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第28話 お人好しでわがままな四人と、私
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暗幕を受け取り、教室に戻ると、
「おっーっ、なんかそれっぽいもの持ってきたじゃん水江たちが」
そこは大体レイアウト通りに並んだ机が、お化け屋敷の骨格を成していた。二段に積んだ机が通路を作り、そこらかしこに並べた小道具たちが参加者の恐怖を煽る、はず。
「ありがとう、茜、絵見。暗幕を机にかけて、とりあえずそれっぽい形にしようっか」
陽平がにこやかな顔をして私たちに近づく。
「りょーかい。ごめーん! 誰か反対側持って、暗幕机にかけるの手伝ってくれない?」
茜の呼びかけに応えてくれたクラスメイト何人かとで、暗幕を張る作業も終わる。そのタイミングで、
「あ、ごめんそろそろ私たち実行委員の仕事に行かなきゃだから」
茜がクラスを離れる瞬間が来た。
「じゃあ、陽平も?」
「う、うん。僕も……そうだね」
「だから、あとは絵見と遥香たちに任せちゃうね。中嶋君たちにもそう伝えているから」
「こっちは任せておいて」
「ありがと。じゃあ、会議室行こう? 陽平」
並んで教室を後にする二人を見送り、私はあくせく動き回る遥香の姿を捉える。
私が教室を出ている間に、恵一もクラス委員の仕事に行ったのだろう。彼の姿は見えなかった。
ということは、今、この瞬間に「五人」のなかでいるのは私と遥香だけ。
……遥香は、陽平のこと、どう思っているのだろうか。
最近抱き始めた疑問の答えを、求めたくなってしまう。別に、これは直接陽平にどうこうする話ではないから、恵一との約束を破ることにはならない、と自分のなかで理由をつける。私は教室の窓際でモノクロの心霊写真っぽいものを貼る作業をしている遥香の隣にそっと立ち、彼女の作業を手伝い始める。
「あ、絵見ちゃん……」
「手伝うよ、遥香」
「あ、ありがとうございます……」
「なんか、私たちが準備したものが形になるって、変な感じするね。今までノートでああだこうだ言って内容を考えていたものが、こうやって教室に出来ていくってなると」
「そうですね……でも、達成感って、言うんでしょうか……そんなふわふわした感覚がします」
何枚めかの写真をペタっと台紙に貼ったとき、私は世間話もそこそこに本題を切り出した。
「ねえ。遥香。……陽平のこと、どう思ってる?」
「……え、絵見……ちゃん? どうしたの? 急に……?」
いつも話題をいきなり出しちゃうのは私の悪い癖かもしれない。遥香は戸惑った表情を隣の私に向ける。右手に写真を、左手にスティックのりを持ったまま。
「……別に、ただ、気になっただけ。この間の土曜日、なんか仲良さそうにしてたから、ね」
「あっ、そ、それは……私が間違って蛇口を思い切りひねって水を高崎君にかけちゃったからで、別に、そんな……」
「そんな?」
……次第にフェードアウトしていった遥香の声に、意地悪い相槌を打ってしまう。
「そんな……仲が良い、とかじゃ、ないです……」
「答えになってないよ。……ごめんね、話がそれたから」
「…………」
「どう思ってるの? 陽平のこと」
私たちの近くだけ、まるで空間が切り取られたかのように静けさが走る。周りは喧騒に包まれ、和気あいあいと準備をしているのに。
私がこんなこと聞いたせい、とは理解しているけど。
「……それは……」
遥香は、持っていた写真とのりをそっと窓際に置く。答えに言い淀み、しばらくの間無言になる。時計の秒針が一周するくらい、それは続いた。
「……絵見……ちゃんには、関係ない、って言ったら、許してもらえるのかなあ……?」
「……そうなるんだったら、私は最初から、聞かないけどね」
「そう、ですよね……」
彼女は視線を下に彷徨わせ、また黙り込んでしまう。
そして。
「……っ、と、友達……ですよ? ただの仲の良い、友達……です。高崎君は」
まるで、ただの友達とは思ってませんと言っているような、そんな苦しそうな笑みを私に見せながら、遥香はそう言ったんだ。
その答えは、私にひとつの結論を導き出す。
──壊れる。
近いうちに、いや。もう。私たちの関係は、壊れてしまう。と。
遥香も気づいている。茜が陽平のことを好きでいることに。あれだけわかりやすい態度を取っているんだ。気づくのも不思議じゃない。
遥香が、もう少し嘘をつくのが上手だったら。もう少し上手に誤魔化してくれたら。
ああもう。やっぱり。
……本当優しさのベクトルがお人好しというか……八方美人というか。
それでいて、自分の気持ちにも正直でいようとするから、性質が悪い。
だから、人間関係に見えないひびを入れ続けて、気づいたときには手遅れ、なんてことにしてしまうんだ。
恵一。もう、タイムリミットだよ。
あなたの指定した、学祭終了までには、きっとこの関係も終わってしまう。きっと遥香か茜、どちらかがもたなくなる。そうすれば、恵一が言う陽平の何かが引き金になって、連鎖的に私たちはバラバラになる。
