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第104話 思い違い
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「叔父様……、どうして!?」
テオドールは一瞬何が起こったのかわからないという顔をしていた。
頬は赤く腫れ、唇には少し血がにじんでいた。
「馬鹿にしないでくれ! 俺は……、君にだけは抱かれたくない!」
テオドールは動かず、じっと俺を見ている。
「なぜ?」
俺は起き上がると、身体にシーツを巻き付けて素肌を隠した。
「テオ、君は、なにか思い違いをしている。俺は君に憐れまれるなんて、まっぴらごめんだ。
こんな関係は絶対に間違っている。
それにもし、今俺を抱いてしまったら、君はきっとこれから、一生後悔して生きていくことになる」
俺は努めて落ち着いた声で言った。
「おっしゃる意味が分かりませんっ! 俺は叔父様をずっと一途に愛してきましたっ!」
テオドールは俺に向かって手を伸ばす。俺はその手を払いのけた。
「君は俺に対して、引き取って育ててもらったという負い目がある。俺に憐れみを感じて、それを愛と勘違いしているだけだ!」
俺の言葉に、テオドールは顔をゆがませた。
「なぜ信じてもらえないのですかっ!? 俺の叔父様への愛は、憐みと全然は違います! 俺だって、それくらいは……」
「俺にはわかるよ。だって……、今の君は、昔の俺だ」
「……それは、どういう……」
俺はテオドールの黒い瞳をまっすぐに見つめた。
「俺がマリユス・ロルジュに出会ったのは、俺が18の時だった……」
テオドールはいま19歳。あの頃の俺と、同じ年頃だ。
「俺は、マリユスに誘われてのこのこと屋敷まで出向いていった。マリユスにしたら、何も知らない俺を誑し込むことなんて、造作もないことだったんだろう。気付いたら俺は……、ベッドの上で、マリユスに跨って腰を振っていた……」
「叔父様……っ」
「恋愛経験のなかった俺は、あっという間にマリユスに夢中になった。そして、俺は……、マリユスを愛した。心から。マリユスはお姉さまの結婚相手だと知っていたのに! でも、あのときの俺の気持ちは、たしかに真実だった。……俺はマリユスに騙されていたんじゃない! 俺は、マリユスを愛していた」
「叔父様っ、そんな話、もう……」
悲しみとも苦しみともつかないテオドールの表情。
だが、俺はやめるわけにはいかなかった。
「でも、今となっては俺は、あの時マリユスを愛したことを後悔しない日はない。俺は、今でもずっと悔やみ続けている。
そんな思いを……、テオにはしてほしくない。一時的な感情に、流されてほしくないんだ!」
「なぜマリユス・ロルジュのことと、俺とのことを一緒にするんです!?
俺の叔父様への想いは、一時的なものなどでは決して……!!」
「淫紋のことだって、そうだよ。マリユスが、無理やり俺に刻んだとでも思ってる?
違うんだよ、テオ。俺が、頼んだんだ。淫紋を刻んでもらえば、マリユスが俺だけのものになるかもって、期待した。
でも、本気だったのは俺だけで、マリユスにとって俺は、多くいる遊び相手の一人に過ぎなかった」
テオドールの瞳に、挑むような鋭い光が宿る。
「その後のことだって、テオは全部誤解してる。テオは俺が被害者だと思ってるみたいだけど、全然違う。
確かに、名前も知らない人とベッドをともにするのは抵抗があった。いままで単なる先輩と思っていた人と身体を重ねるのは受け入れがたかった。
生き延びるためだけに、自分を助けてくれた人と寝るなんて、利用するみたいで失礼だと思った。
でも、それなのに、俺は……、最後には、いつも自分から脚を開いて、ねだっていたんだ。もっと、もっとって!
もっとちょうだいって、もっと奥を突いてって。いつだって、俺は、だらしなくて、どうしようもなく淫らで、汚らわしくて……。
だから、いまテオが無理やり俺を抱いたとしても、きっと俺は最後には、テオに同じようにねだるんだ。もっと、もっとちょうだいって!
テオが奥まで欲しいって! 今までだって、ずっとそうだった。最初は、抵抗するそぶりを見せても、淫紋が光ると何もかもどうでもよくなって、俺はどうしようもなく乱れて……。
テオは、そんな俺が見たいの? 俺は、テオだけにはそんな俺を見てほしくない!!」
「叔父様っ……」
テオドールが苦し気に呻く。
「テオ、俺を抱くということはそういうことだ。俺は君にそこまで背負ってもらいたくない。
俺はずっと昔からすごく汚れてて、俺はテオが思ってくれているようないい人間なんかじゃない!
俺はテオに愛される資格なんて、初めからなかったんだ!
