永遠の鍵

佐野川ゆず

文字の大きさ
10 / 10
異世界

10

しおりを挟む
「帰れるよ!きっと!」

 と、千冬くんに言われて私は少しだけ安心していた。
 けれども、どこにも帰れる保証はないし、こうして千冬くんが今はいるから悲観的になっていないだけで、本当は今にも泣いてしまいそうな気分だ。
 先ほど沢山泣いたので涙は少し乾いているけれど、それでも目の奥が腫れぼったいし、心は全く浮かばない。

「きっとって保証はあるの?私が元の世界に帰れるって」
「多分。それにお父さんは百合婆の事をよく知っているし、百合婆から渡されたアイテムの事にも詳しいんだ。だからそんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ」
「千冬くんがそういうなら信じたいのだけれど。でもなんだか心が落ち着かなくて」
「そうだよね。当たり前だよね。別の次元に存在している世界にいるとか…」
「そう。今も夢ならいいなと思ってる。夢を見ていて、目を覚ましたらいつもの日常って」

 こうして助けてくれて、私を励ましてくれている千冬くんには申し訳ない態度をしていると思う。早く元気になって、千冬くんを安心させてあげなければいけないと思いつつもどうしても心は悪い方へとばかり考える。
 私はスカートのポケットに入っている鍵をぎゅっと握った。

(瑞希は大丈夫だよ。私がついているからね)

「え?」
「どうしたの?」
「ううん。あの…びっくりしないでね。あと、千冬くんをからかうつもりもないから」
「うん。何?」
「私、鍵の声が聞こえるの。あ!気のせいかもしれないけれど」

 そのことを私が言うと千冬くんは顎に手を当てて考え込んだ。そして私をみる。

「それってさ、百合婆の声が聞こえてるんだと思う」
「そうなの?っていうか、百合お婆さんって一体何者なの?」
「それは説明しづらいなあ」

 説明しづらいってどういう事なんだろう?そんな事を思う。けれども何か難しい事というか大変な事に巻き込まれたのだけはわかる。そして私は元の世界に一応戻れるらしいけれど、それがいつになるのかわからない…そういう事なのかもしれない。

「とりあえずさ。ここで話していても仕方ないから、僕の家に行こう。そこでお父さんに話をすればいいと思う」
「…うん」

 千冬くんの言い分はやっぱりわからない。そしてふと思う。このまま彼の言葉を信じて付いて行っても大丈夫なのかということ。けれども千冬くんは悪い人ではなさそうだし、嘘を付いているわけでもなさそうなのだ。
 しかも百合お婆さんの心の声が大丈夫って言っていた。

「わかった。じゃあ、千冬くんの家に連れて行って」
「うん。あ、決して怪しいものじゃないからね!」
「え?私、さっき声に出してた?」
「小さな声でぶつぶつと…。やっぱり疑ってるよね。いきなり家に行こうって言われても信じられないよね。じゃあ、これ、見て」

 そう言いながら千冬くんはポケットの中をゴソゴソと探ると、私の目の前に鍵を差し出す。

「あ、これ」
「そう。瑞希も同じもの持っていると思うのだけれど」
「うん!百合お婆さんにもらった鍵と一緒」
「実は、僕も違う世界から来たんだ」
「ええ?!」

 いきなりの千冬くんのびっくり発言に私は大きな声を出す。

「僕も瑞希と同じように百合婆の店に迷い込んだんだよ。1年ほど前かな?こっちの世界の時間でいうと」

 私は隣をゆっくりと歩きながら説明してくれる千冬くんの言葉を聞きながら心臓が早くなっていくのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...