時間なんて、ないんだよ。
「おっーっ、なんかそれっぽいもの持ってきたじゃん水江たちが」
そこは大体レイアウト通りに並んだ机が、お化け屋敷の骨格を成していた。二段に積んだ机が通路を作り、そこらかしこに並べた小道具たちが参加者の恐怖を煽る、はず。
「ありがとう、茜、絵見。暗幕を机にかけて、とりあえずそれっぽい形にしようっか」
陽平がにこやかな顔をして私たちに近づく。
「りょーかい。ごめーん! 誰か反対側持って、暗幕机にかけるの手伝ってくれない?」
茜の呼びかけに応えてくれたクラスメイト何人かとで、暗幕を張る作業も終わる。そのタイミングで、
「あ、ごめんそろそろ私たち実行委員の仕事に行かなきゃだから」
茜がクラスを離れる瞬間が来た。
「じゃあ、陽平も?」
「う、うん。僕も……そうだね」
「だから、あとは絵見と遥香たちに任せちゃうね。中嶋君たちにもそう伝えているから」
「こっちは任せておいて」
「ありがと。じゃあ、会議室行こう? 陽平」
並んで教室を後にする二人を見送り、私はあくせく動き回る遥香の姿を捉える。
私が教室を出ている間に、恵一もクラス委員の仕事に行ったのだろう。彼の姿は見えなかった。
ということは、今、この瞬間に「五人」のなかでいるのは私と遥香だけ。
……遥香は、陽平のこと、どう思っているのだろうか。
最近抱き始めた疑問の答えを、求めたくなってしまう。別に、これは直接陽平にどうこうする話ではないから、恵一との約束を破ることにはならない、と自分のなかで理由をつける。私は教室の窓際でモノクロの心霊写真っぽいものを貼る作業をしている遥香の隣にそっと立ち、彼女の作業を手伝い始める。
「あ、絵見ちゃん……」
「手伝うよ、遥香」
「あ、ありがとうございます……」
「なんか、私たちが準備したものが形になるって、変な感じするね。今までノートでああだこうだ言って内容を考えていたものが、こうやって教室に出来ていくってなると」
「そうですね……でも、達成感って、言うんでしょうか……そんなふわふわした感覚がします」
何枚めかの写真をペタっと台紙に貼ったとき、私は世間話もそこそこに本題を切り出した。
「ねえ。遥香。……陽平のこと、どう思ってる?」
「……え、絵見……ちゃん? どうしたの? 急に……?」
いつも話題をいきなり出しちゃうのは私の悪い癖かもしれない。遥香は戸惑った表情を隣の私に向ける。右手に写真を、左手にスティックのりを持ったまま。
「……別に、ただ、気になっただけ。この間の土曜日、なんか仲良さそうにしてたから、ね」
「あっ、そ、それは……私が間違って蛇口を思い切りひねって水を高崎君にかけちゃったからで、別に、そんな……」
「そんな?」
……次第にフェードアウトしていった遥香の声に、意地悪い相槌を打ってしまう。
「そんな……仲が良い、とかじゃ、ないです……」
「答えになってないよ。……ごめんね、話がそれたから」
「…………」
「どう思ってるの? 陽平のこと」
私たちの近くだけ、まるで空間が切り取られたかのように静けさが走る。周りは喧騒に包まれ、和気あいあいと準備をしているのに。
私がこんなこと聞いたせい、とは理解しているけど。
「……それは……」
遥香は、持っていた写真とのりをそっと窓際に置く。答えに言い淀み、しばらくの間無言になる。時計の秒針が一周するくらい、それは続いた。
「……絵見……ちゃんには、関係ない、って言ったら、許してもらえるのかなあ……?」
「……そうなるんだったら、私は最初から、聞かないけどね」
「そう、ですよね……」
彼女は視線を下に彷徨わせ、また黙り込んでしまう。
そして。
「……っ、と、友達……ですよ? ただの仲の良い、友達……です。高崎君は」
まるで、ただの友達とは思ってませんと言っているような、そんな苦しそうな笑みを私に見せながら、遥香はそう言ったんだ。
その答えは、私にひとつの結論を導き出す。
──壊れる。
近いうちに、いや。もう。私たちの関係は、壊れてしまう。と。
遥香も気づいている。茜が陽平のことを好きでいることに。あれだけわかりやすい態度を取っているんだ。気づくのも不思議じゃない。
遥香が、もう少し嘘をつくのが上手だったら。もう少し上手に誤魔化してくれたら。
ああもう。やっぱり。
……本当優しさのベクトルがお人好しというか……八方美人というか。
それでいて、自分の気持ちにも正直でいようとするから、性質が悪い。
だから、人間関係に見えないひびを入れ続けて、気づいたときには手遅れ、なんてことにしてしまうんだ。
恵一。もう、タイムリミットだよ。
あなたの指定した、学祭終了までには、きっとこの関係も終わってしまう。きっと遥香か茜、どちらかがもたなくなる。そうすれば、恵一が言う陽平の何かが引き金になって、連鎖的に私たちはバラバラになる。
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