光の方を向いて

白石 幸知

文字の大きさ
31 / 52

第28話 お人好しでわがままな四人と、私

しおりを挟む
 暗幕を受け取り、教室に戻ると、
「おっーっ、なんかそれっぽいもの持ってきたじゃん水江たちが」
 そこは大体レイアウト通りに並んだ机が、お化け屋敷の骨格を成していた。二段に積んだ机が通路を作り、そこらかしこに並べた小道具たちが参加者の恐怖を煽る、はず。

「ありがとう、茜、絵見。暗幕を机にかけて、とりあえずそれっぽい形にしようっか」
 陽平がにこやかな顔をして私たちに近づく。
「りょーかい。ごめーん! 誰か反対側持って、暗幕机にかけるの手伝ってくれない?」
 茜の呼びかけに応えてくれたクラスメイト何人かとで、暗幕を張る作業も終わる。そのタイミングで、

「あ、ごめんそろそろ私たち実行委員の仕事に行かなきゃだから」
 茜がクラスを離れる瞬間が来た。
「じゃあ、陽平も?」
「う、うん。僕も……そうだね」

「だから、あとは絵見と遥香たちに任せちゃうね。中嶋君たちにもそう伝えているから」
「こっちは任せておいて」
「ありがと。じゃあ、会議室行こう? 陽平」

 並んで教室を後にする二人を見送り、私はあくせく動き回る遥香の姿を捉える。
 私が教室を出ている間に、恵一もクラス委員の仕事に行ったのだろう。彼の姿は見えなかった。
 ということは、今、この瞬間に「五人」のなかでいるのは私と遥香だけ。

 ……遥香は、陽平のこと、どう思っているのだろうか。
 最近抱き始めた疑問の答えを、求めたくなってしまう。別に、これは直接陽平にどうこうする話ではないから、恵一との約束を破ることにはならない、と自分のなかで理由をつける。私は教室の窓際でモノクロの心霊写真っぽいものを貼る作業をしている遥香の隣にそっと立ち、彼女の作業を手伝い始める。

「あ、絵見ちゃん……」
「手伝うよ、遥香」
「あ、ありがとうございます……」
「なんか、私たちが準備したものが形になるって、変な感じするね。今までノートでああだこうだ言って内容を考えていたものが、こうやって教室に出来ていくってなると」
「そうですね……でも、達成感って、言うんでしょうか……そんなふわふわした感覚がします」

 何枚めかの写真をペタっと台紙に貼ったとき、私は世間話もそこそこに本題を切り出した。
「ねえ。遥香。……陽平のこと、どう思ってる?」
「……え、絵見……ちゃん? どうしたの? 急に……?」

 いつも話題をいきなり出しちゃうのは私の悪い癖かもしれない。遥香は戸惑った表情を隣の私に向ける。右手に写真を、左手にスティックのりを持ったまま。
「……別に、ただ、気になっただけ。この間の土曜日、なんか仲良さそうにしてたから、ね」
「あっ、そ、それは……私が間違って蛇口を思い切りひねって水を高崎君にかけちゃったからで、別に、そんな……」
「そんな?」
 ……次第にフェードアウトしていった遥香の声に、意地悪い相槌を打ってしまう。

「そんな……仲が良い、とかじゃ、ないです……」
「答えになってないよ。……ごめんね、話がそれたから」
「…………」
「どう思ってるの? 陽平のこと」

 私たちの近くだけ、まるで空間が切り取られたかのように静けさが走る。周りは喧騒に包まれ、和気あいあいと準備をしているのに。
 私がこんなこと聞いたせい、とは理解しているけど。

「……それは……」
 遥香は、持っていた写真とのりをそっと窓際に置く。答えに言い淀み、しばらくの間無言になる。時計の秒針が一周するくらい、それは続いた。

「……絵見……ちゃんには、関係ない、って言ったら、許してもらえるのかなあ……?」
「……そうなるんだったら、私は最初から、聞かないけどね」
「そう、ですよね……」
 彼女は視線を下に彷徨わせ、また黙り込んでしまう。
 そして。

「……っ、と、友達……ですよ? ただの仲の良い、友達……です。高崎君は」
 まるで、ただの友達とは思ってませんと言っているような、そんな苦しそうな笑みを私に見せながら、遥香はそう言ったんだ。
 その答えは、私にひとつの結論を導き出す。

 ──壊れる。
 
 近いうちに、いや。もう。私たちの関係は、壊れてしまう。と。
 遥香も気づいている。茜が陽平のことを好きでいることに。あれだけわかりやすい態度を取っているんだ。気づくのも不思議じゃない。
 遥香が、もう少し嘘をつくのが上手だったら。もう少し上手に誤魔化してくれたら。

 ああもう。やっぱり。
 ……本当優しさのベクトルがお人好しというか……八方美人というか。
 それでいて、自分の気持ちにも正直でいようとするから、性質が悪い。
 だから、人間関係に見えないひびを入れ続けて、気づいたときには手遅れ、なんてことにしてしまうんだ。

 恵一。もう、タイムリミットだよ。
 あなたの指定した、学祭終了までには、きっとこの関係も終わってしまう。きっと遥香か茜、どちらかがもたなくなる。そうすれば、恵一が言う陽平の何かが引き金になって、連鎖的に私たちはバラバラになる。
 時間なんて、ないんだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...