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吾妻ルートBADEND『優しい恋人』
『優しい恋人』#3
しおりを挟む吾妻との生活は幸せだった。
高校生だった記憶までしかないオレは、勤めていたという会社で復帰するわけにもいかずそのまま会社を辞めた。
と、いうか入院している間に辞めていたらしい。そりゃあ、いつ目が覚めるかわからないようなやつ雇っていてくれるほど、きっと甘くないんだろう。
だから吾妻には悪いが、今は無職のヒモ生活である。
一応体に不調も今のところないし、バイトでも始めようかとバイト情報を見ていたら、吾妻に働く必要はないとやんわりと断られた。
吾妻は結構いい会社で働いてるらしくて、お金には困ってないらしい。これがスパダリってやつなのだろうか。
たまにすごく疲れた顔をして帰ってくるから心配なんだけど、オレがいるだけで癒やされるとか、オレが家に居るだけで幸せだとかひたすら甘い台詞を延々と言ってくるので反応に困り、結局それ以上何も言えなくなる。
「おかえり、吾妻」
スマホのアプリに連絡が入り、玄関で待っているとドアが開いた。
吾妻はいつもマメなのか暇なのかわからないけど、仕事が終わると玄関に到着するまで今どこにいるかを連絡アプリで実況してくる。
夕飯をあたため直したり、やることが色々あるので返事は基本的にしないでスルーするが、前に玄関で待っていたらめちゃくちゃ吾妻が喜ぶもんだから、最近はできるだけ玄関まで迎えに行くようにしている。
「ただいま、良仁」
仕事でお疲れなのか、少しくたびれた見た目だが吾妻はイケメンなので、それすら色気に感じてしまう。
ここ数日ですっかり恋人脳になってしまっているらしく、内心落ち着かないオレに吾妻の顔が近づく。
近い近い近い…っ
オレが慌てて吾妻の口を両手で止めるようにすると、目を細めて口が弧を描くと甘さを含んだ声で囁くように言う。
「キスしたい」
「…帰ってきたら手洗いうがい」
「はいはい」
毎回するやり取りだけど、慣れない。
正直心臓は爆発しそうだし、なんかこのやり取りをする度に自分が吾妻をどんどん好きになっていることを自覚してしまう。
帰ってきた瞬間に飛びついてきそうなくらい喜ぶ顔をされるからすぐにでも抱きしめたいし、キスだってしたい。そう、思ってしまうから。
吾妻はそんなオレを見透かすようにクスッと笑いながらネクタイを緩め、吾妻は靴を脱ぐとそのまま洗面所に向かった。
オレは小さく息を吐いてからキッチンに戻り、色違いのお茶碗を手に取る。
ご飯をしゃもじでよそい、吾妻には大盛りにしてやる。
吾妻は、割りとよく食う。オレは運動もしてないし、むしろ最近この家から出ていないし、病院で暮らしていたせいか食が細くなっていた。
吾妻にはもっと食べるように言われるけど、すぐに満腹になってしまうのはしょうがないと思う。
お茶碗をそれぞれの座る場所の前に置くと、洗面所から機嫌よくやってきた吾妻に後ろから抱きしめられた。
「手洗いうがいしたからキスしたい」
「ご飯冷める」
「ちょっとだけにするから」
そう言うと吾妻は首筋にチュッと音を立ててキスを落とす。
うがいをしたばかりの吾妻の唇は冷たくて、驚いて思わず小さく声をあげると、吾妻が満足げに微笑むような息が溢れる。
どうやら了承と受け取ったらしい。まあ、少しならいいか…とじっと動かず好きにさせてやることにした。
うなじに顔埋めて、吾妻は大きく息を吸い込む。それがなんだか変態くさくて少し笑うと、気に食わなかったのか耳をがぶりと噛まれて、服の中に手が滑り込んでくる。
冷たい指がへそをぐるぐると撫でて、くすぐったくて思わず身をよじる。
「吾妻…くすぐったいって。つうか、冷めるぞ…食べないの?」
「食べたい、食べさせて」
「は、はあ?わわわっ、なに!?」
ひょいっと体を持ち上げられ、運ばれたかと思うと着席した吾妻の膝の上に横向きに座らされた。何だコレ、恥ずかしすぎますが。
顔が熱くて思わず、じとっとした目で吾妻を見るとニコニコと非常に楽しそうな顔をしていた。
……しょうがないな。
