光の方を向いて

白石 幸知

文字の大きさ
23 / 52

第21話 不自然なくらいに

しおりを挟む
「よし、陽平、遥香、絵見、中嶋君、相上君、六井君全員いるね」
 翌日の終業後すぐ。教卓の周りにクラス発表の中心となるメンバーがそろい踏みしていた。恵一はまた別の用事で外している。
「昨日遥香とも話して、この時間でどういう小道具大道具衣装を用意するかをあらかたリストアップしようかと思います」
 私はそう言い、今日の議題をみんなに示す。

「ちょっと現代チックに、脱出ゲームっぽい雰囲気を持たせたものをってことで決まったけど」
 黒板に要素を書き出す中嶋君は、さらに続ける。
「何を用意しようか。脱出ゲームっぽくって言ったって、素人の俺等にはできることは限られているし」
「そこはあまり難しく考えなくていいと思う。私は。お化け屋敷にテーマを設けて、例えば『この教室でかつて生徒のA君が亡くなりました。そんな彼の思い出のものを見つけ出して出口へと向かって下さい』とか、そんなイメージでいいんじゃないかな」
 ……会話噛みあうなあ中嶋君と絵見。

「おおーさすが石布(さん)……」
 その発言に湧く男子三人。
「っていうか……それが本線でいいんじゃないか? みんな」
 四方を見渡し同意を求める中嶋君。
 確かに、私も賛成、絵見ナチュラルにいい考え出すの凄い……。

「いいと思う(思います)」
 全員首を縦に振った、ということで大体の方向性は決まった。
「なら、そんなに凝った衣装は少なからず必要なくなりますね」
「そうだね、それもかなりでかいと思うよ」
「雰囲気は学校の怪談的なものでいいんじゃない?」
「そんで小道具は──」
 絵見の発案で一気に話し合いは加速していった。

「準備するべきもの、大方リストアップできたな。じゃあ、来週の月曜からクラスのみんなに声かけて残れる人は残って手伝ってもらおうか」
「うん、そうだね」
「それなら今日の帰りにまた俺と相上、六井で小道具作るのに必要そうなもの買っておくよ」
「そうしてもらえると助かるね」

 ……これ私と陽平いなくても回るんじゃないかなあと、一瞬思った。
 絵見と中嶋君が優秀すぎるんだもの。
「オッケ―、じゃあ、そうしよぜ。今日はこんなもんでいい? 水江」
「うん、全然いいよ、むしろ私いらないんじゃないかなーとか思い始めているくらいだから」
「いやいや、そんなことないよ、意見出したりまとめることはできても、その下準備は俺等一切やってないからさ。水江も必要だよ」
 この中嶋君から感じるお兄さん成分は一体何だろう。陽平や恵一とはまた違うタイプだから新鮮というか……。

「じゃ、じゃあそろそろ私と陽平委員会行かなきゃだから、あとはよろしく、行こ? 陽平」
「うん」
 私は終わりかけの集まりを陽平と一緒に抜け、ここ最近通っている会議室へと向かいだした。
 そういえば、今日の陽平、あまり口出ししなかったな……。
 なんか、また様子が……おかしい?
 ……まあ、いいや。とにかく、今日の帰りに花火大会のこと、聞かなきゃ。

 その日の委員会は、クラ対の体育館を利用したリハーサルのヘルプに駆り出された。他にも音楽室なども使っているのでどうしても人が足りなくなるらしい。ちなみに、陽平は第一音楽室のリハーサルの手伝いに行っている。
「今のクラスが終わるまで、ここに待機して下さーい」
 私は、第一体育館と第二体育館を繋ぐ渡り廊下で列整理をする仕事をしていた。

「リハーサルの時間は七分です、その時間で入退場すべてを完了させて下さい」
「はーい」
 出す指示はそれだけ。あとは時間になったら体育館に通して次のクラスの列をまとめる。それの繰り返し。
 きっと音楽室も同じような感じなのだろう。

