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第二章 ベタないじめを拳でぶっ飛ばす
言葉を奪われた少女
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模擬戦から数日後――学園・教室
模擬戦の騒動後、結局、お説教と行動報告書と罰として何かしらの仕事を与えるということで落ち着きました。
そして、赤点に対する補習は免れませんでした。これが一番つらいです。
いま私は、学園の教室で帰り支度をしています。
もう本授業はないので、これから補習授業です。はぁ~、気が滅入ります。
教室は長方形の部屋で、正面に黒板と教卓があり、その前には学生が着席する机と椅子が置いてある、よくある学校の教室です。
私の席は一番後ろで、窓際から二番目の場所。
帰り支度をしていると、窓際から一番目の席――私の隣に座るラナちゃんが話しかけてきました。
「あの……落ち……」
「うん、なんですか? あ、鉛筆を落としていましたか。ありがとうございます、拾ってくれて」
「……うん」
ラナちゃんは栗色の髪と同じく栗色の瞳を持つ女の子。
とても長い髪を大きめの緑色のリボンで一本に纏めています。
容姿は大変愛らしくて、私よりも背が低く小柄で童顔なため、年下に見えちゃいます。
得意な魔法は癒し系や補助系魔法。私の苦手な分野です。
彼女はとってもかわいい声で、その音が猫耳に当たると心地良さに身を預けたくなるほどでした。
初めて出会った頃は良くおしゃべりをして、猫耳を癒しに包み込んでいましたが、とあることが原因であまり声を出さない女の子になってしまいました。
私はそんなラナちゃんを気遣って言葉を返します。
「私の前では遠慮なくしゃべってくれてもいいですよ。私もラナちゃんと同じ庶民出身ですし、地方出身ですから」
「あ……うん」
するとそこへ、ラナちゃんから声を奪った張本人が訪れました。
「あ~ら、ミコン。今から補習? 学園でも特進クラスに位置する魔導科の恥さらしですわね」
心の模様とそっくりな真っ黒なドレスに身を包む、金髪のロングヘアの無駄にプライドが高い四大名門貴族のネティアです。
相も変わらず取り巻きABCを引き連れています。
「何か用ですか? 保険の勧誘なら間に合っていますが?」
「ふん、態度だけは特進ですこと。あなた、恥ずかしくないんですか?」
「何がですか?」
「あら、わからないのかしら。補習のことですよ」
「別に恥ずかしくないです。で?」
「クッ、本当に態度だけは……」
私はネティアを小馬鹿にする視線を見せて、ネティアは私を見下す視線を見せます。
互いの視線が静かな火花を散らしていると、それを収めようと優しいラナちゃんが声を差し入れてくれます。
「あんづ、二人ともぜんがはやめにーに」
この言葉に取り巻き三人娘が吹き出しました。
「ぷふぅ、今の聞いた。方言丸出しでちょ~ウケるんですけど」
「何言ってるんだかさっぱり。どの世界の言葉なの~」
「クスクスクス、へ~んな言葉」
三人の心無い声に、ラナちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまいます。
だからラナちゃんの代わりに、私が声を上げます。
「騒がしい取り巻きですねぇ。お偉いさんの娘にくっつく腰ぎんちゃくっていつの時代の設定ですか。過去からやってきたんですか? 帰って下さい。ここは現代なんで」
「「「この~」」」
三人娘が何かを言い返そうと口を開きかけました。
ですが、相手にしても仕方ないのでさっさと本丸に切り込みます。
「ネティア、元々あなたがラナちゃんを傷つけたからですよ。あなたがラナちゃんの言葉を物笑いにしたせいで、ラナちゃんは話しづらくなったんですからね!」
「……それが、どうかしましたか?」
「どうかしましたかって? あなたの心無い言葉で一人の女の子を傷つけたんですよ! 謝罪くらいしたらどうですか!」
「私は何も間違ったことは指摘していませんわ」
