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第39話 「陽平君」と僕を呼ぶ人
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僕のことを、陽平と呼ぶ人がいる。恵一や茜、絵見とかはそうだ。
高崎と呼ぶ人もいる。中嶋や相上君、六井君とか。
先生方からは高崎君と呼ばれる。
でも、僕のことを陽平君と呼ぶのは、僕の知る限り、一人しかいなかった。
あの後、我を忘れて体を揺らして、街中を駆け巡った。でも、僕の家の近所の光景はどこも及川さんの記憶と結びついていて、どこを見たって過去の二人の楽しげな表情が思い出された。それに耐えられなくなると、僕は家へと戻った。家へ入るなり、そのまま自分の部屋へ直行。部屋に入ると、たくさんの本が目に映る。
あの本も、この本も……これも、それも……。
及川さんに薦められて読んだ本ばかりだった。
僕は壁を殴りつける。父親がいたら、多分怒られるだろうけど、しばらく仕事で帰ってこれないから、その心配はいらない。ベッドに倒れ込み、うつ伏せで今度は枕を手で叩きつける。
だって、僕の全てだったから。
空っぽだった僕を、変えてくれたのは、間違いなく、彼女だ。
本を読むだけしかすることがなかった僕に、人と付き合うことを教えてくれたのは、彼女だ。
事実、中学校で恵一と出会えた。出会いのきっかけは恵一からだったけど、付き合うことを教えてくれていなかったら、きっと続いてなんかなかった。その繋がりで、茜や絵見とも関われた。高校では、中嶋や、相上君、六井君とか、他にもいっぱい、話せる友達ができた。
でも。
その過去の僕は、及川さんとの記憶がない、言ってみれば「嘘の僕」だったわけで、恵一との始まりも、茜とも、絵見とも……皆との出会いそのものが、嘘だったことになる。
よく人間は、過去を糧に生きる姿を描かれる。
だとするなら、「本当の僕」は、この今感じている苦しみを味わってから、恵一と出会うべきだったんだ。皆と出会うべきだったんだ。
そうじゃなかったから、今こうなっている。
中途半端な僕のままだったから、茜に辛い思いをさせた。恵一に余計な心配をかけさせた。
いっそ、あのとき、僕も一緒に――
「いや……」
頬に、温かい何かを感じた。
「僕だけが、死んでいたらよかったのになぁ……」
シーツにひとつ、ふたつと広がる無色の染み。
「だったらさ……皆がこんな思い、しなくてよかったのに……」
零れる涙は、止まることをしなかった。
学校を飛び出してベッドで寝込んでからはや二日。振替休日も明けて、終業式の日。
目は覚めた。習慣だったから。きちんと朝間に合う時間に目を覚ました。でも、起きる気にはならなかった。
率直に言えば、学校に行きたくなかったし、皆にも会いたくなかった。
どうせ終業式だから行かなくてもいいのかな、なんて思った僕は、もう一度布団をかけ直して現実から逃げ出した。
再び意識が現実に戻ったときは、もう夜だった。枕元に置いてあるスマホのロック画面を見ると、春のいつかにあったときのような鬼の量の通知が届いていた。
主に、茜と恵一から。
学祭の日から家すら出ていないので、都合三日間僕は何もしていないことになる。たまにトイレに立つのと、ペットボトルのお茶を飲むくらいで、あとは泥を吸うように眠り続けていた。
次に僕が家のドアを開けたのは、八月に入ってからのことだった。
高崎と呼ぶ人もいる。中嶋や相上君、六井君とか。
先生方からは高崎君と呼ばれる。
でも、僕のことを陽平君と呼ぶのは、僕の知る限り、一人しかいなかった。
あの後、我を忘れて体を揺らして、街中を駆け巡った。でも、僕の家の近所の光景はどこも及川さんの記憶と結びついていて、どこを見たって過去の二人の楽しげな表情が思い出された。それに耐えられなくなると、僕は家へと戻った。家へ入るなり、そのまま自分の部屋へ直行。部屋に入ると、たくさんの本が目に映る。
あの本も、この本も……これも、それも……。
及川さんに薦められて読んだ本ばかりだった。
僕は壁を殴りつける。父親がいたら、多分怒られるだろうけど、しばらく仕事で帰ってこれないから、その心配はいらない。ベッドに倒れ込み、うつ伏せで今度は枕を手で叩きつける。
だって、僕の全てだったから。
空っぽだった僕を、変えてくれたのは、間違いなく、彼女だ。
本を読むだけしかすることがなかった僕に、人と付き合うことを教えてくれたのは、彼女だ。
事実、中学校で恵一と出会えた。出会いのきっかけは恵一からだったけど、付き合うことを教えてくれていなかったら、きっと続いてなんかなかった。その繋がりで、茜や絵見とも関われた。高校では、中嶋や、相上君、六井君とか、他にもいっぱい、話せる友達ができた。
でも。
その過去の僕は、及川さんとの記憶がない、言ってみれば「嘘の僕」だったわけで、恵一との始まりも、茜とも、絵見とも……皆との出会いそのものが、嘘だったことになる。
よく人間は、過去を糧に生きる姿を描かれる。
だとするなら、「本当の僕」は、この今感じている苦しみを味わってから、恵一と出会うべきだったんだ。皆と出会うべきだったんだ。
そうじゃなかったから、今こうなっている。
中途半端な僕のままだったから、茜に辛い思いをさせた。恵一に余計な心配をかけさせた。
いっそ、あのとき、僕も一緒に――
「いや……」
頬に、温かい何かを感じた。
「僕だけが、死んでいたらよかったのになぁ……」
シーツにひとつ、ふたつと広がる無色の染み。
「だったらさ……皆がこんな思い、しなくてよかったのに……」
零れる涙は、止まることをしなかった。
学校を飛び出してベッドで寝込んでからはや二日。振替休日も明けて、終業式の日。
目は覚めた。習慣だったから。きちんと朝間に合う時間に目を覚ました。でも、起きる気にはならなかった。
率直に言えば、学校に行きたくなかったし、皆にも会いたくなかった。
どうせ終業式だから行かなくてもいいのかな、なんて思った僕は、もう一度布団をかけ直して現実から逃げ出した。
再び意識が現実に戻ったときは、もう夜だった。枕元に置いてあるスマホのロック画面を見ると、春のいつかにあったときのような鬼の量の通知が届いていた。
主に、茜と恵一から。
学祭の日から家すら出ていないので、都合三日間僕は何もしていないことになる。たまにトイレに立つのと、ペットボトルのお茶を飲むくらいで、あとは泥を吸うように眠り続けていた。
次に僕が家のドアを開けたのは、八月に入ってからのことだった。
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