53 / 66
第53話 カルラの過去(11)
雅人さんに再び会うために、私は魔女として長い時を生きている。
心にぽっかり穴が空いた状態の私には、数年間どこでどう過ごしてきたのか記憶が曖昧だ。
ようやく気持ちを切り替えることができるようになった私は、薬師としてウォーレン領に落ち着いた。
それから数十年が経ち、今ではすっかり領主や領民達に頼られる存在となった。
数年前からは、弟子をとって店を切り盛りしている。
そんなある日のことだった。
「久しぶり。百年ぶりだね。今はカルラと名乗っているんだって?」
軽い口調の光りの球体が、突然目の前に現れた。
「……お久しぶりです。えぇ。そうですね。それで今日はどういったご用ですか?」
驚きはしたものの、それを悟られないように冷たく言い放つ。
「ははっ。冷たいねぇ。今日は君にお知らせがあって来たんだけど」
「……お知らせ、ですか」
雅人さんのことだろうかと、一瞬心が浮き立ったが、次の言葉を耳にして思考が止まる。
「そう。えーと、美咲さんだっけ?君の娘さんの名前。もうすぐ、この世界に生まれ変わることが決まったから報告に来たんだ」
「……え?」
光りの球体は私の返事を待たずに更に話しを続ける。
「ここ、ウォーレン領から一日ほど行った、ハーベスト領の当主の長女として生まれるんだ」
「み、美咲が?この世界に?」
驚きで目を見開きながらも、続きを聞きたくて身を乗り出す。
「ああ。それと、いつか必ず会えるから自分から会いに行かないでね。母親だと名乗ることもダメだよ。彼女には新しい家族がいるからね。分かった?それと変化の魔道具をあげるから、彼女と会う時はそれを付けてね」
告げられた言葉は残酷なもので、私の心を抉るには十分だった。
もう二度と母だと名乗れない。
知らされない方が幸せだったかもしれない。
光りの球体に怒りが湧くが、今更だ。
小さく息を吐くとぽそりと呟いた。
「……家族。……そうですね。分かりました」
「大丈夫。穏やかで優しい人達だから、心配はいらないよ。安心して。じゃあ、またね」
私の気持ちを知ってか知らずか、優しい声で安心させるように告げると姿を消した。
「はぁ。親切心のつもりなんだろうけど、キツイなぁ。」
作業の手を止めて、外の景色を眺めながら思いを馳せる。
もう一度あの子に会えるのは素直に嬉しい。
できればこの腕に抱きしめたい。
あの子がどんな人生を歩んだのか知りたい。
それすら許されないのだが。
「自称神はいじわるね」
ムスッとして呟くも、自然と頬が緩んでいく。
「早く会いたいわ。…美咲」
心にぽっかり穴が空いた状態の私には、数年間どこでどう過ごしてきたのか記憶が曖昧だ。
ようやく気持ちを切り替えることができるようになった私は、薬師としてウォーレン領に落ち着いた。
それから数十年が経ち、今ではすっかり領主や領民達に頼られる存在となった。
数年前からは、弟子をとって店を切り盛りしている。
そんなある日のことだった。
「久しぶり。百年ぶりだね。今はカルラと名乗っているんだって?」
軽い口調の光りの球体が、突然目の前に現れた。
「……お久しぶりです。えぇ。そうですね。それで今日はどういったご用ですか?」
驚きはしたものの、それを悟られないように冷たく言い放つ。
「ははっ。冷たいねぇ。今日は君にお知らせがあって来たんだけど」
「……お知らせ、ですか」
雅人さんのことだろうかと、一瞬心が浮き立ったが、次の言葉を耳にして思考が止まる。
「そう。えーと、美咲さんだっけ?君の娘さんの名前。もうすぐ、この世界に生まれ変わることが決まったから報告に来たんだ」
「……え?」
光りの球体は私の返事を待たずに更に話しを続ける。
「ここ、ウォーレン領から一日ほど行った、ハーベスト領の当主の長女として生まれるんだ」
「み、美咲が?この世界に?」
驚きで目を見開きながらも、続きを聞きたくて身を乗り出す。
「ああ。それと、いつか必ず会えるから自分から会いに行かないでね。母親だと名乗ることもダメだよ。彼女には新しい家族がいるからね。分かった?それと変化の魔道具をあげるから、彼女と会う時はそれを付けてね」
告げられた言葉は残酷なもので、私の心を抉るには十分だった。
もう二度と母だと名乗れない。
知らされない方が幸せだったかもしれない。
光りの球体に怒りが湧くが、今更だ。
小さく息を吐くとぽそりと呟いた。
「……家族。……そうですね。分かりました」
「大丈夫。穏やかで優しい人達だから、心配はいらないよ。安心して。じゃあ、またね」
私の気持ちを知ってか知らずか、優しい声で安心させるように告げると姿を消した。
「はぁ。親切心のつもりなんだろうけど、キツイなぁ。」
作業の手を止めて、外の景色を眺めながら思いを馳せる。
もう一度あの子に会えるのは素直に嬉しい。
できればこの腕に抱きしめたい。
あの子がどんな人生を歩んだのか知りたい。
それすら許されないのだが。
「自称神はいじわるね」
ムスッとして呟くも、自然と頬が緩んでいく。
「早く会いたいわ。…美咲」
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる!
前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。
「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。
一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……?
これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。
絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」!
畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。
はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。
これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!
追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リーゼリット・フォン・アウグストは、婚約者であるエドワード王子と、彼に媚びるヒロイン・リリアーナの策略により、無実の罪で断罪される。「君を辺境の地『緑の谷』へ追放する!」――全てを失い、絶望の淵に立たされたリーゼリット。しかし、荒れ果てたその土地は、彼女に眠る真の力を目覚めさせる場所だった。
幼い頃から得意だった土と水の魔法を農業に応用し、無口で優しい猟師カイルや、谷の仲間たちと共に、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。やがて、その成功は私欲にまみれた王国を揺るがすほどの大きなうねりとなり……。
これは、絶望から立ち上がり、農業で成り上がり、やがては一国を築き上げるに至る、一人の令嬢の壮大な逆転物語。爽快なざまぁと、心温まるスローライフ、そして運命の恋の行方は――?
『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。
黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」
政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。
だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。
「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」
追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。
経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。
これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。