吾妻の箸を手に取ると、からあげに箸を伸ばした。
「吾妻、いただきますは?」
「いただきます」
あ~ん、と口を開けてこっちを向く吾妻にからあげを思いっきり突っ込んでやると「むぐっ!?」と驚いた顔をしてからパンパンの口をもぐもぐと動かしながら、今度は吾妻がじとっとした目でオレを見ていた。
わー、こわーい。
卓上にあるマヨネーズをゆでたブロッコリーにかけ、また吾妻の口に運ぶ。
今度は慎重に口を開ける吾妻が可愛くて、フッと笑ってからきちんと食べさせてやった。
卓上にある夕食を三角食べするように箸で吾妻に与えながら、時折自分もつつく。
実家暮らしだったオレは手伝いくらいしかしてこなかったが、最近ご飯を作るのはオレの日課になっているため割りと上達してきた気がする。
はじめは切って、炒めるくらいしかできなくて名前のついているような料理は作ることが出来なかったけど、吾妻がパソコンを貸してくれてレシピを印刷できるようになってからレパートリーがだいぶ増えた。
スマホでレシピを見ながらしても良いんだけど、すぐ画面が暗くなるし、それに書き込んだり、ファイリングして増えていったりするとなんだか嬉しくなるのでアナログだな、と思いつつもそうしている。
吾妻が言ってくれた感想なんかもこっそり書いているのでなんだか少し恥ずかしいので吾妻には見せてない。
うん、からあげ美味い。
吾妻がほとんど食べ終えた頃、この遊びにも飽きてきたのか再び吾妻の手が服の中に侵入してきて、スルスルと腹を撫でる。
「ちょっとは肉ついてきたか」
「わかんない…つか、くすぐったいって」
「もっと食えって。細すぎてなんか壊しそうになるっつうか」
「あっ、ちょ!こら、吾妻!やめ…」
「んー、気にせず食え食え」
「気になるわ…っ、ぁ」
腹をなぞる手とは別に、背中を支えるようにしている腕の方の手が鎖骨を撫でてから乳首を摘むように触れてきて、箸で掴んでいたからあげをポロッと皿の上に落とした。
「良仁、落としたぞ」
「んっ、ぁ…あず、まのせいだろが…!」
「そうだな、俺のせいだわ。じゃあ俺が今度は食わせてやるよ」
吾妻はそう言うと、手はオレに悪戯するように触れながら、背中を丸めるとまるで犬みたいに皿にあるからあげを口でパクッと挟んでからオレの方を向く。
え、まさかこれを口で受け取れと?
馬鹿かコイツは。
「ん」
「はっ、ぁ…やだ」
早く食えと言わんばかりに顎を突出す吾妻に対して、嫌だと首を振ると乳首を摘んでいる指をぐにぐにと動かされて、体が芯をもってくる。
本来飾りくらいにならないそこを、毎日いじられているうちに感じてしまうようになった。
爪でカリッと引っ掻くようにされ、体をビクンっと動かすと同時に自分の声だと思いたくない声が漏れる。
薄く開いた口にからあげの油がべとっとついた。
からあげ越しのキスなんてロマンチックでもなんでもねーよ、と訴えたいのに吾妻の指に翻弄されるように体が快楽に染まってしまい、言葉にならない声ばかりが口から漏れる。
いつまでも食べない俺に焦れたように、腹を触っていた手が下へと降りていく気配を感じて、ギョッとして逃れようと体を動かそうとしたが、背中からガッチリと腕を回されているせいで無意味な抵抗にしかならなかった。
吾妻は器用に服に手をかけ、前を寛げる。
外気に晒されるように姿を現したオレの息子はすでに形を作っていて、とろとろと涎を垂らしていたのか、吾妻が手で触れた瞬間にぬちぬちといやらしい水音が耳に届いた。
直接的な刺激に思わず大きく口を開けてしまい、唐揚げがすっぽりと口に入ってきて、じわりと舌の上に醤油の味が広がっていく。
目の前の吾妻の顔がニヤリと笑い、オレは睨みながら仕方なく咀嚼する。
唐揚げを食べさせるという吾妻の目的が達せられたのでてっきり終わると思っていたのに、愛撫のような悪戯は終わるどころかヒートアップしてきて、うまく噛むことができない。
「むぐっ、んっんっ」
口の中にあるものをなんとかしなきゃと口を動かそうとするけど、ビリビリと電気のような刺激が背中を走り、思わずそのまま飲み込みそうになり涙がじわりと浮かぶ。
食えって無理矢理食わしたくせに、ちゃんと食べさせろよ…!
