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第97話 待ち望んだ帰国
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「ファウロスっ!」
俺はファウロスに近づくと、両手で彼の背中を抱きしめた。
「ジュールっ」
ファウロスも俺を強く抱き返した。
「ファウロス、ありがとう。俺は、ファウロスのおかげで、ここでこれまで生き延びることができたんだ!」
ファウロスは俺の髪の中に手を入れて、ぐしゃぐしゃにかき回した。
「俺こそ……、ありがとう。俺は、ジュールといられて、すごく……幸せだった!」
「俺も! ファウロスのおかげで、エディマでの暮らしはすごく楽しかったよ。こっちの言葉もいっぱい覚えたし、
子どもたちも可愛かったし! 俺、意外に子ども好きなんだってわかったんだ……」
「そっか……、俺は……ジュールのことが、大好き、だよ」
伸びた俺の髪を弄ぶようにして、ファウロスは俺の耳元で囁く。
「俺も……、ファウロスのこと、好きだよ……」
言ったそばから、強い力で後ろから肩を引かれた。
「叔父様、もういいですよねっ!?」
テオドールの顔が、めちゃくちゃ怖い。
「え、あ、うん……」
強引にファウロスから引き離された俺。
ファウロスは複雑な表情で俺たちを見ていた。
「はーい! 聖騎士様と握手したいみんなはこっちに来て!」
あれよあれよという間に、オーバンが子供たちの列を誘導してくる。
「テオドール、20分後には撤退するぞ! こっちの国の上層部に感づかれたらマズい!
さっそく聖騎士をもてなす宴をしたいと、さっき村長から申し出があった。
その前にずらかるぞ!」
セルジュの言葉に、テオドールは顔をしかめる。
「まったく、いったいどこから聞きつけてくるのか……」
「ほんとに、聖騎士様はどこに行っても大人気だもんねー。はい、叔父様、こっちに来て。
教会のみんながお別れの挨拶をしたいって! ちょっと、テオドールはついてくんなよ!!
聖騎士様はいまから、ここで握手会だっつーの!」
オーバンに促されて、しぶしぶ子どもたちの対応をするテオドール。
憧れの聖騎士様を前に、目を輝かせる子供たち。
――本当に、聖騎士になったんだ……。
驚きとともに、なにか言葉にできない寂しさが俺の心を支配する。
――聖騎士……。俺にとって、あまりに遠い存在……。
慌ただしく、シスター、シモン、そして教会の子どもたちに別れを告げた俺は、すぐにこのテオドール率いる『黒の聖騎士団』とともに帰国の途につくこととなった。
「叔父様、申し訳ありませんが、砂漠を超えるルートを取らせていただきます。
叔父様のお身体にご負担はかけないように細心の注意を払いますので!」
見事な青毛の馬に乗ったテオドールが、その手綱を引く。
俺は頑丈な造りの馬車に乗せられ、その窓から美しいテオドールの姿を見つめていた。
エディマから俺の国に帰る経路として、砂漠のまわりにある町を転々とまわって、何日かをかけるのが一般的だ。
だが、今回は砂漠をそのまま横断するという、最短ではあるが厳しい行程を取るという。
テオドールたちは、もともと砂漠越えを見越して、対応できる特殊な馬と馬車を連れてきたようだ。
エディマという砂漠に近い土地でしばらくの間暮らしていた俺。すでに暑さには相当の耐性があるはずだ。
だからそんな気遣いはないと思うのに、騎士団の皆と同じように馬に乗りたいという俺に、テオドールは頑として首を縦に振らなかった。
「めちゃくちゃ強行軍できちゃったからさ、外交の関係とかもあって、早く帰らないとまずいんだよね」
栗毛の馬に乗るオーバンが、馬車の窓から俺をすまなさそうに見てきた。
「うっかりどこかの町に寄ったりしたら、あっという間に聖騎士の歓迎行事がはじまるからな。ったく、聖騎士信仰って、どの国にでもはびこってるんだな。
うんざりするぜ!」
同じく栗毛の馬にのるセルジュ。
