うたた寝日和

佐野川ゆず

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小坂圭

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仁菜子と涼が去っていった玄関前で俺と奏は暫く無言のまま立ち尽くしていた。いきなりの事過ぎて頭が付いて行かなかった。けれども、少し時間が立つと、頭の中がはっきりとして来る。そして、奏が俺の顔を見ながら小さく、そして申し訳なさそうに問いかけた。

「圭くん。大瀬さんの気持ち……知ってたの?」

 俺は何も言わなかった。そうだ、知っていたのだ。仁菜子が小さな頃からずっと俺に向けていた感情を。そして、それは、涼に向けられているものと違う事を。けれども、まだ仁菜子は小さい。世間を知らない。言うならば生まれて始めて見たものを親と思いこんでしまう雛鳥のような感覚で俺の事を好きだと思っているのではないかと思っていた。

 彼女はこれから広い世界を知って、いろんな出会いを経験する。その中で自分が本当に一緒に居たいと思う奴に出会うだろう。そうであって欲しい。俺の事なんていつの日かそんな事もあったな……と、思い出となって欲しい。
 そして、弟の涼の事を思った。涼は小さな頃から仁菜子の事が好きだ。またこいつも小さな閉鎖された世界の中で好きだとかそんな事を言って……、本当に幼なじみっていうものは少しだけやっかいだ。

「圭くん。大瀬さんに何か言ってあげたの?」
「ううん。言ってない。その前に仁菜子にそう言った事を言われた事も無い」
「そうなんだ……」
「あと、涼はずっと仁菜子の事が好きだから」
「ああ、それはずっと思ってた。だから余計に私の事が嫌いのかな……って」

 奏が遠くを見ながらそう呟いた。奏はやっぱり涼の事を良く見ていると思う。まだ数回しか会った事のない弟の事を見抜いてしまうなんて。涼はなかなかやっかいな性格をしているから、それを見抜くのはかなりの難易度だと思うのだけれども。

「大瀬さん。大丈夫かな?」
「多分。涼が居るし……。しかも、俺が行っても何も出来ないよ」
「そうかな?」
「うん。俺は仁菜子をきっと傷つける事しか言ってやれない。誰よりも可愛くて大切な妹の事、傷つけたくない」

 そう言いながら笑うと、奏が俺を見て言った。少しだけ淋しそうに。

「圭くんも、大瀬さんの事、大好きだよね。ちょっと妬ける」
「そう見える?でも、俺は奏が一番好きだよ」
「そんなにはっきり言われるとちょっと恥ずかしいのだけれど……」
「あ、俺もさっき言ってて恥ずかしかった」

 俺と奏はそう言いながら笑うと、二人が消えて行った住宅街の街灯を見た。きらきらと輝いていて幻想的なそれはまるで今起こった出来事を夢のように感じさせた。

「どうする?これから?」
「ああ、とりあえず、やっぱり二人、探しに行こうか?」
「うん。心配だし……」

 俺は一度家に入り、簡単に事情を説圭すると、涼と仁菜子の後を奏と一緒に追って行った。
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