幽霊アパートにようこそ☆

寺本

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4号室 男の娘現る⁉

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ピンポーン♬ ピーンポーン♬♬
「あれ、おかしいな。どこかにでかけているのかな」
僕がチャイムをいくら押しても誰かがでてくる気配がなかった。しかも、チャイムが壊れているのか今まで聞いてきたものとは違い、音が軽く聞こえた。なにが起こるのか分からないが、嫌な予感しかしない。
「ああ、坂田さんはいつも留守なんだ。なんか管理人の手伝いをしているってうわさになってるけどさ」
「え?」
振り向くと、そこにはまたあの珍さんがいた。なぜこんなところにいるのか、と尋ねようとした時、
「はぁ~い♡だれかしら♬♬」
扉の向こうで甲高い女の人の声がして、ガバっと扉の音とは程遠い鈍い音と共にその住人は姿を現した。

始めから嫌な感じはしていたんだ。あきらかにチャイムの音が他と違っていたし、さっきまでは一緒について来なかった珍さんがなぜか姿を見せていた。まさか、こんなことになるとは。

僕が今見ている景色を一言で表すと、「血」である。先ほどまで綺麗だった廊下が真っ赤に染まっている。
数分前、僕たちは4号室の住人と出会った。その住人は金髪ツインテール、瞳は誰もが目を奪われてしまうような漆黒の瞳、あらゆるところに赤やピンクのリボンを付けていて、他の人が付ければ痛いやつだと思われるかもしれないが、その人には実によく似合っていた。まるで一国の姫のようだった。僕とたぶん零時くんは正直好みではなかったため「ああ、可愛いじゃん?」と思う程度であったが、後の二人がやばかった。まず珍さんが「なんて可愛いいんだああああああ!!!」と絶叫し、鼻から血を流して倒れていった。次にその哀れな珍さんの姿を見た朝輝くんが「大丈夫か、珍さん!!!グッハ!!!」と、珍さんを心配しながら倒れていった。もうこの二人はどうしようもないので、すこしの間そっとしておこう。
「ああ、そういえば坂田さんの下の名前を聞いていませんでした。教えてくれませんか」
僕はただ少し興味がわいたから聞いただけだったが、その質問を聞いた坂田さんは待ってましたといわんばかりに目を輝かせ、指ハートを作りながら言った。
「アハッ♡言ってなかったけ~?私の名前はあ・も・も♡坂田亜桃よ♪」
「うううううううううううはッッッッッ!!!!!や、やめて…!!俺の血が、俺の血がなくなる…!!」
「おい、日陽。これ以上血を出すな。廊下だけでなく、僕までもお前の血で汚れる」
零時くんはそう言いながら近寄ってくる日陽から少し距離をとった。もちろん、僕もそうした。
それから改めて坂田さんを見たが、容姿だけでなく言動でもあらゆる人を墜としてきたのだとさっきの自己紹介から分かった。このテクにまんまと引っかかる男が多いからたぶんいつもはアパートでなく管理人室にいるのだろう。きっとあのパートさんバートさん達も苦労したのだと思う。厄介な住人なうえに悩みも相当なものなのだろう。僕はおそるおそる坂田さんに聞いた。
「えーと、あの、坂田さん。あなたの悩みはなんですか」
一瞬、坂田さんが悲しげな表情をしたのが見えた。今までの経験が語っている、やばいやつが来ると。
「えーとね、私……本当は男で……」
「「「……………………………………………………………………」」」
「「「ええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーッッッッッ!!??!」」」
廊下中に僕たちの驚く声が響き渡った。たぶんアパートの中で今寝てた住民は飛び上がって起きただろう。
完全に驚きで固まっている僕たちを見て坂田さんはにっこりと笑った。
「あれ?♡気付かなかったぁ♡」
気づくも何もただの声が野太い美少女かと……………………
「……まあ、そのことはおいといて。あなたの悩みは何ですか」
こういう時に冷静キャラは役に立つ。THE冷静男子の零時くんが慎重に聞いた。
それを聞いた坂田さんはにやりと笑った。あ、また。
「えっと♡なやみは……♡男の子っぽくなりたいのぉ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
これまでにもない気持ち悪さである。そもそもそんなにハートがついたセリフは見たことがない。
僕と零時くんが声にもならない悲鳴を上げていると、廊下をうごめく2人の影が見えた。
ーーーー珍さんと朝輝くんである。
「えへへへ……亜桃さん………」
「亜桃ちゃあん…………♡」
ぱねえ量の血を流しながら、そのまま倒れた。
「珍さーん!!!」
「日陽ーーー!!!」