理不尽な状況にイライラしていると、吾妻の嬉しそうな顔が近づいてくる。
「おいしそ」
ぼそりと呟くような声が不穏に耳に届く。
まさか、と思った瞬間にはもう遅くて、吾妻はオレの口に噛み付くように吾妻の口が重なった。
カリの裏側を下から握りこむようにされ、指の腹で刺激される。それと一緒に鈴口を割るように親指でぐりぐりとされると、体を仰け反るほどの快感がきて、口を閉じていることが出来ず吾妻の舌が侵入してくるのを許してしまう。
最悪だ最悪だ、めちゃくちゃ最悪だ…っ
吾妻とのキスは好きだけど、口に食べ物が入っている時にこんなことするのは不愉快以外のなにものでもない。
最悪だ、こんなの最悪だ。
そう思うのに与えられる快感のせいで、思考が馬鹿になってしまっていて拒否するどころか貪るように体が受け入れてしまう。
オレが唐揚げを食べてんのか、吾妻に食べさせられてんのか、それとも唐揚げと一緒に吾妻に食べられてしまってんのか。
そう思った瞬間にゾクゾクとした感覚が腰のあたりからこみ上げてくる。
近すぎてわからないはずなのに、吾妻の目が獣のようにオレの目をじっと見ていることに気づいてオレは捕食されているんだと自覚する。
ゴクッと口にあったものを飲み込むと、吾妻の唇が離れがたいかのように唾液で作られた糸がひく。
その頃にはぬるぬるに滑るようになった竿を大胆に上下され、射精感が高まってきていた。
「はっ、ぁ…あ、ずまぁ…やっ、でちゃう…スーツ、汚れ…っ」
「はは、もう良仁の我慢汁いっぱい飛んでるよ」
「ごめ、ぁ…っ、これ以上だめっ、はぁ…でちゃうから、汚したくな、い」
「いいよ、いっぱいドロドロに汚しちゃえよ。会社に着ていってやるから」
「やだぁ、やだやだ…!」
いやいやと首を振ると、可愛い可愛いと吾妻は呪文のように繰り返して首筋にキスを降らす。
チリッとした痛みを時折感じるものの、乳首もちんぽも気持ち良すぎて、吾妻にしがみついてはしたなく喘いだ。
我慢しなきゃと思うのに、出してしまいたいと矛盾する考えが同時に浮かぶ。
わけがわからなくなってきて、とにかくなんとかしないとだめだと思い、咄嗟に竿の根元を手できゅっと掴む。
「やぁ…で、でちゃう、でちゃうから…はっ、ぁ」
「……なんで、そんな可愛いことすんの」
「よご、すの…やぁ、あずまぁ」
ポロポロと涙がこぼれて、視界がにじむ。
気持ちいい、出したい、気持ちいい、出しちゃだめ、気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい……っ
いつの間にか吾妻のモノとオレのモノがひとまとめにされ、乳首にあった手もちんぽに集中するように一つは二本の竿を上下に擦り、もう一つの手は先っぽを包み込むように手のひらで円を描くように動かされる。
「良仁、我慢すんの気持ちいい?良仁の我慢汁いっぱい出てくるからぬるぬるしてすげぇ気持ちいい…」
はぁはぁ、と色っぽく息を吐きながら吾妻が興奮するように手を動かしてオレの名前を呼ぶもんだから、オレも吾妻の名前を夢中になりながら呼ぶと、出さない為に根元を抑えていた手で二本分の竿を腰を動かしながら上下に動かす。
「あずまっ、あずまっ、すきぃ、あずま、すきっ、イっちゃう、あずまぁ、すきすきすきすき!!」
「あっは、良仁えっろ…たまんねぇ、ぁ、はっ、ーーーーッ」
びゅっびゅーッ、と勢いよく白濁とした液体を撒き散らして、綺麗な仕立てのいいスーツをべったりと汚す。
「ははっ、まだ出てる…気持ち良かったな」
とろとろと鈴口から留まることなく溢れてくる。
恥ずかしい、そう思うけどようやく達することのできた体には快感の波が収まることを知らずそんな吾妻の言葉ですら感じそうになる。
熱い息を吐きながら、涙がにじんだ瞳で吾妻をぼんやりと見つめると、吾妻がゴクッと息を飲んだ。
「風呂いこっか、良仁」
吾妻のその言葉にどこか期待するようにコクリと頷くと、吾妻に抱きかかえられると身を預けるように吾妻の胸に顔を埋めて、オレたちはバスルームに向かった。
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「はぁ……。」
オレは洗濯を畳みながら一人大きくため息をついた。
あの日も結局吾妻は最後までしてくれなかった。
