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第四章 山に木霊する叫び声
本質を見抜く力
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――その頃、ネティアチーム
ネティアたちは一気に道を進み、先行していた生徒たちを追い越して、トップに躍り出ていた。
ネティアが道沿いで佇んでいると、近くの茂みから三人の取り巻きが出てくる。
「ネティア様」
「三つ目のスタンプ、ありましたよ」
「ですけど、やはり道沿いの傍にあるものですから点数が……」
「構いませんわ。今回の課題の本質は情報を届けること。スタンプ集めに奔走するなど愚の骨頂ですから」
「でしたら、どうしてスタンプを? 道沿いとはいえ、集めると評価が下がるのでは?」
「たしかに裏の評価は下がりますが、表の評価は上がります。裏は今後のクラス分けや進路に影響しますが、表は表で日常の点数に反映されますから。私はともかく、お三方は目にわかる点数をご両親へ届けないと具合が悪いでしょう。ですから、多少なりともスタンプを集めておかないと」
「私たちのために! 申し訳ありません。お気遣いいただいて」
「ふふ、友人のためですもの。この程度のこと。それよりも――」
ネティアは後方へ視線を飛ばし、僅かに眉を顰める。
「ミコンとレンさんが姿を現さないのが気になりますわね……」
「どこかで罠に嵌まったとか? もしくは別の道を選んだとか?」
「それはないでしょう。私たちの道が最短コース。私たちに追いつきたいと考えているはずですから、選ばない理由がない。これに加え、ミコンは生意気な上、現代魔法の才はからっきしですけど、古代魔法に関しては一級品ですから」
「そうでしょうか?」
「ふふ、現代魔法しか知らぬ私たちから見れば、推し量りにくいところがありますから判断は難しいでしょうが……ですが、魔力量だけなら現状でもミコンの方が私よりも上です。いえ、賢者セラウィク様さえも越えているかも」
「そんなわけ――」
「これは事実です。腹立たしいですけどね。実際にその魔力量があったからこそ、セラウィク様の前であれだけの魔法を産み出すことができたのですから」
「それは怪しげな魔道具があったからで」
「もちろんそれもあるでしょうが、それだけではあの魔法は生み出せません。もし、彼女の持つ魔力量が現代魔法と結びついたら、どれほどの魔法を産み出せるのか想像も及びませんわね」
「ネティア様は、ミコンを評価しているんですか?」
「正当な目で見ているだけです。なんにせよ、あちらにはレンさんも居ます。脱落するようなことはないでしょう。だからこそ気になるんです。ミコンの性格なら、一気に駆け抜け、私たちに追いついてきそうなものですが……」
「スタンプに目がくらんで足を止めてるとかでは?」
この言葉に、ネティアは口端を噛む。
「残念ですが、ミコンは本質を見極める嗅覚に優れています……ほんと、庶民の分際で鬱陶しい」
彼女を包む小さな殺気に、三人は怯えを見せる。
三人には何故、これほどまでにネティアがミコンを敵視するのかわからない。
たしかに、ネティアは貴族と庶民のラインを明確にすべきだという思想の持主。
故に、庶民に対して貴族としての振る舞いを見せる。
だが、決して庶民に対して辛辣に当たるわけではない。
明確な序列を示すのみ。そうだというのに、ミコンに対しては憎しみを抱くような態度を見せる。
三人は思う――
(ミコンを嫌って?)
(いえ、認めて?)
(違う! まさか、恐れて?)