「はぁ?」
ネティアは私から視線を外して、ラナちゃんを観察するように見つめます。
その視線をラナちゃんが怯えた表情で受け止めました。
私は視線を間に立ち、それを遮ります。
するとネティアは小さなため息をついて、視線を私に戻しました。
「私は別に方言がおかしいという指摘はしていませんわよ。ただ、そんな言葉は通じないからやめなさいと言っただけ」
「そんな言葉と何ですか!?」
「そんな言葉はそんな言葉です。いいですか、ミコン。私たちは学園の生徒ですが同時に魔導生でもあります。普通科以外の武術科の武道生や魔導科の魔導生は士官候補生扱いされる部分もありますから、状況によっては戦場へ送り出される可能性もあるんですよ」
「……たしかに、そういった可能性はあるでしょうね」
「ええ、大いにあります。そのような状況下で互いの意思の疎通が取れない言葉を使われると迷惑なんです。だからこそ方言を使うのをお止めになりなさいと言っただけのこと。私の指摘は間違っていますか?」
そう言って、ラナちゃんを見つめるネティア
私は一度ネティアから視線を切り、沈んだ表情を見せているラナちゃんにちらりと視線を振ってから、再びネティアを睨みつけます。
「指摘自体になんら疑問はありません。ですが、相手の心を考えずに明け透けに傷つけるような発言は間違っています! 私は覚えていますよ、あの時のあなたの言い草を!」
『なんですか、その言葉遣いは? みっともない。魔導生なら王国の標準語くらいマスターしてから入学したらどうなんですの? これだから庶民は心構えの程度が低い。恥知らずだこと』
「入学して、初めて出会った同級生。緊張に心が落ち着かない状況で、そんな言葉を掛けられたら萎縮するに決まっているでしょう! あなたはそんなこともわからないんですか!?」
「ふふ、この程度で委縮するのでしたら学園を去ればいいことですわよ。これから先、私たちには魔導生に相応しい厳しい試練が――」
「それはあなたが決めることではないでしょう!!」
私はネティアの声を遮り、大声を張り上げました。
これにネティアは一瞬身体を仰け反りましたが、すぐに戻して睨み返してきます。
「あら、親切心のつもりですが?」
「あなたは親切心で同級生から言葉を奪っていいと思っているんですか?」
「……ふん」
「ラナちゃんが言葉についてこれからどうするかはラナちゃんが考えること。そして、学園に相応しいかどうかは先生方が考えること。ネティア、あなたにラナちゃんの可能性を判断する権限はありませんよ」
この言葉に、ネティアは小さく唇の端を噛みました。
私はここぞとばかりに言葉を付け足します……ですが、この言葉が彼女の触れてはならない部分に触れてしまったのです。
「あなたも私も一生徒。ネティア、あなたは四大名門の肩書きに自惚れて、自分の立場を見失っているんじゃありませんか?」
「黙りなさい!!」
普段はどのような言葉で言い返そうとも余裕の表情を見せているネティアが、近くにあった机を拳で叩きつけて、目を見開き真っ赤な瞳で私を睨みつけてきます。
「あなた如き庶民に、貴族の何たるかなんてわかるわけないでしょう!」
そう言って、全身を魔力で包みます。
目には殺意が浮かび、冗談や脅しでないことがわかります。
私は両手を握り締めて、拳を前に出します。
「やる気ですか?」
「ええ、ここで上下をはっきりさせた方がよろしいみたいですからね」
「フフ、面白いですね。ですが、すでに死線を越えてますよ、ネティア」
「なんですって?」
「この距離。この間合い……あなたが魔法を発動するよりも早く、私の高速猫パンチがあなたの臓腑を抉ります」
私は言葉を閉じて、彼女の瞳を視線で射抜きました。
ネティアは不敵な笑みを漏らしつつも、状況の不利を知り、額に汗を浮かべています。
ここで、ラナちゃんが私の腰を強く掴んできました。
「だや、ぜんかはだや! わんずのためにぜんかはだや!」
彼女の声に私は我に返ります。それはネティアも同じ。
私とネティアは拳と魔力を収めて、小さく息をつきます。
