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小坂涼
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部活を終えて帰宅すると、家の前に人が立っていた。最初は近所のの人かな?なんて思ったのだけれど、数メートル手前まで来た時に近所の人では無いとわかった。兄の彼女の瀬野川先生だ。
何でこの人がここに居るの?なんて思いながら彼女の後ろで一旦立ち止まり、何事も無いかの様に話しかけた。すると瀬野川先生は僕の方を振り向き、一瞬驚いた顔をすると、あたふたと慌て出す。
きっと、瀬野川先生は僕の事が苦手だ。そして僕も瀬野川先生が苦手だという事に彼女は気付いている筈だ。だって、彼女との会話はいつもどこか殺伐としている。お互いに聞いては行けない部分を上手く避けつつ腹の探り合いをしているような会話だ。
これ以上話しをするのは面倒だ……そんな事を思っていたら、兄が家の方向から歩いて来たと思うと、僕と瀬野川先生を交互に見て笑った。
「どうしたの?兄ちゃん」
そう問いかければ、「いきなり地元で仕事が入った」と言いながら兄は笑った。本当に突然の事でびっくりしたし、何よりも彼女を連れて来ている事に更に驚いた。そして思う。兄が帰って来てるって事、仁菜子は知っているのだろうか?当たり障りの無い会話を暫くした後、ふとそんな事を考えながら僕は兄と彼女の横を無言のまま通り過ぎた。
瀬野川先生が僕の顔を心配そうに見ているのが何となくの気配でわかった。彼女への態度を改める気はないし、気を遣われる事も煩わしい。しかも、僕は瀬野川先生の事を嫌っている訳ではないのだ。
……と、そこまで考えて、頭の中に嫌な考えが浮かんだ。もし、仁菜子が兄が居る事を知っていたとしたら……だ。きっと今日は兄に会いに来るだろう。そしてその場所で瀬野川先生と鉢合わせと言うのは可能性として十分にある。二人が顔を合わせるという事が心配だ。嫌な予感がする。
「どうした?涼?」
「ちょっと、用事思い出した」
僕は家の玄関の扉を開けた瞬間に回れ右をして、隣の大瀬家に向かった。ちょうど兄と瀬野川先生は玄関の前まで来ていた所で、また二人と目が合う。すると二人は不思議そうな顔をして僕を見ていた。と、その時だった。
「涼ちゃん……」
目線の先に移った人物。それは幼なじみの大瀬仁菜子だった。仁菜子は家の前で僕達3人を見て大きく目を見開くと、その場から動けないでいる。いつもは適当な格好をして僕の部屋に乗り込んで来る仁菜子だけれど、今日はそれなりにちゃんとした身なりをしている。それは久々に会う兄に変な格好を見られるのは嫌だという彼女なりの気遣いなのだろう。
僕は仁菜子の元まで急いで走り寄ると、「どうしたの?」なんて白々しい言葉を吐く。口からでたその言葉はまるで自分の声では無いようで何故かとても心地悪かった。
「えっと……圭ちゃんが帰って来てるってお母さんに聞いて……だから
来てみたの。お邪魔だったよね。うん。そうだよね。私、お邪魔だよね」
仁菜子は無理に笑顔を作りながら震える声で言う。彼女は精一杯涙を堪えているのが暗闇の中でもわかり、何とも言えない気持ちになる。何で今日だったんだ?どうしていきなり兄は瀬野川先生を家に呼んだりするワケ?考えても仕方のない事ばかりが頭に浮かんで来て、行き場の無い怒りが込み上げて来た。
「……何で瀬野川先生が居るの?」
「それは……」
「そっか。そういう事だよね」
「知ってたの?!」
仁菜子が小さくこぼした呟きに過剰に反応してしまった。仁菜子が蒼い顔をして僕を見上げていた。その瞳は揺らいでいる。今にも瞳から涙が溢れて来そうで、自分でも仁菜子に何て説圭をすればいいのかわからなくなって来た。
「知っていたっていうか……。今日、何となく、そうなのかな?って思ったというか……」
「そうなんだ」
僕は今にも泣きそうな仁菜子を見ながらぼそりと呟いた。やっぱり仁菜子は本当はバカなんかじゃない。人一倍こういった事に敏感だ。
「えっと、私、お邪魔みたいだから、帰るね。圭ちゃん、また遊んでね。瀬野川先生。また圭日です」
それだけ言うと仁菜子は僕たちに背を向けて突然走り出した。そして、大瀬家には入らずそのまま自分の家の前を通り過ぎると、街灯のぽつぽつと浮かぶ住宅街へと走り出した。
