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1号室 珍 雄太郎
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気がつくと、僕達は”1号室”とかかれた、古びた扉の前に立っていた。
さっきまでいた入口の雰囲気と同様、あたりはとても静かで、幽霊が住んでいると思われる部屋の扉が廊下にずらりと並んでいた。生活音もなくただあるのは静寂のみ。本当に誰かが住んでいるなんて信じられないくらいだ。
「くそ…なんなんだよあの管理人…!!」
朝輝の声が廊下いっぱいに響き渡る。
「日陽落ち着け。まずは話を整理しよう。」
そう言って零時くんは持っていたカバンから、時計を取り出した。
「今の時刻は0:14…あの管理人さんが言っていた時刻とほぼ変化がない。時間の流れは一緒なんだ…」
「そうだね。それがどうかしたの?」
「つまり、俺達には時間が限られている、ということだ。さっき少しだけ周辺を見てみたが、廊下の奥にある窓……あれは作り物だ。差し込んでいる月明かりも何か仕掛けがある。そして廊下のあちこちに設置されているカメラ…きっとあの管理人さん達が監視しているのだろう。」
「だからなんなんだよ?」
「朝輝、まだ分からないのか?俺達には逃げる手段なんてないんだよ。きっとあの”ゲーム”は本当に始まっているんだ。」
管理人さん達が言っていたあの”ゲーム”
住人たちの悩みを解決するまで一生出ることができない……残された時間はあと6時間弱だ。本当に始まっているのだとすれば、27人の悩みを聞いて解決まで導いてあげることを考えると、僕達には……時間が…ない。
最悪の場合を考えてぎゅっと拳を握りしめる。
「ああああ空気が重い!!!残り時間とか脱出とか考えるのはいいんだけどさ、よく分かんねぇゲーム始まってるんだろ?だったらさっさとやってやろうぜ!!どうせなら楽しみたいし!!」
急に明るく声を出した朝輝に驚く。それは零時くんも同じようで目を丸くしていた。
「…さっきまで怯えていたのはどうしたんだ……怖いんじゃないのか?」
「うるせぇよ!!別に怖がってなんかなかったし、なんかそんなの通り過ぎて面白くなってきちゃった」
「馬鹿だな…」
「はぁ!?!??!?」
やばいやばい、また喧嘩が始まりそう……めんどくさいな…
と、僕がため息をふっとついた瞬間。
「なんだなんだうるせぇぞ……世界のチリになりてぇのかてめぇら。」
だるそうな声と共に大きな音を立てて目の前の扉が開いた。
突然のことに驚きつつも、出てきたのは、普通の男性。しかもなかなかの高身長。歳は僕達と同じかそれよりも上って感じ。
「なんか、幽霊が住んでるって思ってちょっとびびってたけど、案外普通の人が住んでるんだな」
僕がそう自然と口に出すと、目の前の男性がギロりと僕を睨んだ。
この人…めっちゃ目付きわっっるっっ!!
「あーーそうか。お前らが今回の挑戦者か。だったらなんか聞いてないのか?名前とかさ」
名前……?そういえば管理人さんの1人……えーと、バートさんだっけ?あの人が最後にそんなことを言ってたような…
「ふっ、しゃーねぇなぁ…じゃ、何も知らねーマヨエル子羊チャンに1から10まで教えてやんよ!!!」
どやぁ…………うわ、なんかこいつ…
「「朝輝/日陽に似てる………」」
「………っていうことだ!分かったか?」
要するに、この人の話によると、ここのアパートに住む幽霊達には一人一人”名前”がある。しかも、その誰もが独特な名前で、名前の酷さが悩みの難易度に比例するという…
「なるほど、いいヒントありがとうございます。」
「全然、どうってことねぇよ。てかタメでいいぜ?きっと同い年だからよ」
「え!まじすか!んじゃ遠慮なくいくね!」
「おうよ、どんとこい!」
もうすでに仲良さげに話す2人を見て驚く。さすが似たもの同士……なにか感じるものがあるのだろう。
「てかさ、聞きたいことあんだけど、名前、聞いてもいい?」
「ああそうだな…忘れてたわ」
まあこの人普通な感じだし、名前もThe 平凡って感じかな、、きっと悩みもそんな程度かな。1番最初だしね。
何も心配せずに目の前の人が口を開くのを待つ。
「俺の名はな…ちょっと恥ずかしいだけどな…」
「うん」
「なんでこんな名前なのか自分でもわかんねぇし」
「うん」
「引かれるのはすげぇ分かってんだけど」
「なんだよ!!早く言えよ!!」
急に俯いて目線を逸らし始めたのを見て、少し不安が広がる…この人、まさか、
「俺の名前は………ろう、だ。」
「ん?もう1回言ってくれ。聞き取れなかった」
「だから!俺の名前は珍雄太郎だよ!!!!」
シーン……
一瞬にして僕達は固まってしまった。
チン……ユウタロウ…?