「少し、感情的になってしまいましたね」
「そうですわね……ふぅ」
ネティアは首を左右に振り、いきり立った感情を振り捨てます。
そこから強引に話題を変えて、場の空気を変えようとしました。
模擬戦の騒動後、結局、お説教と行動報告書と罰として何かしらの仕事を与えるということで落ち着きました。
そして、赤点に対する補習は免れませんでした。これが一番つらいです。
いま私は、学園の教室で帰り支度をしています。
もう本授業はないので、これから補習授業です。はぁ~、気が滅入ります。
教室は長方形の部屋で、正面に黒板と教卓があり、その前には学生が着席する机と椅子が置いてある、よくある学校の教室です。
私の席は一番後ろで、窓際から二番目の場所。
帰り支度をしていると、窓際から一番目の席――私の隣に座るラナちゃんが話しかけてきました。
「あの……落ち……」
「うん、なんですか? あ、鉛筆を落としていましたか。ありがとうございます、拾ってくれて」
「……うん」
ラナちゃんは栗色の髪と同じく栗色の瞳を持つ女の子。
とても長い髪を大きめの緑色のリボンで一本に纏めています。
容姿は大変愛らしくて、私よりも背が低く小柄で童顔なため、年下に見えちゃいます。
得意な魔法は癒し系や補助系魔法。私の苦手な分野です。
彼女はとってもかわいい声で、その音が猫耳に当たると心地良さに身を預けたくなるほどでした。
初めて出会った頃は良くおしゃべりをして、猫耳を癒しに包み込んでいましたが、とあることが原因であまり声を出さない女の子になってしまいました。
私はそんなラナちゃんを気遣って言葉を返します。
「私の前では遠慮なくしゃべってくれてもいいですよ。私もラナちゃんと同じ庶民出身ですし、地方出身ですから」
「あ……うん」
するとそこへ、ラナちゃんから声を奪った張本人が訪れました。
「あ~ら、ミコン。今から補習? 学園でも特進クラスに位置する魔導科の恥さらしですわね」
心の模様とそっくりな真っ黒なドレスに身を包む、金髪のロングヘアの無駄にプライドが高い四大名門貴族のネティアです。
相も変わらず取り巻きABCを引き連れています。
「何か用ですか? 保険の勧誘なら間に合っていますが?」
「ふん、態度だけは特進ですこと。あなた、恥ずかしくないんですか?」
「何がですか?」
「あら、わからないのかしら。補習のことですよ」
「別に恥ずかしくないです。で?」
「クッ、本当に態度だけは……」
私はネティアを小馬鹿にする視線を見せて、ネティアは私を見下す視線を見せます。
互いの視線が静かな火花を散らしていると、それを収めようと優しいラナちゃんが声を差し入れてくれます。
「あんづ、二人ともぜんがはやめにーに」
この言葉に取り巻き三人娘が吹き出しました。
「ぷふぅ、今の聞いた。方言丸出しでちょ~ウケるんですけど」
「何言ってるんだかさっぱり。どの世界の言葉なの~」
「クスクスクス、へ~んな言葉」
三人の心無い声に、ラナちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまいます。
だからラナちゃんの代わりに、私が声を上げます。
「騒がしい取り巻きですねぇ。お偉いさんの娘にくっつく腰ぎんちゃくっていつの時代の設定ですか。過去からやってきたんですか? 帰って下さい。ここは現代なんで」
「「「この~」」」
三人娘が何かを言い返そうと口を開きかけました。
ですが、相手にしても仕方ないのでさっさと本丸に切り込みます。
「ネティア、元々あなたがラナちゃんを傷つけたからですよ。あなたがラナちゃんの言葉を物笑いにしたせいで、ラナちゃんは話しづらくなったんですからね!」
「……それが、どうかしましたか?」
「どうかしましたかって? あなたの心無い言葉で一人の女の子を傷つけたんですよ! 謝罪くらいしたらどうですか!」
「私は何も間違ったことは指摘していませんわ」
「はぁ?」
ネティアは私から視線を外して、ラナちゃんを観察するように見つめます。
その視線をラナちゃんが怯えた表情で受け止めました。