テオ、お願いだよ。まだ俺を思いやる気持ちが少しでも残っているなら、どうかこの部屋から出ていってほしい。
これ以上俺を、みじめにさせないでくれ!」
俺はうつむき、ギュッとシーツを握りしめた。
部屋に息苦しくなるくらいの沈黙が下りる。
しばらくして、テオドールはゆっくりと立ち上がった。
そして、部屋の扉の前まで行くと、俺を振り返った。
「叔父様、叔父様も何か思い違いをしていらっしゃるようです。
叔父様は、ご自分が思っておられるような人間じゃない。
叔父様は、とても純粋で、まっすぐで、とても綺麗です。
たとえ何を言われても、俺の気持ちは決して揺るぐことはありません。
でも、叔父様が俺の愛をまだ信じることができないというなら、きっと、いまは時期尚早だったのでしょう。
……ひどいことをして、申し訳ありませんでした。でも、俺はずっと、叔父様のそばにいます……」
テオドールは一瞬何が起こったのかわからないという顔をしていた。
頬は赤く腫れ、唇には少し血がにじんでいた。
「馬鹿にしないでくれ! 俺は……、君にだけは抱かれたくない!」
テオドールは動かず、じっと俺を見ている。
「なぜ?」
俺は起き上がると、身体にシーツを巻き付けて素肌を隠した。
「テオ、君は、なにか思い違いをしている。俺は君に憐れまれるなんて、まっぴらごめんだ。
こんな関係は絶対に間違っている。
それにもし、今俺を抱いてしまったら、君はきっとこれから、一生後悔して生きていくことになる」
俺は努めて落ち着いた声で言った。
「おっしゃる意味が分かりませんっ! 俺は叔父様をずっと一途に愛してきましたっ!」
テオドールは俺に向かって手を伸ばす。俺はその手を払いのけた。
「君は俺に対して、引き取って育ててもらったという負い目がある。俺に憐れみを感じて、それを愛と勘違いしているだけだ!」
俺の言葉に、テオドールは顔をゆがませた。
「なぜ信じてもらえないのですかっ!? 俺の叔父様への愛は、憐みと全然は違います! 俺だって、それくらいは……」
「俺にはわかるよ。だって……、今の君は、昔の俺だ」
「……それは、どういう……」
俺はテオドールの黒い瞳をまっすぐに見つめた。
「俺がマリユス・ロルジュに出会ったのは、俺が18の時だった……」
テオドールはいま19歳。あの頃の俺と、同じ年頃だ。
「俺は、マリユスに誘われてのこのこと屋敷まで出向いていった。マリユスにしたら、何も知らない俺を誑し込むことなんて、造作もないことだったんだろう。気付いたら俺は……、ベッドの上で、マリユスに跨って腰を振っていた……」
「叔父様……っ」
「恋愛経験のなかった俺は、あっという間にマリユスに夢中になった。そして、俺は……、マリユスを愛した。心から。マリユスはお姉さまの結婚相手だと知っていたのに! でも、あのときの俺の気持ちは、たしかに真実だった。……俺はマリユスに騙されていたんじゃない! 俺は、マリユスを愛していた」
「叔父様っ、そんな話、もう……」
悲しみとも苦しみともつかないテオドールの表情。
だが、俺はやめるわけにはいかなかった。
「でも、今となっては俺は、あの時マリユスを愛したことを後悔しない日はない。俺は、今でもずっと悔やみ続けている。
そんな思いを……、テオにはしてほしくない。一時的な感情に、流されてほしくないんだ!」
「なぜマリユス・ロルジュのことと、俺とのことを一緒にするんです!?
俺の叔父様への想いは、一時的なものなどでは決して……!!」
「淫紋のことだって、そうだよ。マリユスが、無理やり俺に刻んだとでも思ってる?
違うんだよ、テオ。俺が、頼んだんだ。淫紋を刻んでもらえば、マリユスが俺だけのものになるかもって、期待した。
でも、本気だったのは俺だけで、マリユスにとって俺は、多くいる遊び相手の一人に過ぎなかった」
テオドールの瞳に、挑むような鋭い光が宿る。
「その後のことだって、テオは全部誤解してる。テオは俺が被害者だと思ってるみたいだけど、全然違う。
確かに、名前も知らない人とベッドをともにするのは抵抗があった。いままで単なる先輩と思っていた人と身体を重ねるのは受け入れがたかった。
生き延びるためだけに、自分を助けてくれた人と寝るなんて、利用するみたいで失礼だと思った。
でも、それなのに、俺は……、最後には、いつも自分から脚を開いて、ねだっていたんだ。もっと、もっとって!
もっとちょうだいって、もっと奥を突いてって。いつだって、俺は、だらしなくて、どうしようもなく淫らで、汚らわしくて……。
だから、いまテオが無理やり俺を抱いたとしても、きっと俺は最後には、テオに同じようにねだるんだ。もっと、もっとちょうだいって!
テオが奥まで欲しいって! 今までだって、ずっとそうだった。最初は、抵抗するそぶりを見せても、淫紋が光ると何もかもどうでもよくなって、俺はどうしようもなく乱れて……。
テオは、そんな俺が見たいの? 俺は、テオだけにはそんな俺を見てほしくない!!」
「叔父様っ……」
テオドールが苦し気に呻く。
「テオ、俺を抱くということはそういうことだ。俺は君にそこまで背負ってもらいたくない。
俺はずっと昔からすごく汚れてて、俺はテオが思ってくれているようないい人間なんかじゃない!
俺はテオに愛される資格なんて、初めからなかったんだ!
テオ、お願いだよ。まだ俺を思いやる気持ちが少しでも残っているなら、どうかこの部屋から出ていってほしい。
これ以上俺を、みじめにさせないでくれ!」
俺はうつむき、ギュッとシーツを握りしめた。
部屋に息苦しくなるくらいの沈黙が下りる。
しばらくして、テオドールはゆっくりと立ち上がった。
そして、部屋の扉の前まで行くと、俺を振り返った。
「叔父様、叔父様も何か思い違いをしていらっしゃるようです。
叔父様は、ご自分が思っておられるような人間じゃない。
叔父様は、とても純粋で、まっすぐで、とても綺麗です。
たとえ何を言われても、俺の気持ちは決して揺るぐことはありません。
でも、叔父様が俺の愛をまだ信じることができないというなら、きっと、いまは時期尚早だったのでしょう。
……ひどいことをして、申し訳ありませんでした。でも、俺はずっと、叔父様のそばにいます……」
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