、且つ、頭の切れる仲間たちがいる。クルスはぽやっとしてるが、仲間たちとアルダダスがいるかぎり、そう簡単には取り込まれんだろ)
俺は歩みを止めて、振り返る。
そして、もう見ることのない王城を翡翠色の瞳に宿した。
「十五年か……長いようであっという間だったな。後輩たちは近々俺を超えていくだろうし、人間族は安泰だ。逆に、魔王ガルボグは苦労するだろうけどな」
俺は瞳を北方の魔族領域へ向ける。
「魔王ガルボグ。剣を交えたのは一度だけ。強かった。俺よりも……あの時、何故かお前は俺を見逃した。その理由を知りたかったが、それはもう叶いそうにないな。できることならば、もう一度会いたかった。もう一度、剣で語り合いたかった……」
――宰相・執務室
アルダダスは窓のそばに立ち、そこから見下ろせる王城の中庭を眺めていた。
「ジルドラン。クルスはいずれ、勇者としての君を――お前を超えるだろう。クルスには、お前にはない魅力がある。他者を惹きつける魅力が。やがては英雄として詩が残り、後世まで伝えられるだろう。だが、それは英雄としての勇者の才だ」
彼は煌びやかさに隠された窮屈な中庭から、自由な青空へと紅玉の瞳を上げた。
「だが、人間らしい勇者としての才は、不変の守護者と称されるお前の方が遥かに上。お前が真に輝くときは、いつだって小さな村や少数の人々という弱き者たちを守るときだった。国家や種族の存亡という大事になると、どういうわけかその輝きが鈍る。難儀な男だ」
瞳を下げて、遠くへ遠くへと投げる。
「もし、お前に守るべき者が生まれ、それを守るために剣を振るう時が来たとすれば……ジルドラン、お前は何者にも負けぬだろう。その相手がたとえ、クルスであろうと魔王ガルボグであろうと」
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