光の方を向いて

白石 幸知

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第26話 脆い五角形

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 だから、今のこの茜の失恋、どうにかしてあげたい。
 そう思って、放課後。私は教室を出ようとする恵一を捕まえて声を掛けた。

「恵一。ちょっと」
「……何? 絵見。俺ちょっと行かなきゃいけないところあるんだけど……」
 荷物を背負って首で階段を向く恵一。
 急いでいるのかもしれないけど、私だってうかうかはしていられない。

「陽平の、ことなんだけど」
 恵一は陽平の名前を聞くと眉間をピクリと動かして、向きを私の方に直した。
「……クラス委員の集まりがあるから十五分しか時間ないけど、それでもいいか?」
「それだけあれば十分。手短に済ませるから」

「オッケ―。……じゃあ、ここだとうるさいし、四階の図書館前とか、どうだ? あそこならそんなに人も通らないし」
「いいよ。大丈夫」
 私たちは放課後の喧騒広がる校舎を移動し、静かな四階に移動した。

「クラス委員って学祭何してるの?」
「まあ、言っちゃえば生徒会の手伝い? 実行委員とはまた別の手伝いをしているんだ。生徒会も生徒会でなんか学祭で出し物するみたいで、とんでもない人手が必要らしい。とんだ労働環境だけど」
 壁によしかかり苦笑いをする恵一は、
「それで、陽平についての話って、何?」
 一転。ひどく神妙な顔つきに変わる。

「……昨日、茜と電話して聞いた。……陽平、茜に『友達でいて欲しい』って言ったみたいなんだけどさ……どうしてか、知ってる?」
 私は簡潔に聞きたいことの用件を伝える。

「それを、俺に聞くか? 普通。本人に聞くことじゃない?」
「……茜は理由を知っているみたいだけど、話してくれなかった。茜が口を割らないってことは相当な内容だし、きっと陽平に聞いても答えてくれないと思ったし、なんなら今度私が陽平に避けられることもあり得るんじゃないかと思って、あなたに聞いた」

「……まあ、この場に限って言えば俺に聞いたのは正解、かな」
「じゃあ」
「けど。絵見には言わないけど。……茜に言ったのはそれなりに理由があったんだ。そうホイホイと他人に言えるようなことではない」
 彼は視線を虚空に浮かべ、片足をフラフラと動かす。

「それって……つまりは茜が陽平を好きだから言ったってこと?」
「ご名答。あのまま茜があいつに告ってたらとんでもないことになる。だから俺は茜にストップをかけた。そのためには今絵見が俺に聞いていることを話す必要があった。……まあ、茜に口止めはしてなかったんだけど、っていうか本当はしないといけなかったんだけど、そこら辺デリカシーはあるみたいで安心したよ……」
「……だから、茜に諦めろと?」

 恵一の答えをそう読んだ私は思わず低い声で聞いてしまう。一歩、正面の彼にゆっくりと詰め寄る。
「諦めろとは言ってない。そんなこと言えるはずないだろ? 恋心に制限なんか加えてみろよ。一瞬で俺等の関係は瓦解する」
「…………」

「絵見だってわかってるだろ? 俺等『五人』の関係性の危うさを。……茜が撃沈したらきっと陽平と距離を取る。少なからず今のような関係ではいられない。その時点で、五人は四人になる。……で、茜の親友である絵見も、きっと陽平とは普通ではいられなくなる。ダブルプレーで三人だ。そうなったとき、及川はどうするか。まあ、そこまでは読めないけど、同性の友達が離れたらきっとそれについて行くんじゃないか? トリプルプレーで残り二人。もうバラバラだ。……俺等は、どこかの距離が壊れた瞬間、芋ずる式に全部の距離がぶっ壊れる関係にいるんだよ。勿論、俺と絵見も。だから俺は茜に『一旦待ってくれ』と言った。茜は陽平に振られたわけではない。事実上はそうかもしれないけど、まだ振られてはいない。……なら、茜が撃沈しないように俺が動かないといけないんだよ。茜に我慢させたって、いつか限界が来る。誰かを好きになる感情に、制限なんかつけられないんだから」

 長々と語った恵一はそこまで言うと視線を私に向ける。
「……陽平に事情があるのは認める。それを俺が知っているのも認める。……でも、これは俺がなんとかしないといけないことなんだ。だから……絵見にも同じこと言う。……待ってくれないか? 学祭が終わるまでに解決させる。そうすれば、茜の気持ちを無下になんてさせないで済む。頼む。言いたいことがあるのはわかる。……俺になら言ってもいいから、まだ、陽平には何もしないでくれ」

 恵一の説明に納得できる部分はあった。私たち五人の関係の脆さ、とか。茜が振られたら私も陽平から離れるだろうって予測も。
「言いたいことはわかった。……とりあえず学祭が終わるまで待つのも理解した。でも、これだけは教えて。……じゃあ、なんで遥香を私たちに組み込んだの? 四人ならまだ関係は単純だった。それを、どうして複雑にしたの?」

「……そこは、及川がクラスで孤立するのが嫌だった。……それだけだよ」
 バツが悪そうに、恵一は答える。そのことが状況をより面倒なものにした、という自覚はあるんだろう。
 ……はあ。結局、陽平も恵一も変わらない。

「……二人とも、みんなに優しいんだね」
 私はそれだけ言い残し、恵一の目の前から立ち去る。
「みんなに優しいってさ。言葉だけ追えば美しいけど、結構しんどいと思うのは、私だけかな?」
 捨て台詞に、答える声はなかった。

 恵一を問い詰めるのに、あまりいい気分はしなかった。でも、これも茜のため。私の個人的な感情は置いておいて、まず茜と陽平のことをどうにかしないと。
 ひとまず、恵一の言う通り学祭が終わるまでは待つことにしよう。
 そこまでは、少なからず、私たちは五人でいられるのだから。
 教室に戻り、私はクラス発表の準備をしている輪に加わる。たどたどしく指揮を執る遥香の姿を見て、ひとつ思う。

 遥香は、陽平のことをどう思っているんだろうか。
 宿泊研修の一件もあるし、色々あってもおかしくはない。彼女はそんな素振り一切見せないけど、人の気持ちなんて他人にはわからないってことはもう学んでいる。

 もし、遥香も陽平のことが好き、だとしたら──
 事態は、もうひと悶着あるんじゃないだろうか。

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