 ただ、この仕事の何が役得かと言うと。他のクラスの合唱が今どれくらいの完成度なのか知ることができるということ。
 やっぱり上級生の力の入れ具合は凄まじいもので、一年生の後に三年生とリハを見ると鳥肌が立ったりする。
 うちのクラスの今のクラ対の仕上がりと比べて、ああでもないこうでもないと思ったりする。まあ、クラ対は合唱部の人に任せているから、私が何か口出しをすることはないと思うけど。

 リハーサルの手伝いが終わると、その日の仕事は終了ということで、各自帰宅なりクラスの準備に向かったりと自由にしていいとのことだった。まだ完全下校まで三十分はあるのでクラスの様子を見てから帰ろうと思った私は、陽平に一声をかけようとする。

「ね、高崎君のクラスはクラス発表何するの?」
「それ私も気になる―」
 会議室の前の方で、陽平は同じ委員の女の子二人と話していた。

 陽平は……見た目もそれなりに……それなりにってなに、温和だからか、第一印象は結構いいと思う。多少友達としての贔屓目はあるかもしれないけど。だからこうしてしばしば女の子に囲まれることはあったりする。実際、春の段階で告白されているわけだし。

「えっと……僕のクラスはお化け屋敷、かな」
「へー、そうなんだ、ねえ、どんな感じのお化け屋敷なの?」
「それ言っちゃったら、あまり面白くないから内緒かな」
「そっかぁ。当日絶対行くから楽しみにしてるね」
「うん、待ってますね」
「そうそう、高崎君ってさ、彼女とかいるのー?」

 何気ない流れのなかで、飛び出た一言だったんだ。いや、別にこういう感じに軽く聞くのはあると思う。
 だから、私も陽平は「いや、いないよ?」って軽く返すと思ったんだ。

「……え? ……ああ、いや、彼女は……いない、かな」
 私の予想と裏腹に、まるでそれが重大なことかのように、彼はそう返したんだ。心なしか、遠目からも顔色が青白くなっているのが見える。

「えー、そうなんだー。高崎君優しいしいてもおかしくないと思うんだけどなー」
「うんわかるー、意外だなー」
「ははは……そう言ってくれるだけで、嬉しい、かな……。じゃ、じゃあ僕そろそろ行かないとだから、じゃあまた」
「あ、うんじゃあね高崎君」
「またねー」
 半ば会話の途中で陽平は前のドアから会議室を抜け出した。それを見た私は反射的に後ろのドアから出て、彼に近づく。

「モテモテみたいだね、陽平……?」
 ただ、普通に話しかけただけだった。それなのに。
 壁によしかかって廊下に佇む彼は、微かに震えている右手を顔の前に掲げて見つめていたんだ。
 まるで、自分自身の今の状況をどうにか理解しようとしているように。

「あ、茜……?」
 そして、私の声にツーテンポくらい遅れて反応した陽平はこちらを向き直す。
 ……この間、男の高島先輩と話していたときは全然なんともなかった。

 だけど、今、同じようにほぼ初対面の女の子に話しかけられると、こうなっている。
 考えすぎ? でも……。どうしてこんなに反応に差があるんだろう。
 この間陽平が言っていた、「僕、彼女作る気ないから」発言と関係があるのだろうか。いずれにしても。こんな陽平は、初めて見た。

「あ、ああ、茜。どうかした? これから帰り?」
「いや……教室の様子見てからにしようと思ったんだけど……陽平は?」
「ぼ、僕は……今日はもう帰ろうかな……」
 彼はそう言うと、真っ白い壁から身を離して歩き出そうとする。

「最近」
 私が一言、呼び止めると陽平は顔をこちらに向ける。表情は、まるで何かに怯えているかのように弱々しい。
「陽平、最近、なんか私のこと、避けてる?」
「……べ、別に、そういうつもりはないけど……」

 足の向きは完全に私と逆を向いている。顔だけこちらを見ている陽平は、視線を床に落とす。
「じゃ、じゃあ僕、もう帰るから……」
 もう耐えきれない、と言わんばかりに陽平は早足で私の側から離れていった。
 これって、本当にあの一言と関係、あるのかな……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...