お風呂で散々愛撫されて、可愛いとか、好きだとかいっぱい甘やかされて、オレばっかりイってしまって…と、バスルームでの出来事を鮮明に思い出してしまって、恥ずかしくて手で顔を覆った。
吾妻はオレに甘いすぎるくらい甘い。
家事はしてるけど、何かあったら心配だからってバイトもだめだし、それどころか外出することも許してくれない。
別に外に出ないことには不満もないし、過剰なくらい気を遣ってくれるし、暇をしないようにと映画とかドラマとかの配信サービスにも加入してくれてるし、ゲーム機も、電子書籍も用意してくれてる。
料理に最近精を出しているオレによくわからない料理器具もいっぱい買ってくれた。
結局原因はちゃんと教えてもらってないけど、入院するようなことになってしまって、3ヶ月も眠ってしまって、その上一部の記憶まで無くしてしまったわけだから、過保護になってしまうのは仕方がないのかもしれない。
……でもなぁ。
床で皺を伸ばすようにTシャツを手を当てて、スッと動かす。
もう一度大きくため息をついて、手をピシッと折り目をつけながら丁寧に畳んで横に寄せると、違う洗濯物を手に取る。
いくら吾妻がオレを甘やかしたいにしたって、オレばっかり一人気持ちよくなるのは違うと思う。
恋人として体を一つに繋げたいって思うし、それに吾妻にだって気持ちよくなって欲しい。
…まあ、なんでしないのかって原因はわかってるんだけど。
実は、そういうことをしようとなった時はあった。
恋人として過ごした記憶がないオレには未知のことだったし、正直ビビらなかったかっていうと嘘になる。
雰囲気的にオレが下っぽかったし、吾妻に任せておけば大丈夫だって思ってた。
嫌って思わなかったし、流れも自然だった。
あー、オレこのまま吾妻に抱かれるんだなー、くらいビビりながらも受け入れてた。
……でも、現実は違った。
吾妻がオレの後孔に指を挿入した瞬間にオレの体がおかしくなった。
甘い余韻に浸っていたはずなのに、驚くほどの恐怖に全身支配されて震えた。
頭がパニックになって、何かを口にしていたけど呂律が回らなくて言葉にならない言葉を発していた。
その時のことはよく覚えていないけど、オレが落ち着くまでずっと吾妻が抱きしめてくれていたことだけは覚えてる。
吾妻は事故の後遺症だろうって言ってた。
結局なんで入院したのかちゃんと聞いてないけど、きっと吾妻のその時に言っていた事故が原因なんだろうと思う。一体どんな事故だったんだろう。
はぁ、と今日は何度目かになるため息をついて、最後の洗濯物を畳み終えるとオレはそれぞれの場所に洗濯物を片付けていく。
…あんな面倒なことしちゃったんだから、抱きたいなんて思わないよなぁ。
洗濯物を片付け終わってから、ちらりと時計を見る。
夕飯の準備をするには早いけど、新しいレシピを試すにはいいかも。
せっかく買ってもらった調理器具も使い方を調べて、そのレシピも調べて作ってみるのもいいかもしれない。
ゲームやテレビでだらだらと時間を潰すのもいいけど、せっかくなら吾妻が喜ぶようなことに時間を使いたい。
仕事を今も頑張っているだろう自分の恋人を思い浮かべながら、オレは書斎にあるパソコンのところに向かった。
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ほんの少しの興味だった。
ほんの少しの興味のせいでオレは今酷く後悔することになってしまった。
書斎に来たオレはレシピを調べるためにパソコンを起動していた。何度もこの部屋には来てるし、吾妻が買ってくれた料理の本とか、雑誌もここの本棚に置いてくれていて、時折その本のレシピなんかも作ってみた。
パソコンがデスクトップ画面に切り替わるまでの少しの時間を本棚の背表紙を見たりして過ごす。
推理小説やラノベに漫画、レンジでできるレシピ集に…旬の野菜の本。
さまざまな本の背表紙を指でなぞって歩くと、パソコンにようこその文字が浮かんだのを確認して、机に向かう。ふいに、机にあるカレンダーが目についた。
あ、新しい月になってるのにまだ変わってない。
卓上カレンダーを手に取ると、軽いプラスチックが落ちる音がして、見るとSDカードが机の上に転がっていた。
「なんだろ、これ」
吾妻は仕事は持ち帰らない主義らしいので仕事関係の資料じゃないだろうし、写真とかかな?