僕達は健全な男子小学生だ。その名前のを聞いて想像してしまうのは仕方がない。いや、でもこの世の中にはいるのかもしれないから、ここは、そっとして置いた方が、
「な、なぁ?霊村?珍ってチ…」
「だめだよ、朝輝。そんなことを考えては。てか零時くんも何か……」
子供らしい想像をする朝輝に呆れながら、零時くんの方を見ると………
「ぶっ…ははははははははなんだよ珍ってはははははチ⚫コかよ、はは」
あーーーだめだ。笑いすぎて倒れてるよ。
零時くん…君もちゃんと健全な男子だったのね。
「おい、うるせぇぞ。笑うんじゃねぇよ、この世の中にはなぁ……こういう名前を持ってる人もいるんだよ……」
いや…そんな小声で言っても説得力ないから…
「で。悩みっていうのは何なんですか。」
霊時くんがやっと静かになってから僕は目の前の男の人―珍雄太郎さんと向き合った。
「俺の名前はズバリ………俺の名前だ。」
「ぶっ…もっ、もうやめてくれ。これ以上僕を笑わせないでくれ…!!!」
再び笑い始めた霊時くんを冷ややかな目で見る。今まで必死に堪えていたものがどっと押し寄せてきたかのように廊下に膝をつき、床をバンバンと叩いていた。もはやここまで来るとドン引きだよ。こんな霊時くん見たことない。
そんな彼をみて朝輝が心配そうに近づいた。
「おっおい冷風、大丈夫か!?」
「くっ…ふふ、大丈、夫だ。くっくっくっふは~~!!」
だめだこれは。収拾がつかない。
「朝輝。霊時くんはほっとこう。」
「お、おう」
一瞬戸惑いながらも僕の方に近寄り、あらためて1号室の住人と向き合った。
「で、名前が悩みなんですよね、珍雄太郎さん」
「そうだが、珍を強調していうなよ。」
「ああ、スミマセン。でもどうしようかな、一つだけ方法があるとしたら、誰かと結婚して苗字を変えるっていうのですけど、珍さんって今いくつですか。」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………12」
大分ためたな…!?
