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瀬野川奏
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大瀬さん。本当にショックだっただろうな……。
隣を歩く圭くんの姿をちらりと横目で見ると、私はそんな事をふと思った。私には幼なじみと言える男の子は居ない。ましてや、大瀬さんにとっての圭くんのような憧れのお兄さんなんて居ない環境で育って来た。だから、彼女の気持ちも、幼なじみへの恋心もわからない。経験した事が無いのだからわかる筈なんてないのだ。
けれども、それが誰であろうと、好きな人に対する気持ちというものは一緒だ。その人の傍に居たい。その人に触れたい。その人の一番大切な人でありたい……と。
私、このまま圭くんと一緒に彼女達の所へ行っていいのだろうか?私が行ったら大瀬さんはきっと傷つく。今でも十分傷ついているのに、更に傷口に塩を塗るような事になるのではないか……。
そこまで考えると、足を止める。そして圭くんを見た。
「圭くん」
「何?」
私が彼の名前を呼ぶと、圭くんは優しく私を見た。その瞳が好きだ。その声が好きだ。私の事を見てくれる圭くんの事が本当に好きだ。
そう思うと、やはり胸がちくりと痛くなる。
「私、行かない方がいいと思うの」
「どうして?」
「どうしてって……。私が圭くんと一緒に大瀬さんの所に行くと彼女はとても傷つくよ。大瀬さん、圭くんの事が本当に好きだったんだよ。私、これ以上大瀬さんを傷つけたく無い」
そこまで言って下を向く。足下には街灯の光で映し出される私と圭くんの影が長く伸びていた。
「でも……、このまま仁菜子に何も言わないってのも……」
「それは、また、大瀬さんが落ち着いてからでいいのじゃないかな?今はなんて言えばいいのかわからないけれど……。圭くん一人で行って」
私の言葉に暫く圭くんは考え込んでいたかと思うと、「わかった」とだけ言って私の頭に大きな掌を乗せる。そして、がしがしと頭を撫で回した。
「ありがとう。奏。でも、あんまり気にすんなよ。奏が悪いわけじゃないからさ」
「うん」
「で、仁菜子の事も。あいつ、ちょっと子供っぽいけど、本当いいやつだから」
「うん。わかってる……」
顔を上げて少し笑うと、圭くんは私に軽く触れるだけのキスをした。触れた唇はとても温かくて、いつもはとても嬉しい筈なのに、今日は複雑な気分になった。
私はとても幸せだ。でも、大瀬さんは?
好きな人が自分の事を好きで居てくれる事は本当に奇跡のような事だ。でも、こうして私以外の人は彼の隣というポジションを得られないのだ。今までそんな事を考えた事なんてなかった。けれど、今日は考える。そして、自分は圭くんの彼女の筈なのに、ずっと昔から彼に大切にされていた大瀬さんにも少なくとも嫉妬している。そんな心の狭い自分が少しだけ情けなかった。
「奏、ここから俺の家まで一人で帰れる?」
「うん。大丈夫。明るいし、ここからだと数分でしょ?」
「でも、心配だな……。やっぱ家までもう一回戻るわ」
「ううん。本当に大丈夫。何かあったら大声で叫ぶから」
「叫ぶって。本当に大丈夫なの?まあ、とりあえずわかった。ありがとう」
それだけ言うと私は圭くんに背を向けて少し早足に歩き出した。一人歩く靴音がコツコツと夜道に響いて、正直少しだけ怖かったけれど、一人にもなりたかった。
私は間違っていない。私も圭くんの事を好きなのだから仕方が無い。……そう考えても、なかなか心のわだかまりは消えなかった。
隣を歩く圭くんの姿をちらりと横目で見ると、私はそんな事をふと思った。私には幼なじみと言える男の子は居ない。ましてや、大瀬さんにとっての圭くんのような憧れのお兄さんなんて居ない環境で育って来た。だから、彼女の気持ちも、幼なじみへの恋心もわからない。経験した事が無いのだからわかる筈なんてないのだ。
けれども、それが誰であろうと、好きな人に対する気持ちというものは一緒だ。その人の傍に居たい。その人に触れたい。その人の一番大切な人でありたい……と。
私、このまま圭くんと一緒に彼女達の所へ行っていいのだろうか?私が行ったら大瀬さんはきっと傷つく。今でも十分傷ついているのに、更に傷口に塩を塗るような事になるのではないか……。
そこまで考えると、足を止める。そして圭くんを見た。
「圭くん」
「何?」
私が彼の名前を呼ぶと、圭くんは優しく私を見た。その瞳が好きだ。その声が好きだ。私の事を見てくれる圭くんの事が本当に好きだ。
そう思うと、やはり胸がちくりと痛くなる。
「私、行かない方がいいと思うの」
「どうして?」
「どうしてって……。私が圭くんと一緒に大瀬さんの所に行くと彼女はとても傷つくよ。大瀬さん、圭くんの事が本当に好きだったんだよ。私、これ以上大瀬さんを傷つけたく無い」
そこまで言って下を向く。足下には街灯の光で映し出される私と圭くんの影が長く伸びていた。
「でも……、このまま仁菜子に何も言わないってのも……」
「それは、また、大瀬さんが落ち着いてからでいいのじゃないかな?今はなんて言えばいいのかわからないけれど……。圭くん一人で行って」
私の言葉に暫く圭くんは考え込んでいたかと思うと、「わかった」とだけ言って私の頭に大きな掌を乗せる。そして、がしがしと頭を撫で回した。
「ありがとう。奏。でも、あんまり気にすんなよ。奏が悪いわけじゃないからさ」
「うん」
「で、仁菜子の事も。あいつ、ちょっと子供っぽいけど、本当いいやつだから」
「うん。わかってる……」
顔を上げて少し笑うと、圭くんは私に軽く触れるだけのキスをした。触れた唇はとても温かくて、いつもはとても嬉しい筈なのに、今日は複雑な気分になった。
私はとても幸せだ。でも、大瀬さんは?
好きな人が自分の事を好きで居てくれる事は本当に奇跡のような事だ。でも、こうして私以外の人は彼の隣というポジションを得られないのだ。今までそんな事を考えた事なんてなかった。けれど、今日は考える。そして、自分は圭くんの彼女の筈なのに、ずっと昔から彼に大切にされていた大瀬さんにも少なくとも嫉妬している。そんな心の狭い自分が少しだけ情けなかった。
「奏、ここから俺の家まで一人で帰れる?」
「うん。大丈夫。明るいし、ここからだと数分でしょ?」
「でも、心配だな……。やっぱ家までもう一回戻るわ」
「ううん。本当に大丈夫。何かあったら大声で叫ぶから」
「叫ぶって。本当に大丈夫なの?まあ、とりあえずわかった。ありがとう」
それだけ言うと私は圭くんに背を向けて少し早足に歩き出した。一人歩く靴音がコツコツと夜道に響いて、正直少しだけ怖かったけれど、一人にもなりたかった。
私は間違っていない。私も圭くんの事を好きなのだから仕方が無い。……そう考えても、なかなか心のわだかまりは消えなかった。
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