【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚

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第43話 カルラの過去(1)

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「美咲。ごめんね。お父さんもお母さんも仕事でいないけど、一人でお留守番出来る?それともおじいちゃん家に行く?」

 昨夜勤務先から連絡があり、急遽出勤することになった。
 休日はどちらかが、出来るだけ娘と一緒に過ごすようにしてきたのだが、その日は偶々タイミングが悪く誰も捕まらなかった。

「ん~。うん。おじいちゃん家に行く」

 少し考える素振りを見せたが、いつも通りの返事が返ってきた。
 ここから五分と掛からない場所に父の家があるので、平日は仕事終わりに寄って一緒に帰っている。
 その日もいつもと変わらない日常の…はずだった。

「そう。じゃあ、送るから車に乗ってて。雅人さん。お父さんの家に寄ってもらえる?」

 玄関で靴を履いていた夫に声を掛けた。

「分かった」

 靴を履きながら短く返すと玄関を出て行った。

「お母さん。先に行くよー」

 玄関から娘の声が届く。
 慌ただしい朝のやり取りに、私も急いで準備を済ませ戸締りを確認する。

「お待たせ」

 車に乗り込みシートベルトを着けると走り出した。
 ほどなく父の家に到着した。

「美咲。忘れ物ない?おじいちゃん家でいい子にしてるのよ」

「うん。分かってるよ。行ってらっしゃい!」

 娘に見送られて車は再び会社に向けて走り出した。




「珍しいな。こんなに混むなんて。これじゃ、遅刻するかもしれん」

 普段から車の通りが少ない道路を進んで行くと、今日に限って先頭が見えない程信号待ちの車が並んでいた。
 夫の顔に焦りが滲んでいた。

 少し進んでは止まる状況に痺れを切らした夫は、近道をすると言い出した。

「もうこれ以上は待てない。今日はどうしても遅刻出来ないんだよ。迂回するぞ」

 そう言うなり路地に入り車を走らせた。
 路地は住宅が密集しており見通しが良くない。
 休日のためか人は疎らですれ違う車はほとんどなかった。




 住宅街を抜けて気が緩んだのか車は加速していた。
 カーブに差し掛かった時、トラックがセンターラインをはみ出して突っ込んできた。

 細い道で普段車の通りが少ないため、お互いが油断していた。
 こちらもスピードが出ていて避けようがなかった。
 トラックは目の前まで迫っていた。

「うわぁあああっ!!」
「きゃぁあああっ!!」

 二人同時に叫んでいた。


 
 夫と娘の三人で穏やかな生活が続いていくと思っていた。
 まさか、こんな形で娘を残して逝くとは…。
 あの子はまだ中学生で、隣で成長を見守りたかった。
 もっと一緒に居たかった。
 薄れゆく意識の中で娘の屈託のない笑顔が脳裏に浮かぶ。

「…み、さき…」

 私の意識はそこで途切れた。
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