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第12話 テオドールの事情
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「大丈夫よ、ジュール。似ているのは外見だけで、中身は似ても似つかないから、ね、テオドール」
シャンタルはかたわらのテオドールに微笑みかける。
「……はい、シャンタル様……」
テオドールは、どこか感情が抜け落ちたような声で答える。
整った顔は本当にマリユスそっくりだ。つややかな黒髪。違うのは瞳の色くらいだろう。
だが、二人の印象を徹底的に違えているのは、そのテオドールの無機質な表情だった。
マリユスは良くも悪くも、表情豊かな男だった。
「でも……、お姉様……、いったい」
思わず俺は、後ずさる。
大丈夫、の意味がよくわからない。
なぜ姉が、元夫の先妻の息子を連れているのだろうか……。
俺とマリユスとの関係が発覚後、驚くような速さでシャンタルはマリユスと離縁していた。だから今は、テオドールとシャンタルは無関係なはずだ。
「テオドール、私はジュールとお話してくるから、あなたはここでお茶を飲んで待っていなさい。ほら、クッキーも美味しそうよ」
「はい、シャンタル様」
まるで機械人形のように、同じ言葉を繰り返すと、テオドールは言われた通りクッキーに手をのばす。
「ちょっと、お話があるのよ。いいわね? ジュール」
シャンタルの満面の微笑みに、俺は長年の経験上、これからとても厄介なことに巻き込まれるだろうことを予感した。
ーーちなみに今の所、その悪い予感は外れたことはない。
聞くところによると、テオドールはマリユスが18歳のとき、まだ王立学園に通っているときにできた子どもだという。テオドールの母親・ルネは、当時23歳で、別の貴族の男と結婚寸前で、ルネの実家は娘の突然の妊娠を知り大慌てになったらしい。
「でね、ふたりは世間体もあったのでとりあえずは結婚したのだけれど、当時からいろいろと問題があったマリユスのことを心配して、テオドールはルネ様のご実家で育てられてきたの」
中庭のテラスに移動した俺とシャンタルは、こそこそと話し合っていた。
「ただ、肝心のルネ様も、テオドールが5歳のときに、どこの馬の骨ともわからない隣国の男と逃げてしまって、今も行方不明なのよ」
「……」
俺は同じく、どこの馬の骨ともわからない男と逃亡し、今も行方知れずであるシャンタルの母親を思い出した。
「でね、テオドールは14歳になる今まで、ルネ様のご実家のアルボン家で育てられていたんだけど、アルボン伯爵は先日の事件で、マリユスが国外追放になることを知って、もうテオドールを手放すことにされたの。それで一応マリユスの妻であった私に連絡がきたというわけ」
「手放すって、犬の子どもじゃあるまいし! そんなのひどいです!」
俺はさきほどの能面のように無表情なテオドールの顔を思い出した。
マリユスがまだ学園に通っていたころにできた息子を可愛がっていたとは到底思えない。
5歳のときに男と逃げた母親といい、テオドールは幼い頃から両親の愛情をろくに受けてこなかったのだろうことは容易に推察できる。
そして、マリユスが犯罪者となったことで、何の罪もない息子のテオドールを簡単に追い出そうとするアルボン伯爵家にも、俺は激しい反感を覚えた。
「そうでしょう、そうでしょう、ジュールもそう思うでしょう!」
シャンタルはティーカップを手に、満足げに頷いた。
「誰かほかにテオドールを引き取って育ててくださるつてはないのですか?」
俺の問いかけに、シャンタルはふぅーっと息をついた。
「あるわ! とてもいい引き取り手が!」
「それはよかった……」
俺の言葉に、シャンタルは俺をじっと見つめた。
「それは、あなたよ、ジュール!」
「……へ?」
シャンタルはかたわらのテオドールに微笑みかける。
「……はい、シャンタル様……」
テオドールは、どこか感情が抜け落ちたような声で答える。
整った顔は本当にマリユスそっくりだ。つややかな黒髪。違うのは瞳の色くらいだろう。
だが、二人の印象を徹底的に違えているのは、そのテオドールの無機質な表情だった。
マリユスは良くも悪くも、表情豊かな男だった。
「でも……、お姉様……、いったい」
思わず俺は、後ずさる。
大丈夫、の意味がよくわからない。
なぜ姉が、元夫の先妻の息子を連れているのだろうか……。
俺とマリユスとの関係が発覚後、驚くような速さでシャンタルはマリユスと離縁していた。だから今は、テオドールとシャンタルは無関係なはずだ。
「テオドール、私はジュールとお話してくるから、あなたはここでお茶を飲んで待っていなさい。ほら、クッキーも美味しそうよ」
「はい、シャンタル様」
まるで機械人形のように、同じ言葉を繰り返すと、テオドールは言われた通りクッキーに手をのばす。
「ちょっと、お話があるのよ。いいわね? ジュール」
シャンタルの満面の微笑みに、俺は長年の経験上、これからとても厄介なことに巻き込まれるだろうことを予感した。
ーーちなみに今の所、その悪い予感は外れたことはない。
聞くところによると、テオドールはマリユスが18歳のとき、まだ王立学園に通っているときにできた子どもだという。テオドールの母親・ルネは、当時23歳で、別の貴族の男と結婚寸前で、ルネの実家は娘の突然の妊娠を知り大慌てになったらしい。
「でね、ふたりは世間体もあったのでとりあえずは結婚したのだけれど、当時からいろいろと問題があったマリユスのことを心配して、テオドールはルネ様のご実家で育てられてきたの」
中庭のテラスに移動した俺とシャンタルは、こそこそと話し合っていた。
「ただ、肝心のルネ様も、テオドールが5歳のときに、どこの馬の骨ともわからない隣国の男と逃げてしまって、今も行方不明なのよ」
「……」
俺は同じく、どこの馬の骨ともわからない男と逃亡し、今も行方知れずであるシャンタルの母親を思い出した。
「でね、テオドールは14歳になる今まで、ルネ様のご実家のアルボン家で育てられていたんだけど、アルボン伯爵は先日の事件で、マリユスが国外追放になることを知って、もうテオドールを手放すことにされたの。それで一応マリユスの妻であった私に連絡がきたというわけ」
「手放すって、犬の子どもじゃあるまいし! そんなのひどいです!」
俺はさきほどの能面のように無表情なテオドールの顔を思い出した。
マリユスがまだ学園に通っていたころにできた息子を可愛がっていたとは到底思えない。
5歳のときに男と逃げた母親といい、テオドールは幼い頃から両親の愛情をろくに受けてこなかったのだろうことは容易に推察できる。
そして、マリユスが犯罪者となったことで、何の罪もない息子のテオドールを簡単に追い出そうとするアルボン伯爵家にも、俺は激しい反感を覚えた。
「そうでしょう、そうでしょう、ジュールもそう思うでしょう!」
シャンタルはティーカップを手に、満足げに頷いた。
「誰かほかにテオドールを引き取って育ててくださるつてはないのですか?」
俺の問いかけに、シャンタルはふぅーっと息をついた。
「あるわ! とてもいい引き取り手が!」
「それはよかった……」
俺の言葉に、シャンタルは俺をじっと見つめた。
「それは、あなたよ、ジュール!」
「……へ?」
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