「仁菜子!」
僕は手に持っていた鞄を放り投げると仁菜子の後ろ姿を急いで追いかけた。
何でこの人がここに居るの?なんて思いながら彼女の後ろで一旦立ち止まり、何事も無いかの様に話しかけた。すると瀬野川先生は僕の方を振り向き、一瞬驚いた顔をすると、あたふたと慌て出す。
きっと、瀬野川先生は僕の事が苦手だ。そして僕も瀬野川先生が苦手だという事に彼女は気付いている筈だ。だって、彼女との会話はいつもどこか殺伐としている。お互いに聞いては行けない部分を上手く避けつつ腹の探り合いをしているような会話だ。
これ以上話しをするのは面倒だ……そんな事を思っていたら、兄が家の方向から歩いて来たと思うと、僕と瀬野川先生を交互に見て笑った。
「どうしたの?兄ちゃん」
そう問いかければ、「いきなり地元で仕事が入った」と言いながら兄は笑った。本当に突然の事でびっくりしたし、何よりも彼女を連れて来ている事に更に驚いた。そして思う。兄が帰って来てるって事、仁菜子は知っているのだろうか?当たり障りの無い会話を暫くした後、ふとそんな事を考えながら僕は兄と彼女の横を無言のまま通り過ぎた。
瀬野川先生が僕の顔を心配そうに見ているのが何となくの気配でわかった。彼女への態度を改める気はないし、気を遣われる事も煩わしい。しかも、僕は瀬野川先生の事を嫌っている訳ではないのだ。
……と、そこまで考えて、頭の中に嫌な考えが浮かんだ。もし、仁菜子が兄が居る事を知っていたとしたら……だ。きっと今日は兄に会いに来るだろう。そしてその場所で瀬野川先生と鉢合わせと言うのは可能性として十分にある。二人が顔を合わせるという事が心配だ。嫌な予感がする。
「どうした?涼?」
「ちょっと、用事思い出した」
僕は家の玄関の扉を開けた瞬間に回れ右をして、隣の大瀬家に向かった。ちょうど兄と瀬野川先生は玄関の前まで来ていた所で、また二人と目が合う。すると二人は不思議そうな顔をして僕を見ていた。と、その時だった。
「涼ちゃん……」
目線の先に移った人物。それは幼なじみの大瀬仁菜子だった。仁菜子は家の前で僕達3人を見て大きく目を見開くと、その場から動けないでいる。いつもは適当な格好をして僕の部屋に乗り込んで来る仁菜子だけれど、今日はそれなりにちゃんとした身なりをしている。それは久々に会う兄に変な格好を見られるのは嫌だという彼女なりの気遣いなのだろう。
僕は仁菜子の元まで急いで走り寄ると、「どうしたの?」なんて白々しい言葉を吐く。口からでたその言葉はまるで自分の声では無いようで何故かとても心地悪かった。
「えっと……圭ちゃんが帰って来てるってお母さんに聞いて……だから
来てみたの。お邪魔だったよね。うん。そうだよね。私、お邪魔だよね」
仁菜子は無理に笑顔を作りながら震える声で言う。彼女は精一杯涙を堪えているのが暗闇の中でもわかり、何とも言えない気持ちになる。何で今日だったんだ?どうしていきなり兄は瀬野川先生を家に呼んだりするワケ?考えても仕方のない事ばかりが頭に浮かんで来て、行き場の無い怒りが込み上げて来た。
「……何で瀬野川先生が居るの?」
「それは……」
「そっか。そういう事だよね」
「知ってたの?!」
仁菜子が小さくこぼした呟きに過剰に反応してしまった。仁菜子が蒼い顔をして僕を見上げていた。その瞳は揺らいでいる。今にも瞳から涙が溢れて来そうで、自分でも仁菜子に何て説圭をすればいいのかわからなくなって来た。
「知っていたっていうか……。今日、何となく、そうなのかな?って思ったというか……」
「そうなんだ」
僕は今にも泣きそうな仁菜子を見ながらぼそりと呟いた。やっぱり仁菜子は本当はバカなんかじゃない。人一倍こういった事に敏感だ。
「えっと、私、お邪魔みたいだから、帰るね。圭ちゃん、また遊んでね。瀬野川先生。また圭日です」
それだけ言うと仁菜子は僕たちに背を向けて突然走り出した。そして、大瀬家には入らずそのまま自分の家の前を通り過ぎると、街灯のぽつぽつと浮かぶ住宅街へと走り出した。
「仁菜子!」
僕は手に持っていた鞄を放り投げると仁菜子の後ろ姿を急いで追いかけた。
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