すると、朝輝が驚いたように声を上げた。
「え!珍さん本当に俺らと同い年なんだね。そんなにでけーのに。」
「まあデカさは置いとくてして、結婚できるのは18歳からなんだよ。今の年齢じゃ名前を変えられない。」
そう伝えると珍さんは困ったような悲しいような顔をした。
僕達も始めから壁にぶち当たると思っていなかったから、つい下を向いてしまった。
どうしよ……他に何か…
「いや年齢なんか関係ない。僕の力を使えばいい。」
沈黙を破って発言したのはさっきまで笑い倒れていた霊時くんだった。先程の出来事なんて無かったかのように元のきりっとした真面目な霊時くんに戻っていた。
「おー!すげぇ冷風!お前そんなこと出来んのかよ。」
「ああ。」
小さく息を吸って眼鏡を軽く押し上げた霊時くんはやっぱりイケメンだった。
「何せ僕の家は世界企業を担う家だからね。」
「へぇ。かっけぇな。」
「よし、これで珍さんの悩みは解決したから次の部屋いこう。それじゃまた。」
再び見た珍さんの顔は嬉しそうに笑っていた。
Fin
さっきまでいた入口の雰囲気と同様、あたりはとても静かで、幽霊が住んでいると思われる部屋の扉が廊下にずらりと並んでいた。生活音もなくただあるのは静寂のみ。本当に誰かが住んでいるなんて信じられないくらいだ。
「くそ…なんなんだよあの管理人…!!」
朝輝の声が廊下いっぱいに響き渡る。
「日陽落ち着け。まずは話を整理しよう。」
そう言って零時くんは持っていたカバンから、時計を取り出した。
「今の時刻は0:14…あの管理人さんが言っていた時刻とほぼ変化がない。時間の流れは一緒なんだ…」
「そうだね。それがどうかしたの?」
「つまり、俺達には時間が限られている、ということだ。さっき少しだけ周辺を見てみたが、廊下の奥にある窓……あれは作り物だ。差し込んでいる月明かりも何か仕掛けがある。そして廊下のあちこちに設置されているカメラ…きっとあの管理人さん達が監視しているのだろう。」
「だからなんなんだよ?」
「朝輝、まだ分からないのか?俺達には逃げる手段なんてないんだよ。きっとあの”ゲーム”は本当に始まっているんだ。」
管理人さん達が言っていたあの”ゲーム”
住人たちの悩みを解決するまで一生出ることができない……残された時間はあと6時間弱だ。本当に始まっているのだとすれば、27人の悩みを聞いて解決まで導いてあげることを考えると、僕達には……時間が…ない。
最悪の場合を考えてぎゅっと拳を握りしめる。
「ああああ空気が重い!!!残り時間とか脱出とか考えるのはいいんだけどさ、よく分かんねぇゲーム始まってるんだろ?だったらさっさとやってやろうぜ!!どうせなら楽しみたいし!!」
急に明るく声を出した朝輝に驚く。それは零時くんも同じようで目を丸くしていた。
「…さっきまで怯えていたのはどうしたんだ……怖いんじゃないのか?」
「うるせぇよ!!別に怖がってなんかなかったし、なんかそんなの通り過ぎて面白くなってきちゃった」
「馬鹿だな…」
「はぁ!?!??!?」
やばいやばい、また喧嘩が始まりそう……めんどくさいな…
と、僕がため息をふっとついた瞬間。
「なんだなんだうるせぇぞ……世界のチリになりてぇのかてめぇら。」
だるそうな声と共に大きな音を立てて目の前の扉が開いた。
突然のことに驚きつつも、出てきたのは、普通の男性。しかもなかなかの高身長。歳は僕達と同じかそれよりも上って感じ。
「なんか、幽霊が住んでるって思ってちょっとびびってたけど、案外普通の人が住んでるんだな」
僕がそう自然と口に出すと、目の前の男性がギロりと僕を睨んだ。
この人…めっちゃ目付きわっっるっっ!!
「あーーそうか。お前らが今回の挑戦者か。だったらなんか聞いてないのか?名前とかさ」
名前……?そういえば管理人さんの1人……えーと、バートさんだっけ?あの人が最後にそんなことを言ってたような…
「ふっ、しゃーねぇなぁ…じゃ、何も知らねーマヨエル子羊チャンに1から10まで教えてやんよ!!!」
どやぁ…………うわ、なんかこいつ…
「「朝輝/日陽に似てる………」」
「………っていうことだ!分かったか?」
要するに、この人の話によると、ここのアパートに住む幽霊達には一人一人”名前”がある。しかも、その誰もが独特な名前で、名前の酷さが悩みの難易度に比例するという…
「なるほど、いいヒントありがとうございます。」
「全然、どうってことねぇよ。てかタメでいいぜ?きっと同い年だからよ」
「え!まじすか!んじゃ遠慮なくいくね!」
「おうよ、どんとこい!」
もうすでに仲良さげに話す2人を見て驚く。さすが似たもの同士……なにか感じるものがあるのだろう。
「てかさ、聞きたいことあんだけど、名前、聞いてもいい?」
「ああそうだな…忘れてたわ」
まあこの人普通な感じだし、名前もThe 平凡って感じかな、、きっと悩みもそんな程度かな。1番最初だしね。
何も心配せずに目の前の人が口を開くのを待つ。
「俺の名はな…ちょっと恥ずかしいだけどな…」
「うん」
「なんでこんな名前なのか自分でもわかんねぇし」
「うん」
「引かれるのはすげぇ分かってんだけど」
「なんだよ!!早く言えよ!!」
急に俯いて目線を逸らし始めたのを見て、少し不安が広がる…この人、まさか、
「俺の名前は………ろう、だ。」
「ん?もう1回言ってくれ。聞き取れなかった」
「だから!俺の名前は珍雄太郎だよ!!!!」
シーン……
一瞬にして僕達は固まってしまった。
チン……ユウタロウ…?
