転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第42話 ベルクの街での不穏な会話

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 野宿生活を続けながら次の街を目指すこと五日。
 街道沿いの草を採取しつつ、時折現れる魔物を狩りながらの旅は実に充実していた。
 そうやって旅を続けていくうちに、私自身、魔物を狩ることにあまり抵抗もなくなっていた。
 そして、五日目にしてようやく街にたどり着いた。
 門兵の話しによると、この街の名前はベルクというらしい。

「この街も随分と高い壁に囲まれているのねぇ……」

 門をくぐり抜けた所で門を振り返った私は、何の気なしに呟いた。
 私の呟きに、メイスが答えた。

『魔物から身を守るために造られたのだろう。弱い魔物には効果はあるが、所詮気休め程度だ』

 この五日、街を目指して歩いて来たけれど、街の外は意外にも魔物が多く、一般人が外に出るのも危険なことは容易に想像出来た。
 ロージスやカントーリの街でも思ったが、街自体は大きく大抵の物は手に入るため、態々危険な思いをしてまで外に出る者は少ないようだ。
 これまで街道をすれ違う者達のほとんどが、冒険者か護衛に守られた商人が乗った荷馬車くらいのものだった。
 乗り合い馬車もあるが、私はまだ利用したことがないし分からないのでその話しはまた今度ということで。
 高い壁を眺めていたら、メイスが話しかけてきた。

『まだ日が高いが、これからどうする?』

 久しぶりの街だし散策してみたいけど、その前に採取した草と魔物を買い取りに出したい。
 それに、解体なんてしたことないし、したいとも思わない。
 そもそもこの小さい体で解体が出来るとは思えない。

「ん~、草と魔物を買い取ってもらいたいから、先ずは冒険者ギルドに寄りたいかな。それから宿を探しながら街を見て回りたい」

 ロージスから離れること日数にして一週間以上の距離ということもあり、気持ちに余裕が生まれていた。
 メイスに急き立てられるようにして慌ただしくあそこから逃げ出して来たけど、ここまで距離が開けば、おいそれと探し出される心配はないだろう。
 ……探しているのかは分からないけど。
 気持ちに余裕が出来たおかげで、少しくらいのんびりしても良いのではないかと思うようになっていた。
 メイスが教えてくれた珍しい草『ホーリー草』と、ブラッディホーンボアの買い取り額が思いのほか高額だったおかげで懐はぬっくぬくだ。

 前世の私なら、そのお金で大好きなビールをしこたま買って飲んでいただろう。
 しかし、今の私は十歳の誕生日を迎えたばかりの子供。
 この世界の成人が幾つなのか分からないにしても、お酒をたしなむにはいささか早過ぎるというもの。
 早くお酒が飲める年齢になりたいな。
 前世、中学生の頃に親が飲んでいたビールを一口飲んだことがあったが、あの時はあんな苦い飲み物が美味しいなんて理解出来なかった。
 その後、成人を迎えて改めて飲んだビールが美味しく感じたのは、味覚が成長したためだと思っている。
 そういった経験から、成人を迎えるまでお酒は我慢することに決めた。
 まだ十歳の時点で、数年も先のことを考えても仕方ない。
 ここは一旦、頭からお酒を切り離しておこう。

 私は偶然通りかかった人に声をかけて、冒険者ギルドの場所を尋ねた。
 親切なその人の丁寧な説明で場所が分かったので、その人にお礼を述べるとすぐに冒険者ギルドへと向かった。







 ロージスでは然程多く見かけなかったが、カントーリやここベルクの冒険者ギルドは様々な格好をした冒険者達で賑わいを見せている。
 中には私とそう年齢が変わらない者も数名混じっており、少しだけ興味を持って目で追った。
 その中の一人が不穏な言葉を口にした。

「なぁ、最近、東の森に大型の魔物が現れたんだって?」

 赤髪の少年に話しを振られた緑色の髪の少年が答える。

「うん。他の冒険者から聞いたから僕が直接見た訳じゃないのだけど、狼のような真っ白い魔物だって言ってた」

『ちっ』

 その会話を耳にしたメイスが舌打ちをした。
 何か厄介な魔物なのだろうか?
 メイスがなぜ舌打ちをしたのか気になるが、重要な情報を聞き逃さないように彼等の会話に耳を澄ませた。
 赤髪の少年の隣で会話を聞いていた薄茶色の髪の少年が、ヒッと小さく悲鳴をあげて話し始めた。

「えぇ!?東の森ってこれから僕達が向かう場所だよね?大丈夫なの?」

 薄茶色の髪の少年が不安そうに赤髪の少年を見る。
 赤髪の少年は、髪をガシガシと搔きながら答えた。

「う~ん。銅級に昇級したとは言え俺達には倒せる気がしないな。その情報が確かならギルドから緊急依頼が出るんじゃないか?それまでは東の森に近づくのは止めておこう」

 彼等の会話を偶然耳にした私は、嫌な予感を覚えながら受付へ歩いて行った。
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