昔撮った写真とか整理しないとな、とそういえば吾妻が前に言っていた気がする。それかな。
オレはその時、小さな好奇心がわいてきた。
もしかしたら、オレの記憶にない吾妻の写真が見れるかもしれない。
高校に通っていた頃の吾妻、今恋人として過ごしてる吾妻、その間のオレの知らない吾妻。
毎日吾妻と過ごすたびにオレはどんどん吾妻が好きになっていて…なんだかオレの知らない吾妻がいるのが少し残念に思う。
そう思うと好奇心が膨らんできて、気づけばパソコンにSDカードを差し込んでいた。
ドキドキしながらファイルの読み込みを待ち、カチカチとマウスを操作した。
すると、動画ファイルであることがわかり、なんだ写真じゃなかったのか…と、少し落胆した。
目当ての物じゃなかったな、と思いSDカードの取り外しを行う為に左にクリックをしたつもりが、間違って右クリックを押してしまった。
「わっ、やべ」
慌てて停止しようとカーソルを合わそうとしたところに、音声が耳に届いた。
『やっ、ぁ!あ゛あ゛~~~~ッ』
え、これって男の喘ぎ声?もしかしてAV??
いや、AVくらい吾妻も持ってるよな。オレとつき合ってんだし、対象は男なのも仕方ない。
つーか、画面めっちゃ揺れてるし、素人もの?てか、めっちゃ泣くみたいな声だし、レイプ…とか?え~…吾妻ってそういう趣味なんだ。優しいけど、まあ…たまにSっぽいとこもあるし……
『良仁~…きもちいーね!ほら、もっと腰揺らして!声聞かせて、な』
………………え?
その声が聞こえた瞬間に血の気が引いた。
聞き覚えのある声がオレの名前を呼ぶたびにざわりざわりと不快感とどうしようもない恐怖と不安がこみ上げてくる。
知るべきじゃない。
そう思うのに、金縛りにあったように体が動かない。
目を反らすべきだと思う、でもうまくいかなくてぐらぐらと揺れる画面が喘いでいる人物をとらえた。その瞬間、画面越しにその人物と目が合った。
『だ、だいすき…おにい、ちゃん』
これ、オレじゃん。
酷く肌をドロドロにしているのに、恍惚とした表情を浮かべながらうわ言のように大好き大好きお兄ちゃん大好きと繰り返す。
ダイスキ、ダイスキ、オニイチャン、スキ、スキ、スキ、スキ………好き?好きって何?いや、イく時にそう言わないといけなくて教えられた。誰に?誰だっけ。お兄ちゃん?お兄ちゃんって誰?お兄ちゃん、お兄ちゃんは…葛さん、葛さんはお兄ちゃん
でも、好きなのは吾妻
好き、好き、大好き、吾妻が大好き。
スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ
だって、吾妻はいっぱい好きだって、オレが好きだって、だからいっぱい好きになってって、悲しくないようにいっぱい好きなってって、だからオレは吾妻が好きで、そうじゃなきゃだめで…イくときも好きって言えって、吾妻の名前呼んでって、だってオレは吾妻が好きだから、好き、好き、好き、好き、スキ、スキスキスキ…
頭の中で蘇る
吾妻を好きだと、愛してると繰り返して、体に刻み込まれながら、ガラスにへばりつくようにある光りのない目に言い訳するように頭の中でごめんなさいと言い続けたあの時間。
葛さんに見られるように、上書きするように愛された時間。
吾妻の笑顔
脳みそを直接手で触られたみたいな嫌悪感で体がざわりと鳥肌を立てる。
吐き気がこみ上げてきて、オレはトイレに駆け込んだ。
「う゛ぇええ゛えぇえーーッ」
便器を抱えるように体の中にあるものを吐き出す。
綺麗にしないと、綺麗にしないと、体の中全部空っぽにして、吾妻がくれるもの以外は何もオレの中にないようにしないと、そうじゃないと吾妻はオレを愛してくれない
オレは幸せになれない
吾妻を愛せない
いっぱい愛してもらわないと
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何時間そうしていたんだろう。
指を突っ込んでは吐いて、指をまた突っ込んでを吐いた。
どんだけ突っ込んでも吐けなくなって、涎くらいしか出なくなっていた。
