この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年~

雪野湯

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第24話 不死者狩りの剣

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――――アルムスのなじみのお店

 その店は歓楽街の隅にあった。
 すすぼけた木造の二階建て。
 店外にまで溢れ出す、壺や皿や植木鉢などの陶器類。
 一階と二階に挟まれた壁には家と同じく木製の看板。
 そこにはこう書かれてあった。


――質屋・シーイング――


 オリカは人差し指で看板を差しつつ、俺に尋ねてくる。
「あの……質屋さん?」
「うん、ここは何でも売ってるんだ。もちろん、武器も」
「そうなの?」

「ほら、ここって歓楽街じゃん。だからこの店は、飲み屋のツケとかギャンブルとかで首が回らなくなった人たちの駆け込み寺みたいになってるんだよ。そのおかげで色んな商品が集まる集まる」
「そういうこと……それは納得できたけど、どうして質屋さんに詳しいの?」

 この問いに、俺は小さく笑う。
「フッ、常連だから。お金なくて……」
「そ、そう……」
「というわけで、さっそく入ろうか! スノーラばーちゃん、来たよ~!」


 ガラス戸を横にスライドして店内へ。俺の後ろからオリカがついてくる。
 天井には光の魔石と呼ばれる魔力を含んだ石がぶら下がっていて、店内を明るく照らし出していた。
 明かりの下、商品が所狭しと並び、その内容は種種雑多。

 鍋や包丁といった日用品から絵画や彫刻といった美術品。
 狭い通路の先にはカウンターがあり、そこのガラスケースには金や銀の貴金属類に宝石類が並ぶ。
 さすがに食べ物は置いてないけど、金券なんかは置いてある。

 俺が呼びかけると、カウンター席で煙管キセルを片手に紫煙を浮かべていたばーちゃんが立ち上がり、小さなため息を漏らしながらこちらへ近づいてくる。


「ま~た、質入れかい?」

 茶色のワンピースにこげ茶の厚手のエプロンを着用し、短めのグレイヘアを揺らす六十半ばのおばあちゃん。
 この人が、この質屋を一人で切り盛りしている店主のスノーラばーちゃん。
 ばーちゃんは目尻に深いしわを刻んだ栗色の瞳をオリカへちらりと振り、年相応の渋めのハスキーボイスで話しかけてきた。


「お店の子をうちに紹介しにきた、というわけじゃなさそうだね。剣士服に剣……お嬢ちゃんは坊ややレックスと同じギルドの子かい?」

「はい。ギルドに所属するオリカと申します」
「オリカ? あ~、最近よく名を聞くよ。新進気鋭の風使いの女性剣士。荒事の多い男社会で奮闘しているようだねぇ」
「はい、私なりに努めてます」
「それで、お二人さんはうちの店に何の用なんだい?」

 この疑問を受けて、俺が答えを返す。
「いろいろあってオリカに武器を買ってもらうことになったんだ。で、ばーちゃんの店に来た?」
「ふむ、意味がわからないね。うちはいつから武器屋になったんだい?」
「ばーちゃんの店には武器も置いてあるよね?」
「まぁ、多少はな。そもそも、坊やにはロングソードがあっただろ。あれはどうした?」


 この問いかけに、俺はばつが悪そうに目をそらして、体を縮めながら声を返す。
「それが~~~~、折れちゃって……」
「折れた? 坊やは本当にものを大事にしない子だね」
「え~っと、それは……」

「毎回毎回、刃こぼれした剣を持ち込んでは私が直してやってるの知っているだろ」
「はい、わざわざ鍛冶屋に持って行って研いでくれてます……」
「そうだね。そしてまたボロボロにして持ち込んで、そんな剣でお金を借りて、直してやって、またボロボロにする。で、しまいには折っちまったって?」

 そう、俺はいつも二束三文のボロボロの剣を質草にして、お金を融通してもらっている。
 ばーちゃんはそんなボロボロの剣を見かねて、毎度新品同様に研いでくれていた。
 そんな剣をぽっきり折っちゃったので、すっごいきまずい。

 オリカもばーちゃんの言い知れぬ迫力に押され、緊張で体を固めてる様子。


 俺は言い訳を重ねようと声を出そうとした。
 すると、ばーちゃんが突然大声で笑い始める。
「あはははは、話は聞いているよ。金竜とやりやったってね」
「へ?」

「ま、金竜相手だ。あの剣じゃ歯が立たなかっただろうよ。良く生きて帰ってこれたもんだ。怪我はなかったのかい?」
「あったけど、治った」
「フフ、相変わらず丈夫だねぇ。だけど、丈夫だからこそ無茶をするから心配だよ、坊やは」


 ばーちゃんはため息交じりの笑いを漏らし、再びオリカへ視線を移す。
「店主のスノーラだ。坊やが世話になったようだね」
「い、いえ、こちらの方こそお世話になりました。彼に……アルムスに命を救われた」
「ほぉ~、坊やが?」

 
 目を見開いて俺を見るばーちゃん。
 その栗色の瞳に向かって、俺は筋肉を強調するようなポージングを映し込んでやる。
「うっす! 竜殺しのアルムス様です!」
「調子に乗るんじゃないよ!」
「いった! いっつも煙管キセルで叩く~! 吸い口と雁首の金属部分で叩くからめっちゃ痛い!」

「まったく、坊やはお調子者だからねぇ。慢心はいけないよ」
「はいっす!」
「返事だけは一人前だね。で、話を戻すが、武器が必要だって?」
「うん」

「たしかにうちにも武器は置いてあるが、専門店の方が良いだろうに。どうしてわざわざ?」
「うんとね、いっつもばーちゃんの世話になってるから、今日はしっかりとしたお客さんで恩返ししたいなと」