そう、ネティアにあるのはミコンに対する恐れ。
それはエリートである自分の実力を庶民如きが上回るかもしれないなどという、小さな恐れではない。
もっと大きな恐れ。
彼女自身の存在理由を根底から切り崩しかねない者に対する――恐れ。
ネティアは小さな息を漏らし、手にしていた黄金の魔法石を冠した魔導杖の杖先で地面を数度叩き、軽く頭を振って意識を変えた。
「来ない人たちのことを考えても仕方ありません。絶対に追いつかれないように一気に目的地を目指しましょう…………とはいえ、さすがに休息は必要でしょう。フフ」
彼女は三人に微笑むと、三人は申し訳なさそうな態度を取る。
ネティアにはまだ余裕があったが、三人は不慣れな山道を歩き、疲れが見えていた。
「ふふふ、では、少しだけ食事休憩にしましょう。皆さんがスタンプを取りに行っている間に良いモノを見つけたんですよ」
「良いもの? 何かの果物とかですか?」
「それよりも甘く、美味しくて、滋養に富んだものです」
彼女は意気揚々と茂みに近づき、両手に巨大な――――ハチの巣を乗せて見せつけてきた。
「ほら、美味しそうな、蜂の子」
「「「ギャー!!」」」
三人は一斉に悲鳴を上げた。
それらは山中に木霊して、小動物たちの心臓を穿ち温かさを奪い、空の支配者たる鳥たちは無様に羽を羽ばたかせながらも我先にと空へ逃げ出し、課外授業を受けている他の生徒は恐怖に足を掴まれる。
生徒たちは震えで噛み合わぬ歯を無理やり閉じて、音を消し、周囲を窺いつつも悲鳴の先を想像する。
何か恐ろし気なトラップに引っ掛かった者がいるのではないかと――。
「ね、ね、ねてぃ、ねてぃ……」
「わかりますわよ。私も最初これをミコンに見せられた時は、驚きに小さな悲鳴を上げてしまいましたもの」
「ミコンが?」
「ええ。ですが、食べられるものと知り、口にしてみたらなかなかどうして。とても美味で驚きました。スラムの黒糖饅頭といい、あの子は私がそう口にする機会のない美食を紹介してくれるので、そこは大変役に立っています」
「そ、そうなんですか……」
「ま、馬は合いませんが……では、お三方もどうぞ」
「「「え?」」」
「見た目はグロテスクですが、味は保証します。皆さんにもこの美味しさを堪能してほしいんです。ほら、この右端の子が一番大きくて、ぷにぷに感があって愛らしく美味しそうですよ。さぁ、さぁ、さぁ!」
迫りくる、白い蜂の子の軍勢!
三人は心の中で呪いの言葉を飛ばす。
(((ミコンめ! ネティア様に余計なこと吹き込んで! あのっ、バカ猫ぉおおおぉぉぉぉ!!)))
ネティアたちは一気に道を進み、先行していた生徒たちを追い越して、トップに躍り出ていた。
ネティアが道沿いで佇んでいると、近くの茂みから三人の取り巻きが出てくる。
「ネティア様」
「三つ目のスタンプ、ありましたよ」
「ですけど、やはり道沿いの傍にあるものですから点数が……」
「構いませんわ。今回の課題の本質は情報を届けること。スタンプ集めに奔走するなど愚の骨頂ですから」
「でしたら、どうしてスタンプを? 道沿いとはいえ、集めると評価が下がるのでは?」
「たしかに裏の評価は下がりますが、表の評価は上がります。裏は今後のクラス分けや進路に影響しますが、表は表で日常の点数に反映されますから。私はともかく、お三方は目にわかる点数をご両親へ届けないと具合が悪いでしょう。ですから、多少なりともスタンプを集めておかないと」
「私たちのために! 申し訳ありません。お気遣いいただいて」
「ふふ、友人のためですもの。この程度のこと。それよりも――」
ネティアは後方へ視線を飛ばし、僅かに眉を顰める。
「ミコンとレンさんが姿を現さないのが気になりますわね……」
「どこかで罠に嵌まったとか? もしくは別の道を選んだとか?」
「それはないでしょう。私たちの道が最短コース。私たちに追いつきたいと考えているはずですから、選ばない理由がない。これに加え、ミコンは生意気な上、現代魔法の才はからっきしですけど、古代魔法に関しては一級品ですから」
「そうでしょうか?」
「ふふ、現代魔法しか知らぬ私たちから見れば、推し量りにくいところがありますから判断は難しいでしょうが……ですが、魔力量だけなら現状でもミコンの方が私よりも上です。いえ、賢者セラウィク様さえも越えているかも」
「そんなわけ――」
「これは事実です。腹立たしいですけどね。実際にその魔力量があったからこそ、セラウィク様の前であれだけの魔法を産み出すことができたのですから」
「それは怪しげな魔道具があったからで」
「もちろんそれもあるでしょうが、それだけではあの魔法は生み出せません。もし、彼女の持つ魔力量が現代魔法と結びついたら、どれほどの魔法を産み出せるのか想像も及びませんわね」
「ネティア様は、ミコンを評価しているんですか?」
「正当な目で見ているだけです。なんにせよ、あちらにはレンさんも居ます。脱落するようなことはないでしょう。だからこそ気になるんです。ミコンの性格なら、一気に駆け抜け、私たちに追いついてきそうなものですが……」
「スタンプに目がくらんで足を止めてるとかでは?」
この言葉に、ネティアは口端を噛む。
「残念ですが、ミコンは本質を見極める嗅覚に優れています……ほんと、庶民の分際で鬱陶しい」
彼女を包む小さな殺気に、三人は怯えを見せる。
三人には何故、これほどまでにネティアがミコンを敵視するのかわからない。
たしかに、ネティアは貴族と庶民のラインを明確にすべきだという思想の持主。
故に、庶民に対して貴族としての振る舞いを見せる。
だが、決して庶民に対して辛辣に当たるわけではない。
明確な序列を示すのみ。そうだというのに、ミコンに対しては憎しみを抱くような態度を見せる。
三人は思う――
(ミコンを嫌って?)