珍さんと朝輝くんをこのままの状態にしておくとやばかったので、坂田さんの愛の力でどうにか二人を復活させた。その過程は黙っておくことにする。
「で、どうする?坂田さんの悩み」
「アーソウダナーー」
朝輝くんは坂田さんが男だと知って相当なショックを受けたらしい。さっきから全て棒読みだ。
ちなみに珍さんは復活したあと、導かれるようにおぼつかない足取りでゆっくりと自分の部屋へ戻っていった。
「坂田さん」
解決策が思い浮かばなくて迷っていた時、ふいに零時くんが立ち上がり坂田さんに近づいて、そして坂田さんの手をとった。
「僕と一緒に部屋へ戻りましょう」
「え…?」
「「はっ!?」」
部屋で二人きりになるの⁉零時君が、坂田さんと!?
「いや!そんなことはさせない!!!坂田さんが男だろうと関係ない!!!坂田さんは俺のだ!!」
パニック状態になったのか、朝輝くんはわけもわからないことを言い出した。それを聞いた零時は深く眉を顰めた。
「何を言っているんだ、日陽。僕は君たちが想像しているような愚行はしない。ほら、坂田さん、早く」
零時君がせかすと、坂田さんは困ったような顔をしながらも零時君の後に続いて部屋の中に入っていってしまった。
そして残されていた僕たちは落ち着いて待つことに……………なんてことはできず、静かに扉に近づき、聞き耳を立てた。これは盗み聞きなんかじゃない。ただ零時君がへ、変なことをしないかの見張り。そう、見張り。
そう言い聞かせながら、中の会話を聞こうと集中する。
それにしても、僕の少し上で聞いている朝輝くんの鼻息がうるさい。集中しようとしても朝輝くんのキモイ鼻息のせいいで集中が途切れてしまう。最高にいらだったので、そろそろ注意をしようと思っていた時、
「脱げ」
と、零時くんの聞きのがせない声が聞こえた。僕たちはこれでも小学生だ。少しびっくりしたことがあるとつい。
「「ええええええええええええええええええええええええええ!!!??????!!」
二人そろって見事に叫んでしまった。

~数分後~
「これでどうだ」
自信満々で再び現れた坂田さんと零時くんの方をゆっくりと見る。
「こ、これは………!!」
「す、すごい、さすがだな冷風」
僕たちが納得したのも当然、坂田さんは前の面影がないほどにそれはもうムッキムキにメッキメキな筋肉マンになっていた。というかムッキムキになりすぎて、さっきまで着ていた服のボタンが何個か外れてしまっている。腕も胸も足もどれもがムッキムキに仕上がっていた。
「これをどうやってこの数分間に………?」
僕が驚きのあまりに狼狽えながら聞くと、零時くんは誇らしげに鼻で笑い、瓶を取り出した。その中では黄色い粒上のものが数個入っていた。
「これは我が冷風財閥が開発した、いっきに筋肉ムッキムキ薬だ。これを飲めばものの1分で全身ムッキムキになれる」
冷風財閥どんだけだよ……………凄すぎてなにも言えない。
「まあ、この薬の使い道があまりに少ないからもうすぐ販売停止になる予定だ。」
だろうな。怖すぎるよその薬。
「と、いうことで坂田さんの悩みは解決、だな!これでもう女とは思われないぜ!」
坂田さんの悩みよりも薬の副作用とかを気にしたほうがよさそうな気がするが、面倒だし幽霊だし、深くツッコまないようにしよう。
「ありがとう、みんな…………これで立派な男になれるよ」
「おうよ!よっしゃ次に行こうぜ」
最後に振り返って坂田さんを見たが、大粒の涙を流して僕たちを見送ってくれていた。感動的ではあるが、あの体で泣かれると、なんともいえない気持ちになる。
でもまあ、解決したしいっか。
坂田さんに向かって軽く礼をして僕たちは次の住人のいる部屋へと向かった。


Fin











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