いつの間にか部屋の中は暗くなっていて、のろのろと立ち上がって、服を脱ぐ。
ベタベタの顔を洗って、歯も磨いた。
バスルームに入ると、シャワーを浴びる。
お湯を止めたところでガチャっと玄関の開く音が聞こえてきたので、走って、抱きついた。
「……良仁?」
「おかえり吾妻」
ぽたぽたと水滴が廊下に落ちるけど、そんなことよりも吾妻が帰ってきてくれたのが何より嬉しかった。大好きな吾妻。オレを幸せにしてくれる吾妻。
「お風呂一緒に入ろうと思ってたんだけど、もう入ったのか?ははっ、びしょびしょだな。乾かさないと風邪ひくぞ」
「吾妻が入りたいなら一緒に入る。でも、後がいい。今すぐ吾妻が欲しい」
「…良仁」
「吾妻でオレの中いっぱいにして。吾妻以外いらないし、オレの中にあるもの全部吾妻がくれるもんじゃなきゃヤダ」
「………なんか、思い出した?」
「忘れててごめん。吾妻が好きなのに、吾妻がいっぱい愛してくれたのに、ごめん吾妻。好き、好き、好き…大好き、もう忘れないから許して」
「ははっ…良仁、俺も好きだよ。めっちゃ可愛いな…いいよ。こうやって良仁が居てくれるだけで俺は幸せだから」
「ありがとう吾妻、大好き」
オレは大好きな吾妻に微笑んでから、吾妻のベルトをカチャカチャと外す。
「…手洗いうがいはいいのか?」
「いい。お腹すいたからちょーだい」
「うん、わかった」
吾妻が笑ってる。良かった、大好きな吾妻が笑ってたらオレは幸せだ。
だってオレは吾妻が好きだから。
吾妻のことを好きだったら幸せだって、吾妻がいっぱい教えてくれた。
だから、オレは幸せだ。
「むぐっ、ぇ゛っ、ン、ン」
「っは、きもちいーよ、良仁の口ん中…っ、喉の奥とか、あ~~~っ、すっげ、きもちい…」
「ゔっ、ぇぐ、ンンン゛!!~~~ッ」
両手で頭を抑えられて、吾妻が腰を打ち付けるようにピストンさせる。
歯を立てないように注意しながら、少し苦しいけど吾妻は優しいからオレの欲しいモノの為に一生懸命になってくれる。
嬉しい。口の中に吾妻の雄のにおいがいっぱいに広がっていく。
「あっ、あ…良仁、良仁、良仁、良仁…好き、良仁…ずっといっしょにいよう、なあ゛ーーーッ!!!はっ、ぁ」
喉の奥に直接吾妻の精液が流れこんでくる。
むせそうになるのをグッと堪えてゴクッと飲み込む。
吾妻がオレの一部になる。
もっと、もっと吾妻で満たして欲しい。
「はぁはぁっ、良仁…良仁、良仁…っ」
オレを力強く吾妻が抱きしめてくれた。
気持ちいい。あったかい。吾妻を好きで良かった。
「吾妻」
「ん?」
「お腹寂しいから吾妻でいっぱいにして」
「…うん、わかった」
吾妻はオレの頬にキスをして微笑むと、オレを優しく抱き抱えると寝室へと向かう。
オレは幸せな気持ちで身を任せた。
吾妻がいる。
吾妻が満たしてくれる。
吾妻が愛してくれる。
だから、オレは幸せだ。
だって吾妻を好きだと幸せになれるって教えてくれたから。
本当だね。幸せ、すごく幸せ。
吾妻以外は何もいらない。
吾妻はずっといっしょにいてくれるって言ってた。
だから、オレはこれからもずっと幸せだ。
優しい吾妻がずっと居てくれるから
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読んでいただきありがとうございました。
吾妻ルートと、リクエストをいただいて書いてみましたがBADENDだったので、正直ご期待に添えなかったのでは…と、内心びくびくしています。
書いててすごく楽しかったのですが、酷すぎて吾妻のことをトラウマ製造機と呼んでいました(笑)普通に何にもないように生活する彼は本当に怖いですね。
それでは、機会があればまた更新するかもしれませんがその時は懲りずにまた読んでいただけたら嬉しいです。
また、リクエスト等もTwitterに設置しているマシュマロなら匿名でできますのでお気軽にどうぞ!
最後になりましたが、読んでいただいて本当にありがとうございました。
2020.4.7
応援ありがとうございます!
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