ーーずっと逢いたかったテオドールに逢えて、戻りたかった国に戻れて……。
それなのに、なぜみんなは俺に対してこんなにも遠慮がちに接するのだろう。
どこか居心地の悪さを感じながら、俺は馬車に揺られていた。
どんなに早い馬を連れていたとしても、結局一晩は砂漠の真ん中で野営することになった。
黒の聖騎士団は総勢十数人の部隊だったが、なぜか俺だけ一人の特別なテントが用意された。
しかも、食事をとるときですら、テントの外には出してもらえず、テントのすぐ外では聖騎士のテオドール自らが見張り番に立つという徹底ぶりだった。
「テオ、ブロイはもう捕まえたんだろ? 俺はもう誰にも狙われていないよ。ちょっとくらい外に出てもいいかな?」
テントの外に立っているはずのテオドールに俺は声をかける。
「駄目です!」
「ねえ、じゃあせめてテオがこのテントの中に入ってきてよ。いろいろ話したいんだ。聞きたいことも……」
「国に戻るまでは決して油断できません」
「テオ……!」
まったく聞く耳を持たないといった様子のテオドールに俺は嘆息する。
「叔父様、テオドールの気持もわかってやってよ。聖騎士様は、叔父様があの男の元に戻りたがってるんじゃないかって不安で仕方がないんだ」
からかうようなオーバンの声がテントの外から聞こえてくる。
「あの、男……?」
「オーバン、黙れ!」
テオドールが声を荒げる。
「叔父様、我らが聖騎士様は深く傷ついているんだ。国に戻ったら叔父様がうんと甘やかしてあげて。テオドールは叔父様のために、いっぱいいっぱい頑張ったんだからさ」
――テオドールが、傷ついている……?
「テオ、なんで傷ついてるんだ? 俺がいない間になにかあった? 困ったことがあったら何でも言って」
俺は呼びかけ、テントの外に耳を澄ます。
「ったく、ジュールのそう言うところが、困ったことなんだよな。いない間になにかあったんじゃなくて、いなかったからいろいろあったんだろーが」
セルジュのあきれたような声。
「ほんと、叔父様のこういうところ、無自覚なのかな? 聖騎士様もさすがに限界じゃない? テオドール、俺から叔父様に話してあげようか?」
「黙れ、二人とも!」
結局俺はテントから出してもらえないまま、砂漠の真ん中で朝を迎えることになったのだった。
俺はファウロスに近づくと、両手で彼の背中を抱きしめた。
「ジュールっ」
ファウロスも俺を強く抱き返した。
「ファウロス、ありがとう。俺は、ファウロスのおかげで、ここでこれまで生き延びることができたんだ!」
ファウロスは俺の髪の中に手を入れて、ぐしゃぐしゃにかき回した。
「俺こそ……、ありがとう。俺は、ジュールといられて、すごく……幸せだった!」
「俺も! ファウロスのおかげで、エディマでの暮らしはすごく楽しかったよ。こっちの言葉もいっぱい覚えたし、
子どもたちも可愛かったし! 俺、意外に子ども好きなんだってわかったんだ……」
「そっか……、俺は……ジュールのことが、大好き、だよ」
伸びた俺の髪を弄ぶようにして、ファウロスは俺の耳元で囁く。
「俺も……、ファウロスのこと、好きだよ……」
言ったそばから、強い力で後ろから肩を引かれた。
「叔父様、もういいですよねっ!?」
テオドールの顔が、めちゃくちゃ怖い。
「え、あ、うん……」
強引にファウロスから引き離された俺。
ファウロスは複雑な表情で俺たちを見ていた。
「はーい! 聖騎士様と握手したいみんなはこっちに来て!」
あれよあれよという間に、オーバンが子供たちの列を誘導してくる。
「テオドール、20分後には撤退するぞ! こっちの国の上層部に感づかれたらマズい!
さっそく聖騎士をもてなす宴をしたいと、さっき村長から申し出があった。
その前にずらかるぞ!」
セルジュの言葉に、テオドールは顔をしかめる。
「まったく、いったいどこから聞きつけてくるのか……」
「ほんとに、聖騎士様はどこに行っても大人気だもんねー。はい、叔父様、こっちに来て。
教会のみんながお別れの挨拶をしたいって! ちょっと、テオドールはついてくんなよ!!