 そう返すと、ばーちゃんはくいっと眉間にしわを寄せるが、すぐに小さな笑みを漏らした。

「そんなこと気にしなくても。だけど……フフ、ま、その気持ちはありがたいね」
「でしょう!」
「だけど、それが自腹じゃなくて、女に無心した金でってのが引っ掛かるね」
「そ、それは――って、無心したわけじゃないし! お礼だよ、お礼!!」
「それでも、だ!」

 再び煙管キセルが舞う。俺は頭を押さえてそれを回避した。
「ひっ、あぶな!」
「いいかい、坊や。坊やに悪気はないのもわかるし、これが善意からだというのもわかっているが、礼の気持ちを贈るなら自分の力で行いな」
「……はい、ごめんなさい」
「わかればよろしい」


 そう言って、スノーラばーちゃんは吸い口に口を当てて、ゆっくりと煙を吸い、ふわりと吐く。
 一時の静寂が生まれる……その小さく生まれた間を埋めるように、オリカがばーちゃんと俺へ尋ねてきた。

「お二人は随分と親しいようですが、どういったご関係で?」
「坊やと私かい? 坊やが金に困ってるときにキャリンがうちの店を紹介してね。それ以来、この子はうちの得意様ってわけさ。坊や自体も新規客を紹介してくれるしね」
「そうそう、いつもお世話になってるんだ。スノーラばーちゃんって、一見怖そうで堅物だけど、すっごい面倒見がいい人だから本当に助かってる」

「……うるさいよ」


 ばーちゃんがしかめ面で俺を睨みつけている。あれは照れている……と思いたい。
 ばーちゃんは再び煙管キセルを口にして紫煙を揺らし、こう言葉を〆た。

「ま、不出来な坊やだからついつい口を挟んでしまってね」


「ふふ、そうなんですか? あの、失礼ですが、先ほど名前が出たキャリンさんとは?」
「ああ、その子かい? 歓楽街の元ナンバーワンだった子だよ」
「歓楽街の?」
「そうさ、つい最近まで月の妖精と称されていた太夫たゆう。坊やと出会った頃に引退して、今では一般の女性だがね。それでも歓楽街に顔が利くから、ちょくちょく坊やに仕事を紹介しているんだよ」
「はぁ、なるほど……」

 と、声を漏らしつつ、オリカはこちらへ瞳を振った。
 その瞳に浮かんだ疑問へ、答えを簡素に返す。

「キャリンさんと友達の女性が男に襲われているところを助けたのが縁でね」
「ああ、それで……」

 オリカが小さく頷いたところで、スノーラばーちゃんが少しだけ声を張って話題を戻した。
「さっきから話が進まないね。武器を見に来たようだけど、うちには大したもんないよ。それでもいいのかい、坊や?」
「おっけ~。贅沢を言えば、丈夫そうなやつ。斬れそうなやつ。俺でも扱えそうなくらいの大きさのやつ」
「ほんっとに贅沢だね。店の右隅に立てかけてあるから、適当に見立てな」


 そう言って、ばーちゃんはカウンター席に戻り、俺とオリカは店の右隅に向かう。
 右隅には剣や槍や弓などが複数立てかけてあった。

 剣を手に取るオリカ。
「……ふむ、なかなかの一品。隣にある盾もまた。質屋にこのような武具が置いてあるなんて」
「ばーちゃんの目利きは凄いからね。でも~、どうしよっかなぁ? ここに置いてあるのみんな大きめだし」

 当たり前のことだけど、置いてある武具は大人用のものばかり。それも戦士が使うようなものだらけなので、大柄な人向き。
 俺の体躯には合いそうにない。

「ねぇ~、ば~ちゃ~ん。他にないの?」
「ないよ」
「え~! ここにあるの大きすぎて俺に合わないんだけど」
「だったら武器屋に行きな。ものによってはオーダーメイドで作ってもらえるんじゃないかい?」

「う~ん、できればばーちゃんの店で買いたいんだけど……俺に合いそうな感じのないの?」
「だから、ないと言って……そういや、坊やにも扱えそうな大きさのが奥にあったね。いわくつきに逸品だが」
「いわくつき!?」


 俺はシュバっと早足でカウンターへ向かい、舌を出しながらばーちゃんへ問う。
「はっ、はっ、はっ、い、いわくつきっての何!? なんか面白そうなんだけど!!」
「犬かい、坊やは? いわくつきと言っても、呪いとかそういうものじゃないがね、少し待ってな」

 ばーちゃんは煙管キセルを洒落たガラス灰皿の上に置いて、よいしょっと腰を上げると店の奥へと姿を消す。
 二分後、ばーちゃんは自分の背丈の半分ほどの木箱を両手に抱えて戻って来た。


 そして、それをカウンター席の上に置き、箱を開いて中身を見せた。
 中に入っていたのは柄頭ボンメル握りグリップガードにブレイドがついた普通の両刃剣。

 だけど、刃に浮かぶ文様はうっすらと七色に光り、どんな金属でできているのか全く見当もつかない奇妙なもの。さらに、一部は普通のデザインとは異なり、ガードの中心に目玉みたいな宝石がついていて、そこから無数の黒い紐が垂れている。
 紐が長めの睫毛みたいで、気持ち悪いデザイン。

 スノーラばーちゃんはこの剣をこう説明する。

「こいつは不死者を狩る剣。不死者狩りの一族が愛用していた剣だそうだよ」
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