僕達は健全な男子小学生だ。その名前のを聞いて想像してしまうのは仕方がない。いや、でもこの世の中にはいるのかもしれないから、ここは、そっとして置いた方が、
「な、なぁ?霊村?珍ってチ…」
「だめだよ、朝輝。そんなことを考えては。てか零時くんも何か……」
子供らしい想像をする朝輝に呆れながら、零時くんの方を見ると………
「ぶっ…ははははははははなんだよ珍ってはははははチ⚫コかよ、はは」
あーーーだめだ。笑いすぎて倒れてるよ。
零時くん…君もちゃんと健全な男子だったのね。
「おい、うるせぇぞ。笑うんじゃねぇよ、この世の中にはなぁ……こういう名前を持ってる人もいるんだよ……」
いや…そんな小声で言っても説得力ないから…
「で。悩みっていうのは何なんですか。」
霊時くんがやっと静かになってから僕は目の前の男の人―珍雄太郎さんと向き合った。
「俺の名前はズバリ………俺の名前だ。」
「ぶっ…もっ、もうやめてくれ。これ以上僕を笑わせないでくれ…!!!」
再び笑い始めた霊時くんを冷ややかな目で見る。今まで必死に堪えていたものがどっと押し寄せてきたかのように廊下に膝をつき、床をバンバンと叩いていた。もはやここまで来るとドン引きだよ。こんな霊時くん見たことない。
そんな彼をみて朝輝が心配そうに近づいた。
「おっおい冷風、大丈夫か!?」
「くっ…ふふ、大丈、夫だ。くっくっくっふは~~!!」
だめだこれは。収拾がつかない。
「朝輝。霊時くんはほっとこう。」
「お、おう」
一瞬戸惑いながらも僕の方に近寄り、あらためて1号室の住人と向き合った。
「で、名前が悩みなんですよね、珍雄太郎さん」
「そうだが、珍を強調していうなよ。」
「ああ、スミマセン。でもどうしようかな、一つだけ方法があるとしたら、誰かと結婚して苗字を変えるっていうのですけど、珍さんって今いくつですか。」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………12」
大分ためたな…!?
すると、朝輝が驚いたように声を上げた。
「え!珍さん本当に俺らと同い年なんだね。そんなにでけーのに。」
「まあデカさは置いとくてして、結婚できるのは18歳からなんだよ。今の年齢じゃ名前を変えられない。」
そう伝えると珍さんは困ったような悲しいような顔をした。
僕達も始めから壁にぶち当たると思っていなかったから、つい下を向いてしまった。
どうしよ……他に何か…
「いや年齢なんか関係ない。僕の力を使えばいい。」
沈黙を破って発言したのはさっきまで笑い倒れていた霊時くんだった。先程の出来事なんて無かったかのように元のきりっとした真面目な霊時くんに戻っていた。
「おー!すげぇ冷風!お前そんなこと出来んのかよ。」
「ああ。」
小さく息を吸って眼鏡を軽く押し上げた霊時くんはやっぱりイケメンだった。
「何せ僕の家は世界企業を担う家だからね。」
「へぇ。かっけぇな。」
「よし、これで珍さんの悩みは解決したから次の部屋いこう。それじゃまた。」
再び見た珍さんの顔は嬉しそうに笑っていた。
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