聖騎士様はいまから、ここで握手会だっつーの!」
オーバンに促されて、しぶしぶ子どもたちの対応をするテオドール。
憧れの聖騎士様を前に、目を輝かせる子供たち。
――本当に、聖騎士になったんだ……。
驚きとともに、なにか言葉にできない寂しさが俺の心を支配する。
――聖騎士……。俺にとって、あまりに遠い存在……。
慌ただしく、シスター、シモン、そして教会の子どもたちに別れを告げた俺は、すぐにこのテオドール率いる『黒の聖騎士団』とともに帰国の途につくこととなった。
「叔父様、申し訳ありませんが、砂漠を超えるルートを取らせていただきます。
叔父様のお身体にご負担はかけないように細心の注意を払いますので!」
見事な青毛の馬に乗ったテオドールが、その手綱を引く。
俺は頑丈な造りの馬車に乗せられ、その窓から美しいテオドールの姿を見つめていた。
エディマから俺の国に帰る経路として、砂漠のまわりにある町を転々とまわって、何日かをかけるのが一般的だ。
だが、今回は砂漠をそのまま横断するという、最短ではあるが厳しい行程を取るという。
テオドールたちは、もともと砂漠越えを見越して、対応できる特殊な馬と馬車を連れてきたようだ。
エディマという砂漠に近い土地でしばらくの間暮らしていた俺。すでに暑さには相当の耐性があるはずだ。
だからそんな気遣いはないと思うのに、騎士団の皆と同じように馬に乗りたいという俺に、テオドールは頑として首を縦に振らなかった。
「めちゃくちゃ強行軍できちゃったからさ、外交の関係とかもあって、早く帰らないとまずいんだよね」
栗毛の馬に乗るオーバンが、馬車の窓から俺をすまなさそうに見てきた。
「うっかりどこかの町に寄ったりしたら、あっという間に聖騎士の歓迎行事がはじまるからな。ったく、聖騎士信仰って、どの国にでもはびこってるんだな。
うんざりするぜ!」
同じく栗毛の馬にのるセルジュ。
ーーずっと逢いたかったテオドールに逢えて、戻りたかった国に戻れて……。
それなのに、なぜみんなは俺に対してこんなにも遠慮がちに接するのだろう。
どこか居心地の悪さを感じながら、俺は馬車に揺られていた。
どんなに早い馬を連れていたとしても、結局一晩は砂漠の真ん中で野営することになった。
黒の聖騎士団は総勢十数人の部隊だったが、なぜか俺だけ一人の特別なテントが用意された。
しかも、食事をとるときですら、テントの外には出してもらえず、テントのすぐ外では聖騎士のテオドール自らが見張り番に立つという徹底ぶりだった。
「テオ、ブロイはもう捕まえたんだろ? 俺はもう誰にも狙われていないよ。ちょっとくらい外に出てもいいかな?」
テントの外に立っているはずのテオドールに俺は声をかける。
「駄目です!」
「ねえ、じゃあせめてテオがこのテントの中に入ってきてよ。いろいろ話したいんだ。聞きたいことも……」
「国に戻るまでは決して油断できません」
「テオ……!」
まったく聞く耳を持たないといった様子のテオドールに俺は嘆息する。
「叔父様、テオドールの気持もわかってやってよ。聖騎士様は、叔父様があの男の元に戻りたがってるんじゃないかって不安で仕方がないんだ」
からかうようなオーバンの声がテントの外から聞こえてくる。
「あの、男……?」
「オーバン、黙れ!」
テオドールが声を荒げる。
「叔父様、我らが聖騎士様は深く傷ついているんだ。国に戻ったら叔父様がうんと甘やかしてあげて。テオドールは叔父様のために、いっぱいいっぱい頑張ったんだからさ」
――テオドールが、傷ついている……?
「テオ、なんで傷ついてるんだ? 俺がいない間になにかあった? 困ったことがあったら何でも言って」
俺は呼びかけ、テントの外に耳を澄ます。
「ったく、ジュールのそう言うところが、困ったことなんだよな。いない間になにかあったんじゃなくて、いなかったからいろいろあったんだろーが」
セルジュのあきれたような声。
「ほんと、叔父様のこういうところ、無自覚なのかな? 聖騎士様もさすがに限界じゃない? テオドール、俺から叔父様に話してあげようか?」
「黙れ、二人とも!」
結局俺はテントから出してもらえないまま、砂漠の真ん中で朝を迎えることになったのだった。
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