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寺本

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2号室 友達がほしい

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ピンポーン

僕の押したチャイム音が静かな廊下に響き渡る。次の部屋は2号室、小林さんの部屋だ。
今度はどんな人なんだろうと息を飲みながら、開く扉を待った。

「こんにちは……どうも、小林ハイジです」

出てきたのは…うん。なんていうんだろ…頭がちょんまげの人だ…しかもそのちょんまげの
部分がピンク色だった…いかにも怪しいんだけど…
僕が目の前のインパクトに言葉を詰まらせていると、隣の朝輝が前に出た。

「こんにちはって今、夜だぜ!!」
朝輝声でか…

「うっすみませっ」
ほらみろ小林さんが怯えてるじゃないか。

「まあとにかく小林さん、貴方の悩みはなんですか。」
霊時くんが困りながらも聞くと、小林さんは言いにくそうに下を向きながらもゆっくり口を開いた。
「僕は…その…下ネタがあまり得意ではないので男友達ができないんです」

「そうなんですね…」

「じゃあ、あんたってボッチ」
僕は慌てて朝輝の口を塞いだ。

「え!今なんて…」
「なんでもないです!!」
「そうですか…」

ショボーン…これがアニメや漫画だったら絶対そんな効果音が付けられている。そんな風に小林さんはもう一度小さなため息をついて下を向いた。
なんか、最初から自分の悩みの解決を諦めているみたいだ。

「しかし、下ネタが苦手ねぇ……あ!いいこと思いついた!」
「なんだ、言ってみろ日陽」

朝輝は僕達を手招きし小林さんから数歩離れた所に移動すると、僕達の首に腕を回して小さな声で話し始めた。

「ほら1号室のさんいたじゃんか」
「ああ」
そう言われて僕は先程の変態を思い出した。
あのキャラだったら控えめな小林さんでも仲良くなれるかもしれない。
そう思っていたのは僕だけでなく霊時くんもで、軽くうなずいていた。

「なるほど。たしかにいい考えだな日陽」
「うん、よし。早速珍さんを呼びに行こう。」


~1号室~
ピーンポーン
「\ハーイ/ってテメェらかよ。今度は何の用だ」
怪訝そうに僕達を見る珍さんに笑顔で答えた。
「いやちょっと手伝って貰いたいことがあって」
「…2号室の奴と友達になってくれねぇ?」
「ああ、2号室って小林さんか」
「はい、お願いします。」
「そう言われてもなぁ…あいつと喋ったこともねぇし」
困ったように頭をかく珍さんをみて僕は思わず頭を下げた。

「小林さんのためにもお願いします!!」
「「お願いします」」
僕に続いて朝輝と霊時くんが頭を下げると、珍さんではなく別の人の声がした。

「いいよ、皆頭をあげて下さい。」
「え…?」
声をした方を見ると、少し悲しい顔をした小林さんが立っていた。
改めて見ると、彼の身体は細い上に顔色もものすごく悪くて、正直見た瞬間怖かった。
「だって僕もう友達は絶対出来ないって分かっているから…君たちに迷惑を掛けてすみませんでした…!」
頭をさげて謝ると、すぐさま部屋に戻ろうとする小林さん。
「あっ、まって小林さん」
僕が追いかけようとしたが、それよりも先に小林さんの腕を掴んだ人がいた。
それはさっきまで僕の目の前にいた、

「え、あの、珍、さん?」
小林さんは目を大きく見開いて珍さんをまじまじと見た。僕も正直意外すぎてびっくりした…だってあんなに面倒くさそうにしてたのに。

「そんな、”絶対”って訳じゃないぜ?だって今から…いや違うもう俺ら友達だろ?」

「珍さん…」

めっちゃいいやつじゃん…珍さん…
変態のくせにいいやつなんて最高なキャラじゃんか…


「でもさ珍さん、小林さんと喋ったことなかったんじゃねぇの?」
しーんと一瞬にして空気が冷たくなる 。
おい朝輝。僕も思ったけど、今めっちゃいいシーンじゃん。

「何言ってるんだ日陽。」
え、霊時くん…?
「珍さんはたぶん下ネタを含む会話をしたことないと言ったんだ。喋ったことがないというのはそういう事だ。そうだろ、珍さん。」
いや無理やりすぎる…

零時くんがきらんと目を鋭くさせて珍さんを見つめると、珍さんは慌てて口を開いた。

「そう、そうだ!俺らは喋ったことがある!毎日俺お前にスタ爆してたもんな???な??小林???」

「う、うん…」

珍さんのものすごく圧に押されて小林さんは頷いてしまった。
その姿をみて思わずため息をついた。

「はぁ…取り敢えずさ、小林さん、珍さんはこんなにも小林さんのことを思ってたんだ。友達になるのに下ネタなんていらないんだよ。ただなりたいって気持ちがあればいいんだ。」

「なりたい、って気持ち?」

「そう。小林さんは珍さんと友達になるのは嫌かな」

「そんな、ことない。僕は…珍さんと友達になりたい…!沢山お話したりお出かけしたりしたい…!」

真剣な眼差しで僕を見て言った小林さんに笑顔を向けた。

「だったら大丈夫だよ。この変態をよろしくね。」

「はい…!!」

よし、これで解決だ。
珍さんの方をみると、変態と言われたことに何か思うことがあるのか僕を睨んでいたが、まあ別にどうでもいいや。

「じゃ、失礼しますね。皆次行こう」

2人をちらっと見て、前に進むと、後ろから朝輝が勢いよく抱きついてきた。

「やるじゃん霊村。次は誰だろうな!」
「い、いきなり抱きついてくんな」
「いーじゃねぇか!俺ら友達だろ?」
「はいはい、そうだね」
僕が浮かない返事をしても朝輝はにやにやと笑っていた。

「おい、冷風!なにしてんだよ、おいてくぞ!」

「ああ、今イく。」
少し早足で僕達に近づいてくる音が聞こえる。
僕達も最近まではあまり喋ったことの無い同士だった。友達になりたくて小林さんのように仲を深めた訳では無いけど、馬鹿なこの2人と知り合えて良かったと思う。
次はどんな住人が待ち受けているのかドキドキしながら僕達は次の扉の前に立った。

Fin
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