私は視線を間に立ち、それを遮ります。
するとネティアは小さなため息をついて、視線を私に戻しました。
「私は別に方言がおかしいという指摘はしていませんわよ。ただ、そんな言葉は通じないからやめなさいと言っただけ」
「そんな言葉と何ですか!?」
「そんな言葉はそんな言葉です。いいですか、ミコン。私たちは学園の生徒ですが同時に魔導生でもあります。普通科以外の武術科の武道生や魔導科の魔導生は士官候補生扱いされる部分もありますから、状況によっては戦場へ送り出される可能性もあるんですよ」
「……たしかに、そういった可能性はあるでしょうね」
「ええ、大いにあります。そのような状況下で互いの意思の疎通が取れない言葉を使われると迷惑なんです。だからこそ方言を使うのをお止めになりなさいと言っただけのこと。私の指摘は間違っていますか?」
そう言って、ラナちゃんを見つめるネティア
私は一度ネティアから視線を切り、沈んだ表情を見せているラナちゃんにちらりと視線を振ってから、再びネティアを睨みつけます。
「指摘自体になんら疑問はありません。ですが、相手の心を考えずに明け透けに傷つけるような発言は間違っています! 私は覚えていますよ、あの時のあなたの言い草を!」
『なんですか、その言葉遣いは? みっともない。魔導生なら王国の標準語くらいマスターしてから入学したらどうなんですの? これだから庶民は心構えの程度が低い。恥知らずだこと』
「入学して、初めて出会った同級生。緊張に心が落ち着かない状況で、そんな言葉を掛けられたら萎縮するに決まっているでしょう! あなたはそんなこともわからないんですか!?」
「ふふ、この程度で委縮するのでしたら学園を去ればいいことですわよ。これから先、私たちには魔導生に相応しい厳しい試練が――」
「それはあなたが決めることではないでしょう!!」
私はネティアの声を遮り、大声を張り上げました。
これにネティアは一瞬身体を仰け反りましたが、すぐに戻して睨み返してきます。
「あら、親切心のつもりですが?」
「あなたは親切心で同級生から言葉を奪っていいと思っているんですか?」
「……ふん」
「ラナちゃんが言葉についてこれからどうするかはラナちゃんが考えること。そして、学園に相応しいかどうかは先生方が考えること。ネティア、あなたにラナちゃんの可能性を判断する権限はありませんよ」
この言葉に、ネティアは小さく唇の端を噛みました。
私はここぞとばかりに言葉を付け足します……ですが、この言葉が彼女の触れてはならない部分に触れてしまったのです。
「あなたも私も一生徒。ネティア、あなたは四大名門の肩書きに自惚れて、自分の立場を見失っているんじゃありませんか?」
「黙りなさい!!」
普段はどのような言葉で言い返そうとも余裕の表情を見せているネティアが、近くにあった机を拳で叩きつけて、目を見開き真っ赤な瞳で私を睨みつけてきます。
「あなた如き庶民に、貴族の何たるかなんてわかるわけないでしょう!」
そう言って、全身を魔力で包みます。
目には殺意が浮かび、冗談や脅しでないことがわかります。
私は両手を握り締めて、拳を前に出します。
「やる気ですか?」
「ええ、ここで上下をはっきりさせた方がよろしいみたいですからね」
「フフ、面白いですね。ですが、すでに死線を越えてますよ、ネティア」
「なんですって?」
「この距離。この間合い……あなたが魔法を発動するよりも早く、私の高速猫パンチがあなたの臓腑を抉ります」
私は言葉を閉じて、彼女の瞳を視線で射抜きました。
ネティアは不敵な笑みを漏らしつつも、状況の不利を知り、額に汗を浮かべています。
ここで、ラナちゃんが私の腰を強く掴んできました。
「だや、ぜんかはだや! わんずのためにぜんかはだや!」
彼女の声に私は我に返ります。それはネティアも同じ。
私とネティアは拳と魔力を収めて、小さく息をつきます。
「少し、感情的になってしまいましたね」
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