(いえ、認めて?)
(違う! まさか、恐れて?)
そう、ネティアにあるのはミコンに対する恐れ。
それはエリートである自分の実力を庶民如きが上回るかもしれないなどという、小さな恐れではない。
もっと大きな恐れ。
彼女自身の存在理由を根底から切り崩しかねない者に対する――恐れ。
ネティアは小さな息を漏らし、手にしていた黄金の魔法石を冠した魔導杖の杖先で地面を数度叩き、軽く頭を振って意識を変えた。
「来ない人たちのことを考えても仕方ありません。絶対に追いつかれないように一気に目的地を目指しましょう…………とはいえ、さすがに休息は必要でしょう。フフ」
彼女は三人に微笑むと、三人は申し訳なさそうな態度を取る。
ネティアにはまだ余裕があったが、三人は不慣れな山道を歩き、疲れが見えていた。
「ふふふ、では、少しだけ食事休憩にしましょう。皆さんがスタンプを取りに行っている間に良いモノを見つけたんですよ」
「良いもの? 何かの果物とかですか?」
「それよりも甘く、美味しくて、滋養に富んだものです」
彼女は意気揚々と茂みに近づき、両手に巨大な――――ハチの巣を乗せて見せつけてきた。
「ほら、美味しそうな、蜂の子」
「「「ギャー!!」」」
三人は一斉に悲鳴を上げた。
それらは山中に木霊して、小動物たちの心臓を穿ち温かさを奪い、空の支配者たる鳥たちは無様に羽を羽ばたかせながらも我先にと空へ逃げ出し、課外授業を受けている他の生徒は恐怖に足を掴まれる。
生徒たちは震えで噛み合わぬ歯を無理やり閉じて、音を消し、周囲を窺いつつも悲鳴の先を想像する。
何か恐ろし気なトラップに引っ掛かった者がいるのではないかと――。
「ね、ね、ねてぃ、ねてぃ……」
「わかりますわよ。私も最初これをミコンに見せられた時は、驚きに小さな悲鳴を上げてしまいましたもの」
「ミコンが?」
「ええ。ですが、食べられるものと知り、口にしてみたらなかなかどうして。とても美味で驚きました。スラムの黒糖饅頭といい、あの子は私がそう口にする機会のない美食を紹介してくれるので、そこは大変役に立っています」
「そ、そうなんですか……」
「ま、馬は合いませんが……では、お三方もどうぞ」
「「「え?」」」
「見た目はグロテスクですが、味は保証します。皆さんにもこの美味しさを堪能してほしいんです。ほら、この右端の子が一番大きくて、ぷにぷに感があって愛らしく美味しそうですよ。さぁ、さぁ、さぁ!」
迫りくる、白い蜂の子の軍勢!
三人は心の中で呪いの言葉を飛ばす。
(((ミコンめ! ネティア様に余計なこと吹き込んで! あのっ、バカ猫ぉおおおぉぉぉぉ!!)))
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